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1-16.変態は勇者の警護にあたりました

『中ったぜ』

初掲載 2018/08/12

細分化前の投稿文字数 21539文字(長すぎィ!!)

細分化 2018/09/26



 ……予言があった。

 ワタクシの元へある運命を背負った者が現れると。

 愛用する水晶玉の内より啓示を受けたのです。

 その内容は、こう。


『闇染まりし大空に浮かぶ星。それが満ち闇を照らす時、其方の望む者現れ出でん。だが待ち望むだけでは叶わぬ。運命の者と会いたくば己が行動を起こせ。森を彷徨う彼女らを救い其方とその者達の縁を手繰り寄せろ。さすれば運命の糸は絡み合う結果となるだろう』


 予言の内容はある程度すぐに把握できた。


 闇染まりし大空。

 即ち太陽が落ち光の失せた夜の刻。


 その星が満ち闇を照らす時。

 満ちた星が夜を照らす、つまり月、それも満月。


(今宵は満月の夜。では現れるとするならば今日……)


 流石に後半部分の具体的な動きの詳細は掴めなかったけれど。

 とにかく、この予言はワタクシが一番望んでいたものだったのです。


(すぐに行動を移さなくては)


 そうと分かれば少なくともこう呑気している暇はない。

 従者が入れてくれた紅茶をすすり、読書に勤しんでいては会えない事。

 自らが体を動かし、望む者を探しに行かなくてはならない。

 彼女というからには『その女性』を探さなくてはいけない。

 ここまで長き時を待った。

 いつかその者が現れる時を。


(絶対に……この好機を逃してはなりません)


 口元へと運んでいたカップをテーブルへ置き、席を立つ。

 時間の概念に捉われず、瞑想や占いに没頭したいワタクシの身勝手な頼みで時計は無い。

 その為、部屋への光を隠しているカーテンを捲り、直接時の流れを確認した。

 そうして……ワタクシは。


「グレン。お願いがあります」


 既に日が傾き、赤く染まりゆく空の光景を見て。

 日没を目の当たりにしながら、背後に控える者へと。

 古くよりこのワタクシに仕えてくれている忠義心厚き者へ声をかける。


「はっ、何でございましょうか?」


 まるで執事の様に礼儀正しく跪き、彼はその美しい銀の髪頭を下げる。

 ワタクシはそう返事をくれた彼へ向けて、命令を下す。


「今宵、ワタクシは森へ入ります。馬の支度を」

「森へ……でございますか? もしや先日の予言の者が?」

「ええ、どうやら今日に現れる様なのです」


 付き人である彼にもそれは事前に伝えてある。

 だからこそ、こんな突発的な命にも驚く事なく反応してくれた。


 普段であればワタクシ自身があまり外で出る事を好むことは無い彼。

 どんな些細な用事でも自分が請け負おうとする従者の模範の様な彼だったけれど。


「……了解いたしました。出立の準備を致します。一応私めも同行いたします」


 此度に限っては異を唱えようとはしなかった。

 流石に単独で向かう訳には行かなかったけれど。

 彼はそう告げて、入口の方へ足を急かしていった。


(……? もしや……この気配は……)


 しかし……もう一つ。

 彼への頼みが増えた。


「待ってください……グレン」


 自分が下した命に忠実に動いてくれる彼へ今一度言葉を向ける。


「? どうかなされましたか?」


 扉を開く後少しの位置で、足を止め、尋ねてくれる。

 わざわざ命に忠実に動いてくれる彼を止めてまでの頼みをワタクシは告げる。

 外の光景を瞳に入れた時に同時に感じた予感を。


「戦闘の予感がします。ですから武器の準備もお願いします」

「承知致しました。では戦闘のご準備も共に致します」


 恐らく、予言の『彼女らを救う』というのはこれに値するのでしょう。

 通常のモンスターとは違う妙な気配を。

 その焼き付く様な独特の気配を感じ取りワタクシは彼にそう下した。


(では、後程お会いしましょう。ワタクシの望む人)


 泉などの水場で体を清める時。

 または拠点を移す時以外に外に出る事の少ないワタクシが動く。


 己の目的、課せられた宿命を達する為に。

 信頼を置き、心から信頼する従者と共に。

 その後に準備を終えたワタクシ達は、馬に跨り付近にある幾つもの森へと向かった。

 【彼女ら】が見つかるまで虱潰しに探し回る覚悟で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちくしょう……)


 俺はそう心の中で弱音を吐きながら、眼前の焚き火を眺めていた。

 くべられ燃えていく枝がパキパキと音を立てて、燃料へと変わっていく様子を。

 そんな枝達の犠牲が熱に変わり、傍に座る者を温める。

 温もりという安心を肌に感じさせてくれてくれる。

 そんな心に余裕を与えてくれる明かりの傍にて。


(参ったぜ……)


 俺はアナスタシアと肩を並べて焚き木の傍で座っていた。


 時には勇者だって運に恵まれない事もある。

 無論俺のせいだって自覚もあるし、申し訳ない気持ちで一杯だ。

 だが俺はともかく彼女だけは比較的安全な場所にいてほしかった。


 それが、まさか……こんな森の中で過ごす羽目になるとは。


「悪いな。面倒につき合わせちまって」

「いいのよ、貴方と会うまでも何度かこういう目に遭ってたし。気にしないで」


 運良く体調面の症状は軽くなり。

 腕や足も多少言う事を利くようになった。


 ……だが、それでも完全とまではいかない。


 そんな未だに情けない体の俺を彼女はずっと気遣ってくれる。

 彼女は潰えぬように折った枝を火にくべながら、そんな優しい言葉を向けてくれる。

 ほんと……なんとも心が痛くなるぜ。


 それも自分で蒔いた分、罪の意識も大きい。

 親の脛をかじって極楽三昧をして親の足を引っ張っていた頃とはまるで違う。

 いや、まあ常識的に鑑みてこの時点でも罪悪感は覚えないといけないのだろうけど。


 引き籠りが見事板につき、外を歩く営業のサラリーマンの姿を見て嘲笑っていたあの夏。

 他人を見てヘラヘラと笑っていたあの時は雲泥の差。

 もう、申し訳ない気持ちで一杯になっていたのだった。


「でも、まさか夜になっちまうとは……」


 先に述べた運の無い理由。

 それを結論から述べると『野宿』になってしまった事。


 これまでの冒険であれば運が良くて村や民家。

 逆に縁が無かった時はこの前みたいな雨風は何とか凌げそうなあばら家。

 果てには木の枝を雑にくべた焚火の痕跡が残る横穴など。

 ここまでは何とか寝床にも恵まれ、夜の脅威から逃れてきた。


 だが、今はまるで違う。


 俺が足を引っ張った事に加えて、純粋に人が住んでいない環境も相まって。

 目的地も見えず闇雲に歩を進めてしまった結果、寝床が発見できなかった。

 洞穴すら見つけられずに、現在周囲を隔てる空間。

 自分たちの身を隠せる物もこれといって無く夜風に晒されている。


(モンスターが来ない事を祈るしかないか)


 でも、一応はモンスター達に見つかりにくい地形の窪み。

 周りが高い地形に覆われたへこみの様な場所にいるが、それでも不安は払拭できない。

 まして森という辺りが木や葉の影で暗がりが多く、一帯の様子が掴めない点。


 かと言って見晴らしの良すぎる道で眠るのも発見されやすく危険。

 そんな板挟み状態で俺とアナスタシアはこの夜をやり過ごそうとしていた。


「うーん……方角的にも地図的にも今日には見つかると思ったんだけど」


 そう告げて、彼女は火の明かりを頼りに地図とにらめっこしている。

 関所にいた門番から占い師のいる場所のおおよその位置を聞きだし、印を付けた地図。

 彼らの話によれば関所を越えて女性の足でも約二日。

 何度か休憩を挟んでも、二日目の日没までには充分着けると。


「一応俺がコンパスを見ていたけど、方角には間違いは無かったぜ」


 けれどもよくよく考えると、そう簡単に目に入る訳がない。

 その周りを安全確保の為に建造した高い壁で覆われた国、町。

 作物を収穫している農民の村が近くにある事を示す畑など。

 そんな目に見えて付近に何かあると匂わせる大きな目印が無い。

 無論、これまでに見た分岐点に置かれた看板にも載っていなかった。


 俺が探しているのはあくまでも館……小屋一つ。


 下手すれば見逃す可能性だってあるそんな建造物を追っている。

 その為、仮に見逃していたとしても仕方ない。

 だから俺はこれ以上悶々としていても始まらないと考えを改め、


「また日が昇ったら探そうぜ。明日なら麻痺が治っているかもしれない」

「ええ、そうね。もしかしたら通り過ぎたのかもしれないし。気を取り直しましょう。もし道中で村とか町が見つけられれば、貴方の毒も治せるかもしれないしね」


 あくまでもポジティブに。

 即席で作った野菜のシチューと小学生の給食で出た懐かしいコッペパンに酷似したパン。

 その二つで腹を満たし、残るは夜が明けるまでの待機に重点を置くようにした。


(…………よし)


 だが……流石にこのまま目を開けて待つという訳には行かない。

 それこそ寝不足なんて、俺はまだしもアナスタシアには気の毒だ。

 そこで提案してみた。


「アナスタシア。お前は気にせずに寝てくれ。俺が見張りやっとくから」


 俺が寝ずの番を引き受けると。


「えっ……いいの?」

「おう、俺は夜まで起きておくのに慣れているから」


 伊達に深夜、親の目を盗んで活動するという不健康な習慣。

 それを幾度となく重ねてきただけの事はある。

 録画していてもリアルタイムで見る深夜アニメ、朝まで徹夜の銃撃戦ゲーム。

 他にも数々の動画サイトでの朝まで続く生配信の閲覧など。

 深夜なんてニートにとっては寧ろ『朝』だといっても過言では無い活発化する時間だぜ。


「代わりと言っては何だが……もし何かあったら悪いけど、こんなザマだから大声で起こす事になってしまうけど、その時は頼むぜ」

「分かったわ。ありがとう、コモリ。じゃあ、交代にしましょう。暫く経ったら起こして。貴方だって寝ないとすぐに疲れてしまうからね」


 そんな昼夜逆転した生活をダラダラと過ごした夜行性の俺には朝飯前だ。


「じゃあ、おやすみなさい」

「ああ、しっかり寝てくれ」


 まさかこんな時に役立つ事になるとは思いもよらなかったがな。

 とにかく俺はこうして彼女の護衛を引き受けたのだった。


「……………………スゥ……スゥ……」

 ……すると余程疲れていたんだろう。


 横に転んだ彼女はすぐに寝息をあげて、眠った。

 きっと見知らぬ大地を旅する重圧や目的地が上手く発見できない焦り。

 加えて足手まといとなった俺の運搬。

 そんな様々な出来事が重なっての疲労。

 暖は焚火の火に任せ、荷物の袋を枕にして彼女は眠った。


「お休み……アナスタシア」


 そうして俺は彼女が眠った事を確認し、責任を持って見張りを務める事にした。

 まだ不自由な体を動かし、窪みから顔を出して周囲を偵察する。

 夜に加えて場所は森の為視認できる範囲こそ狭かったが。


(あの笑顔は俺が何としても守ってやる。それがヒーローって奴だ!)


 そうやって自分を鼓舞しながら、拠点の守護に当たった。

 一応ときたま聞こえた何者かが草むらを踏み荒らす音。

 モンスターが寝ぼけていたのか木にぶつかる音などにビビりつつも。


 時間の経過を知る唯一の手掛かりである。


「まだまだ時間があるな……」


 月の傾きを見て、待った。


「…………………………」


 只々、ひたすらに。


「…………………………」


 夜明けが、朝が来るのを。


「…………………………」


 周囲の様子を晒してくれる。

 太陽の光を待っ……た。


「………………。……はっ!? いけねぇ、いけねぇ。俺が寝ちまってどうするんだ」


 だが……悔しい事に。

 時が経つにつれ、何度か眠気に襲われる事もあった。

 自分から引き受けておいて情けなくなるぜ……。


 しかし……それでも。

 俺は【交代をする訳】にはいかないんだ。


 絶対に、断じて、何としても。

 頑なに俺はその選択肢を選ぼうとは思わなかった。


 本来ならば仮眠を数時間取れば、見張りを交代するのが普通だろう。


 こればかりはやってみて実感したが、想像以上に気を張る夜の警護。


 逐一周辺の動向へ気を配り、緊張感を持たなくてはならない。

 屋内であればふざけた行動を取っていた俺でもこればかりは真剣。

 なので、そのせいで思わぬ速度で疲労が溜まる。


(くそ! しっかりしないと……)


 けれど俺は彼女を起こさなかった。

 そう、今はその普通では無いのだ。


「スゥ……スゥ……スゥ」

(本当によく眠ってるな……でも、だからこそ彼女を起こす訳にはいかねぇ)


 そのこっちまで癒される。

 その気持ちよさそうに眠る美少女の。

 彼女のこんな寝顔を見せられては。


 瞳を閉じて、火の温かさからか、僅かに頬を赤くし。

 品性を損なういびきも一切掻かずに、只静かに。

 スヤスヤと寝息を立てる様子。


「か……可愛い」


 そう、思わず何度かまじまじと観察していた時もあったが、こればかりは素直に身惚れてしまうぜ。

 それに……その疲れの一端の原因は俺にもある為に尚更だ。


 ……とても起こせない。

 乙女の睡眠時間は奪うなんて。


「うーん……でも流石に疲れてきたな……少しだけ休憩を入れるか」


 と、そうして長時間に渡る眠るアナスタシアの安全と周囲の状況。

 痺れでぎこちない動きをしつつも、交互に怠る事なく確認。

 何度何度も行ったり来たりを繰り返す作業。


 時には火が絶えぬように用意していた枝をくべたり。

 睡魔を忘れる為になるべく体を動かしていた。

 それがここに来て遂に限界を迎えた為。


「今、何時くらいだろう?」


 勿論眠る訳にはいかないが、あくまで小休止にと。

 失った体力を一時的に回復させるべく、俺はアナスタシアの傍で。

 まるでタイヤでも引いて歩いていた様な。

 麻痺状態の己の重い腰を下ろし、星空を見上げる。


 すると、数時間は経過したのだろうか……。


 木々の隙間から見えていた満月は既に大きく移動し、場所を変えている。

 雑な観察眼ながら時間に表すと約2~3時と言ったところか。

 こればかりは、地球と同じ環境で良かったと思う。


「あと4……いや5時間くらい守る事が出来れば夜明けだな」


 少し遠い気がしたが、そう目標を立てて俺は残りの時間を踏ん張る事にした。

 時折襲い来る睡魔に耐えつつ、意気込みと根性だけでこの夜を凌ごうと。


 彼女は絶対に俺が守る!

 なぁんて、まるで漫画の主人公みたいな。

 そんな考えを胸に秘め、警護に当たるのだった……。

 



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