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1-13.変態は頭が痛いようです

『男は美女の話に弱い』

初掲載 2018/08/05

細分化前の投稿文字数 16512文字

細分化 2018/09/25


「ほら! 起きてコモリ!」

「おぶっ!?」


 ……たたき起こされたのは早朝。


「早く準備するわよ」

「もう少しだけ……」

「ダメよ。さあ起きて」

「くそ……しょうがないな」


 まだ体が睡眠を欲しているのか意識はぼやけている中。

 俺とアナスタシアはこのプルミエルの町から離れる準備を進めていた。

 まず寝室の掃除から始まり、その後は荷物整理。

 この町で調達した物資。

 後は机の上に広げていたコンパスや地図。

 その他は戻って来た住民達から厚意で恵んでもらった塩漬けの干物や干し肉。

 僅かな金銭の報酬などをポーチや袋にしまう作業を。


「ムグググ…………」


 だが、その中で俺は……瀕死・・だった。

 ある苦しみに身を支配されていたのだ。


「ぐぐ……あの……アナスタシアさん……頭痛いんだけど、おまじないでもしてくれませんか?」


 ズキズキとくる頭の痛みに。

 何処かで派手にぶつけた様な独特の頭痛。

 痛くて痛くて痛くて、ただ痛い。


(むうぅぅぅ……ぐぐぐぐ)


 ……それも起こされてから、時間が経過するにつれて増してくる。

 まるで頭がドクンドクンと脈打っている様な。

 さながら神輿で打たれる太鼓みたいに。


「きっと、これはあの事件の後遺症に違いない……。多分あのヒレ攻撃の時だ。あれに毒が含んであったんだ……これは聖女様の癒しが必要だと俺は要求する……ぐぐぐ……頼む」

「………………」


 加えて。

 残念だが……時間はあまり残されておらず。


「ぐぐぐ!?」


 それは予想を上回る速度でやってきた。

 事態は急を要する状態へと移っていく程に。

 俺の体の底がSOSを求めてきたのだ。


「ヤバい! これは……ヤバい……」


 ……とても……立っていられなくなった。

 フラフラと視界が歪み、姿勢が崩れる。

 続く痛みに悶絶しながら、俺は頭を抱えてもたれかかる。

 扉近くに用意されたクローゼットの元にだ。


「もう…………」


 すると……そんなふらつき苦しむ。

 俺の一部始終を見ていたアナスタシアは。

 

「……分かったから、早く荷物纏めてね」

「ええっ!?」

 

 そう残酷にも。

 

「おぅ……痛い痛い……ちょっとちょっと、アナスタシアさん、それは無いんじゃないすか? ここまで苦しんでいる人間の姿を見て、その急かし方は……」

「はいはい……早くしてね」

「はいぃ!? おうっ……いてて」

 

 まさか勇者の末裔ともあろう美少女が相棒の俺を無下にしてきたのだ。

 こんなに苦しんでいるというのに、足元フラフラ、視野もグラグラで。

 加えて洒落にならない頭痛まで襲われているというのにだ。


「あの……マジ一回で良いんで。痛いの痛いの飛んでけぇ……してくれません? ほらほら、俺こんなに弱ってるじゃん? フラフラじゃん?」


 もしかしたら……。

 この急病が俺の命を奪うかもしれない危機的状況で。

 刻一刻と俺の背後に死がにじり寄っている気がする。

 そんな気がする程の状況なんだから……。


「ほら、勇者様ならこんな瀕死の俺を優しく介護してくれるでしょ? しかも多分、敵との戦闘でだよ?」


 ……流石に『戦闘』で受けた傷と言えば。

 二つ返事で了解してくれよね?


「……嫌よ」

「!?」


 だが速攻で断られてしまった。

 それどころか言うに事を欠いて。


「それよりも、はい、貴方はこの荷物を持ってね」

「お……おいおい」


 荷物まで渡してきやがった。

 それもよく見たら、ご丁寧に重みのある硬貨袋が入れてくれている。

 畜生! なんて勇者様なんだ!。

 これが……これが勇者の末裔が。

 心優しい人間のやる事なのかよ!


「…………あのぉ、アナスタシア……いえアナスタシア様? どうか、この哀れな悪魔に一撫でしてやってくれないでしょうか? 僕ちゃんマジで頭痛いんですけど……」


 ……我ながら気持ちの悪い話し方だったと自覚している。

 しかし俺がここまで媚びて発言すると……。


「ハア……しょうがないわね」

 

 願いが聞き入れてくれたのか。

 はたまたこんなプリティーで可愛い悪魔モンスターを見捨てられなかったのか。


「もう……貴方って人は」


 何とか振り返ってくれた。

 先に扉を開けて出ようとした彼女は。

 そう一息つき視線をこっちに動かしてくれた。

 どうやら、この事態の重要性を分かったようだ。


「コモリ……」


 すると姿勢を屈めて、俺の顔を見つめてくれる。

 これは……朝一から大好きな撫での時間を味わえるかと。

 そんな期待をした矢先の事だった。


「それ、二日酔いっていうのよ」

「……うん? ……二日酔い、だって?」

「まさか覚えてないの? 昨日の宴会で馬鹿みたいに飲んでたでしょ?」

「……………………」


 そんな冷たく放たれた彼女の言葉に。

 思わず、俺は黙してしまった。


 ………………………。

 ……………????

 彼女は何を言っているのか?

 酒? 酒を飲んだから二日酔いだって?


 俺がそんな物飲む訳ないじゃないか。


 飲んだのは少し独特の味がした飲み物だ。

 アルコールが入ったジュースを数杯嗜んだだけ。

 だから酔う訳が無い……あり得ない。


 そもそも酒って言うのは問題の火種だ。

 酔っぱらって知らない間にセクハラしただの、暴力を振るっただの。

 自分の記憶の無い間に、あれやこれやと罪を追加できる材料だぜ?


 覚えてない為に、反論もロクに出来ない事実を棚に上げて、勝手に罪状の積み上げを可能にしちまう冤罪という罪を許す免罪符と似たようなものだ。

 覚えていないからと抜かして犯した罪から逃げるなと正論の発言権を。

 裁判官たちを納得させてしまうような弁護を相手側に垂れさせる危険性のある品なんだぞ。

 そんな危ない物を誰が口にするものか。


 まったく……少しシュワシュワした飲み物を飲んだからってここまで責められるとは。

 何杯か飲んでも視野がふらつき、千鳥足になるだけ。

 飲み進める内に段々思考能力が低下し頭がボーっとする。

 ついでに冷静さも欠いていた気もするが、たかがそれまで。

 きっとジュースに含まれていた糖分が超反応を起こして、俺を惑わせたに過ぎぬのだ。

 本当に失礼しちゃう。


「………………今更言い逃れは聞かないからね」

「……………………はい」


 …………はい……そうですよね。


 その飲み物を。


 その症状、定義が当てはまる物体を、世は『酒』を呼ぶんですよね。


 確かに俺は昨日酒をしこたま飲んでました。

 自分の限界を乗り越えてこそ人生とかぬかして飲み漁ってました。

 完全にワタクシの自業自得でございます。


(痛い……頭痛い……)


 今苦しんでいるのも全て自分の蒔いた種です。

 そこから実った蔓が、自分の首を絞めている感触を確かに味わっております。


「だからあれほど調子に乗るなっていったのに。村の人達に乗せられて一気飲みなんか馬鹿な事するからよ。本当に見た目は小悪魔なのに、中身はいい年したおじさんね……」


 ほほ……女性の勘って本当に恐ろしいぜ。

 転生の話をしていないのに、痛い所ついてきやがる。


 深夜アニメをリアルタイムで見ていた時に。

 ポテチのお共に度々酒を煽っていた前世を思い出すぜ。

 勿論無職の糞ニートだったので親からせしめた金で買った物だが。

 いやあ、思い返せばよくよくオヤジみたいな20代でしたね。


「さあ、村長さんが見送りと一緒に用事があるからって門で待ってるわ。急ぎましょう」

「へぇへぇ……行けばいいんでしょ、行けば。もう……マジで頭痛いのに」

「じゃあ、酔い覚ましに湖で直接汲んできた聖水でも飲む? ここにあるわよ」

「貴方様は俺を殺す気ですか?」


 そうして結局。

 自分の勢い余った愚行で発症した頭痛に苦しめられつつ。

 下流へ流れる内に聖の力が少し薄まった町の水を汲んでもらい、酔い覚ましに飲水。

 それでも炭酸でも飲んだようなピリピリとした感覚を舌に感じはしたが。


 歩きながらも酷い頭痛を引かせたのだった。

 そうして、俺達二人は予め、今日に町を去ると告げていた為か。

 今更だが別れの挨拶もとい感謝の言葉でも告げたいのだろうか。

 ひとまず片づけを終わらせた俺達は門にて待つ町長の元へ向かうのだった。

 

 


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