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1-4.変態は町を救う決断をしました

細分化前のタイトル

『ついに始まった冒険』

初掲載 2018/07/22

細分化前の投稿文字数 20673文字

細分化2018/09/24


「もう……ウンザリだわ……あっちでも水、こっちでも水買えって」


「分かるぜ。俺だってお前の隣にいたんだ。でもどんだけいるんだよ、水商人……」


「これが噂に聞く水商売・・・……ってやつなのかしら?」

「こら! 乙女がそんな下品な言葉を使うんじゃありません! ったく何処で覚えたんだ!」


 ……文字的にはあっているが。

 意味合いが全く違う言葉に俺は彼女へそう促す。

 どういう意味かは……辞書で引いてみるといい。


 とまあ……とにかく今この町で起こっている。

 この水の価格高騰の理由は至ってシンプルだ。


 それは需要があるから、必要とされているからだ。

 この町の水不足は言ってしまえば砂漠と殆ど同じ。

 水を入手したくても手に入らない。

 だが手にしなければ、食い扶持の作物を育てられない。


 いや、それどころかこの食物の枯渇状況を知れば。

 それこそ水だけの問題では無くなり、大抵の商人であれば高価格で商品を流しに来る。


 世の中は残酷だ。

 相手だって儲からない商売はしない。

 だから不足しているこちらからすれば。

 野菜、穀物、肉に至るまでなけなしの金をはたいてでもそれに縋りつくように買うしかない。


 だからこそ絶好のカモが釣れると目を付けられたに違いない。


「……でもだからといって、町を離れる訳にもいかないし。今日はこの町に泊まるしかないわね。夜は危ないもの」


「そうだな。まあ流石に奴らも宿泊している部屋までは売りつけには来ないだろうし。明日に備えようぜ」


 そして広い町中の探索を終え、日も既に暮れ始めた頃。

 俺とアナスタシアは町で唯一営業していたこの宿屋で、夜をやり過ごすべく留まっていた。


 前世では夜に出歩こうが。

 コンビニで課金の為のカードを買って帰ろうが。

 たまに警官に見つかり職務質問程度で済んでいたが。

 どうやらこの世界では勝手がまるで違うらしく。


 夜はモンスター達の動きが活発化。

 おまけに稀に狂暴なモンスターも出現するとアナスタシアに注意を促された。

 それも弱い俺なんかは、モンスターの飯にされる羽目になるとまで強く警告されてしまった為。

 こうやって、夜は可能な限り安全な場所でやり過ごすようにしていた。


「それにしても……町の様子は散々だったな。宿屋も他は全部閉まってたし」


 それで今は店主のまかない料理を待つ間。

 俺ら二人は長時間かけて回り、見てきた様子について改めて話し合う。


「ええ、でもそれ以外にも食品を取り扱う店の殆どが閉まってたわ。牧場だって数匹の馬だけで、牛や豚もいなかった。加えて育てている作物もロクに無かったわ。だからもう町としては壊滅的よ」


 町の酷い荒れ様を見た彼女は俺にそう告げる。


 そう……農作物は何も人の口に入るものだけでは無く。

 それを使っての畜産だって勿論ある。


 俺がひとまずここまでで確認できた家畜でも馬、牛など前世の日本とそう違いの無い生物。


 多分、馬は基本的に運搬用だろう……一応馬刺しなど肉としても十分に食べられるが、この世界には馬を食べる風習が無さそうなのでこれに関しては一応保留にするとしても。


 牛に関してはアナスタシアと話し知識を共有した際にほぼ相違は無かった。

 一部の特殊な闘牛を除いて乳も搾れて、案の定食肉としても重宝しているそうであり。

 鳥なども同様に食用家畜としてはあっていた。


「私の故郷は環境としても恵まれた田舎だったから、不便さは感じた事なかったけど、まさか水が無いだけでここまで酷い事になんて……」

「ああ、俺も自分の目で見た事は無かったよ。ここまで酷い事になるなんて」


 こればかりは……確かにその通りだ。

 ネットで齧った程度の知識だが。

 人間は水さえあれば一か月は生きられるという。


 だが逆に水無しの場合はその半分。

 いや4分の1以下の4~5日で死亡する。

 水道を捻ればドバドバと溢れ出る現代では、ほぼ学べない水の重要さだった。


(災害で水道が止まって苦しむ人ってこういう感じなのかな)


 無くなってこそ身近な物の大切さをしみじみと感じる。

 当然の日常という平和が崩れた時にこそその存在の大切さを噛みしめる。


 と、そんな何処か達観した偉人みたいな。

 自分に似合わない考えを巡らせている時だった。



「はいよ! お待たせ!」



 ドン! と音をあげて。

 俺達のテーブルに食事が置かれた。


「お、親父さん……」

「ハッハッハ! 何をしょぼくれてやがる。ひとまず飯食って元気出しな!」


 そう町の様子にそぐわない。

 明るい笑い声をあげて、持って来てくれたのは店主の男性だった。

 頭頂部の禿げ具合が何とも言えない、ピカリと煌めきを持つエプロン姿の髭親父。


「久しぶりの客だ! 遠慮せずに食いな!」


 それも……店に入った時点から。

【おお!! いらっしゃい!!】

 そんな覇気のある第一声のおかげで明るい人間だと感じていたが、案の定思い通りだった。


「お代はサービスしてやるぜ! 但しお代わりは無いからな。がっついてから親父! お腹空いた! とかぬかすんじゃねぇぞ。ガッハッハッハ!」


 性格的には店を構える主らしく。

 おおらかで非常に好感が持てる主人。


 客への態度についても同様で人種等を気にしない器の大きい人物に見える。

 それを証拠にモンスターの俺にも、


「わざわざ俺の分まで……」

「ああ! 相手が誰だろうと、泊まるのなら立派な客だからな! モンスターだろうと悪魔だろうと、飯は平等に作ってやるぜ!」


 こうして分け隔てなく食事を作ってくれた。


「名付けて『禿げ親父特製! 珍味ブラック豚のポークカレー』だ。肉も下ごしらえから力を入れたから、是非とも感想を聞かせてくれ!」

(禿げ親父って自分で言うんですね……)


 敢えて苦笑いでスルーしたが、どうやら禿げ親父というのは愛称らしい。

 まあ、ひとまずそんな禿げ親父さんはそうメニュー名を告げると、

 

「俺は後片付けしてるからな! 何かあったら呼んでくれ!」


 そのままキッチンへと戻っていった。



「「じゃあ、いただきます」」



 そうして俺達は親父さん特製のカレーに手を付ける。

 体格的には大きさで体の不便さを感じつつ、わざわざ椅子に何冊か本を重ねかさを増してもらった上での食事。


(異世界初めてのこってりした料理だ……楽しみだぜ)


 手元のスプーンを片手に良い香りがするルーと白飯をすくい。

 その口元へ近づけるだけで温かさを実感できるカレーを。


(はむ……)


 口へ含んだ。


 すると……。


「! このカレー美味しいわね」

「ああ、旨いな!」


 具は肉、ジャガイモ、ニンジンの三種類だけ。

 非常にシンプルな見た目をしたカレーだった。


 しかし、一口味わっただけでその旨さを実感。

 それも正面に座るアナスタシアと共感できる程で、


(うーん! 旨辛だ!)


 その良く煮込まれた焦げ茶色のルーより。

 舌が感じるのは香辛料の僅かな辛さ。

 甘すぎず、辛過ぎず、数口含んでから飲み物が欲しくなる丁度良い加減。


(この肉も上手い!)


 具の肉についても噛み応えがあり、味も濃く旨い。

 ブラック豚と名前通り、見た目こそ焦げたような。

 黒っぽい色をしていたがそれが気にならない程で。

 大きさ的にも角煮のブロック肉に似た一口一口にボリューム溢れる満足感。


(具材も旨いけど……この米も、なんだ? 食った事ねぇぞ)


 そして……最早。

 ここまで来れば白飯に至っても旨い。

 米なんて全部一緒などという妄想は打ち砕かれた。

 多分、かまどなどで丁寧に炊き上げられたのだろうか。

 前世において安物の炊飯器で、安い米を焚いた時とはまるで違い。

 水でべちゃべちゃとせずに米の一粒一粒が主張する様に炊かれている。


「やべぇ……一気に食べきってしまいそうだ」

「私も……久し振りに食べたわ」


 とどめにはルーもしっかりと混ざり。

 都会などの専門店で出てくるスープみたいな。

 さらさらとしたカレーでは無く、家で作る少しドロリとした重みあるルーが、


(うおぉ……丁度お腹いっぱいになってきた)


 この空腹をしっかりと満たしてくれた。

 まして町の探索で歩き疲れて、腹が減っていた俺達にとっては特に有難かった。



「「ご馳走様でした」」



 という事で。

 親父さんの言っていたもっと食いたくなるという。

 絶えない空腹感と急く気持ちを何とか抑えつつ。

 ゆっくりと噛んで味わい食べ終わると。



「おーおー、こんなに綺麗に食べてくれたか! どうだった、味の方は!」



 俺達がカレーに舌鼓を打っている間。

 キッチンの片づけを終え、気が付けばカウンターにて。

 新聞片手に、こちらの様子を気にしていた親父さんは完食を見計らってか、彼は食器を下げる為に来てくれた。


「とても美味しかったです。ありがとうございました」

「禿げ……親父さんの料理、凄く旨かったぜ! こんな旨いカレー食ったの初めてだ」


 自称か愛称かはともかくとして。

 そう口にしかけた言葉を止め、素直な感想を述べた。

 対して、店主はその言葉に笑顔の上からさらに顔をニコリとさせると、


「はっはっはっは! そうかそうか! そりゃ良かった! もう『材料』があんまり無かったからな。最後に喜んでもらえて嬉しいぜ! ガッハッハッハッハ!」


(うん?)

「えっ?」


 気の良い店主らしく。

 外にも響く様な大声をあげて喜んでいた。

 けれども……俺達はその言葉が気になり、


「店主さん、今の言葉って」

(材料? 最後?)


 思わず尋ねてしまったんだが……。

 それはすぐに察する事が出来た。


(あっ……そうだった……)


 ……いつからか。

 様子や人気ひとけの無さなど町の事ばかり意識が行き。

 そうした生活感があまり感じられない中で。

 平然と営まれているこの宿について。

 他がおかしいとばかり感じてあまり違和感を覚えていなかったが、


「ああ、そうだぜお嬢ちゃん。残念ながら今日のアンタ達が最後の客だ。蓄えていた【材料】も【水】もついに底を尽いちまってな。もし今日も客が来なかったら、俺が食ってもう店仕舞いにしようと思ってたのさ」


 そう……おかしいのだ。


 こんなさびれた町の中で。

 営業している方が『異常』なのだ。


 まだ水を高値で売りつける悪徳商人がいるとはいえ、客足は少ないのも想像がつく。


 それに俺達が口にしたカレーの米や水、野菜、肉もこの町で育てられたであろう生産物だ。

 加えて俺達が喉を潤す為に汲まれたグラスの水もだ。

 その供給が絶たれた以上、余裕がある筈がない。

 苦境に立たされているのは間違いないのだ。


「少し前まで全部が上手く回ってたんだがな。水が悪くなってからはもう最悪さ。本職の傍らでジジィから受け継いだ宿屋を営む事が楽しみだったんだが。まあどうしようもねぇがな!」


 それは……多分諦めていると表すのだろう。

 そうなると俺が見ているその店主の豪快な態度は。

 何処か悲しさを誤魔化す為のフェイクに見えなくもない。


「……そう……だったんですか」

「はっはっは。悪かったな、湿っぽくなっちまって。まあ、気にするな。別にアンタ達のせいで大元の湖がおかしくなった訳じゃねぇ。気にするな! 二人の部屋は二階の203号室だ。ちょっと飯の休憩を挟んだら、今日聞いた事は忘れて眠りな!」


 すると彼は表情を重くするアナスタシアに向けて。

 そう話題を変えて、皿を運んでいった。


「フンフン♪ フンフン♪」


「……………………」

「……………………」


 ……久しい『外』からの客の来店に相当心が弾んだのだろうか。

 それとも最後のもてなしを出来た事に満足したのかは、深くは読み取れないが。

 鼻歌交じりで意気揚々に皿を運び去る大きな背中を俺と彼女はただ黙って見ていた。


(あの親父さん、相当精神強いな)


 どこまで悟れば、あそこまで気楽になれるのか。

 長年親の金だけで生活し、ダラダラとニートをやっていた俺からしても驚きだ。

 職歴無しという大きく煩わしい肩書が時折、俺に悪夢を見せる事があるのに。


 ニートで勝ち組余裕だわ、とか強がっていてもうなされるのに。

 あそこまで達観できる人間にたどり着いてみたいとまで感じさせてくれる。


「ねぇ……コモリ。 少しいいかしら?」


 そう漢気溢れる店主の行動に憧れていた時。

 アナスタシアが横から頬をツンツンと突いて俺の気を惹かせる。


「どうしたんだ?」


 彼女の方へ向き直し、俺は尋ねる。

 なにかもの言いたげにモジモジと。

 まあ、その仕草も可愛いんだけどね。


(はっ!? まさか……)


 尋ねつつもその愛らしさに見惚れていた俺は考える。

 このタイミングで声をかけてきたという事について……。

 まさか……まさかそんな事は無いだろうと高を括りつつも。

 ここから……ここからが……俺の楽しみだっていう時に。


(まさか……な)


 今更、『別の部屋で寝てくれ』なんて言うんじゃないだろうかと。

 湧き立つスケベ心はある程度抑えていたんだ。

 別に距離感を置かれる様な行動はしていない……と信じたい。

 そこで俺は彼女の抱いている誤解というか不信感を払拭する為に言ってやった。



「アナスタシア安心しろ! 大丈夫だ! いくらお前が可愛くて、スタイル良いからって何もしないから! 大丈夫! ちょっと寝顔の観察とかするだけだから! 本当だから! お前の見えない所で少しニヤニヤして喜んでいるだけだから!」



 ハッキリ言ってやった。

 何か心の声が混じった気もするが、まあいいだろう。

 ここまで来て、一緒の部屋で寝れないなんて嫌だ!


 いくらチキンな俺とはいえ、その寝顔を、その姿を観察しない訳にはいかない!

 その為にも俺は必死に身振り手振りも加え彼女が答えるより先に答えを述べた。


「……全然違うわ。ていうか、昨日寝ていた時に視線を感じると思ったら貴方だったのね」


 ……しまった、正直に言いすぎた。

 転生して一日目の夜に近場の村で小屋を借りて泊まった時の行動がバレてしまった。


 だが……彼女はその真相に若干頬を赤くしながらも。

 俺に怒りを見せる事なく、あくまで恥ずかしがるようにして話を続けた。


「もう……まあ昨日の事は一旦置いておくとして――」


 そこは置いといて良いのか。

 てっきり殴られるかと思ったけどお咎め無しなんですね……助かった。


「ゴホン、今日町を回ってた時なんだけど、この町の北側から邪悪な気を感じたの。もしかしたら何かの異変が起こっているのかもしれない。ひょっとしたらお告げと関係があるのかも」


 すると……彼女は真面目な話に切り替え。

 勇者としての勘が働いているのか。

 彼女は今日の探索で気が付いた事を俺に教える。


 聞いていた水の異変もさることながら、

 自身が感じ取った邪気と何か関連しているのではと。


「お告げ……か。これも闇の覇王復活の前触れって事か?」

「ええ、それに困っている人をこのまま見過ごすわけにもいかないわ」


 お告げ。


 それは勇者の末裔である彼女が冒険へ出た目的。

 そして俺が彼女と冒険したいと感じた理由の一つ。


 主な内容としては。

 闇の覇王というラスボスらしい存在が復活するという兆し。

 かつて世界を我が物にせんと強大な力で暴れ回ったとされる『デミウルゴス』。

 そいつが千年の時を越えて現在復活を企んでいる事が判明し、それがお告げとして彼女へ渡ったという話だ。


「じゃあ、魔物の仕業って事か。でも何だか荒っぽい事になりそうだな」


 加えて只復活を謀っているだけでなく。

 己が復活した時に征服をより円滑に進める為か。

 世界中に配下の魔物を配しているのだという。

 だから今回の元凶はその『魔物』が一枚噛んでいるのではとアナスタシアは気配から察知したのだろう。


「邪悪な気配が確かなら、その可能性は高いわ」


 と、俺の発言に彼女は表情を険しくして告げた。


「……そうか」


 ……ぶっちゃけた事を言うと。

 ここまで倒して来た雑魚モンスターはまだ弱かった。

 転生して、ゲームで言うレベル1の様な俺でも戦えた。


 捨て身の体当たりや道中の商人から貰った古びた棍棒で殴れば充分に勝利。

 だんだん自分が強くなるのを実感できた。


「まだ分からないけれど……覚悟はしておいた方が良いわ」

「そうだよな……そりゃ覚悟要るよな……」


 だがそれがもうボスモンスターらしき存在と対峙すると、


「モンスターとはまた別の気配よ……きっと強いわ……」


 気配の強さからもそう言われた。

 故にまだまだ弱い俺は不安に襲われた。

 そんな奴に果たして勝てるのかと……。


 試験で例えるなら。

 中学生に高校生のテストを受けさせるような無謀さだ。

 毎日懸命に勉学に勤しみ、更に自力でその一歩先のレベルへ到達する様な勉強熱心な奴。

 そんな生粋のエリート君でもないと無理だ。


(死ぬかもしれない覚悟か……)


 要するに越えるべき壁が高すぎるんだ。


 それに、たとえ。

 その壁をよじ登る勇気があったとしても。

 登る途中で何かトラブルが起これば終わり。

 落ちて高さ的に最悪死ぬ事に加えて、決断する時間も少ないときている。


 呑気に戦闘を繰り返して体を戦闘に慣らしている余裕も無い。

 すぐに行かねば、完全にこの町は終わってしまう。



「…………どう……かしら?」



 だから……。


(…………仕方ないな)


 俺は……決めた。

 返答に期待する彼女へ向けて。

 長考を挟んで、答えを言った……。

 俺の本当の気持ちを……。



「よし! やろう!」



 すぐに答えを編み出し。

 そう返答を口にした。


 そんな無謀という壁が立ちふさがる中で。

 アナスタシアに向けて素直な自分の意見で返答したんだ。


「悪い奴の仕業なら仕方ない、まずは原因を知ろうぜ! 戦うとなったらその時だ」

「……相当危険よ……いいの?」

 

 確かに危険なのは目に見えているし。

 下手すればもう一度死ぬかもしれないだろう……。



 ………………で?



 だから?


 高い壁がどうした?

 何か問題があるのか?

 登るのが怖いのか?


 急な展開は冒険の醍醐味だろう。


 だから俺は物おじせずに。

 確認を入れる彼女の手助けをする為にと。


「ああ、構わないぜ!」

 力強く彼女の質問にそう答えた。


 逃げる?

 そんな選択肢は最初から考えの内にすら無い。

 頭にあるのはこちらの美少女への支援だけ。

 欲望たっぷりと罵られようと結構。

 だって俺悪魔だし、欲望で出来ている様な存在だ。



「流石は優しいコモリ! そう言ってくれると信じていたわ」

(ああ、たまらねぇ! やっぱり美少女のハグは最高だな!)


 さらに……彼女は喜ぶと。

 俺をこうしてギュッとハグしてくれる。

 もう、これだけでもやる気と力がモリモリと湧いて来る。

 それにだ……。


(そもそも俺に選択の権利など無いんだ。下手をすれば一日目に野獣か何かに襲われて、野垂れ死んでたかもしれないしな)


 金髪の美少女で性格も真っ直ぐの非常に好感のある彼女との出会い。

 この奇跡の遭遇を逃す手は無いし、捨てる気も無い。

 だからこそ、俺は彼女に付いて行くんだ。


「うへへ、それほどでも……」


 きっと……この時の俺は表情豊かな人間の面だったら。

 相当、引く位に下衆な顔をしていただろうに。


「おやおや、随分と仲が良いみたいだな」


 とイチャイチャする間で。

 敢えて空気を読まなかったのか親父さんが戻って来たと思いきや。


「そんな所悪いんだが、もう夜も更けって来てやがる。明日に備えて寝たらどうだ。それでもうこの町からは去った方が良いぜ」


 彼は窓から見える空を指さすと。


「うわ、本当だ。いつの間に」

「完全に夜になっているわ」


 いつの間にか満天の星空へと移り変わっていた。

 ……すると、一応住人はまだいたのか。


「あれ? 一応住民はいるみたいだな」

「あら、本当ね明かりがついている」


 見える景色の中。

 目に入る幾つかの民家にはまだ誰か住んでいるのか明かりが灯っていた。

 とはいってもほんの数は僅かではあったけど、


「……ったく、今日も町から出た方が良いって勧めてやったのに……頑固な奴らだ」


 対して親父さんは多分、独り言だったのか。

 意識を彼へ向けていなければ聞こえない位の小さい声量で。

 さらに、さっきまでのにこやかだった表情から笑顔が消え。

 俺達と視線を同じくして、そう呟いていた。


(親父さん…………やっぱり)


 先までとは一変して。

 町の寂しさを思う様な悲しげそうな表情だった。


 と……そのうえで。

 これを聞くのは酷だと躊躇いはあったのだが……。


「あのさ、親父さん」

「うん? どうした小悪魔」


 この町の惨状の原因についてと。

 アナスタシアが気がかりにしている邪気の正体。

 彼女の言葉を代弁する様に俺は尋ねた。


「この町の異変について教えてもらえないか。何か手助けが出来るかもしれない」


 事件の詳細についてを。


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