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0-2.変態は異世界に送られました※挿絵有り

細分化前タイトル

『行ってきます』(『なんか死んでた』の部分と合わせて投稿)

初掲載2018/07/08

細分化前の投稿時文字数 4187文字

細分化2018/09/23



 聞き違いかと思った。

地獄の規則とか一切知らないけど、閻魔大王が下した刑罰の内容は釜茹ででも、業火に焼かれるでも無かった。


「て、てんせい?」


 即座に鬼に連行されるかと思った。

 足元が開き、奈落へ落されるかとも思った。

 だが、予測に反し何も起こらなかった。


「うん、そうそう転生。現世でも小説とかで聞いた事くらいあるでしょ。肉体は死んでも、その魂は別の新しい体に入ってまた生活していく。輪廻転生ともいう」


「で、でも俺は、親の脛をかじって贅沢三昧をしてた糞ニートの筈……なのに何で?」


 罪を重くしてくれという訳ではない。

 しかし、俺はどうしてそこに帰結したのか。

 知りたがりの俺にとっては気がかりで仕方なかったんだ。


 すると。


「えっ?」


 閻魔大王はこちらに違和感を覚えたのか。


「……そう言われてもねぇ、ワシは間違ってないよ」


 その大きな首を傾げつつ、納得いかない俺へ向けた。


「だって、君『何も』してないもん」


 へっ? 何も……していない?


「いや、別に仕事とかの話じゃないよ。ワシ達が力を入れて裁いて地獄へ送るのは大罪人だよ。君の場合、無差別な【殺傷】も、【盗み】も、【邪淫行為】も、度が過ぎた【飲酒】も、まあ小さな嘘は付いていたみたいだけど、人を陥れる程の嘘【妄語】とか大罪を何も犯してないんだから。親御さんを困らせて殺したって事でも無いみたいだし」


 閻魔大王曰く、地獄へ落とすような罪は無かった。

 逆に、現代でネットという発展した通信技術により、匿名の記述やその裏工作で人を破滅へ追い込む悪質な手法をする罪人が増えに増えているらしい。

 なんとまあ、耳が痛い話だろうか。


「あと、君が使っていた煽りの掲示板だけど、あれは別に罪に問われないから。第一、君の書き込みが馬鹿すぎて、皆すぐに勘付かれて、面白半分で弄ばれてただけ」


「え!?」


 というかある意味これが一番ショックだったぐらいだ!!

 こいつが次にどんな強がりを見せて、必死に弁明しようとするのかと、彼は俺がまるで実験動物の様に扱われていたと真実を告げられた。


 さらに泣きっ面に蜂かの如く、


「あと、君を相手にしていた人って、可愛い彼女もいるし、君なんかよりもずっと金を稼いでいるから。所謂リア充だから。もうこの時点で同情すら覚えるよね」


(いやああああ!!! 恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!!!)


 不意に俺は恥で真っ赤になった顔を押さえた。

 相手の真相まで明かされ、さらに惨めになる。


「まあね、元気だしなよ」


 いやいや、その元気を奪い取ったというか……。

 干乾びるまで絞り尽したのは閻魔大王、貴方なんですけど。


「こっちとしてもね……ププッ…これ以上君の恥塗れの悲しい前世を晒しても、何のメリットも無いし……ンクッ…クク」


 目の錯覚だろうか……。

 そう言いつつも、彼が物凄い笑顔をしていた様に見えたのは俺が生み出した幻の産物なのだろうか。

 その大きな大きな口元を抑える様にして笑いを必死で堪えて。体をピクピクと小さく振動させているのは幻覚だったのだろうか。


「クッ!! ムグググググググ……ヒグググ……」


 とりあえずそんな彼の行動に。

 俺はまた泣かされた…………。







「どう、もう泣き止んだ?」


 ひとまずは……。

 なんやかんや落ち着きを取り戻した。

 思い出すだけで散々な気持ちになるが、


「もう……早く詳細を教えてください」


 まあだからこそ、もう完全に意気消沈し冷静になった以上、話を戻して転生の話をしたい。


「よし、じゃあ君の次の転生先なんだけどね……」


 一体、何に生まれ変わるのか。

 新たな人生の行く先を知るべく、俺は大王の話を聞く。


「実はね、オススメの肉体があってね。ワシからも『これ』に転生してくれると、今期の転生ノルマ達成なんだ。だから協力してくれるとめっちゃ助かるのよ」

「えっ、ノルマ!? 何、どういうこと!?」


 その発言で最早、地獄という世界観丸つぶれ。

 営業の会社員が口走りそうな内容だった。

 なんでも閻魔大王の話によると、ざっくりだったが地獄というのは、なんか超次元で繋がっておりと時折新しい肉体を与えて、その世界の生命の数を維持しないといけないらしい。


「えっとね、君が入る予定なのは、この前に冥王のハーデスさんから求魂きゅうこんの案内が来ていた……」


 閻魔大王から向けられたのはそんな言葉。

 まるで就職支援の求人みたいな紹介。


「えっ、転生ってそんな感じなんですか?」


 思っていたのと大きく違う。

 もっと、こう、自由に希望する者になれる。

 例えばレベル99の勇者になって、無双したいとか。

 モテモテ男になってハーレムを作りたいとか。


「こっちの希望に沿ったものとかじゃないんですか?」


 最強の村人になって世界を救うとか。

 逆に魔王側になって世界を征服するとか。

 俺が読んだ小説やアニメだとそうだった。

 だから思わず、そう尋ねてしまった。


 すると……。



「あのねぇ……古守君。君は現実と空想の区別もつかないの? そんな事ある訳ないじゃん。第一もしそれがまかり通ったとして、君みたいな『糞ニート』が良い身分になれると思ってるの? 転生舐めすぎだよ」



 滅茶苦茶怒られた。


「ていうか君に対しては特に選択権無いから。地獄のシステムってぶっちゃけ何の徳も積まない亡者にそこまで優しくないからね。ほら、現実でも大した学歴もたない奴は会社選べないでしょ。それと一緒なのさ」


 それも先の言葉が彼の逆鱗に触れたのか、

「そもそもね、本音を言わせてもらうと、君の転生先を探すのにわざわざワシが時間を割いてあげてるんだよ。全く……ワシは君のお母さんじゃないんだからね」


 温和な話し方は変わらないものの、説教が長かった。

 釈迦では無く、閻魔大王から説法を受けるとは……。


 まあ……とにかくそんな説教は一旦置いても。

 転生の仕組みについては非常に分かりやすく、また心に痛く染みた。


 前世での最後の数年の行動によって幅が変わる。

 例えば死ぬまで家族の為に尽くし、勤勉に努力した者は。

 ある程度の希望を聞き届けて貰え、地獄側も熱心に探してくれる。

 だが逆に俺みたいな糞野郎にはそんな価値は無い。

 あるのはそんな自由な選択では無い。

 転生先の提案にほぼ強制で乗るしかないらしいのだ。

 挿絵(By みてみん)


「……ごほん。まあとりあえずこれくらいにしておこう。どうせ君の前世なんて、次の肉体になれば関係なくなる」


 苛立ちを若干見せつつも、丁寧に説明を終えた後。

 そう面倒くさそうに話を強引に流すと、閻魔大王は手元に今度は巻物では無い羊皮紙のような紙を持ち、俺へ転生先の話を続ける。


「じゃあ、話を戻して。次の転生先なんだけど、さっきも言ったハーデスさんの管轄する異世界で『ある生き物』が寿命を終えたんだって。だから今はそこが空いているんだってさ」


 まあ、もうこの際だ。

 ハーデスという神の名に突っ込む気すら失せていた俺は、


「へえ、どんな体なんすか」


 もう好きにしてくれと。

 色々面倒くさすぎて、丸投げするように非常に大雑把ではあるが、確認がてら簡単な説明を求めた。

 そうすると。


「えっとね……これは……そうだね……」


 これまた変わった生物だった。


「悪魔だね、モンスターの悪魔さ」


「悪魔?」


 正直なところ、あまり良いイメージが持てなかった。

 だって悪魔だぞ。

 人々を神から離れさせ、罪に陥れる様な邪悪な生物だ。

 想像としては人を困らせて、喜ぶような輩だ。

 さらに冷酷で残忍な人間にだって、使われる名詞でありさらにこの後の説明が添えられた事で、俺の中での印象が余計に悪化した。


「ああ、そうそう言い忘れてたけど。こういう転生面では前世での行動ってもろに影響するんだよね。つまり前世で経験値も無いような君にとっては例え、最高級の体で生まれ変わっても、只の糞雑魚になっちゃうわけ」


「えぇ……ただでさえ微妙な悪魔になるだけじゃなく……レベルまで最低に落とされるんですか?」


 人から憎まれる事の多い悪魔に加えて、超弱体化。

 なんか希望すら持てなくなってしまった。


「申し訳ないですけど、せめて俺のいた現世に転生は出来ないんですか? 流石に雑魚悪魔は……」


 もう怒鳴られるのは百も承知だった。

 けれども俺はワガママで大王へそう向けたのだ。

 対して、彼は頭に手を当てると、


「うーん、現世ねぇ……君にあう器は……少し待って」


 すると、嬉しい事に手応えはあった。

 とっととオススメの転生先を受理しない俺へ、閻魔様は別の器が無いかを検討をしてくれるみたいだ。


 よし、もうこの際だ、赤ん坊からで良い。

 次は絶対に悔いの無い生き方をするんだ。

 両親の中は険悪で、家庭崩壊寸前でもいい。

 虐められる様な見た目でも良い。

 必死に生きて生きて誇れる人生にしよう。


「おお、日本に丁度あったよ! 良かったね。評判はかなり悪いけど、それなりに逞しい生き方が出来る場所で君に見合ったオススメの転生先が!」


 その時救いの糸が垂れた気がした。

 よっしゃ! いいぜ! 来いよ!

 やはり日本で生きて生きたい。

 もう受理する気満々だった。


 別の転生先を聞くまでは……。


「転生先は飲食店のゴキブリだよ!」

「悪魔でお願いします!」


 よし、折角のオススメの求魂だ。

 完全に全てを捨てて、新しい生を歩もう。


 やはり甘えはダメだ!

 現世で生きて行こうなんて一体誰が発したのか。

 全くそんな愚か者がいたらひっぱたいてやりたいね。

 俺には俺に見合う器があるんだ。

 優しい閻魔大王様からの提示だぞ、逆らう訳がない。


「えっ、うん? あ……そ、そう? ……分かった」


 閻魔様は俺のそんな真っ直ぐな対応に驚いてはいた。

 しかしこちらからすれば、何もおかしい事は無い。

 これに応える事で彼の面目も立つし、こっちも満足。

 両者とも大手を振って、勝利の余韻に浸れる。


「はい! 是非お願い致します」

「ああ……うん……ワシに任せて」


 こちらに向けて、もの言いたげな表情にも見えたが。

 彼は立派に自身の職務を全うする為に、動いてくれた。


「じゃあ、次の転生先も決まったし儀式を行うよ。事前に言っておくけど、ゼロから生きてもらう為に君が行く世界の事とか何も説明は出来ない。そこは自力で知り、生き延びてね。じゃあ目を瞑って……」


 自分の経歴で泣いたり、取った行動の情けなさで泣いたり。

 もう色々と何回も泣かされたが、やっとお別れだ。

 そして地獄の景色がまだ鮮明に記憶に残っている中で。

 俺は彼に言われるがまま、目を瞑って『その瞬間』を待った。



「そうだ、そうだ。折角こちらの求魂に協力してくれたんだ。特別に君へ一つだけ『役立つアイテムをあげよう』。上手く使うといい。最初はゴミだけど君の成長に応じてグレードアップするからね。まずは戦いに慣れていくと良いさ。それじゃあね! もう二度と来ない事を祈ってるよ!」



 睡眠に入る前のような心地よい眠気に襲われる。

 どうやら最後の最後で贈り物があったらしい。

 それが何かは……次の世界で確認しよう……。

 意識が段々と薄れていく……。


(そうか……俺は生まれ変わるんだ)


 そう心の奥で再認識した瞬間。

 ギリギリに保っていた意識は何処か遠い彼方へ。

 まるで睡魔に飲まれる様に消えていったのだった……。


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