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1-17.変態は助けられました

『中ったぜ』

初掲載 2018/08/12

細分化前の投稿文字数 21539文字(長すぎィ!!)

細分化 2018/09/25



 夜風がワタクシの髪を揺らす。

 その冷たい空気が肌に触れていくのをずっと感じている。


 ……もう何ヶ所、幾つ巡っただろうか。


 見事に輝いた満月が闇夜を照らす間。

 黒い愛馬に跨り、その後ろを同じく乗馬した従者のグレンが追う形で。

 夜の涼しいこの風を切り、颯爽と駆ける中。

 ワタクシ達は手当たり次第に周辺を覆う森を巡った。


 しかし、未だに見つからなかった。

 今宵現れる筈の運命の者が……。


(一体、何処にいるというの? 早くせねば間に合わぬかもしれないというのに)


 正直…………時間が無かった。


 その理由は至って単純。

 当たって欲しくない、的中してほしくない嫌な予兆が当たった様だったから。

 只ならぬ危機が彼女たちに迫っていると。


(失念していました……そう今宵は満月。この辺りのモンスターは昼間であれば、それほど脅威にはなりえない。でもこんな満月の夜だけ……それも本当に稀にしか姿を見せないけれど『奴』が彼女たちを襲うと仮定すれば、焦らざるを得ません。あのモンスターだけは……闇夜の魔獣『ブラッド・ウルフ』だけは……)


 ワタクシがこうして懸念する脅威。


 その正体は人間の血を求め、その肉を食らう悪夢の様なモンスター。

 これまでも多くの冒険者が迂闊に戦いを挑み、無惨に散っていった。

 残忍性、体力、攻撃力、素早さ全てにおいてここ一帯のモンスターを遥かに凌駕する。

 それはこのフォレスト地方の伝承にも残されるという程で。


 まさに羊の群れの中にオオカミを放り込んだようなもの。

 ……格が、気配が全く違う。

 集の中に混ぜても、とても覆い隠せぬ強さ。

 素人でも一目見ればその異常性を把握できる。


「グレン! あの森が最後です。気を引き締めて向かいましょう」

「はっ! 了解いたしました」

「後、ブラッド・ウルフと遭遇するかもしれません。見つけ次第、合図をください。狙いを付けて【一撃】で仕留めます」

「はい、その通りに致します」


 そんな危険な魔獣と遭遇する前に。

 奴に殺されてしまう前に救わねば。

 急く思いを隠すことなくワタクシは向かった。

 他の場所を全て巡り、残った一ヶ所の森へ。


 敵の視認は夜目が利く従者へ任せ。

 そしてワタクシ自身は魔法の詠唱準備をして。


(今、行きます。どうか間に合って!)

 そう手遅れにならぬ事を祈り、森へ突入するのだった。



 







「!?」


 目を覚ました直後、理解が追い付かなかった。

 思わず目を疑ってしまった。

 私の眼前では何が起こっているか。


 この目に入っている光景が現実なのか幻なのか。

 即座に判断できなかった。


 いや、むしろ……幻であって欲しかった。


「ぐあっ!」


 私が起きた直後に。

 目の前には『傷だらけの彼の姿』が転がってきた。

 私の大切な、私の初めての仲間が。

 大切な相棒であるコモリが……。


「ぐぐぐ……畜生」


 酷い生傷を負って。


「コ、コモリ……貴方、何してるのよ!?」

「あっ……アナスタシア……。へへへ、悪いな起こしちまって……ゲホッ! ゲホッ!。ちょっとドジっちまって……お前を起こさなくてもカッコよく倒してやるって意気込んでいたんだけどな……ダメだった」


 全身に幾つも傷を負い、フラフラとする彼を見た。

 見るからに痛々しく、すぐにでも手当が必要だと察する程に。

 特に頭部と腹部の噛み傷が酷く、血も流れている。


「グルル……グルルル」


 そしてもう一人……いえ、もう一匹。

 彼を襲った敵のモンスターの姿がそこにあった。


「何なのよ、あいつは……」


 それはこれまでに見た事の無い特殊な個体だった。

 まるで全て返り血で染めた様などす黒い赤紫色の体毛。

 黒い瞳の内に蠢く同色の瞳孔をこちらへ向けて。

 その足を前へ、前へと動かし、寄ってくる。

 モンスターの名など知らずとも、一目で狂暴性が伝わってくるオオカミが。


「きっと夜限定とかのヤバいモンスターだぜ……参ったな……俺を囮にして逃げ――」

「馬鹿な事言わずに黙って! 今すぐ回復魔法で少しだけでも傷を和らげるわ!」


 けれど、私は慌てふためく事はしなかった。


 只、思わず声は荒げた。

 彼のそんな笑えない冗談に向けて。

 耳を一切傾ける事無く、その満身創痍の身を引き寄せると無我夢中で傷を癒そうと動く。


「治癒の力よ、傷ついた者を救う為にその癒しの力を貸したまえ! 『ヒール』!」


 私はすぐに彼の勇気ある行動の結果を悟った。


 自分の体が一切【傷ついていない】事。

 代わりに彼の体は見るからに【ボロボロ】。


 もう……それだけで充分に伝わってくる。

 彼が必死に私を守り、戦ってくれていた事が。

 それも自在に体を動かせる状態まで毒が治癒していないのに。

 私が眠っている事に気を遣い、無茶をしていた事が。


「おお……やっぱり回復魔法ってスゲェな……俺も欲しい位だ、ハハハ……」


 そんな彼の度を越えた優しさを痛感する。


「いえ……コモリもういいのよ……今度は私が、私がやるから」


 だから……だったのでしょう。

 我ながら……充分に自覚はあった。

 冷静さを欠いていた事について。

 頭にカッと血が上る感触だってあった。


「おいおい……ゼェゼェ、馬鹿言うな! アイツは昼間見る様な雑魚とは違う! 明らかに異常なモンスターなんだ。俺の事はもう良い。早く逃げるんだ、幾らお前でも勝てる奴じゃ――」


 とても動かずにはいられなかった。

 もうそれ以外に自分を抑える術がないと確信して。


「残念。私ってそんな馬鹿な女なの。こうして馬鹿な事をしないと納まらないのよ」


 彼が制止を振り切って、私は……前へ出た。

 何としてもコイツを倒してやると誓って。

 最悪の場合、己の死すらも考えの範疇に入れて。

 大切な友を見捨てて逃げる位なら、ここで死に物狂いに抗ってやるわと。

 そう胸に決めて私は鋭い牙を向ける血塗れオオカミへと意識を集中させる。


「コモリを傷つける奴は許さない!」

「グルァ!」


 奴が向ける牙が私に届き、この身を抉り貪るか。

 それとも私の全力を注ぎこんだ魔法が命中するか。

 そんな緊迫した戦闘の火蓋が切られようとした。



 ……と、その時だった。



「凍てつきなさい!『ヘル・ブリザード』!」


 膨大な魔力で一面が凍り付いたのは。


 私では放ったものでは当然無い。


 寧ろ私の持つ魔力など到底及びもしない強大な魔法。


 それが何処からともなく放たれた。


「ギャギャギャ!? ガグアガガガ……」


 それは時間にしてほんの数秒足らずの出来事。


 私に飛びかかろうとした血塗れオオカミは悶えつつも抗う術なく凍った。

 その地を這う強烈な冷気に飲まれ、氷塊へ姿を変えられた。

 ただし……他の景色も巻き込まれる形で。



「な……一体何が……起こったっていうんだ。アナスタシア? お前の魔力なのか?」

「…………いえ、こんな凄い力持っていないわ……ここまで凄い魔法なんて……」



 傷を負い、息も絶え絶えのコモリと私を除いた周囲が一瞬にして氷へ変わった。

 感じた事も無い強烈な力を持った冷気で、満たされた。

 草木生える地表は勿論。

 並み居る木々からその葉の一枚一枚に至るまで全て。

 見事に私達だけを取り残すようにして一帯は氷に包まれた。


「……間に合いましたね。危ない所でしたわ」

「いやはや相変わらず、見事な手際でございます」


 そうして直後……私達は出会った。

 この魔法を使用したであろう黒いドレスを身に纏った綺麗な女性。

 そして、その付き人と思しき執事姿の銀髪の男性と。

 私達が探していた目的の人と対面するのだった……。

 


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