1-12.変態が眠る間に
細分化前タイトル
『男は美女の話に弱い』
初掲載 2018/08/05
細分化前の投稿文字数 16512文字
細分化 2018/09/25
「…………………………」
……気に食わぬことが三つある。
この地で私が目的を果たし。
今去ろうと動くまでの間。
それまでに『三つの異変』を。
この身で感じ取ったのだった。
しかも、いずれも目には見えぬ。
気配というあやふやな存在が原因で。
(うむ…………)
私はこの高地より。
見える地上の風景を眺めていた。
夜という、天が闇へと移り変わりゆく。
このひとときの時間にて。
暗闇が大地を黒く染め、光が失われる闇の刻。
邪悪なる魔の者が徘徊するに相応しい時だからこそ。
……私は心地よく過ごせる筈だった。
(なんだ……この拭えぬ感触は……)
しかし、残念だったが。
そう心地よい気持ちに浸る訳にもいかなかった。
事が順調に運び、結果も目標以上になり回収でき。
これで気兼ねする事無くに次の場所に移れる。
次なる目的へと歩を進められると。
……そう当初は考えていた。
(やはり、今も消えている……どうしたというのだ)
私が不快に感じた理由の一つ目。
それはある気配の消失だった。
今回私が闇へと誘ったのは湖の守護者の名乗る小生意気な存在。
私は奴にとっての心の小さな隙を突き、邪悪に染め怪物へ変えてやった。
特殊な力を持つ者を堕とすには少し骨を折るが、それでも見返りは絶大。
あの少年姿の守護者は見事に強力な怪物へと変貌し。
目論見通り、自我を失ったように暴れてくれた。
戦う力を持たぬ愚かな住民共に向けて。
その強靭さにより甚大なる被害と恐怖を与え。
果敢に立ち向かった人間共も歯が絶たず意気消沈。
そして、その後に敗残者の多くは怯え絶望し町を次々と離れていった。
そうやって恐れ、逃げていった連中の。
そんな暗き感情の思念を集め、目的が達せられた後も。
守護者は消せぬ邪悪な気配を漂わせ続けていた。
(もしや……何者かに止められたのか)
だが……それが忽然と消えたのだ。
消失直後は何か間違いかと思えたが。
どうやら事実だったらしく。
何も感じなくなってしまった。
私が好む邪悪なる気を。
と、これが一つ目だった。
(だが……そう簡単に止められぬ筈だ)
次にこの一つ目と関連するであろう。
違和感の二つ目だ。
こちらも今となって感じた物では無いが。
現在も消せぬ不審な気配。
(……とすれば、あの気配を放つ者の仕業か)
恐らくこれは怪物を倒した。
その張本人が発したのであろう。
先程の邪悪な気配の話からは一転し。
今度は対照的に私が忌み嫌う聖なる気配だった。
これは太陽の直射から身を隠し潜んでいる時だ。
正確な方角、位置までは掴めなかったが感じた。
むしろ私が暗黒の者だからこそ。
ここまで過敏に、より強く反応したのだろう。
極僅かの時の流れの内で、膨大な聖の力に勘付いた。
(くそ……確かめておかねばならなかったか……)
それも……過ごした時の中で出会った者共とは違う異質さを。
これまでに出会い、殺してやった神聖を重んじる者共。
神官やシスター、刃向ってきた教徒たち。
また光の力を身に宿す魔法使いなど。
そんなゴミ共とは格が違う、寒気すら感じる強大な力。
(強引にでも外へ飛び出して、正体を把握しておくべきだった)
別に対峙した訳ではないが、妙に引っかかる。
だからと言って解決できるわけでもないのにだ。
継続して放出されている力であれば、すぐにでも痕跡を辿れる。
時間はかかっても力の主を探し当て、排除できる。
だが今回あくまでもほんの僅かな。
すぐに消えてしまう程だった為にそうはいかない。
現在は感じられない点も相まってさらにもどかしい。
加えてまだ、力を纏える様な手練れでは無く。
成長段階に過ぎぬ存在なのか。
信じたくはないがはたまた私の錯覚だったのか。
そんな出来事一つに拭えぬ腹立たしい感触に苛まれたのだ。
(……いや……まあ落ち着くのだ、私よ。成果は得られたではないか。後は去るのみだ)
しかし……長考の末。
私は敢えて一時それを放棄する事にした。
確かに気にならないと言えば嘘にはなるのだが。
では……感じたからどうしろというのだ?
気配が消えた以上、その軌跡は追えぬ。
反対にあまり捉われ過ぎても時間を無為にするだけだ。
目論見の一部がずれ、邪魔者が現れこそしたが。
こうして確かな結果は得られた。
我らの計画に必要な力の一部は手中に収めたのだ。
あまり欲に駆られ、無駄な行動を取り時間を割くのは得策とは言えない。
完璧に忘れる事はしなかったが、一旦保留にと。
そう冷静に割り切る事に決めた。
(さて……残るは)
そして……残った最後に三つ目の気配だが。
(いやいや、まさか……な。あり得ぬ事だ)
こればかりは確実に私の錯覚だろうと確信した。
そうだとも、最早『あのお方』が生きているはずが無い。
あのお方は我らが主『デミウルゴス様』が不治の一撃を負わせたのだから。
どうせ気のせいだと、それに関してはすぐに拭う事が出来た。
あり得ぬ事なのだ……。
(では、そろそろ移動するとしようか。太陽が出ぬ前に……)
そうして生まれた二つの違和感に己の答えでケリをつけ。
私は此度の成果を手中に去った。
同志たちが肩を並べる本拠地へと戻る為に。
人知れず暗闇の中へと姿を消すのだった。




