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2-2.変態はブタ箱にぶち込まれました

『食材選びって大切』

初掲載2018/08/19

細分化前の投稿文字数 12649文字

細分化2018/09/26


 ……牢屋。

 口悪く言えばブタ箱とも呼ばれる収容施設。

 そこには捕えた者または大罪を犯した咎人などをぶちこみ。

 そして活動できる範囲の多くを制限し、奪い、閉じ込める場所。


 天井、壁、床、その一切を隙間なく。

 レンガで埋められたそこでは安易に逃げる術は無く。

 唯一、他の牢の様子を確認できる前面も封鎖されている。

 松明の光が差し込み、廊下の様子を見る事が出来る部分も格子で。

 細身の収監者がすり抜けて脱獄せぬよう図られた縦横で組まれた鉄格子で閉じられていた。


「…………………………」


 そして……俺。

 コモリは『そこ』にいた。


「………………………………………………」


 ……………………。

 ……………………。

 …………………………。

 …………………………。

 ………………………………え?


「………………えっ?」


 思考でも口からでも疑問符が浮かぶこの瞬間。

 今の俺が猛烈に求める物が一つあった。

 用意された硬い簡素なベッドの上で腰掛け、孤独を感じつつ。

 唐突な出来事で相棒と離ればなれとなった俺に必要なもの。


 それは、【説明】だ。


「………………なんで、俺ここにいるんだ?」


 なぜ、どうして、なんで。

 いきなりすぎて思考がまだ追い付いつけていない。


「何か、悪いことしたか?」


 牢屋と言う閉塞的空間で冷たい空気が肌に触れる中。

 俺は何処か未だ実感が湧かなかった。

 むしろ湧きすらもしていなかった。


 起きたらいきなり牢屋なんて意味不明も良い所だ。

 それも面会する側ならまだしも。

 まさか、収容される側になっているなど。


「心当たり……なんて無いよな……無い筈だよな」


 …………………………。

 …………………………。


 まあ……落ち着け。

 ひとまず落ち着くのだ、俺よ。

 慌てるな、まだ慌てる様な場面ではない。


 一度落ち着いてみよう。

 冷静になって、把握する事が大事だ。


 まず俺がここにいるという事。

 牢屋にいるのは間違いない、それは疑いようの無い事実だ。

 さっきから頬を何度かつねっているが……やっぱり痛いから夢では無い。


「一度思い出してみよう……それで気になる節があれば……多分それだろう」


 そこで俺は自分の中で納得できる真実を見出すべく。

 この国『ドージエム』へ入国してからだけでは無い、その数日前までの記憶を初めから。

 何故故に俺が牢屋にぶち込まれる羽目になったかを思い出そうと頭を働かせる。


 まるで警察の事情聴取の様に、経緯を今一度初めから簡単に思い返してみる。

 それこそ本当にアニメとかで言う尺稼ぎの回想シーンの如く。

 まるで記憶という引き出しを漁るようにして1から考えるのだった。

 


 ……ニートで一生を終え、小悪魔へと転生した俺は転生直後に勇者の少女と出会った。

 残念ながら今は傍にいないが、金色の髪をしたその少女の名はアナスタシア。

 彼女はかつて遠い祖先が封印した『闇の覇王デミウルゴス』が復活するというお告げを頼りに冒険へ出ていき、その道中で俺と遭遇した後に行動を共にするようになった。

 そうして転生直後からいきなり大きな冒険についていき色んな体験をする中。


(それでこの前はブリュンヒルデさんと会ったんだったな)


 次に先日に出会ったのが。

 魔界に身を置いていたという女性ブリュンヒルデさんで。

 かつて闇の覇王に関係する立場にいたという壮大な経歴を持つ彼女と出会った。


 巷では腕の良い占い師として旅人から高い評価を受けていたその女性だったが。

 なんでも彼女の話によると闇の覇王を止めてくれる勇者の子孫が来る時をずっと待ちわびていたらしく、こちらが混乱する程の多くの情報を話し語ってくれた。


 闇の覇王の軍勢の動き、現状、今何を企んでいるのかなど。

 知りうる情報を全て教えてくれたのだった。

 ある意味、一番重要な人だったともいえる。

 ゲームで言うフラグに近い。

 出会わなくては冒険が進まないとまで言える存在だった。


(それから……えっと……)


 そして、そんな凄い女性の助言を受けてからというもの。

 俺達はまず『ある石』を探す事になった。

 ただ闇の覇王の復活を阻止するという漠然とした目的では無く。

 敵の動きやその目標を把握し、少しでも阻止できるように働きかける為に。


(確か、あちらこちらの村に寄りながら食料を分けて貰ったりして……)


 俺達が探している石の名は『グランドストーン』という代物。

 それは力を蓄える特性を持つという特殊な石で。


 絶望から希望と善悪関係なく、人の持つ感情や力を吸収する物体。

 本来は勇者達が使用していた物だったが、今では逆に敵が利用。

 奴らはこれに溜めた力をデミウルゴス復活に現在充てているらしい。

 俺達はこれを回収し、敵の目的を妨害し破綻させる事にあった。


 更には勇者としての力を覚醒させる性質もあるらしく。

 アナスタシア自身が、これからの戦いに向けて強くなる意味合いも兼ねていた。


(それで、この国の方角へ向けてコンパスが反応したんだよな)


 そうやって収集アイテムという分かりやすい目的を与えられた俺達は冒険を再開。

 その石の在り処を示してくれるという魔法のコンパスまでも授かり、意気揚々に次なる目的地求めて進んでいったのだった。


「…………うーん、俺達は普通に冒険して来た筈なんだけどな……」


 ……そんな経緯を経て、記憶はごくごく最近まで遡る。

 窮地を救ってもらっただけでなく、この冒険に重要な情報をくれたブリュンヒルデさん。

 その元を離れた俺達は魔法のコンパスが反応するまで道なりに。

 森を抜け、平地を抜け、時には高地の暗い洞窟を越えて。


 それこそ離れてから一週間程、経った頃だったろうか。

 コンパスの指針がこの国ドージエムを指したのだ。

 そして俺とアナスタシアはさらに加えて一日。

 昨晩は狩人の住む家で世話になった後に。

 日の光が眩しい昼頃にここへたどり着いた。


「そこから、俺達は情報収集の為に分かれたんだよな……」


 もうここからの記憶は特に鮮明に覚えている。

 どれぐらいの時間この牢屋で眠っていたかは見当もつかないが。

 少なくともついさっきの事の様に、映像としても充分に記憶できていた。

 これまで立ち寄った村、町とは規模がまるで違う『国』。


 人の数も民家の数も賑わいもまるで比較にならない。

 こんな50センチにも満たない体で進めば、踏み潰されて体中が足跡だらけになる事必至。

 常に人が入れ替わっていく忙しい景色だった中でこの国に隠されているグランドストーンの情報を探ろうと二手に分かれ、俺達はそれぞれの任を果たそうと動いた。


 アナスタシアはまだ人が少なく、もみくちゃにされない安全そうな民家のエリア。

 俺は逆に人が溢れ、情報が多そうな代わりにスリなどが横行していそうな商店街のエリアへ。

 そう役割を分担し、それぞれが目の付く人達に聞いて回っていった。

 彼女の方は分からないが、少なくとも俺は宙に浮いて聞き回らなくてはどうにもならない。


 一応こんな迫力の無い丸い体に。

 小さい羽と角とマスコットの様な姿とは言えど姿は悪魔。


 俺はアナスタシアの使い魔と扮して何とか入国を許可された甲斐あってなのか。

 入国を許可された時点で怪しまれる事は本当に稀だった。

 だからなのか、多くの人達は俺の質問や問いかけに素直に答えてもくれた。

 まあ……石の情報に関してはからっきしではあったけれど。


「別に国を巡回する兵士達からも変な目では見られなかったし……」


 と、ここまでがかなり大雑把ではあったがここへ立ち寄るまでの記憶だった。


 そうして俺は、改めてこう決断を下した。


「うん! やっぱり俺が捕まる理由は無いな!」


 きっと何かの手違いだったのだろう。

 いきなり後頭部から思いっきり殴られ、気を失った気もするけれど。

 恐らくあと少しすれば、誤って捕まえてしまったと兵士が釈放してくれるだろう。

 加えて入国の際にアナスタシアは俺の位置が分かるように、兵士達から使い魔の位置を特定出来る魔法が組まれたブレスレットを付ける様に命令されている。


 つまり俺が行方不明になっても彼女が見つけてくれる訳だ。

 だからそう転んでも釈放される為、俺は只待てばいい。

 暇を潰せるゲームや漫画も無く、たった一人で寂しいけど。


「まあ、とりあえず時間が解決してくれるだろう。もう少し寝るか」


 そう楽観的に俺は思考を切り替え、ベッドへと戻った。

 そして迎えが来るまでひと眠りを挟もうとした。

 その途端の出来事だった。


「起きた……の?」

「うん? 誰だ?」


 声が聞こえた。

 同時にカツ、カツと足音を鳴らして。


「えっ?」


 すると足音を立てて、声の主はやって来た。

 そして来訪者のその姿を確認した直後、思わず俺はそんな驚きを漏らした。

 俺の前にやって来たのは……兵士でも……アナスタシアでも無かった。


「き……君は?」

「私は……大切なアペティート様に仕える召使い……皆はメイド? って言うの……」


 なんと……『メイド』だった。


 そう、前世でいうオタクの聖地、秋葉原などのカフェとかでも目の当たりに出来る。

 多くのオタク達が未だに熱狂し可愛くて萌える要素一杯の存在だった。


 お帰りなさいませ! ご主人様! というあの定型ながらも来店時の魅力的な呼びかけ。

 今や数えきれない程の多くのオタク達が骨抜きにされた事だろう。

 オムライスにケチャップで名前を書いてもらうなんて事は最早その道を微量でも知る者であれば、容易く想像できる光景であり、テンプレとも呼べるご奉仕の一つだろう。


(スゲェ! まさかの【本物】だ!)


 だが無論、オタク達の多くが目の当たりにするメイドは残念ながら【本物】では無い。


 何を持って本物というかは個々によって違うだろうが……俺はそう思ってしまった。

 確かに『店長という主』に『金で雇われている』という点。

 これは意味合いとしてはある種、主従関係として合致するかもしれない。

 俺だってオタクの端くれで友人と一緒に何度か行った事がある。


 しかし、残念ながらこの金銭による主従関係にどうしても冷めてしまう。


 中にはこんなひねた考えに激昂する者も少なからずいるだろう。

 だがアルバイトという名目で働いている時点で残念ながら違う。


 俺が望んでいたのはもっと、こう……本当に忠義心だけで働く様な……。

 そんなシフトで働く様な内容では無く、この主にずっと仕えたいと思う従者。

 主人の事を心から慕う純粋で尊い感情を抱く存在だ。

 まあ……少なくとも俺は現実で確認した事が無いため本当にいるかもどうかも怪しい所だが。


(ほんと、異世界って良いもんだな。珍しい者がいっぱい見れるな)


 そうやって俺はアルバイトでは無く、真に仕えているであろう彼女の姿に興奮を覚えながら、その可憐な姿を目に焼き付けるべく、まじまじとその姿を確認した。

 まずはそのヘッドドレスを付けた髪。

 ショートボブといえば正しいのだろうか。

 白いヘッドドレスとは対照的な艶のある短い黒髪だった。


 次にその豊満な胸を隠す服装。

 と言ってもメイドと言う名詞だけで想像はついてしまう気もするが。

 そして同色の足元まで隠す黒いワンピースの上に羽織っているのはエプロン。

 主の世話役という立ち位置らしさを感じさせてくれる白いエプロン。


 そんな白と黒という目でも理解しやすい二色に身を包んだ少女がやって来たのだった。


「ふう……………………満足だぜ」


 そうして真のメイドを見る事が出来た幸せ、感動から大きく息を付き、落ち着いた。


 だが………………。


(……………………)


 直後に俺はこの事に。


(……………………)


 この現状に対して、当然の疑問を抱いた。


「………………………………なんで、メイドが?」


 舞い上がったのも束の間。

 すぐに俺は意識は高ぶりから冷めさせ、認識し直す。

 冤罪についての謝罪を言いに来た兵士でも無く。

 居場所を突き止め助けに来てくれたアナスタシアでも無い。


 なんで?

 どうして……メイドがここに来るのかと。


 すると。


「うんうん……元気みたい……良かった」


 メイドは牢越しに俺の動く様子をじっと見つめた後。

 ぼそりと、そう言葉を告げた。


 まるで独り言の様に。


「フフフフフフフフ……」


 声を荒げずに。

 ただ静かに……【微笑んだ】。


(ひっ!?)


 その瞬間、俺の中にある【何か】が目を覚ました。

 ……決して、いやらしい感情とかそういった類では無い。

 もっと生物の根底にあるものが。


「思いっきり殴ったから……てっきり死んじゃったかと思った」

「え?」


 こう、言ってしまえば【本能】が働いた気がした。

 生存本能的な。

 思わず眼前の脅威に身を構える様に……。


「じゃ……じゃあ、きき、君が……」


 その向けられた微笑みに俺は尻込んだ。

 だって仕方が無い。


 左目を眼帯で隠しているとはいえ残りの右目のインパクトが半端ないんだもん。

 キャラの属性で例えると『病み』に相当しただろう。

 その藍色の瞳はくすみ、生気を感じさせる光を灯していない。

 澱み、その思考、行動を読み取れない不気味さ、底の見えぬ深さ。

 仮に睨みつけられたなら、発作的に身震いしたく位。

 そんな狂気を帯びていた目を向けられたのだから。


「き、君が俺を……ここに、ぶち込んだのか?」


 彼女の眼光に威圧され、恐怖を抱きたじろいでしまう。

 けれど気圧され、縮こまりつつも俺は震える声で尋ねた。

 加害者らしき明確な発言を口にしたこのメイドへ。

 ものの数分で喜びから絶望の淵へと追いやってくれた彼女へ事の経緯を聞いてみた。

 するととんでもない事実まで告げられた。


「そうよ……私はアペティート様が貴方を捕まえる様に言ったから……捕まえたの」

「なんで?」

「貴方は『食材』に選ばれたんだから……」

「ほえ?」


 間抜け顔で俺はその事の詳細を聞かされたのだった……。


 

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