0-4.変態は賊の玉を攻撃しました
細分化前タイトル
『憧れが現実になった転生後』
初掲載2018/07/15
細分化前の投稿時文字数 13805文字
細分化2018/09/23
生い茂る邪魔な草藪を掻き分け。
地面から露出する木の根でたまに転倒しそうになるも。
俺は体力のある限り走った。
加えてその後も何度か助けを呼ぶ声があってか。
どの辺で騒動の発生源を特定して向かった。
「ぜぇぜぇ、なんとか……見つけた」
そうして息を切らしつつも。
どうにか俺は現場にたどり着けた。
(悲鳴の時点でロクな事は起こってないと思ってたけど、本当にこんな事って起こるんだな……)
さて、ではたどり着いた時点での現状。
それを端的に纏めるとするならばこう。
声の主と思しき女性が襲われていた。
茶色のローブで全身を覆う女性が山賊らしき野蛮な男に絡まれていたのだ。
……女性かの判別は自分の性癖の甲斐あってか。
その【胸元】のしっかりとした膨らみで男女の区別をすぐに見分ける事が出来た。
「やめてください! 私は貴方とは戦うつもりはありません! 食料でしたらそこの荷物を差し上げます。お願いですから、もう立ち去ってください!」
「へへへ、お嬢さん。食料だけなんてそんなんじゃ甘いよ。むしろ俺は食料よりお嬢さんの方が欲しい位だ……」
すると……何という『王道的』というか。
よく見かけるような賊なんだろうか。
野獣の様に欲望に塗れて若そうな女性を襲おうとするその姿。
アニメの見過ぎで最早お約束と感じる程だぜ。
しかし……あの涎を垂らして。
卑しい目付きでナイフを構える軽装の賊。
あの目……俺がエロ画像を見る時の目と似て……。
(いや違う違う、そこじゃねぇだろ!?)
今はあの賊に親近感を湧かしている場合では無い。
あんなむさい男ですら異世界らしく。
まるでコスプレみたいな三次元離れしたイラストの様な賊の姿だ。
きっと……女性の方も声の綺麗さも相まって。
美人なんだろうな、グヘヘ……なんて。
そんなアホな事を考える場合じゃない。
折角……異世界に転生できたんだ。
(賊は運よく俺に気が付いていない。何かないか)
前世は思い返せば、ロクな生き方をしなかった。
ならばせめてここでカッコいい見所を作りたい。
(さっき森で拾ったこの鍋……何かに使えないか)
だからこそ、怯える少女の元へと。
じりじりと近づくあの下賤を撃退できないかと。
頭がすっぽり入る様な鍋とにらめっこしつつ。
時間が迫る中、俺は対抗策が無いか考えを巡らせ。
(そうだ!)
「い、いや!」
「ヒッヒッヒ……安心しな。俺は紳士だからよ……」
やがて怯えていた少女がその恐れから膝からか崩れるように場にへたり込み。
賊は勝利を確信してか低い笑い声をあげ、女性らしいその細い腕を掴もうとした時。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!」
俺は少ない勇気を振り絞り!
声を出して男へと突進した!!
頭に鉄の鍋を被って。
その重さを感じながら!!
「!?」
「なんだ!? こいつは!?」
俺が大声をあげた事もあってか。
両者とも俺に気が付いた様だった。
だが、もうそれはどうでも良い。
結末がどう転ぼうとも。
この突撃の選択をした時点で失敗は弱者の俺にとって死を意味する。
敵の持つナイフに勝てるか?
無理だ。
小悪魔の俺が倍以上ある人間に勝てるか?
無理だ。
ならば、どうやって勝つのか?
「ここだあぁぁ!」
正攻法で勝てないのなら、勝ち方は一つ。
それは相手が意図しない大技。
そう……【虚を衝く】しかない。
俺はある場所に狙いを定め。
『その一点』だけに全神経を注いで。
鍋を被った頭から勢いよく飛び込んだ!
「んごぉっ!?」
そうして…………決まった。
見事に俺の決死のアタックは命中した。
鍋越しだった為、感触こそ無かったが。
相手の反応的に成功したのだ。
「ぐぎゃああああああああああああ!」
そうすると……その結果を周囲に知らせるように。
俺の耳だけじゃなくて森中に響いたのは男の絶叫。
明らかに効果覿面だった事。
確かな成功を実感できる叫び声。
「いぎゃ、いぎゃ、痛いぃぃぃぃん!」
加えて男は患部を両の手で力強く抑えながら。
痛みを忘れる為に喉が張り裂けんばかりに叫び続け、ついには涙まで流していた。
(ごめん、ごめんな……わりぃ)
まあ……攻撃を仕掛けておいてなんだが。
男としては……同情出来るよ。
だって、俺が狙ったのは『金的』だもの。
そりゃ、スゲェ痛いよ。
ましてジャンプの勢いと鉄鍋の硬さの直撃だ。
男なら悶絶する以外に道は無い……。
でも、残念だが、これ以外には無かった。
俺がこいつに勝てる手段は無かったんだ。
男だった故にその克服できない弱さを知っている。
中学、高校の時、そして死ぬ数日前の日。
アソコを何度をぶつけてはもがき苦しんだもんさ。
「これで大丈夫だ! 早く逃げよう!」
「あ、貴方は……まさかモンスターじゃ!?」
「いいから、早く! でないとまたあいつ起き上るよ」
ともあれ作戦が成功し。
大きい隙を作る事が出来た俺は、腰を抜かしていた謎の少女へそう急かし危険なこの場からの脱出を促した。
何だか彼女としてはモンスター姿の俺に指図されるのは抵抗があったみたいだが、この非常事態では四の五言っている場合では無いと判断したのだろう。
「わ、分かったわ! えっと、森の外へは――」
「こっち! 俺がさっき通って来たから! こけない様に足元の木の根とかには気を付けて!」
彼女は自身の荷物と杖を拾い上げ、俺と共に先程の草原へ出るための道を走った。
そしてついには痛みで完全に黙り込んだ賊を置き。
とにかく身の安全を確保すべく、俺は彼女を誘導。
抜けてきた雑木林の隙間をくぐり、森の中から脱出。
無事に外へと逃げ切ったのだった。