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1-7.変態は少女の胸を触り、殺されかけました※挿絵有り

『もうボス戦かよ』

初掲載 2018/07/29

細分化前の投稿文字数 22624文字

細分化 2018/09/24



 ムニュ。


(?)


 唐突だが。

 俺は顔に柔らかい感触を感じた。

 何とも言えない絶妙な感触を。

 温かく、弾力のあるその柔らかさを確かに顔が検知し、


(……ううん?)


 こうして目を覚ましたのだった。

 結局……あの声の正体は一切不明だったが。


(……どうやら今度は現実みたいだな)


 とりあえず夢からの脱却は出来た様だった。

 それはこの確かな感覚、感触や体の重さがそれを証明していた。


 そしてやはり。


(……でも……なんだったんだ)

 

 あれは夢だったのだと。

 意識が覚醒する中で改めて自覚する。

 まあ我ながら自分の頭の中が心配になるが。


 前世でもゲームの世界に飛び込むとか。

 飛ぶ能力を身に着けて空を飛んでいたとか。

 そんな奇妙な夢を見る事もあったし。


 今回も俺の類稀な妄想力が発揮されたと前向きに考えよる事にしようか。


(にしても、何だ? この感触は?)


 さて……では本題だ。

 ひとまず夢からは覚めた。

 そして、現実へ意識が戻り俺は安堵する中で次に探る事。


 それは……この感触について。


(柔らかい……温かい……なんだ?)


 …………もしかしたら。

 この時俺は何となく、片鱗的だったが把握していたのかもしれない。

 多分俺の本能的な部分が検知していたんだと思う。


(むぐぐ、息も段々苦しくなってきた。とりあえず動くか)


 その本能が働いた証拠に。

 すぐに目を開けなかったのが幸いしたのか。


 はたまた故意に『その行動』をしていると悟られない為か。

 だが…………後々、数分後位にこの行動は正解だったと後で思い知るとは。

 この段階の俺は思いもしなかっただろうが……。

 

(ああ……柔らかい……良い……気持ちいい)


 とりあえず呼吸を確保した後に動いた。

 あくまでも目は閉じたままで。

 顔を軽く左右に動かしてみた。


 すると……やはり柔らかい。

 そして心の奥から僅かな安心感すら覚える。

 ハッキリ言えば凄く癒されたのだ。


 それも。


(? ……二つあるな)


 感触は二ヵ所から感じる気がした。

 加えてまるで何かに挟まれている様な……。

 そう、その柔らかい物二つに……。


 二つに。


(ヘッ!?)


 あれ? 何だろう……。

 急に体温が……。


 認識した直後だった。

 数秒前まで癒しと共に。

 体もぬくぬくとしていた筈なのに。


(…………ガクガク)


 体の温度が著しく低下した気がした。

 それも洒落にならない程の低下具合。


 それこそ猛吹雪でも起こったのかと。

 背筋に氷をぶちこまれたかとかいう。

 生易しい次元の話では無くてだな。

 

 骨とか脊髄に直接氷を詰められた的な。

 さながら瞬間冷凍の様に血管が、細胞が凍っていく。


(ま、まさか……)

 

 それこそ身が表面から凍り付き、霜を纏う様に。

 体の内部の水分が気化し凍り付くかの如く。

 そんな滅多に味わえないであろう。

 急激で恐ろしい寒さに対抗しながら。


 俺は恐る恐る次の一手に移る事にした。

 目を開くという一手に。


 ……すると。


(あ……)

「……………………!?」


 ぱちりと。

 お目目を開いた先に広がる世界。

 この可愛い瞳にそれを入れた途端。


 俺は現状を把握した。

 把握出来てしまった。


(これって……)


 そうさ……よくあったじゃないか。

 興奮していたじゃないか、前世の俺よ。

 望んでいたじゃないか。

 スケベな日岐古守よ。


(多分……あれだよね)


 大好きだっただろう?

 よく立ち読みしていた週刊誌とかにもあったろう。

 周囲の目を気にしながら。

 そのシーンを脳に刻んでいただろう?


(黙れ、俺の欲望達。今それどころじゃ――)


 そんな要らぬ自問自答が脳内を巡っていた気もするが……。

 とりあえず、俺は結果的に目を開けたのだ。


 多分、殺されるだろうと強い確信を持って。

 そうして続いては。

 

(…………怖いが……よいしょっと)

 

 身を起こして、詳しい現状の把握を。

 例え確認の必要が無いと分かっていても。

 それがいかに無駄で役に立たないと。

 重々承知していても目を開けて見た。

 ……そうすると。


「あっ……な、なるほどね」

「コ…………コ…………コモリ」



 ああ、そりゃ納得するわ。

 こんな立派な『胸の間』にいればな。


 道理で柔らかいわけだ。

 道理で温かいわけだ。

 道理で…………これ程に。


 凄まじい寒気が……する訳だ……。

 やべぇ、マジ震えてきやがった。


「あ……ああああああ……ああああ」


 そう、俺が目を覚ましたのは、少女の上。

 アナスタシアの胸の谷間だったのだ。


 いつの間に? どうやって?

 何故に? なんで俺は!?

  

 と、俺は慌てて自問自答を何度も繰り返す。

 いくらスケベで、ド変態の俺だって。

 その理性はあった筈だ。


 ましてこれからもずっと旅をする少女。

 相棒である彼女に向けては、絶対しない。

 加えてチキンな俺からすればそれを実行する度胸すら無いんだから。


「お、おはよう……ございます。アナスタシアさん……清々しい良い朝ですね」


 と、とりあえず……俺はそんなぎこちない。

 挨拶、敬称を口走りつつその元をそっと離れた。


 ……これ以上誤解を生まない為にも。


 彼女の寝巻であるその縦セーターの上から。

 服の上からでも充分分かる、たわわなその胸元から。


「へ……へへへ……へへへ…………」


 羽を羽ばたかせ彼女の元から飛び上がり。

 まずは……相手の反応を待った。


 良い香りがしたとか。

 ふっくらとして柔らかったとか。

 なんかムラムラしてきたとか。

 やっぱり肩や足が見える縦セーターはエロいとか。


 そんな煩悩は脳内に保存して残しつつ。

 相手の動きを待ってみた。


「ああああああ……あああああ……ああああああああああああ」


 すると、そんな余りの出来事に。

 見た事の無い程に赤面し、『あ』としか言えない彼女を。

 さらに朝一番の出来事という事で。

 明らかに冷静を欠いているであろう彼女の動きを待った。


 …………えっ、弁明?

 それは……必要かい?

 言い訳なんて……無駄だ。

 今更無駄なのさ。


「い、いいいい……いいいいいい……いいいいいい」


 ほら、見てくれよ。

 とても聞いてくれるような状態じゃない。

 今度は『い』に変わったぞ。


 どれ、ひとまず。

 俺が今見えている光景を説明してみるとしようかな。


「いいいい…………」


 彼女は涙ぐみつつも。

 俺が頭部を擦りつけていた胸元を左腕で隠し。

 顔を真っ赤にしながら、残る右の手を開き。

 俺をひっぱたく為のビンタの準備に入っている。


(おいおい……ヤベェよヤベェよ)


 ……それも悪魔の弱点とも呼べる。

 聖なる魔力を込め、威力を底上げしてまで。

 その手を煌々と輝かせ。

 今にも振るいたそうにしているのが嫌でもわかる。

挿絵(By みてみん)



「……あの、あのね。ち、違うのね。これには深い事情が……」


 多分これは俺の生存本能が悟ったのだろう。

 無駄だと分かっている筈なのに。


 思わず……出しちゃった。

 苦し紛れもいい所の弁明が出ちゃった。

 それも内容はまるで漫画の主人公に似た常套句。


 だが……残念だ……。


 俺の見てきた作品でこれを吐いた人間が助かった記憶は無い。

 それでも必死になると、何とか和解を試みようと吐くものなんだな。

 まあ、勿論……助かりはしなかったが……。



「いやああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 バシィッ!!!!!!


「うごぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺の頬めがけて放たれたのは。

 力の制御など一切無い文字通り本気のビンタ。

 バシィッ!!! と自分の頬から音が確かに響き。

 まるでハリセンで殴られた様なしっかりとした殴打音が鳴り、さらに言えば顔の輪郭が変わる気すらした。


 バリンッ!!!!!


「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!」


 加えて事はそれだけでは終息せず。

 殴られるだけでは済まされなかった。


 文字通り……叩きだされた。


 一瞬ながらも勢いのある一撃を受けた俺は。

 勢いに乗ったままガラス張る窓へと。

 部屋のガラス窓を突き破っていったんだ。

 運悪く、それも三階という高所から!!


 そして……俺は。


(ああ……そうか。あれは漫画だからな。実際になると死にかけるんだな、うん……)


 ガラスを突き破り。

 地面へ落下するまでの咄嗟の間。

 そんな馬鹿な事を考えていた。


 純情な乙女のおっぱいに挟まれるという。

 大罪をお天道様が見逃す筈ない。


 いやむしろ死を持って償え、と天からではなく。

 死神から直接死の宣告を受けた気がするぜ。


「ぐおっ!」


 こうして憧れていたラッキースケベを体験した俺は。

 太陽差し込む温かい街路の上へと落下。


 しかし、幸運な事なのか。

 小さい体故か落下の衝撃は少なく。

 重症には至らなかった。


 そうして……ここで。

 やっと働きだした。


(ああ……あたたけぇなあ)


 自分の凍り付いていた血管が役を為し。

 体温が戻るのを感じるのだった。

 勿論、頬から来る激痛も覚えながら……。


(へへへへ、でも俺はダメだ……意識が……ああああ)

「はえっ!? なんだ!? なんだ!? 戦争か!?」


 そして必殺の一撃のおかげで。

 意識が遠のき始める最中。

 最後に聞いたのは慌てて飛び出して来た親父さんの声だった……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「くそー……まだいてぇよ」


 ……まだ頬が痛む。

 ズキズキと脈打つ様に。

 痛みがしっかり残っている。

 

 しかしそんなじわじわと来る痛みを。

 癒している暇なく俺は苦しみつつも進んでいた。


 虫歯の様に膨れた頬を擦りながら。

 被害者の巨乳少女アナスタシアと並ぶようにして町から出た道を進んでいた。


「本当に悪かった。でも何度も説明したけど故意じゃないんだ。本当だよ」


 今朝の騒ぎに一目散に駆けつけてくれた町長兼宿屋の店主である親父さん。

 その彼を仲介人として事情の対談の場を設けてもらい、軽い手当の後に俺は説明した。

 彼女の胸に挟まっていた事の顛末を必死になって伝えた。


「ええ、もう良いわ……私もやりすぎたし」


 すると第三者が介入した事からか。

 何とか彼女は冷静となり、話が進んだ。

 そうして、互いに状況の確認を何度か行った末に解決。


「でも……本当に変な夢だった」

「真っ暗の中で泳いでいたって夢?」


 それで今は事件の概要を改めて振り返り……恐らくだが。

 俺が見た夢が原因だったのだろうという結論に至った。


 そもそも俺が寝ていたのは。

 彼女が眠っていたベッドから離れた位置。


 部屋の大きさ的に一つしかベッドが無い為。

 本来なら荷物を入れておく籠の中で寝ていた。


 親父さんの計らいでタオルを敷布団代わりして、寝床にしたんだ。

 まあ……ペットに似た扱いを受けている気がしたが。

 気持ちよく寝れるだけマシな話であり。

 タオルの感触に慣れていき、安眠したのだった。


「そうそう、もう寝相が悪いとかっていう問題じゃないだろうけどさ……」


 そして夢については彼女にも顛末を話した際に伝えている。

 声が聞こえる暗闇の空間を泳いでいたと。


 そこで確証が無いのであくまで可能性の一つとしてだが。

 恐らく夢の中で泳いでいた時に体を浮かせて部屋中で宙を舞っていたのだと。


 その結果が寝ていた彼女向けてのダイブという。

 非常に嬉しくも痛痛しい末路を辿ったのだった。


「でも……貴方が嘘は付いてるように見えなかったわ。でも今回だけよ」


 けれど、そんな馬鹿馬鹿しい。

 自分でも信じられない内容を彼女は信じてくれた。


 彼女曰く、危機に瀕した時の俺の取り乱す反応や。

 事細かに話した夢の具体的な内容に対して。


 さらに自分が眠る前においても。

 籠で先に寝息を立てていた俺の確認もしているらしく。

 加えて胸の上の圧迫感を感じたのは昨晩からずっとでは無く朝だけであり。

 それも俺が意識も持って、目を開く少し前だという事などなど。


 そんな様々な部分が証拠となったらしい。


「まあとにかく誤解が解けて良かったよ」


 よって、今は何とか首の皮一枚繋げた。

 一瞬で白紙に化けた信用をこうして取り戻す事が出来たんだった。


「で、こうして誤解も解けたし暫く歩いた訳だけど、どうだ?」

「えっと……。そうね、大丈夫みたい。町長のおじさんはもう町へ戻ったみたい」


 さて……。

 まあそれで、そんなやり取りがあって。

 今は和解も成立した俺達二人だったんだが。


「うーん……そうだな」

「いなくなっているでしょ?」

「確かに……戻ったみたいだな」


 ある事を気にしつつ、足を動かしていた。

 俺達は現在背後へチラチラと目をやりつつ。

 世話になった町から南へと離れている。


 けれども普通に考えても。

 町を離れる位ならこんな仕草はしない。

 生まれ故郷から離れるわけでは無いんだ。


 汽車に乗り、里から離れる子供を。

 親や知り合い達が見送るドラマのワンシーンでも無い。

 そんな感動的な別れじゃない。


「じゃあ早速、怪物のいる湖へ向かいましょうか」


 ……こればかりは当人には気の毒と思うが。

 俺達が確認していたのは心優しい店主である親父さんの動向だった。

 笑いながら見送ってくれた人の『監視』が煩わしかった。


「オッケー、そうしますか」


 何故なら、今からやろうとしているのは。

 親父さんが治める町、プルミエルの救済。

 かつては賑わい、輝いていた筈の町が衰退した。

 その原因の排除だったんだから。


「目指すは確か北だったな。今更だけどドキドキしてきた」

「ふふ、そうね。怪物との戦いになるかもしれないしね。気合いを入れましょう」


 プルミエル繁栄の源であった湖から来る水の汚染。

 そして直後にはその流水すら滞り、水さえも消失。

 生活に困窮した住民は次々と町を捨てて。

 いつしかプルミエルは人が殆ど消えた町に。


(ボスか……。今の強さで勝てるのかな、俺)


 その黒幕は突如出現した怪物であり。

 話によると湖が汚染された後に姿を見せ。

 今はその水路を塞いでいるという。


 町を救うべく奮闘した兵士も返り討ちに遭わせ。

 もはや挑む者も消え放置される羽目に怪物ボスを止める。

 もしくは倒すのが今回の目的だった。


 それにつき親父さんが監視していたのは。

 町を離れる俺達が湖へ向かわないようにする為。

 危険地帯へ向かわせない為の足枷だったのだ。


「さあ、行くわよ。コモリ」

「へぇへぇ……まあ、今更ビビっても仕方がねぇよな」

「ええ、早く行って倒しちゃいましょう」


 ほほほ……本当にお気楽な勇者様だこと。

 その勇気をビビりの俺に少し分けてくれよ。


 とまあ俺達はそうして町を救うべく。

 監視を免れる為の偽ルートから意気揚々と正規の湖へ。

 真逆ととれる大幅なルート変更で進路を変えて。

 俺は彼女と共に件の湖へと向かうのだった。


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