0-3.変態は悪魔になりました※挿絵有り
細分化前タイトル
『憧れが現実になった転生後』
初掲載2018/07/15
細分化前の投稿時文字数 13805文字
細分化2018/09/23
(う、ううん?)
俺は薄れていた意識を取り戻す。
そうして目をゆっくりと開くと、地獄は消滅していた。
生命を感じさせない灰の地や罪人を焼く業火も。番人をしていた鬼の姿も無く消えていた。
(ここは……)
ひとまず眩い太陽の光に目を慣らしつつも。
次に覚めたのは草の上。小さな草が生え揃う草原の上だった。
(閻魔大王もいないし、って事は完了したみたいだな)
中でも小さな池がある傍で俺は体を起こした。
どうやら無事に転生は終わったようだ。
そして心地よい位の温かさを持ち流れる空気に身を当て、一息つくと。
「さて……と、とりあえずどんな姿になったか見てみよう」
そう意気込みながらも、転生直後はあまり気にはしなかったが……。
(あれ、そういえば何で記憶が引き継がれてるんだ?)
そんな微妙な違和感があった。
転生の筈なのに何故か前世の記憶はそのまま。
新しい生を歩むのなら、記憶もリセットされるのかと思ったが残っていた。
だがすぐに意識はそんな些事よりも……体の動き。
俺はまだ体に馴染んでいないせいか少し気持ち悪い感覚に襲われながら、
(おっとっと……まだ自分の足じゃないみたいだ。生まれたての小鹿みたいにぎこちない動きになるな)
フラフラと千鳥足で体を動かしつつ、傍にあった景色を写す程の美しい池の元へ向かった。
水面に映る己の姿を確認する為に。
そうすると……マジで人間じゃなくなっていた。
確かに変化していた。前世だった人間とかけ離れた全く別の生物へ、
「おお、本当に人間じゃなくなってる……たまげたな」
手を僅かに動かし、映っているのが真に俺なのかを。
右手、左手と交互に動かしたが間違いなかった。
「ていうか、悪魔って怖いイメージがあったんだが……」
勧められた転生先である悪魔へ転生してた。
そうして俺は独り言を呟きつつも、改めてこの肉体を認識する。
そしてこの見た目を培ったゲーム経験から判断すると……、
(……マジで弱そうだな。閻魔様の言っていた通り、レベル1の戦士にも余裕で負けそうな見た目だ)
パッと見た感じまさに雑魚モンスター。
それも序盤に出る様な迫力の無い小悪魔に近かった。
近場で咲いていた野花の蜜を吸い取り、眼前をヒラヒラと舞う蝶ですら大きく見える位。
丸っこくて小さな体。
頬をつついた時に似たプニプニとする柔らかい体。
背中には飛行能力が乏しそうな極小の黒い羽。
頭部には悪魔の子供らしい小さな角。
(こんな形の人形見た事あるな……ゆるキャラにいそう)
そんな、前世でもしマスコットキャラとしてヒットすれば人気を博しそうな癒し系の見た目が俺だった……。
「でも……俺、こんなんで生きていけるのかな?」
自身のまだ慣れない体を手の先でつんつんと触り、その小動物の様な柔らかい触り心地を覚えつつそんな事をふと思ってみる……そりゃそうだ。
ゲーム上ならば、序盤の雑魚敵なんかレベルアップや武器などを買う金稼ぎの為に欠かせない『餌』に過ぎない。しかもそれが今度は残念な事に狩る側(主人公)から狩られる側(敵)へと変わってしまったわけだしな。
まだこの世界がどんな場所か皆目見当つかないが、少なくとも今は身を隠していた方が良いに違いない。
「さて……姿も確認したし、とっとと動くしかないか。元とはいえニートにとって無駄な運動は辛い」
望んでいたファンタジーらしきこの異世界でも、結局は生物の住まう世界である以上は弱肉強食の掟。
まだ冒険者や他モンスターに見つからない内に、寝床作って木の実でも集めて地道に生きるのみ。
「よし、とりあえずあの森へ行くか」
それで池の傍で体の動きを何度か確認し、休んだ後。
そう決意した俺は視線の先にあった森へその10㎝にも満たないちっこい足を動かして、隠れる場所が多いと踏んだ森林へと向かおうと動く……、
(あっ、そうだ!)
その途中で俺はある事を思い出して呟いた。
「そういえば。閻魔様、別れ際になんかアイテムくれるって言ってたな。何処かにあるのかな?」
ぽてぽてと一歩一歩森へ歩きつつ、俺は閻魔様から受け取ったらしいアイテムが何処にあるのか探そうとした……その途端!!
「きゃああああああああああ!」
「!?」
それは今向かっている森の方角から響いた声。
それも女性の叫び声だった!!!
「まだこの世界の事も全然分からないのに色々と……。あまり下手に動けば何かヤバい予感がするが……」
俺の意識はアイテムから悲鳴へ切り替わった。
ひとまずアイテムの事は後回しだ。
普通に考えて、叫び声の時点で只事では絶対に無い。
「とにかく行くしかない! 何とか耐え忍んでくれ!」
そうして自分の安全確保より先に、俺は体を急かした。
自分の体から視点を森へ変えそこまで走り慣れておらず、まだ覚束ない足取りだがとにかく全力で、森の中へと走っていくんだった。