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2-7.変態は牢の中で再会しました

『探し物って割と身近にある事が多い』

初掲載 2018/09/02

細分化前の投稿文字数 15113文字

細分化2018/09/26



 泣いた。


「ひっく……えぐ……うぐぐぐぐぐ……」


 俺は今泣いていた。


「ひぐ……ひぐぐぐぐ…………」


 この両目から大粒の涙を流して。

 鼻水もダラダラと留まる事を知らずに。


「いいいいい……いいいいい……」


 前世では『年齢的』には立派な成人だった筈の俺が。

 今ではまるで口喧嘩でボコボコにされた小学生みたいに。

 えぐえぐと、べそをかいて泣いていた。


「まあまあ……そう泣かないの、コモリ」

「いいいい……いいいいうぐぐ…」


 相棒の少女が目前で見ている中で。

 惨めったらしく子供の様に泣いちゃっていました。

 一応はまだ悪魔の子供みたいな小さい姿だから可愛いものの。


 もしこれが前世の姿だったら……。

 それなりの歳をした成人のニートだったら最早ただのグロ画像。

 でも、ぶっちゃけそれ位に酷い泣き方をしていた。


「俺……俺……お前がぎでぐれるのじんじでだ……」

「フフフ、もう……そんな酷い顔して泣かなくても良いじゃない」


 日記を書いて、恐怖や不安を紛らわしてしてはいたけど。

 やっぱりそれらを完全に拭えてはいなかったんだろうと自覚する。

 だからこそ、こうして牢屋にぶち込まれていた俺は相棒が助けに来てくれた事に安堵した。

 別に久しぶりと言う程の多くの時間はまだ経っていない筈なのに。


「ほら、これあげるから、その泣き顔を拭いて」

「うう……ありがどう……うぐぐ」


 みっともない泣き顔を見せる俺を気遣ってくれる相棒の姿に。

 金髪ロングに所謂二次元の様な感じで、まるで漫画の様な可愛らしい顔付き。

 加えてスラリとした体格を纏うのは肩が見える短いスカート付きの服。

 そして俺好みの丁度いい大きさの胸をした美少女、アナスタシア。


「全く……一日くらいでそんなに号泣しなくたって良いじゃない。でも見つかって良かった」

「だっ! だってよお……滅茶苦茶怖かったんだぜ」

「聞いているわ。食材として連れてこられたんでしょ」

「ああ! しかも毎日毎日怖い目をしたメイドさんが……」

「まあまあ、事情は後で聞くから。今は泣き止んで、ねっ?」

「う、うん……分かった」


 転生してからの日々を共に過ごしてくれていた彼女。

 一日たりとも離れずに付き添ってくれた優しいアナスタシアとの再会。

 心細くなっていた俺からすれば安心しかなく。

 大袈裟ではなく本当に涙を流してしまう程の喜びだった。


 いやはや本当に……。

 自分を見つけてくれる人がいるなんて。

 この身を案じて必死に探してくれる女性がいるって最高だと確信した。


 きっと、世に言うリア充共は毎日こんな最高を味わっているんだろうけど。

 前世の俺だったら腹の底で破滅しろ、消え失せろと怨嗟の声を送ってやるか。

 もしくはあの野郎は将来女に時間も金も奪われるんだ、と哀れみの眼差しを向けてやるなど。

 とにかく嫌がらせや腹いせに嫉妬心をぶつける所だったが。


 まあ……今日ぐらいは大目に見てやる事としよう。


(クンカクンカ……うんうん、最高だぜ……)


 貰ったハンカチからは良い香りがするし。

 彼女の人肌も感じられて気分も良くなったからな。


(やっぱり乙女の香りって、こんな良い香りがするんだな……)


 とまあ、こんな時でも変態さを隠す気が一切無い俺は。

 持ち主にバレたなら只では済まされない下衆な行為に至って。

 ドン引きどころか、縁を切られかねないそんな嗅ぎ行為をしていた。

 一応……飛躍した見方によって、都合よく解釈すればお気に入りの香りを楽しむアロマ的な。

 高尚な人や女性がしていそうな趣味にも見えなくはないけれど。


(グヘヘヘヘヘへ……)


 元変態糞ニートがやっているのだから犯罪行為になってしまうに違いないだろう。

 そうして、前世の日本であれば罵詈雑言の嵐待ったなし。

 発覚後は気味悪がられ、近づけば通報される可能性さえこの変態行為を。

 本当に再会の感動から泣き止んだ後だろうと関係なく続けて。

 脳内に若い女性……相棒の香りをインプットした後に。


「ありがとう、アナスタシア。お前が来てくれた事で本当に落ち着いたぜ」


 ダダ漏れだった涙腺に栓をして、泣き止んだのだった。






 

 

 

 これは丁度今日の朝の出来事でした。

 我らが主のアペティート様が朝食を済まされた直後。

 その召し上がられた皿を部下のメイド達が片している最中です。


「……悪いが、そればかりは了承する訳にいかない」


 わたくしは昨晩にここを尋ねてきた女性について。

 綺麗な金の長い髪をされた可愛らしいアナスタシア様の話を御主人様へ致しました。

 わたくしの姉、マリーが貴方様のご命令で捕まえてきた小さな悪魔はその使い魔だと。

 現在の旅で唯一出来た大切な仲間だという事を聞いたお話を事細かに説明致しました。

 だからこそ、一刻も早くその小悪魔を牢から出しアナスタシア様の元へ戻すべきだと。


 そうお伝えしたのですが……。


「こればかりは譲れない。いくら昔から私に仕えてくれている君の頼みとはいえダメだ」


 アペティート様は決して首を縦に振ってはくださいませんでした。

 それどころかご主人様は続けてこう仰いました。


「『あの小悪魔』は『絶対』に食べると決めたんだ。私のこの『飢え』を満たせる可能性がある以上、どんな手を使っても食べる。それに君もきっと勘付いているのだろう? 私が執拗以上にあらゆる食材を探し求めては喰らっている事に。私だって好きで道楽で例のお触れを出してまで食材を集め回っている訳では無いんだ。あくまで自分の求める『食材』を探しているだけなんだ。横暴にも見えるかもしれんが私も苦しいんだ。だからあの小悪魔は解放できない!」

「っ!」


 その言葉からは迫力が、断固として譲らないという強さを感じました。

 解放する気を微塵も感じさせない強い意思を、確かに感じさせられたのです。

 普段はわたくし達メイドに優しく接してくれる物腰が柔らかい方の筈なのですが。


 ……その食に対する発言だけは。

 それだけには揺るがぬ決意の片鱗らしきものを感じ取れたのです。

 ですが、私はそんなアペティート様のその言動に対して。


「で……ですが!」

「うむ?」


 愚かにも反論を述べてしまいました。

 通常であれば主に黙って付き従うのが当然であるメイド。

 ましてこの館で雇われている者は全て貧しき苦境から救われた者。

 そんな雇われ者如きが大恩人に向かって意見など恐れ多い。

 とても許されるはずが無い大罪なのですが。


「捕えられた悪魔は先程も申し上げました通り、その少女の大切な仲間らしいのです。これまでの冒険におかれても、もしその使い魔がいなければ死んでいたかもしれないと。彼がいなければ、今頃どうなっていたか分からないと。それ程までにその方は大切にされているのです」


 わたくし達メイドの言葉だろうと関係なく。

 しっかりとその意見を御耳に入れてくださり、時には行動を正されるアペティート様。

 その優しさに対して我ら仕える者としてもこれ程嬉しい方はいないからこそ。


 何とかお考えを改めていただけないかと深々と頭を下げて必死に頼みました。

 正直に申し上げても、わたくし如きの一礼一つでは足りない。

 主に意見するという傲慢極まりない姿勢でした。


 ですが、そうすると。


「まあまあ……別に君は悪い事を言っているわけではないんだ。そうして頭を下げる時は自分に落ち度があった場合だと教えただろう」


 御主人様は椅子から立ちあがられ、その腰をあげられました。

 そしてこちらへお近づきになり、優しくわたくしの肩に手を当てられると。


「とりあえず顔をあげたまえ。私が信頼を寄せる者がそんなみっともない様を見せるんじゃない。いつもの様に私に喝を入れる様に張り切ってくれないと君らしくない」


 下げた頭を戻すようにそう話されました。

 この瞬間、わたくしは聞き入れていただけたように感じました。

 それどころかそんなアペティート様の優しきお言葉に涙さえ覚えそうになる程。

 信頼を寄せているなんて従者としては最高のお言葉ですもの。


 もうこのお方について来て本当に良かった。

 姉さん程盲信的ではないけれど一生付いて行きたいと思うぐらいに。


「だがな……」


 ですが……。


「そんな君の頼みであってもダメだ。こればかりは主人である私の願いを優先してもらう。幸い金はあるんだ。そのアナスタシアさんと言う女性には失礼極まりないが、好きな金額を言ってもらい解決してくれ。もし私が出向かねばならぬのなら私が直々に話そう」


 残念ながら……結果は実りませんでした。

 そしてアペティート様はそうわたくしへ告げると自室へと戻っていかれました。


 最早あの方にとって未知の食材を食べる事という事はある種の生きがい。

 例えるなら今患っている難病を確実に治せる薬を飲むに等しい行為。


 長きにわたって苦しめられてきた飢えを消せる好機なのかもしれない。

 食べても食べても心の底から幸せになれないという常人では共感できぬ辛さ。

 それを消せる手段になりえるかもしれない珍しい食材『小悪魔』

 味の想像もつかない新たな刺激になってくれると、恐らくお考えだったのでしょう。

 ですから……わたくしにはそれ以上反論を述べる事は出来なかったのです。


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