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2-10.変態が泣き叫ぶ間に

『あと少しでステーキになってた』

初掲載2018/09/09

細分化前の投稿文字数 17362文字

細分化2018/09/26

 オラ、大金持ちになっただ。


 憧れだった大きな大きな『まいほーむ』を手に入れてよ。

 無理に狩りをせずとも生きて行くのに十分な金を手に入れたんだ。


 以前までの生活だったら林の中のちいせぇ小屋で住んで。

 毎日弱い獲物の尻を追っかけて生計立ててたってのに。

 標的は、リスやウサギ、弱っちいモンスターを中心に絞ってよ。


 それでもって獲物の肉なんかは主に飯用に残して。

 後の余った肉、剥いだ毛皮やモンスターの落とすコア。

 それらを集めて溜めこんでは売りに行っただ。

 近くにある『ドージエム』ってどデケェ国へ運んでな。


 そんでまあ、大した金にならない事が殆どだったけんど。

 別に毎日の飲み食いに苦労しねぇ位の稼ぎにゃあなってた。

 金が溜まった時は良い酒や珍しい食いもん買って、食って飲んでた。


 でも……肝心の今はっていうと。


 もう今までの生活が嘘だった様に。

 劇的にまるっきり変わっちまったんだ。

 最早オラは別の人生を歩んでるみてぇだった。


 今では獣クセェ飯食わずに好きな食いもん買って旨い飯食って。

 寒い隙間風を気にせずにあったけぇフカフカのベッドで眠ってよお。

 もう、なんつうか天国みてぇな極楽気分だ。


 けれどもよ……オラだってこんな事になるなんて当初は思いもしなかった。


 それもこれも、あの『数日間』に起こった出来事が原因だったんだ。

 若い頃に故郷から巣立ち、狩人の道へ入って10年。

 その積み重ねてきたオラの十年が馬鹿らしくなる出来事だった。


 まあ、そんな人生を大きく変えてくれたからこそ。

 今でもよく思い出せるだ。

 始まりはそう今から丁度一週間位前の日の事だった。



 あれは青空広がる気持ちの良い天気だった。



 朝早くに起きたオラはいつも通りの行動を。

 バケツに汲んでいた水で顔を洗い。

 安く仕入れた材料で作った朝飯をしっかり食って。

 林の中に仕掛けておいた罠の様子を見に行ったんだ。


 するとよ……。


【おんや……コイツぁ、ぶったまげた。見た事ねぇ生き物だな】


 とある生き物が罠に引っかかってやがった。

 それがまた何とも見覚えのねぇ獲物だった。

 だから名前は知らなかった訳なんだが。


【にしても……えらい不潔そうな見た目してやがんな…………】


 とにかく一目見た時のオラの最初の反応はそんな酷い感想だった。

 だってよお、特徴としては本当にきたねぇ奴だったんだから。


 体格に関してはなんてぇか……もうとにかく丸々と肥え太ってやがった。


 それこそ、走る速度が異常に遅い事が簡単に想像できる位にな。

 次に顔面に関しても可愛さなんて微塵も存在しねぇ。

 ジッと眺めていると気持ちが悪くなってくるぐれぇだった。


【うげっ……すんげぇクセェ臭いしてやがんな。臭いったらありゃしねぇ】


 そしてそんな醜くきたねぇ見た目にそぐわず、体臭も臭かったんだ。

 もうそれこそ屁を塊にして鼻先に押し付けられたような……。

 反射的に顔をしかめたくなる異臭。

 とにかくそんぐらいに見つけた当初は酷かった。


【ったく……こんなクソきたねぇ奴じゃあ売り物にはならねぇな……】


 とまあ……そんな金にもならなさそうな豚的な生き物を見つけたオラだったんだけど。


【……まあ、仕方ねぇべ。売れないなら……持って帰って今日の飯の材料に使うか】


 きっと普通の狩人の神経なら。

 こんな見るからに価値がある様には見えねぇ。

 他の獣を誘う餌にすら為りえない生き物なんて捨てちまうだろう。


 だからこそ本来であればはあ……と重い息洩らして。

 別の狩場へ足を運び、もっと旨そうな奴を探すに決まってら。


 それこそ育ち切った牛みてぇな群れから逸れて単独になった大きい獲物。

 もしくは度胸のある奴だったら熊や狼。

 他にはイノシシなんかを狙ってよお。

 それなりの金になる毛皮や食える肉を取るだろう。


 けれでも……オラはよ普通の狩人とは違うんだ。


【おっふっ……く、くせぇ。でも水で流せば少しはマシになるだろうて】


 オラはそいつを持ち上げて、引っ張ってきた台車に乗せて運んだ。

 見た目通り重かったけど、少し離れた自分の小屋までだ。

 確かにひでぇ臭いだったし、明らかに旨そうとは思えなかったけどよ。


【まあ……こんな奴でも数日分の肉にはなるだろう。そん頃にはオラも臭いに慣れてるだろう】


 臆病モンのオラにとっては立派な獲物だったんだ。

 どんなに臭くっても、どんなに不味そうでも。


 オラの仕掛けた罠にかかった以上は責任持って食うんだ。


 だから重い台車引っ張ってわが家へと足を進めていたんだ。

 これについては……なんつうか。

 オラの『ポリシー』って言うのかね。

 狩人としての生き方が影響していたんだ。


【さてと……今日はコイツだけにしとくか。小動物もすくねぇみてぇだし、今日は弓も持ってきてねぇ。それに最近は強い野生動物やモンスターも出没するって話だ、早ぇ所戻らねぇと】


 オラにとっての『狩り』とはあくまで生き方だ。


 強い奴がよく口にするロマンなんてもんは無い。

 倒しがいのありそうな大物と対峙するとか。

 皆が恐れる狂暴なモンスターと戦うとか。

 燃える様な興奮を覚えてデケェ奴と戦って勝つとか。


 だから……そんなよお……。

 そんな……狩人としての性質では無くてよ。


 どんな奴であれ狙った獲物を狩るという探究心みてえなやつでは無く。

 オラの場合はただ自分の食い扶持と生きていく分を確保するだけ。

 余計なものは狩らずに、安全に、自分の身を犠牲にせずに。

 ヘボのオラでもやっていける様な範囲での狩りをこなしていた。


 よって、そんな大それたもんの為に命張る為にオラは狩人やってねぇ。


 一応、これは……その臭い生き物を捕まえるよりも前の話だったんだが。

 楽しみで時々行く酒場で出会ったあんちゃんの話だ。

 如何にも力持ちらしい筋骨隆々な厳つい兄ちゃんだった。

 彼は酒場の端でのんびり飲んでいたオラに自慢気にこう語ってくれた。



『ガッハッハッハ! おめぇさん、聞いてくれよ。俺はなこの前、この辺に出没するっていう危険度Aランクのモンスター『ベアグマ』を見事やっつけたんだ! このペンダントの爪はそん時奴からはぎ取った奴さ、デケェだろ! スゲェだろ! でも本当に奴は強かったぜ。チンケな飛び道具代わりの魔法なんかじゃ役に立たねぇ。一番大事なのは己の技量よ! 俺は自前の斧に持てるだけの魔力を込めて斬りかかったのよ。まさに決死の一時だったぜ、ありゃ。これで留めをさせなきゃヤベェって、俺は死ぬんだって。だからよお俺は――』


 何とも勇ましい度胸溢れる体験談だった。

 それこそ多くの人間が聞いたら、場に熱がこもる様な。

 一気に場が湧き上がる様なご立派な武勇伝だったろう。


 誰もがその兄ちゃんを称えて、アンタは立派な狩人だ! だの。

 あの凶暴でゴツイ体格の荒くれベアーを一人で倒したのか! など。

 強者に立ち向かうその男らしい生き様に対して。

 数多の人間達が彼の事を持ち上げただろう。


 しかしよ……。

 残念なんだけど……。


 オラには理解出来なかった。

 男なら胸熱くする筈のその武勇伝を聞いても。

 自分の中で湧き上がる熱を感じられなかった。

 それこそ、一片たりとも感動みたいな情は一切湧き出てこなかったんだ。


 何故かって?

 どうして嬉しそうに語る彼に同調しなかったのか?

 お前には男としての血は流れてないのかって?


 その理由はな……その兄ちゃんの姿にあったんだ。


 彼は…………無くしてやがったんだ。


 その体にある筈の物を……一つ。


 ある筈の……片腕が……。

 正確には二の腕から先が無かったんだ。


 名誉の負傷だって本人は高らかに自慢げに笑っていたんだけど。

 オラからしてみれば、とてもそうには思えなかった。


 むしろ、臆病者のオラからはこう感じられちまった。



【皆がどう言おうと知ったこっちゃねぇが、コイツは馬鹿だ。なぜ片腕を失ってまで狩りをしようとしたのか。なんでそこまでして強い奴を戦おうとするのか。その後生きるのに苦労するぐれぇなら何故謙虚に静かに生きれねぇのか……。まあ、この兄ちゃんから見れば弱っちいオラなんかの生き方なんざ、一生理解出来ねぇだろうし。オラも理解出来ねぇだろうな……】



 哀れみにも似たそんな感情をオラはその兄ちゃんに向けていたんだ。

 簡単に勝てねぇ、命の危険を感じる程の猛獣を相手取るなんざ、無謀極まりねぇ。


 確かにベアグマつったらそこいらの旅人じゃあ一目見ただけで尻尾まくって逃げちまう。

 時折、目にする熊型のモンスターん中でも飛び抜けた攻撃性を持つって噂の野郎だ。

 出会った奴の話やオラ達の間で出回っている危険なモンスターのリストによれば。


 その筋肉質な体表を包むのは黒い剛毛。

 そして獲物を狩るのに活用するのはベアグマご自慢のデケェ爪。

 もし、その自慢の鋭利な爪の直撃を食らえば人なんて一溜りもねぇ。

 あっちゅう間に挽肉が出来上がって、ハンバーグにされちまうって。

 そんだけおっかねぇ、とんでもねぇ化け物だったんだ。


 と、まあ……。

 そんな訳でオラはそういった危ない怪物を相手取る様な。


 狩りのスリルを楽しむような博打みてぇな人生送るよりも。

 自分に合った実力の狩りを、ちっぽけな人の身体能力でも簡単に狩れて食える獲物探し。

 それをのんびりやった方が気楽に生きられるもんだとオラは考えていたから。

 だからよ、オラは彼の話を苦笑いで聞いていたんだ。


【そうさ、オラぁあんな兄ちゃんみたいじゃなくていい。馬鹿デケェ獣狩るより、例え不味そうでも、弓の腕ぐれぇしか取り柄の無ぇオラはこんな弱い獣狩っている方が性にあってらあ】


 だから、何だろうかね……。


 あの片腕の兄ちゃんの話を聞いてからというものの。

 オラの臆病さに余計に拍車がかかっちまったんだ。

 よってオラはこんな見てくれの悪い獲物でも。

 ぶっさいくな上にひでぇ味だと食う前から分かる。

 臭くてたまらねぇ生き物を連れて帰ったんだ。


【ゼェゼェ……あと少しだ。頑張れ、オラの足!】


 坂道だろうとゴロゴロと台車を転がして。

 時々モンスターの群れから隠れるようにして進んで。

 自分の安全を第一に考えて。

 無理せず、欲張らずにあるがままを受け入れて帰った。

 そんなこんなでオラは狩場から家へと戻っていったんだ。


 ……とまあ……そんな感じで。


 ……色々と先日の事を細かく思い返しながらも……。


 さあて、ここからだ!


 オラの人生が一変する出来事があったのはこの後からなんだ。

 そんな臆病者のオラが金持ちになる最も重要で肝心なのはここからの記憶だ。

 事の始まりは何やかんやありながら、その豚的な生き物を捕まえてからだ。


 そうさな……ありゃあ夕暮れ時だったな。

 丁度地平線にお日様が沈んでいく時だった。

 今日も一日ありがとさんとお日様に別れを告げてから。

 オラは晩飯の支度をしようと小屋の外でせっせと動いていた時だ。


 二人……いや一人と一匹……まあ、もう二人でいいな。


 なげぇ金の髪をした偉く可愛らしいお嬢ちゃんと。

 その辺のモンスターとはまた違うお喋りな悪魔がウチへ尋ねてきたんだ。

 何でも話を聞くところによると、オラもよく知るドージエムの国に行きたいんだと。


 でも、道中に夜を凌げそうな町や村が無いから一日だけ泊めてくれないかと言ってきた。

 確かにここからドージエムまでは女の子の足じゃあ長くても半日はかかっちまう。

 危険な夜を超すにしてもここが一番だと思える。

 それにお礼として、道中狩ってきたモンスターのコアを宿代として払うからと。

 こっちとしても嬉しい交換条件も付けてくれた。


【という訳で……勝手を承知ですが一日だけ寝床をお貸しいただけないでしょうか】

【よし、分かっただ。じゃあ少し狭いけど一つ部屋を開けてやるからを使うと良い。人が寝れるくらいの大きさは何とかあるからな。あと良かったら飯も食っていけばいい】


 そこでオラはその頼みを受け入れる事にした。

 別段悪党にも見えなかったし、若い娘さんの頼みと来ている。

 丁度荷物置きにしていた空き部屋があった事だしな。


【ありがとうございます!】【ありがとう! 狩人のオッサン!】

【いいや、気にしなさんな。困った時はお互い様だ。後オラはオッサンじゃ年齢じゃねえど】


 と、そんな具合で俺は二人を小屋へと招いて夜が明けるのを待った。

 食った晩飯のメインは……その……。

 直前に取っていた『珍妙な豚的なやつ』だったが。

 とりあえずそれを、それぞれが苦い顔をして完食した後。

 一応腹を満たしたオラ達はそれぞれが眠り、次の日を迎えたんだ。


【昨晩はありがとうございました。ではこちらがお礼のコアです】


 そうして、次の日の朝一番。

 オラは小屋の外で二人の見送りをしたんだ。


【いやいや、別に礼はいいさ。見た所アンタら冒険者だろ。その金はまた別で使いな】

【えっ? ……いえ、そういう訳には……】


【いいんだ。別にオラはアンタらに何かをくれてやった訳でもねぇんだ。だから気にせずにドージエムに行きな。まあ、もしも次に俺の世話になる事があれば、そん時は金を貰うぜ】


【で、でも……】

【本当にいいのか? 狩人のオッサン】

【だからオッサンじゃねぇって……それにこっちもお礼を貰える程いい飯出せなかったしな】

【確かに……あの変な生き物の肉は不味かった】

【こらっ、コモリ! なんて事を!】


【へっへっへ! まあとにかくそんな訳だ。今回だけは特別に無料にしてやるよ。但し次からキッチリ金を取るからな。】

【はい! またお会いしましょう】【本当にありがとうな、狩人の兄さん。また会おうぜ!】


 そうして他愛ねぇ会話を挟んで。

 オラ達は心地よく別れたんだ。

 そう……お互い笑顔で気持ちよく別れたんだけどよ。

 けどまあ……問題はそっからだ。


 なんと一日も経たねぇ内だった。

 舌の根も乾かねぇ内に『お嬢ちゃん』は戻って来たんだ。

 それも今度は白い髪をした、ありゃあ『めいど』って言うのか。

 とにかく今度は小悪魔じゃなくて、どこぞの召使さんと一緒に来たんだ。


 本当に酷く慌てた様子だった。


 だって何しろ、俺を見つけるや否や。


【狩人さん! お話がありますっ! そこで待ってて!】


 召使さんが手綱を握っていたその馬ごと。

 すんげぇ速度でこちらへ突っ込んできたんだから。

 オラも思わず同じように焦っちまっただ。


【ど、どどど……どうしたんだ。そんなに慌てて、忘れ物でもしただか?】

【いえ! 実は! この前御馳走になった食材についてなんですけど!】


 そう言って馬から勢いよく飛び降りたお嬢ちゃんは要件を告げた。

 相当慌てて来たのか、まだまだ息を切らしていた様子だったけど。

 そんな大急ぎでオラの元へまた尋ねてきた理由をすぐに教えてくれた。


 すると、何でもこの前オラが捕まえたのはウノドーレと言う生き物で。

 味が悪い癖にその数を減らしている、なんとも珍しい生物なんだと。

 ほんでもって、それを買いたいと言い出したんだ。


【な……なるほどな。それでわざわざオラの所まで来たって訳なのか】

【はい! どうしてもそのウノドーレが……ハアハア……必要なんです】


 慌てている様子だったから深い事情までは聞けなかったが。

 急な出来事に巻き込まれるようにしてそう話を聞かされたんだ。

 で、でもよ……オラからすればよ。

 折角捕まえた食い物を持ってかれると困る訳だ。


【うーん……でも流石にあれはオラが獲った食材なんだ……いくら何でもタダという訳には】


 だからお嬢ちゃんの頼みに迷っちまった。

 しかし……そん時だったんだ。

 金持ち生活の始まりの一歩目が。

 その始まりへと至る道が示されたのは。


【分かりました。ではこれで如何でしょうか?】


 するとよ、オラが返答にもたついてたのを見兼ねてか。

 隣にいたべっぴんの召使さんがオラに手渡して来たんだ。

 そのメイド服の腰にぶら下げていた丸く膨らんだ重い布の袋を。

 それこそジャリン! と耳に残る音をあげて、オラの手の上に置いたんだ。


【え? 何だい、コイツは?】

【……まずはお開けください。お話はそれからです】


 それでオラは彼女に言われるがまま。

 口を締めていた紐を解いて中身を覗いただ。

 するとよ。


【んなっ!?】


 オラはそれを見た途端に自分の目ぇ疑ったんだ。


 だだだ……だってよ、その袋ん中には何が入っていたと思う?

 まあ何となく金が入っている事は察しはついていただ。

 何年も聞き慣れて、使っていた金銭の音だからよ。


 でもよ……オラが驚いたのはそんな点じゃねぇんだ。


【んへっ!? な……なななななな、何だ、こりゃあ!?】


 問題はその硬貨の質だったんだよ。

 オラ、てっきり銅貨か青銅貨辺りが詰まっているもんだと思っていた。

 けれども、中見たら思わずぶったまげたんだ。

 だ、だってよお、中に詰まっていた硬貨の殆どがよ……。


【あああああああああ……あっ? へっ? こ、これ本物なのか? なあ……召使いさん?】

【はい、その中身は全て正真正銘、『本物の金貨』にございます】


 なんと『金貨』だったんだ。

 それも一枚や二枚なんてケチくせぇ話じゃねぇ。

 袋の中に詰まっていた全部が。


 その片手一杯に丁度乗る袋の中全てがよ。

 眩い光を見せ、人を魅了するきんで埋め尽くされていたんだ。


 そ、それによお……驚くのはまだ早いんだ。

 なんとまあ……それだけじゃなかったんだよ。


【あっ!? おい、アンタ!? 『この硬貨』も貰っていいのか!?】

【はい、そのウノドーレと交換していただけるのでならば】


 更に詳しく見ると金だけでは無かったんだ。

 流石に数枚だったが、オラは唖然としたんだ。

 その金貨の中に混じっていた『白く煌めく金属』の硬貨に。


【えっ!? ミ、ミリーさん!? 『あれ』を差し上げてもいいんですか!?】

【ええ、今はのんびりと交渉をしている時間は無いでしょう。でしたら金に糸目はつけていられません。それにあの額であれば元々アペティート様より使用する許可が下りていますので】


 これに関しちゃあオラと同じくその召使さんと一緒に来てくれたお嬢ちゃんも驚いていただ。

 けどよ、無理もねぇんだ。

 その反応はこの硬貨の価値を知るものからすれば当たり前だ。

 そん時オラが握っていたのは恐らく今の生活では生涯お目にかかれない物体だったんだ。


 これこそオラが嫌いな危険なリスクを伴うでっけぇヤマを当てねぇと。

 しかも一発じゃなくて数発当ててやっと巡り合えるかどうかっていう硬貨。

 そんな『金貨』という値打ちもんのさらに上をいく幻の『プラチナ硬貨』が。

 その眩しさに意識が吸い込まれそうになる美しい硬貨と遭ったんだから。


【おいおい、嘘だろ……本当に偽造された硬貨とじゃあないんだろうな?】

【とんでもございません。この様な急を要する時にそんな戯れをしている余裕などありません】

【おっ……おお……そ、そうなのかい……】


 それに嘘をついているようにもとても見えなかっただ。


 で、でもよ……常識で物考えたってありえねぇ。

 だってよ、プラチナ硬貨って言えばあれだぜ。


 たった『一枚だけで家が買える』とまで噂される位の代物だ。

 袋一杯の金貨だけでもこちとら、まだ信じられねぇのに。


【どうでしょうか……もしお譲り頂けるのでしたら、それはお渡しいたします】


 そんな夢詰まった硬貨が……しかも数枚混じってるなんて。

 本当に齧って偽物かどうか疑う暇もねぇぐれぇの驚きだったんだ。


【わ、分かった。今すぐ持ってくる! そこで待っててくれ! 残っている全ての部位をやる。保存状態はしっかりとしている筈だから、食おうと思えばまだまだ食えるぜ!】

【はい、よろしくお願い致します】


 だからオラはこの機を逃すまいと躍起になった。

 召使さんの交渉に対して二つ返事で即答してからというものの。

 今思い返してみても、行動は滅茶苦茶早かったんだ。


【急げ、急げ! ありったけの肉をかき集めるんだ! もう今日の飯はキノコ鍋だけでいい!】


 全力尽くして小屋に保存していた肉をかき集めて彼女らに渡しただ。

 一片残らず、余すことなくその肉全てを召使さんと娘さんに譲ったんだ。


 そうして……突然の事で慌てちまったけど。

 少し長い昔話だったけども……今に至るという訳だ。


 オラは彼女達にウノドーレを売った代わりに明るい未来を買ったんだ。

 本当に今となっちゃあ、あのお嬢ちゃんは天使の様な存在だったと感じるぜ。

 いやあ……でも本当にあんな変な食材を大金出して買いたいなんて。

 この世にゃあ物好きもいたもんだなあと心底驚くっぺ……。 



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