#10 カズナリとタケオ
――空手道場
「あの……タケオさん」
「……」
タケオはさっきから顔をうつむいていた……というのも、ついさっきまで村長との勝負が繰り広げられていた。そして勝負の結果は…タケオの様子を見るとわかるだろう。村長は先に家へ帰り、今はチヒロとタケオの二人が残っていた。
「俺、二人とも凄いなって思いましたよ 最後までどっちが勝つか予想できなかったです」
「……お主」とタケオがようやく口を開く。
「はい?」
「お主は空手をやっているか?」
「え、はい。やってます……」
「空手は楽しいか?」
タケオは、俯きながらチヒロに問いかける。
「そうですね……友達と一緒に楽しくやってます」とチヒロが言うと、タケオは「そうか……」と返す。
「また村長と勝負はするんですか?」
「……わからん」
「そうですか……」
「しかし、アイツは昔から変わってなかったな。あの身のこなしは……」
タケオは目を細め、遠くを見つめるようにそう呟く。そしてチヒロは、この機会に聞いておこうとしていたことがあった。
「あの……村長ってどんな人なんですか?」
「ん?そういえばお主はジョウジとはどんな関係なんだ?」
チヒロは、そういえば自分のことについて話していなかったことを思い出す。
「えーと、俺は……」
チヒロはこれまでの自分のことについてを話した。タケオは腕を組みながら、真剣にチヒロの話を聞いていた。
「なるほど、そんなことが……」
「はい…あれ、そういえば俺が『人間』ってことについて驚いてないですね?」
チヒロはふと思ったので問いかける。
「それはまぁ、『人間』という種族を見たのはお主が初めてじゃない……といっても、ワシも2,3回ほどだが」
「そうなんですか」とチヒロは納得する。
「……チヒロ」
「はい?」とチヒロがタケオの方を見ると、タケオは俺の頭の上に手をぽんと置き「早く記憶が戻るといいな」と優しい口調で言った。チヒロは、この人はやっぱり優しい人だと思った。
「そういえばカズナリのことだったな」
「あ、はい!」
「あいつはな……」
それからタケオは村長のことについてだけでなく、空手についてのこともチヒロに話していた。話しているうちにすっかり日も落ちていた。
「おっと、そろそろ帰らなければな」
「そういえばリキさんってどこに泊まってたんですか?」
「海沿いのあたりで野宿をしている。じゃあな、チヒロも早く帰りなさい」
タケオが海沿いの方へ向かおうとしたとき、チヒロはあることを思いついた。
「タケオさん!」
「ん?」
――村長の家
「ただいまー」
「お帰りー」
「じゃまするぞ」
「はい、いらっしゃ…………え?」
チヒロのその言葉に村長がパッと振り返る……。
「何で!?」
村長はいまだにこの状況を理解できていないようだ。
「タケオさんしばらくウチに泊まるから」とチヒロが言うと「何言ってんだお前!?」と村長がすぐ言葉を返す。
「野宿をしていたのだが、チヒロがこの家に泊まっていけばいいと言ってな」
「い、一泊……?」
「しばらく休暇をとったからな……三日ほどはここにいる予定だ」
村長は唖然としていた、そして今にも泣きそうだった。
……余談だが村長はタケオが家にいる間、再び悪夢にうなされている村長の寝言が聞こえたそうな……。