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1-end.変態は新しい目的を示されました

細分化途中にて分かりやすい様にサブタイトル追加。

元は『中ったぜ』の文章の一部分。


初掲載 2018/08/12

細分化前の投稿文字数 21539文字(長すぎ)

細分化 2018/09/26


「では、初めは貴方方がこれから恐らく戦うことになるであろうデミウルゴスの配下。『闇の覇王軍』について、簡単に触れていく事にしましょうか」


 まずは現在、王の復活の為に暗躍する者達。

 この世界の影にて動いているという連中についてだった。


「……かつては一丸となり強大な戦力を築いていた覇王軍ですが、先の戦いにてその形態、部隊の数は大きく変動し、現在の覇王軍には二つの派閥が存在しています」


「二つの派閥ですか?」


「ええ、例えるなら【古参組】と【新参組】。古参組は名の通り古くから覇王に仕え、今の軍の指揮を取る側に当たります。ですが規模は全盛期と比較すると極小数。いるのは当時の勇者達が想像した強力な結界から何とか抜け出した者。その為、実力は凄まじいですが本当に少ないのです」


 彼女の話によると闇の元凶デミウルゴスに仕え、勇者達や人々を苦しめた強力な魔物達は主と共に封印されたが、千年という膨大な時の中で弱りつつある結界の隙を突いて抜けた者。

 それが古参組と一括りにされた者達。


「そして新参組。こちらは古参組を覇王直属の幹部とするならば、傘下と言いましょうか」


 新参組。

 こちらは重要な任を担う古参達とは違い、数合わせの存在だと彼女は話した。

 あくまでも目的を達する為にかき集められた何かしらの力ある者達。


 忠誠心の有無よりかは如何に利用できるか。


 望む物や望む力を与える代わりに協力せよという、よく見る様な主従関係。

 だが、逆にブリュンヒルデはそれ程までに現在の覇王軍は逼迫ひっぱくしていると。

 千年前の戦いでそこまで大きな戦力を削がれたと語った。


(どんだけ……凄い戦いだったんだろうか)


 彼女が必死に語ってくれる中で俺はそう思いすらした。

 きっと、全ての命を賭けた決死の戦い。

 それこそ俺なんかが到底想像も出来ない様な凄まじい戦争だったのだろう。


「以上がワタクシの知りうる現段階の覇王軍のメンバーの状況です。古参はともかく……新しく入った者達に関しては申し訳ありませんが、どのような者が招集されたか全く分かりません」


 ここまでが敵情の簡単な説明だった。


「闇の覇王は……そこまでして復活を企んでいるのですね」


 忠義心よりも目的の為。

 単純に再びこの世界へ蘇ってやるという根がかなり深い執念。

 そんな、覇王の確固たる意思に報いろうと動いているのだと。


「はい、魔界から離れた裏切り者のワタクシが言うのも憚られますが、かつての闇の覇王軍はそれこそ強大で配下に入っていた者達の忠誠心は凄まじく、それが一つ強みでもあったのです」


 何度か戦記モノの作品を目にした事がある。

 中国の戦争を基にした漫画や、こんなファンタジーの様な世界を主題としたアニメや小説。


 用途こそ様々だが、ともかくその言葉は理解出来た。

 統率された強固な意思、苦境に立たされようとも混乱に陥る事なく戦う。

 所詮は個々の集まりに過ぎない軍団がこれを為すには至難の筈だ。


「それ程の大きな強みを潰してまで、彼らは今何を?」


 これを為すには恐らく度を越えた厚い忠誠心が必要だろう。

 この方の為なら命を捧げられる。

 この方の為なら理想の礎となっても構わないと思える位のだ。

 そんな死を恐れぬ兵程、相手にした時厄介な敵はいないだろう……。


「ええ、では次は軍の動き。そして……貴方方にとっても大切なお話を致しましょう」


 そうやって彼女は続けて語ってくれた。

 軍としての一番の強さを捨ててまで、規模を広げ必死に為さんとしている事を。

 そうして……俺達が覇王達を追う指針となる重要な助言を。

 その道を示してくれた。


「闇の覇王が復活する為にはまず結界を破壊する力が必要なのです。そこで残った軍の者達はかつて勇者達が使っていた『これ』に着目しました」


 彼女はそこまで告げるとテーブルの水晶玉を一旦別の場所に移し、それを置いた。


「これは『グランドストーン』。ワタクシ達はそう呼んでいます」


 初めは宝石か何かと勘違いした。

 虹色の煌めきを内に秘め、見る物を魅了する謎の石。

 形の方は研磨される前の原石の様に整ってはいなかったけど。

 それでも充分に特別なアイテムである事を誇示している様だった。


 所謂、キーアイテムだと。

 そんな石を彼女は見せてくれた。


「一応これはもう空っぽなのですが、このグランドストーンには不思議な力があり……力を蓄える性質を持っているのです。それこそ善悪関係なく……特に人の感情を集めるのに特化しており、人間の持つ欲や希望の正の感情……そして絶望や恐怖などの負の感情といったものが該当します。覇王軍の者達はこれに力を集め、それをデミウルゴス復活の足掛かりにしようと企んでいるのです」


 次に教わったのはグランドストーンという。

 初めて耳にする物体についてで。

 それを提示して、彼女は再び俺達にそう語ってくれた。


 石を確保した覇王軍の古参達は。

 新参組へもこの石を渡し、蓄える様に任を与えていると。

 願いを叶えるという事を上手い話を条件に……。


 一応世界中の人々を巻き込む様な行動を慎み、一つの国、一つの町だけに焦点を絞って。

 あくまでも水面下で、人々からその力を奪いとる『奪力者』として。

 現在この世界のあちこちで異変を起こしていると。


「要するに……この石を持っている奴を倒すなりなんなりして止めれば良い訳か」


 そして……俺がそう結論付けた時。

 彼女は返答と共にこの石の秘密も教えてくれた。


「はい、そうです。ですがグランドストーンは先程も言った通り、元より勇者達の力から生み出された産物。そこで敵の手から取り返す事が出来れば、アナスタシア様が触れてください。さすれば石が浄化されるだけでなく、貴方に眠る勇者特有の聖なる力も底上げできるでしょう」


 言ってしまえば収集アイテムの存在だった。

 それも敵の手から回収出来れば、アナスタシアが強くなれる物体だと。


「僭越ながらワタクシが『見る』に、アナスタシア様は確かに紛れもない勇者の祖先です。ですが、貴方様のお持ちの魔力はまだか細く、強いとは言えません。彼ら覇王の配下と真正面から戦うには、その素質を、可能性を開花させ覚醒をせねば、到底及ばないでしょう」


 そして内容に併せて厳しい指摘も告げられた。

 物静かそうなイメージが持てるブリュンヒルデさんがハッキリと。

 俺達など全然だ、未熟者に過ぎないと。


「やっぱり……私はまだまだなんですね……」


 対してその指摘を受けてアナスタシアは僅かながらショックを受けていたようだった。


 きっと原因は俺達が窮地に立たされた森での一件だろう……。

 ブリュンヒルデさんの話では、森の隠れたヌシとも呼べる狂暴なオオカミ。

 ブラッド・ウルフという名を持つ強いモンスターとの遭遇。


 そこでブリュンヒルデさんの比類なき魔力の片鱗を俺達は感じとった。


 一瞬で氷の世界に変える圧倒的な魔法。

 しかも、そんな魔法を軽々と扱った本人の強さを。

 そして、同時に彼女は己の無力さも痛感したのだ。

 だから彼女は、自分はまだまだと意気消沈していたのだろう。


「…………ワタクシは貴方方をずっと待っていました。ですが無理は言いません。この現実を受け止めて、成長しながら冒険を続けていくのか。それとも……ワタクシの言った事の全てを忘れ、故郷にて静かに暮らすのでしたらそれも構いません。貴方方の向かうのは死を伴う危険な旅です。今は小さくとも、いずれ強大な敵達と戦う運命となります」


 きっと彼女としては厳しい現実を突きつけなければ、弱さを自覚できない。

 可能性を秘めている彼女だが、それを目覚めさせようとする意志が無ければ無意味。

 下手をすれば宝の持ち腐れとなってしまう。

 だからこそ彼女はそう厳しい言葉を続けて向けたのだろう。



「………………。では……この話を聞いたうえで、今一度アナスタシア様に問いかけさせていただきます。貴方様はこれより先多くの苦しみを負うかもしれない。時には身をよじられる様な絶望的な苦しみで精神を犯されるかもしれません。デミウルゴスはそれ程凶悪でおぞましい相手なのです。容赦などはしないと考えた方が賢明でしょう。それでも冒険を続けますか?」


「…………………………」


 その非常に重い問いかけ。

 一瞬、場が凍り付いたような寒気すら覚えた。


(ゴクリ…………)


 俺は傍らで聞いていただけにも関わらず……思わず唾を飲み込んだ。

 ただ黙って見守りたくなる程に場を張りつめる緊張感。

 とても冗談では会話が進行しない、真剣な空気だった。

 しかし、冷静に考えればそれほど大きな覚悟がいるという意味なのだ。

 世界を救う、それも強大な力を持つ悪を葬る事は。


「あ、アナスタシア?」


 思わず、顔を見上げてしまった。

 ブリュンヒルデさんの問いを受けて、俯いた彼女を。

 そんな表情をしているのか気になってしまった。


 すると…………。


「心配には及びません。私は世界を救う為に冒険すると決めています。悪しき覇王より大切な人を守るために、遠い先祖が必死になって守ってくれたこの世界を守るために。私は自分の意思で、デミウルゴスの配下と戦います!」

 

 その瞬間だった。

 彼女の姿勢に……純粋に尊敬の念を抱いた。


 同じく誇りにも思えた。

 悩む事なく、そうハッキリと明るい表情で述べる相棒の姿を見て。

 自分の相方はこんなに度胸にある勇者様なんだぞ。

 その辺のなよなよした半端者では無いと。


「フフフ、流石です。感服いたしましたわ。それでこそ勇者様のお言葉です。長き時を待った甲斐がありましたわ。……それではワタクシの無礼な問いかけについて、謝罪を致します。貴方様を試すような事をして申し訳ありません」


「頭をあげてください、お気になさらないでください。私としてもこうやって誰かに問い詰めて貰う事で自分の中でも、何だか気合いが入った気がしますから」


 ブリュンヒルデさんもその堂々とした発言に笑っていた。

 望んでいた答えを越える返答を貰え、満足していたのである。

 そうやって穏やかに俺達は対談を終えたのだった。







「出立される前に、これをお持ちください」


 話が終わり、外へ出た俺達。

 もう別れる際というタイミングで。

 ブリュンヒルデさんは、それを俺へ渡してくれた。


「これは?」

「それは【魔法のコンパス】です。グランドストーンの力を察知し、反応を示す物です」


 これからの冒険に大いに役立つコンパスを。

 もう……本当に彼女には世話になりっぱなしだった。


 ピンチの所を助けて貰って、解毒もしてもらえて。

 冒険のアドバイスもくれて、アイテムもくれて。

 マジでこの女性には恩を感じるばかり。

 全く……何でも言う事聞きたくなるぜ。


「……色々一方的に聞かされて、まだ情報が整理できていないのは承知です。ですが、きっとグランドストーンを集めていけば、貴方達にとって必要な情報が見つかります。それが現れた時、ワタクシは再びお二人の前に姿を見せようと思います。ですから今はそれに集中してください」


「分かりました。お話の通りに一旦コンパスを元に進んでいきます。本当にこの度はありがとうございました。またお会いできる時を楽しみにしています」

「解毒、助かりました。また会いましょう、ブリュンヒルデさん!」


「はい、ではお気を付けて。お二人の旅路に幸運がある事を祈っておりますわ」


 思えば何とも不思議な女性だった。

 黒衣の魔女、ブリュンヒルデさん。

 全てを見透かしている様な独特の雰囲気を醸し出す女性。

 それも魔界という今は得体の知れぬ別世界の出。


 言ってしまえば敵側にかつて身を置いていたというのだから余計だ。

 そんな彼女から様々なアドバイスやアイテムを受け取り、その場を離れた。


 まあ正直な所、色々詰め込まれてぶっちゃけ処理をし切れていない。

 だからさっきまでアナスタシアも狐につままれた様に茫然としていた位。


「アナスタシア、大丈夫か?」


「ええ、もう驚きの連続だったけど。少なくともあのブリュンヒルデさんは味方だと信じられる。邪気の欠片も感じなかったもの。本当に善意で私達に協力してくれるみたいだし、あの人がくれた助言の通り、今は前へ進みましょう。きっと分からない事も段々分かってくるわ」


「ああ、そうだな。今は進もう!」


 しかし、話を聞き終え落ち着いた頃。

 ひとまず大切な事だけを念頭においた。

 ブリュンヒルデさんが魔界の出身だとか。

 敵軍が古参と新参に分かれているとか

 グランドストーンを集めていけば、目指すべき目的地が見えるとか。

 真実を知る事が出来るとか、ややこしい事はひとまず後回しだ。


『復活を企む覇王の配下達と戦い、グランドストーンを手に入れていく事』

『その過程でアナスタシアに眠る勇者の才を目覚めさせる事』


 今はこの二つだけで十分だ。

 俺達はこの二つだけをひとまず当初の冒険の目的として動く事を決めた。

 どうせ旅を進めるにつれて、その真実や敵達の正体も明らかになっていくだろう。


 それにどの道こんな序盤で幾ら考えを巡らしたって、その時間が無駄だ。

 攻略本が用意されている訳では無いんだ。

 そもそも俺達にはまだ知る真実を知る術など無い。

 あくまで自分たちの目で見た光景を真実と受け止め、足を進めるしか出来ない。


「よし、じゃあ早速行こう! 日の高いうちに!」

「ええ! 行きましょう!」


 だから深くは考えず、心に留めるだけ。

 ただ前向きに、出来る事を……やるべき事を為すだけ。

 そうして俺達は情報を得て、森の中を突っ走っていった。


 俺は毒の消えた自由な体を取り戻し。

 アナスタシアは強くなるため、世界を救う為の情報を得て。

 俺達二人の冒険は無事に再開された。

 貰った魔法のコンパスが指し示す次の場所を探して。

 また先の見えぬ旅路へとワクワクしながらその足を向けるのだった……。









「ブリュンヒルデ様……良かったのですか。『あの者』をそのまま帰して」

「ええ、いいのです。確かに森で遭遇した時は目を疑いました。もし『これ』が現実であれば絶対に引き止めなくては、と当初はそう考えてもおりました」


「では、どうして……」

「…………ワタクシにも分かりません。ですがあの『お方』は確かに亡くなりました」

「はい……それは私めも確認致しました。特に我々魔族であれば気が付かぬ者はおらぬでしょう。ですが、まだまだ微弱で吹けば消えそうな弱弱しい気配とはいえ、どうして……」


「……何処か、違和感があったとでもいえば自分なりに満足できるとは思うのですが……今は傍観に徹する事に致しましょう。どちらにせよ後に判明しましょう。あの方の正体が真に私の信頼を寄せていた『あの聖王』なのかどうかは……」


「……もし、その時が来た時も私めになんなりと命令をお下しくださいませ、主よ」


「フフフ……頼りにしておりますわ、グレン」

「ははっ……では『移動』のご準備を致します」

「ええ、分かりましたわ。早くこの地を離れなくてはなりませんものね……」




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