1-6.変態は誰かの声を聞きました
細分化前タイトル
『もうボス戦かよ』
初掲載 2018/07/29
細分化前の投稿文字数 22624文字
細分化 2018/09/24
【助けて……】
夢の中。
【助けてくれ……】
……声が、聞こえた。
夢だから意識があるのかどうか不明だが。
俺は真っ暗な光景広がる夢中で確かに声を聞きとった。
【誰か……誰か……】
やがて。
それは鮮明になって聞こえてくる。
助けを乞う、知らぬ存在の声が。
最早テレパシーの類では無いのかと感じる程に、
【助けてくれ! 助けてくれ!】
と何度も俺の聴覚を刺激する。
(…………一体……なんだ?)
それで聞こえたところでまだ理解が追い付かない夢の最中。
何が何やらと困惑を隠せなかったが。
俺は、動くことにした。
ひとまずその暗闇でもがいてみる事にした。
まるでプールに潜り、泳ぐように。
声のする方へと、その両の手を掻き。
掻いて掻いて、ひたすら掻きまくって。
(遠いな……まだ泳がないとダメか)
自分の夢の筈なのに苦労しつつも闇の中を進んでいった。
【誰でもいい……を】
暗中模索とは、まさにこの事。
はたして自分が何処へ向かっているのか。
はたまたこの方角が正解なのか。
そもそも何処にいるのか?
そんなの俺が知る由もない。
けれども……一つだけ確かな事はあった。
【誰か! 助けてくれ!】
適当に進むにつれて声が大きくなってきた。
まあそもそもこの悪魔のボディの何処に音を聞きとる耳が付いているのか。
(聞こえる……近くなってきてる)
いやまあ、それ以前に。
転生してからここ数日どうやって言葉を聞いていたのか。
今更そんな構造の事を気にはしていたが。
この際は正直どうでもいい、異世界なら何でもアリじゃねと心底思う。
「もう誰だっていい! 僕を救ってくれ! もう僕は保てない……早く…………」
(!? 近いぞ! 声はこの辺の筈だ!)
だからそんな超理論でくだらない疑問を消しつつ、夢中遊泳していると声がかなりハッキリとしてきた。
加えて、その声から相手の姿の予想もできた。
あくまで予想に過ぎないが、何となくで。
男の声だ。
少年の声だ。
それもまだ声変わりしていない若々しい声。
(でも、何処なんだ。近い筈なのに)
そんな細かな情報を糧にしつつ。
俺は只々声の主を探した。
(声があっても姿が見えない)
だが、こんな黒一色の空間では。
予想している少年姿を確認出来ない。
泳いでも泳いでも、何も見つからない。
(……仕方ない。もう少し深く進んでみるか)
でも、声は近いんだ。
きっとあと少し時間をかければ見つかる筈と。
俺はそう信じて、変わらず泳いで捜索を続けた。
余り大きく腕を振るわずに。
近辺に的を絞り泳いだ。
すると。
………………………………。
…………………………。
………………。
(? 声が止んだ?)
あまりに突然だった。
急に止んだんだ。
聞こえていた少年の声が。
まだ幼さが残る声がピタッと。
いきなり止んでしまった。
理由も勿論一切不明で。
俺は何も分からないまま、その忽然と消え失せてしまった声に、
(本当に……訳が分かんねぇな)
そう声は出なかったが。
解決できぬ疑問だけを残した。
これが最早夢なのか。
そこすら怪しくなってきた。
自分の脳に危機感を覚える様な謎の時間。
違和感塗れの意味不明な時を。
俺は眠りの中で過ごしたのだ。
(気味悪いし、目を覚ますか……)
そして静寂に満ちた。
こんな不気味な空間で孤独感を覚える前に。
俺はもう一度瞳を閉じてこの夢から覚めるべく意識を強めるのだった。