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2-end.変態が準備する間に※挿絵有り

※三人称です。


 前世では変態・オタク・ニートと。

 一般的な世間的に見るとすれば、ものの見事に不名誉な三重苦を背負ってこの異世界へと。

 小悪魔の姿で転生をしてきた日岐古守ひき こもりことコモリと、かつて世界を救った勇者の末裔である少女のアナスタシアの二人。


 そんな神の悪戯ともいえる奇妙なコンビが。

 ついに現在の冒険の目的であるグランドストーンの一つ目を入手し。

 意気揚々と冒険を進めていた頃。



 ガシャン、ガシャン、ガシャン。

「……………………………」

 『彼ら』もまた……。

 その水面下で動いていたのだった……。


 

 ガシャン、ガシャン、ガシャン。

 ガシャン、ガシャン、ガシャン。


「……………………………」


 ………………彼は歩いていた。

 その自身の足で、地を踏む音を鳴らし。

 静寂に包まれ、明るさの少ない薄暗い道を。

 先が見えにくい長い廊下の上を歩いていた。


 ガシャン、ガシャン、ガシャンと。


 一定の間隔で刻む足音を木霊こだまさせ。

 一歩も乱れる事無く、何とも整った歩き方で。

 出た足と同じ腕を動かし。

 拳を握った両腕を交互に振り、彼は進んでいた。


 例えるなら、鋼鉄で出来ている甲冑が意思を持って歩いている様な重みある音をあげて。


「……………………………」


 此度受けた『呼び出し』に応じるべく。

 己の管轄に置いている国を離れ、ここにいた。

 名も知らぬ、遥か遠き場所にある。

 案内を受けた者しかたどり着けぬ地に。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン……。


「……………………………」


 口を動かすことなく視線のみは前に集中させ。

 まさに『機械』の如く……ただ大人しく。

 場所も知れぬ城の廊下を歩いていたのだった。


「……………………………」


 ガシャン、ガシャンと足音響かせて。


 そうして……。


 ガシャリ……。


 止まった。


 招かれてからというものの生気を感じられない。

 冷たく、寂しく、静かな長き廊下を歩ききり。


「…………………………」


 彼は、部屋を区切る扉の前へとたどり着いた。

 禍々しくも凄まじい気配が内から零れる。

 一つの大きな扉の前へと到着し。


「…………………………」


 スッ、とその扉に手を向け、

 取っ手へと手をかけようとした時。


「構わん、私が開けよう……」


 その手が止まり、代わりに。

 この静寂の中で一つ声が響いた。

 それは来訪者では無く、中から。

 扉の向こう側から響いてきたのだった。


 そして……その声が発せられた直後。

 扉の外で待つ彼の手が触れる事無く。


「出迎え無しで申し訳ないが、入れ」


 ギギギギギギギギギィィィ……と。


 重みを感じされる音を鳴らし。

 その物々しい雰囲気漂う部屋は口を開けた。


 対して……入室を許可された人物はいきなり。


「魔造兵軍団長トイ・ジェネラル! 此度の『フルカース様』による招集命令により、只今参上致しましたぞ!」


 到着してから一言も洩らさなかった彼は。

 ここでようやくその口を開いた。

 律儀に敬礼の構えまで添えて。

 己が招かれた部屋の中央に佇む者へ。


「クククク……クカカカカ」


 その髑髏の頭部に、胴体には黒みを帯びた隠れるローブで足元まで隠している者へと。

 神官などが着用する様な長く目玉の模様がある帽子を被った不気味な死霊に。

 彼は敬意の念を込めて挨拶をしたのだった。


「カッカッカッカッカッ!」


 すると、その死霊は……。

 いや、此度の招集をかけた張本人である。

 フルカースは彼の礼儀正しさに笑いを溢すと。


「カカカ……いや……すまん。悪気は無いのだ。ただ、お前みたいなドが付く程真面目な輩は珍しいのでな。ついつい笑ってしまった……まあ、早速掛けるが良い。立って話すような事ではない」


 そう謝罪を向け、部屋に置かれた円状の机へと。

 過去であれば、もっと多くの同志たちが座する為に用意された大きなテーブルへ導くと。

 先にその腰を掛けるのだった。


「ハッ! お言葉に甘えさせていただきますぞ」


 そして、名乗りを投げたその魔物も。


 『軍服姿』に。

 煙が時々吹き出る『煙突の様な独特な頭部』を持ち。

 『火炎兵器が搭載された大きな左腕』を携えた……これまた一風変わった人物である。

 招集を受けたトイ・ジェネラルも続くようにして、空席の一つへと重い体を下ろし、座った。


「……いやはや、しかし、この大広間に二人とは……まあ何とも寂しいものですな」


 すると、彼は。

 己が腰を下ろしたテーブルの空席の数。

 それらを輝くモノアイで見回し発する。

 対してフルカースは笑いを含みながら、


「カカカ……まあ仕方あるまいて。何しろ我らがデミウルゴス様にかつて仕えていた者の殆どは未だ戻ってきておらぬのだからな。それに今回の招集は緊急では無く、あくまでトイ・ジェネラルお前だけだ。だからこそ余計に少ない」

「フォッ、フォッ、フォッ……成る程」


「何か飲むか? 用意させよう」

「では、ガソリンをお願い致しますぞ」

「…………用意させておいて良かった」


 …………いくら人では無いとはいえ。

 実に奇妙な物を飲む奴だとフルカースは内心で思い込みつつ、配下の魔物へと命を下す。


【魔造兵軍団】


 これは先のトイ・ジェネラルが入室した際に。

 名乗る時に口に出した名称である。

 それは……軍と名が入る通り、部隊の一つ。


 今より千年前に『初代』勇者達とその仲間達の力により敗北した事で、現在では封印された王デミウルゴスの復活企む闇の覇王軍。

 その軍内にて形成された兵団の内で、魔造兵軍団はその中の一派に属していたのだった。


 構成員についてはその名が示す通り。

 兵士の殆どは人では無く機械。

 いずれも魔の力によって創造された兵器。

 魔族の手で意図的に生み出された者ばかり。


 そして、その頂点に立つ者が。


「それで此度の招集の議題とは何ですかな?」


 機械の筈なのに髭を蓄え、さらに見た目に応じた老爺風の話し方の彼トイ・ジェネラルだった。


 また…………。

 そんな彼及び軍団の実力は……というと。


「まあ、折角ここへやって来たのだ。いきなり本題に入るのも良いが……少し話でもしようではないか。一応報告では聞いてはいるが、どうだ、調子は? 現在も上手く国を制圧出来ているか?」

「はい、全ては滞りなく順調に進んでおりますぞ」

「うむ……流石、私が見込んだだけの事はある。古参達の中にもお前を軍団長に推す者が多かったからな……任せて正解であったな」


 その規模こそ、封印される前からデミウルゴスに古くから仕えていた古株とはまた違い、あくまでも新生された軍団ではあったのだが……。

 その頭目トイ・ジェネラルの評価は高かった。


 現在の闇の覇王軍でも、特に強い権限を持つ彼フルカースにも一目置かれる存在となっており。

 未だ勇者達が生み出した結界より抜け出る事が出来ていない魔物達の分まで奮闘。

 大きく貢献していたのだ。


「確か……お前が今集めている力は『成長する力』であったな。あれの力は中々に凄いものだ。先日もその甲斐あって、まだ本調子ではないが同胞の何人かがこちらへ戻ってこれた」


 フルカースは彼の働きを労う言葉を向けた。


「いえ……これもワシに使命と力をお与えになりました貴方様のお力によるものです」


 対してトイ・ジェネラルは謙遜し、薄暗い色の杯に継がれた橙色の液体を口元へと。

機械だというのに、まるで老人の様な白い髭で覆われた口へ運び、自身の喉を潤していた。

 好物であり『動力の源』でもあるガソリンを。


「ゴクゴクゴク……ふう、やはり旨いですな」


 静かに口元へ付け啜るのではなく。

 酒でも煽るように杯を傾け豪快に飲み干した。


「………………本当にそのガソリンとやらは旨いのか? この前に、その、お前の真似をして誤って口にして、苦しんでいた魔獣がいたんだが」

「ええ、美味でありますぞ。こう……体が燃えるというのでしょうか。もう頭の排気口から煙を出そうな。やろうと思えば三日三晩走れますぞ」

「お前は汽車か……」


 生物では無い体と持つ異色な兵トイ・ジェネラルに、フルカースは思わずそんな冗談を呟いた。

 そうして、互いが一息付いた後は。


「なるほど、なるほど……」

「うむ……それでな……今その国について……」


 まだ本題へとは歩を進めず。

 まず両者は他の報告を済ませていた。


 例えば……その一部を抜粋するなら。


「……お前がそう言うのならば、すまぬが兵士の一部を援軍として別の軍へ向かわせる事は可能か」

「勿論可能ですとも。火力にお困りなのでしたら、現在手の空いております『重装兵』が適任かと。どうぞ、好きなだけ持っていてくだされば」

「うむ、助かる。人間界のそこはどうしても取り返しておきたい領土でな。その『交渉』に使おう」


 不足している兵の補充についてや。


「さっき言った事ではあるのだが……『果て』から戻って来た我らの同胞の詳細だ。今回は――」


 着々と数を戻しつつある覇王軍の古株について。

 そういった内情についての報告が続き。


 フルカースは悪夢の血と呼ばれる赤い飲み物を。

 トイ・ジェネラルは三杯目となるガソリンを。

 そのそれぞれの飲料が目前の杯へ。


「では、前置きは少し長くなってしまったが。そろそろ大切な本題に入ろうか」

「ハッ! 了解致しました」


 トク、トクトク……トクトクと。

 傍に控える給仕係りの魔物二匹が、対談の話の邪魔をせぬようにと気を利かせて。

 両者の器に音を最小限に抑えつつ。

 その脇から注ぎ始め、杯が丁度満たされた頃。


「お前は、アペティートという一人の人間を覚えておるか。約一年前に私がグランドストーンを授けた者で何度か話はしたと思うのだが……」

「ええ、存じ上げておりますとも。確か『ある食材』を探しているという理由でこちら側に付いたという……報告で伺っている見た目は、豚も驚く様な肥満気味の男性と記憶しておりますぞ」


 ようやく話題が、切り替わった。

 対談の内容は、勿論最重要である本題へと。

 トイ・ジェネラルが呼び出しを受けた理由に。

 話さねばならぬ事に移ったのであった。


「カカカカカ、よく覚えているな。そうだ、奴には魔界からの食材提供を条件に、我らに必要な一部の物資、資金の調達等の支援を約束させておった。そして預けたグランドストーンへは『食に対する欲の力』を集めさせていたんだが……」

「うむ? それが……どうかしたのですかな?」


 瞬間、トイ・ジェネラルは首を傾げる。

 そのフルカースの仕草に。

 肉の無い、白く細い指で。

 同色の頭部を抑える動きに。

 傍から見ても如何にも悩みの種を抱えていそうなフルカースの態度を見て、疑問の声を洩らした。


 すると……。

 彼はその姿勢のまま、


「ああ……実はな……消えた……」

「えっ? 消えた、ですと?」

「うむ……それも忽然とな」


 現状を短い言葉で口に出した。


 …………同時に。


(やはり……只事では無さそうじゃな)


 場の空気には重みがかかった。

 真相の詳細はまだだったが、今発せられているフルカースの報告は明らかに笑いがこぼれる様な。

 お気楽に聞ける話ではない。


「ムグ…………」


 それ故に、重くなった。


(一体……何が……)


 トイ・ジェネラルはその表情を……。

 一応、骨である為かなり悟りにくいが。


 その動きは、気まずさを顕著に表し。

 さらには杯の飲料を何度か口元へ運ぶ姿を見て。

 彼はそう心中で真相の説明を待った。


 そうすると。


「……ほんの数日前だ。私は『ある悪寒』を感じ、騒ぎになるよう人の姿に化け、奴がいるドージエムの国と向かったのだ。グランドストーンに溜められた力の回収も兼ねてな」


 フルカースは手に持っていた杯をテーブルへ戻し、自身が目の当たりにした話を彼へ語った。


「そして、国を賑わしている煩わしい人間共を掻き分けながら、私は奴の住まう館へと。アペティートの館へと向かった……しかし……」

「……し、しかし?」


 ………………突然だった。


 ガチャン‼



「むむっ!?」

「「ひっ!?」」



 突然。

 そこまで口にしたフルカースは骨の手で。

 思わず給仕の魔物が悲鳴をあげる程に。

 力強く、テーブルを叩いたのである。

 けれども……。


「ムッ!? す、すまぬ……驚かせたな」


 そんな憤りを覚えた者が及ぶ様な行為について。

 こればかりは、フルカースも不意だったのか。


「いかん、いかんな……」

「だ、大丈夫なのですかな?」

「ああ、問題ない…………いや、『問題が無いのであれば』こんな感情に任せる様な行為には及ばぬな……スウウウウウウ……フウ―」


 一度深呼吸をし、座り直したのだった。

 そんな……ほんの一動作だったというのに。

 それを……離れた位置とはいえ、目の当たりにしたトイ・ジェネラルからすれば、


(う……ううむ……)


 なんとも珍しい行動だった。

 普段ではあまり見せない動き。


(あのフルカース様が………………)


 冷徹。

 冷静に物事を見透かす意を持つ言葉。

 彼がフルカースに抱くイメージだった。

 しかし……現在のフルカースはというと、


「すまんが、もう一杯くれるか」

「は、はいっ! ただいまっ!」


 今は明らかな動揺が伺える。

 きっかけは些細な一つの行動だけとはいえ。


「アペティート殿の館で……一体、何が?」


 単なる報告や話をしていた時と一変。

 いつしか場を完全に凍り付かせた本題。

 トイ・ジェネラルはそう向け、答えを待った。

 一度会話を中断し、まるで……。


「ゴクゴク……ゴク……リ……ああ……」


 湧きたつ感情を抑えるかの如く。

 飲み物を口に運んでいたフルカースの返答を。

 僅かに姿勢を前へと出して、待った。

 そして、話題に突然の一拍が置かれた後。


「…………館の中はもぬけの殻だった。それもアペティートどころの話ではない。従者も……ましてやグランドストーンすらも無くなっていた」

「なっ!?」


 けれどもまだ……。

 まだ早かった。

 トイ・ジェネラルが返答に驚くには。


「そこで、私はその抱いていた『悪寒』に突き動かされるようにして、館の外へと出て情報をかき集めた。そして任を解かれた代償に、大金を渡されたという『憲兵』を見つけ、話を聞いたのだ」


 重い……。

 話が結論へ至るにつれて。

 ただでさえ口を挟み難い逼迫する空気に。

 これでもかと言わんばかりに、留まる事なくどんどんと質量増す重苦しい雰囲気へと変わる……。


「すると、アペティートは我らとの協力条件にあった『飢え』を満たし、国外へ従者を連れて逃亡したのだと。その兵士は語っていた。流石に場所までは知らされていなかった様だが」

(…………裏切り……か……)


 対してそこまでの彼の報告で。

 トイ・ジェネラルはそれが話の肝だろうと。

 元より『成人の人間』を好まない彼にとって、そんな人間が裏切った事についての警戒。


(これ以上の裏切りを未然に防ぐ為か?)


 さらには忠誠心が試されるのかと。

 アペティートに対して『制裁』の命が下るのか。

 真面目な彼はそんな予想を立てていた。


「だが、ここまで言っておいてなんだが、私が気にしている問題はその逃亡の件では無いのだ」

「なっ!? で……では、な、何故!?」


 だが、そんな予想とは裏腹に。

 彼の予感のあてが外れてしまう。


「では……一体!?」


 だからこそ。

 慌てたトイ・ジェネラルは。


「うん?」

「い、一体、アペティート殿の裏切りを越える様な議題とは……それにワシを呼んだ訳とは」


 慌てて返答を急かすような問いかけを投げた。


「落ち着け、確かに裏切り者や勝手な逃亡者を見逃す程、我ら覇王軍を甘くはない。お前の許せない気持ちも重々承知しておる。しかし、落ち着け。『これ』で動揺していては話にならんのだ」

「ハ……ハッ……了解……致しましたぞ」


 …………そうして。


「「…………………………」」

「…………………………」


 今やその真実を知るフルカース以外の者達が完全に口を閉ざし、黙する大広間で。

 広間の切迫し肩にのしかかる重みを味わい。

 内にある緊張の糸の張りが最高潮に達しようと。座る姿勢にすら影響するまでに高まった。

「では話そう、本題はここだ。その憲兵の話には続きがあってな。実は最後の見張りの日に……」

 その時だった‼



「そいつは……客間の部屋の窓から、グランドストーンの『輝き』を見たらしい」

「なっ!?」


 ドン! と音が響いた。


「輝き!? あの石が『輝いた』ですと!?」


 それは先に起こった珍事と全く同じ様に。

 ただ今度はトイ・ジェネラルであり。

 ドン! と鳴った音も違っていたが……。


「ぐ、グランドストーンが輝いたという事は……」


 明らかな動揺に関しては同じだった。


「それはつまり……ワシが以前に聞かされていた石の情報が正しければ……ま、まさか……」

「……ああ間違いない。かつてデミウルゴス様を苦しめ、我々も苦戦を強いられた『聖なる力』を持つ者の手にグランドストーンが渡ったのだ」

「ば、馬鹿な……」


 その議題にあがったのは、勇者達が創造し、使ったとされる力を蓄える不思議な特性を持つ石、グランドストーンについてだった。


 だが別段。

 ここまでの話を聞くだけでは特に……。

 そこまで驚く様な内容に聞こえるのだが……。

 問題は、それが『輝いた』事にあったのだ。


「輝かせ、石を浄化できる者など……聞いた話では勇者にしか出来ぬ筈……御無礼を承知で今一度お尋ねしますが、その話は本当なのですな?」

「……その証拠に、蓄えられた力の気配が、譲渡されたであろう客間で完全に途絶えていた」

「ぐぬぬぬ……なんという……」


 力を蓄えるならば正直造作もない代物だった。

 けれども、トイ・ジェネラルが語った通り。


 それを浄化させるとなれば話は別だった。

 彼らにとっては忌々しい聖の血を引く者しか。

 勇者にしか出来ない芸当だったのだ。

 それ故に彼らのリアクションも大袈裟だった。


「後……残念だが、話を聞けたのはここまでだった。一応、操りその兵の記憶も覗いてみたが、本当に輝きと主人の逃亡についてしか知らなかった」

「ぐぬぅ……それを聞いたワシらからすれば……一番聞きたかった部分だったのですがな……」


 さらに……彼らを苦しめたのは手がかり。

 残念ながら明確なものが無かったのだ。

 姿形、敵の数も、一切が不明。

 あくまで『いた』という事実だけで……。

 余計に混乱を招く羽目になったのである。


「そこでだ。恐らくその聖なる力を持つ『何者か達』がドージエムから離れ、そのまま陸続きで歩くと仮定したならば、次にグランドストーンを求めて向かう場所は……お前なら分かるな?」

「陸続きでしたら……そうですな……今ワシが制圧しております国『ガンテルツォ』という事になりますな…………なるほど……そういう事ですな」


 その時、彼はようやく全てを理解した。

 グランドストーンについても驚きがあったが。

 ここでやっと、トイ・ジェネラルは己が招集を受けた理由の、その全貌を認知した。


「だから……今回そこを制圧していたワシを……」

「うむ、察しが良くて助かる。そうだ、魔造兵軍を預かるお前がよもや負けるなどとは思わぬが、一応警告は促しておかねばならぬと思ってな」

「ええ、お任せを! 魔造兵軍団長の名を授かりましたこのトイ・ジェネラル。命に代えてでも必ずやデミウルゴス様復活の為に、グランドストーンを死守致しましょうぞ!」


 そしてフルカースから下されたその命令に。

 彼は張り切るように頭部の先からブシュ―ッ! と煙を吹きだし。

 その武器である大きな左腕を胸元に当てて返事し。

挿絵(By みてみん)


「頼りにしているぞ。もし緊急事態であれば、悪魔の頭骨で連絡をくれ。近くの部隊から援軍を向かわせるからな、くれぐれも無茶はするな」

「ハッ!」


 そう力強く答えるのだった。



 こうして……。

 まだ僅かずつではあったが。

 覇王軍も不穏な異変に気付いていた。

 勇者の血縁という確実に邪魔になる可能性。

 アナスタシアの存在に近づきつつあった。


 一応、彼女達からすれば、まだ相手側には確証が無く憶測だった事が幸いではあったのだが……。


 それでも、着実に……確実に……。

 その先で訪れるであろう苦難。


 ……その壁は、ゆっくりゆっくりと。

 前に立ち塞がんと水面下で蠢いていたのだった。



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