1-18.変態は魔界の美女に見惚れてました※挿絵有り
『中ったぜ』
初掲載 2018/08/12
細分化前の投稿文字数 21539文字(長すぎィ!!)
細分化 2018/09/26
丸太で組まれた一軒家。
ログハウスといえば正しいだろうか。
「これで、全ての傷は癒えました。後は毒だけですね」
俺達は家主の案内の元。
こうしてたどり着く事が出来た。
追っていた占いの館へと。
まさか本人によって誘導されるとは思いもしなかったけど。
「毒の治療まで……いいんですか?」
「ええ、勿論です。では……」
独特の木の香りを鼻に感じつつも、今いるのは占い部屋の一室。
集中する為なのか周囲を暗色のカーテンで包み、明かりは燭台のみ。
しかし、数個に渡って明かりを点けている為か予想以上の明るさだった。
そうして最後に中央の台座には高級そうな輝く水晶玉が安置してある。
そんな如何にも占いをする為に整えた部屋で休んでいたのだった。
「ちょっぴり痛いですが、我慢してくださいね。『オールキュア』」
とりあえず……俺達は助けられた。
何とか九死に一生を得ることが出来た。
『彼女』のおかげで。
「おぐぐ……」
傷の手当て、さらに今は解毒までと至れり尽くせり。
慈愛に満ちた女神の様な彼女に救われたのだ。
「もう少しで終わりますから……」
「我慢します……」
そんな急な出会いで対面できた彼女。
しかし、噂に聞いていた感じとは何処か違い。
占い師……という姿にはあまり見えなかった。
(占い師じゃなくて……これは……)
そうだな……例えるなら魔女に近かった。
俺が想像していた占い師とは。
もっとひっそりとした風貌で。
目元、又は顔を隠すようなローブに身を包む。
少しミステリアスさ漂う……そんな感じ。
(うん、やっぱり魔女が妥当だな)
……けれど着用している服装から。
安直ながら『黒衣の魔女』とでも呼べるだろうか。
まあ魔女自体が黒っぽいイメージがあるので重複かもしれないが。
中二病……もとい二つ名的な。
カッコいい名称で彼女を呼ぶとするなら。
少なくとも端的に表すなら、これが妥当だろう。
「はい、これで毒は消えましたわ。大変でしたね」
「おっ、本当だ。体が軽くなったぜ! ありがとう!」
「いえいえ、とんでもありませんわ。ワタクシはワタクシの出来る事をしたまで」
彼女の名前は、北欧神話に出てくる女性と同じ名で『ブリュンヒルデ』と言った。
深海を彷彿とされる様な深みのある蒼い長髪、それと対照的に紅い瞳。
そして繊細な体を覆っているのは胸元がハッキリと見える黒いドレス。
俺が彼女へ勝手に名付けた黒衣の由来はここから来ている。
顔に至っては……確かに噂通りというべきなのだろうか。
(……にしても本当に綺麗な人だ。下手すれば女性にすら恋愛対象にされるぞ)
男性達が思わず見惚れるという美貌。
ティアラらしき物が髪の間から見える事も相まって気品も感じられる。
元気いっぱいでは無く物静かで、何処か大人しい雰囲気漂う所もグッド。
だからこそ。
よし……じゃあ早速この可愛いボディを生かして……。
手が滑った的な感じでうっかり【お触り】をと……。
そんな噂を聞いた当初はスケベな事を妄想していた。
大人しいという事実に託けて、少し触ったりなどと。
人間としてはただの屑だが。
男という生き物の本能で言えば合格の行為だと思える。
けれども……。
まあ流石に窮地を救ってもらった恩人に。
そんなセクハラ行為に至れるほど、俺の神経は図太くは無い。
「貴方の食べたというキノコは、ヤケドクタケと言ってそのままであればまだ食べられるキノコなのですが、火を通したり温めたりすると毒素を持つキノコなんです。ですから旅人さん達が誤って調理し毒になる人も多いのですよ」
「なるほどな……だから俺は麻痺しちまったわけか」
それも彼女の力で解毒までしてもらっては……。
その胸をうっかり触ったり、お尻をまじまじと眺めたりなんて。
怖れ多くてとてもとても……。
「? ワタクシの胸がどうかなさいましたか?」
目元の泣き黒子もあれだが、この胸元もなかなかどうして……。
やはりこんな美女と巡り合えると、転生した甲斐が……。
「いい加減にしなさい!」
「ぐえっ!?」
まあ流石に転生しても……好き勝手に女性へ破廉恥な行為は許される訳がない。
とりあえず、こんな茶番がありながらも俺は新しい人物と遭遇したのだった。
「本当にこちらの変態が申し訳ありません」
「フフフ、いいんです。ワタクシはあまり気にしませんので」
そうしてお仕置きに小突かれた頭部に痛みを覚えつつ。
何はともあれ、俺とアナスタシアはようやく会えた。
窮地から救ってもらうという随分と稀有な巡り合い方ではあったが。
探していた女性、このブリュンヒルデさんに。
「ゴホン……それでは、助けて貰ったお礼もまだなのに、いきなりで申し訳ありませんが……」
俺のセクハラ行為から殴るまで流れを挟んだ後。
早速、アナスタシアは間髪入れる事無く、本題へと移ろうとした。
次の目的地へ向けてのヒントを得る為に。
「実は私達は――」
改まって俺達が彼女に尋ねようと。
信頼を獲得すべく身の上の説明も兼ねて。
これまでの話そうとしたその時だった。
ブリュンヒルデさんの口からとんでもない言葉。
思いがけない話が飛んできたのは。
「ええ、分かっています。確かアナスタシア様でしたわね。貴方様は勇者の遠き子孫として、ワタクシに再び支配を目論もうと動く、闇の覇王デミウルゴスの復活を阻止する冒険の行き先を占ってほしいと。その為にワタクシを探していた……それでよろしかったでしょうか?」
「えっ!?」
「なにっ!?」
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。
勿論隣で座っていたアナスタシアも。
当然だ。
彼女が口にしたのはまさかの全部。
まだ説明の『せ』の時もしていないのに全て言われたのだから。
俺達の今回の目的……いやそんな事だけでは無い。
彼女が勇者の末裔である事。
それ以外にもデミウルゴスの復活を阻止せんと動いている事まで。
一言も、何も伝えていないのに彼女は見事に当てたのだ。
話す前からまるで『既に知っていた』ように。
「ど、どうして……」
アナスタシアが先に尋ねた。
多分彼女が聞かずとも数秒後に俺が発していたであろう質問を。
すると彼女はすんなりと答えてくれた。
「ワタクシは貴方方をずっと待っていたのです。長い長い時の中で、再びあの凄まじき力を持つデミウルゴスへ挑む大きな宿命を背負う者が現れるのを……」
彼女は話してくれた。
今、俺達に教えられる事と前置きを入れて。
多くを……語り、伝えてくれた。
「ワタクシはかつて闇の覇王と関係する立ち位置として、長く魔界に身を置いておりました。だから彼らの現状については僅かながらではありますが把握しております」
「「はいぃぃぃ!?」」
初めは……そんないきなりの紹介に唖然とした。
ブリュンヒルデさんが魔界というとんでもない所からの出という事実に。
それもラスボスの配下らしきポジションにいたなんて。
(いや……ここで無粋な質問をしても、この人の話を妨害するだけだな。やめとこう)
しかし、今はいちいちツッコんでいては話が前に進まないと思い質問を断念。
真面目な話、明らかな強キャラ登場に興味は無かったわけでは全く無い。
むしろ俺達が窮地へ陥った狂暴モンスターを一撃で仕留める様な女性だ。
バトル漫画にありがちな王道的な展開ではあるが、それもまた一興。
けれど……。
「「………………」」
とにかく今はあくまでも聞き耳を立てて。
隣のアナスタシアと同じくただ座して、荒ぶる事無く静かに。
しっかりと聞く姿勢で、俺達はその話を伺う事にしたのだった……。