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2-15.変態は探し物を見つけました

『ボス戦が無い幕引きもまた一興』

初掲載2018/09/16

細分化目の投稿文字数 15017文字

細分化2018/09/27


 ……俺達はそうして彼の過去を聞いた。

 アペティートさんはそんな自分の悲惨な過去を語ってくれた。


「……という訳だ。本当に君達には迷惑をかけてすまなかった」


 その口が告げたのは現在の見た目とは正反対。

 腹に二人分位宿っているのかとボケを入れたくなるぐらい。

 まさに肥満、太って満たされているという字面通りの茶髪の男性。

 その彼から出たのは富と真反対の貧しく辛い出来事だった。


「アペティート様……大丈夫? 辛くない?」

「もし、気分が優れない様でしたら……何かお持ち致しましょうか?」

「……二人共気遣いありがとう……平気だ、私は大丈夫だよ」


 因みに彼が雇い、その傍で仕えるメイド達も同じく。

 元は全員貧困の中で苦しんでいた孤児だったらしい。


 そして、彼は亡くなった母親が自分を生かしてくれた様にと。


 彼女達に生きる力を。

 希望を無くさないよう願い、雇ったのだという。

 正直言って金持ちって割と汚いイメージがあったんだけど……。

 人は見かけによらないとは良く言ったものだ。


「アナスタシア君とコモリ……君だったね。以上が私の過去さ。まあ、あくまで知識の補填位にでも思ってくれて構わないよ。だって今私はこうして生きているんだから!」


 そして、辛い話を終えた直後だったのだが。

 彼の顔はまさに腫れものが落ちたように。

 何処か晴れやかな表情だった。


 それこそこちら側が話しやすいように配慮してか。

 そんな明るい言葉を向けてくれるくらいに。


「まあ、今はこの子達が傍にいてくれているからね。孤独では無い事が救いさ」

「いいなあ、俺もメイド欲しいぜ……ねぇねぇアナスタシアさんや、メイド服に興味は――」

「貴方に服従する位なら、私は容赦なく刃を向けるわよ」

「なんで!? なんで俺を敵視しようとするの! 止めて、その目! その、どうせスケベな事でも企んでいるんでしょうと言わんばかりの厳しい目を今すぐ止めてください!」


 だからこそ、その明るい雰囲気があったからこそ。

 俺もアナスタシアも発言しやすくなり。


「アハハハハハハ! 面白い、何とも仲が良いコンビじゃないか!」

「今の何処見て仲が良いって見えるの!?」


 向こう側も気軽に会話に参加してくれた。


「フフ……そんなに面白いのでしたらアペティート様も首に刃を向けられるのがお好きでしたら、毎朝お目覚めの時にするように命じましょうか? 勿論マリー姉さんに……」

「ひっ!? なんて恐ろしい事を言うんだ君は! それに、そんな事言ったら……」

「分かった……今から砥石買ってくるね……やっぱり切れやすい位が丁度いいよね?」

「ほら、見たまえ! マリーがやる気になったではないか! こら、待て、待ちなさい!」


 さらにはメイド長のミリーさんの合いの手をあってか。

 内容自体は物騒というか洒落にならない。

 従者に言われたら、それこそ終わりの様なセリフだったが。


「プッ、クッ、アハハハハハハハハ!」

「アッハハハハハ! そっちだって良いメイドさんじゃないか!」

「全くだ。一体どこで教育を間違えたんだろうか……不思議で仕方が無い」


 そんなお互いに大きな笑い声がこぼれる空間で。

 場の空気がこれ以上とない位に非常に軽くなったのだった。

 それからは、しばらく他愛の無い世間話を皮切りに。

 メイドさん特製の菓子や紅茶などを御馳走になり。


 かなり場が和んだ頃。


「さあて……と。では冗談はそれくらいにして本題に入ろうじゃないか」


 アペティートさんはそう話しに一度区切りをつけて、ソファに座り直すと。

 一度崩していた姿勢を正し俺達へそう向けてきた。


「君達のお話は大雑把にだが聞かせてもらった、こちらのミリーからね。なんでも何か大きな目的があって、この広い世界中を旅している最中なんだってね」


 これに関しては俺自身が話したわけでは無く。

 アナスタシアが俺を探す為に話したと思える内容だった。

 それについては、彼女なりに多少は簡略化していたのか。


「いや、怪しんでいる訳では無いんだ。本来ならすぐにでも私を救ってくれたお礼の話へと移る所なんだが、少しそっちの話も聞きたいと思ってね。どうだろうか、君達二人それも少女と小悪魔なんていう珍しい組み合わせだ。差し支えなければ聞かせてほしい」


 どうやらその目的までは伝えていなかった様だった。

 なので、信じて貰えないかもしれなかったが。


「実は……私がこのコモリと冒険に出ているのは――」


 アナスタシアはその内容を話した。

 それに彼女からも俺から見ても。

 訳を話した所でフンッと嗤う様な輩とは違い。

 アペティートさんは器が大きい人と感じられた。

 だから彼女は正直にありのままを話した。


「それでそのデミウルゴスという闇の覇王が――」

「ふむふむ」


 千年前に勇者達によって倒されたデミウルゴスという闇の覇王について。

 さらに自身がその勇者の末裔であるという事など。

 彼女は冒険の出発から俺と出会ってからの行動を話していた。


「なるほど……。デミウルゴス……か。只の昔話だと思っていたが実在したとは」

「はい……確かに傍から聞けば変な話だとは思いますが、本当なんです」


 そうして彼女がある程度話を終えた頃。

 アペティートさんは返事を何度か交えつつ、相槌を打ち真剣に聞いていたその時だった。


「いやいや別に嘘をついているなどとは思わないさ。でも、何と言うか……まさか絵本に出てくる『あの闇の覇王』がねぇ。それも復活を企んでいるなんて………………うん? 復活?」


 それは彼の発した言葉の終わりだった。


「す……すまないが、その残りを話してくれるかい?」

「えっ?」


 何か引っかかる所があったのだろうか。

 話の途中で彼は初めて落ち着かない様子を見せた。

 首を僅かに傾け、口元に手を当てると。

 より一層に真剣な表情で残りの情報を欲したんだ。


(急にどうしたんだ? それに……)


「…………ひそひそ……ねぇ、ミリー。もしかして」

「………………はい姉さん、まさかとは思いますが……」


 視線をずらした先のメイド達も同様の反応をしていた。

 特にマリーさん、ミリーさんの姉妹は顕著だった。


「で、では……お次はプルミエルを離れた後をお話します」


 そうして各々が僅かな違和感を抱く中。

 いよいよ彼女はこのドージエムに来る直前の話。

 俺達がかつて魔界に身を置いていたという女性から聞いた話。

 ブリュンヒルデさんから語られた内容を丸々話した。


「……そうして、私達はその『グランドストーン』という石を探しているのです」


 敵側が所有しているという重要アイテム、グランドストーン。

 善悪問わずに人々が持つ力を吸収し、蓄えるという性質を持つ石。

 そこに蓄えられた力を使って覇王軍は王を復活させようと企んでいる事。

 だから敵の手から奪還し、復活阻止をする事が現在の目的であると伝えた。

 そうすると……アペティートさんは。


「そうか……成る程……成る程。道理で……」


 その話を聞いた直後。

 顎髭に手を当てて視線を床に落とし、物思いに耽った。

 何か心辺りでもあるのだろうか……。


「奴らが……いたのは……デミウルゴス……のか」


 すると、彼はそれから聞きとり辛い声量で何やらブツブツと呟いた後に。


「……ごほん、いや、悪い悪い。少し考えこんでしまって」


 一つ咳払いを交えて視線を俺達の方へ戻すと。


「その、多分だが……そのグランドストーン、恐らく私達が一つ所有している物に違いない」

「「ええっ!?」」


 なんと、驚くべき言葉が飛んできたのだった。

 彼はそれと思しき石を持っていると。


 その口から俺達の予想の遥か斜め上をいく話が出てきたのだ。

 それこそ思わず目を丸くして、声が漏れる程の一言だった。


 まあ……でも……なんと言うか。

 運命的と言えばいいのだろうか。

 勇者達の生み出した産物と言うだけに導かれるのか。

 敵が次々と現れるバトル漫画とかみたいに惹かれ合うのか。


 ……とにかく、俺達は探していた物があっさりと見つけたのだった。



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