表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長閑な世界で戦争をしよう。  作者: 一色 遊貴
一章 幼少期編
6/64

6話「敵わない相手」


◇訂正とお詫び◇ (H31.03.23)


前話より基本属性に入っておりました『土属性魔法』ですが、『地属性魔法』の誤りでしたので訂正しております。

ご迷惑をおかけいたしましたことお詫び申し上げます。

今後の文章にも間違いがある可能性もあり、見直しております。ご理解のほど、よろしくお願い致します。





「ボクの婚約者になってください!」


 そう詰め寄ったマリウスをいち早く止めてくれたのは、彼のご両親だった。

 まあ、そりゃそうだよね。だってオレ、紛いなりにも王女様だよ?

 けれど、事態はそんなに簡単なものではなかったらしい。


 あの後、ディヒバリウス夫妻と、マリウスを交えてお茶会をした。基本的に、オレへの質問会の形になっていたような気もするが。



「姫様、お城では普段、何をなさっているのですか?」

 と旦那様が聞かれると、

「弟とともに魔法や座学を教わっております」

 と今後の予定を答え、


「ご趣味は?」

 と奥様が聞かれると、

「魔法の研究や菓子作り」

 と前世の趣味を答えた。


 つっても、前世は魔法を使えなかったから、本当に研究してただけだけどね。

 リィアリスの身体になったからには徹底的に実験してやる。


 だがしかし、王室の姫君としては、この上なく良い答えを出してしまったらしい。

 勤勉で、努力家。その交わした雑談である程度の知力があることもバレただろう。

 気品さも忘れなかったから、その辺のご令嬢にも負けない自信がある。


 しかし、オレは忘れていたのだ。

 そんな自信なぞ、必要が無いことに。


 帰り際に一言、当主がオレに向かって言った。


「私どもも、息子と姫様の仲を応援したいですな」


 その時になってようやく、目的を思い出した。

 オレのやるべきことは、まともな姫君を演じて王家の株を上げることじゃない。

 あのマリウスとご両親に、それとなくその気にさせないようにすることだった。


 と言ってもまあ、マリウスは手遅れだったろうな。

 一目見た瞬間、リィアリスに見惚れてたし。

 だがご両親については、オレが反省するしかない。



 向こうもリィアリスも、まだ六歳。

 しかし婚約は、早い時で生まれる前から決まっているということもあり得るらしい。

 オレは夕食や入浴が済んだらすぐ、父に話しに行くことを決意した。




 コンコン、


「失礼します」


 今朝来たばかりの執務室に入ると、机の上に山積みになっていたはずの書類の一切が、無くなっていた。まさかこの男、オレと話すために仕事を全部片付けたんじゃないだろうな……


「よく来たね、ちゃんと約束を覚えていて偉いよ」


 約束とはあの今朝の3項目のうちの3つ目のことを指しているのだろう。

 だがそんなことよりも……少しだけだが疲労の色が見える父親にオレは、やっぱり、と嘆息を吐いて。


「お父さま、休むことも仕事のうちです」


 とそう言って、地魔法を応用しコップを作り、水魔法と火魔法で白湯を注ぎ込む。

 即席で作った割には、良い加減に湯気が立っている。上出来だ。


「一息ついて下さい、ね?」


 オレは少々お節介かな、と思いつつも実の父親にそんなこと関係ないとコップを差し出した。

 父は驚きつつも受け取って、ぐいっと飲みきる。


「……美味いな」


 わずかに顔色が良くなった父を見て安心すると、流石にオレも一日の疲れがどっと出たようで、へたりと床に座り込んでしまった。


「ご、ごめんなさい、お父さま……」


 そう言って父を見上げると、優しい顔をした父が、軽く手招きをした。

 ちょうど昨日、オレがミシェルにしたような動作だ。

 膝に座れ、そういうことか?

 迷いながらもオレがちょこん、と膝に乗ると、白湯を渡した時のように嬉しそうに微笑んでくれた。

 父親の暖かさを知らないオレも、嬉しいと思える出来事だった。


「さてリィアリス、今日はどうだった?可愛い拾い物もして来たようだけど」


 そう言って父の視線は、シャルルに注がれる。

 シャルルはビクッと身体を揺らすと、さっとオレの膝の上で組んだ手の中に隠れる。

 シャルルが怖がるのも無理はない、この親父はどこか底知れぬ力を持っている気がするし、やたらと勘がいい。


「シャルルというの、お父さま。私が育ててもいい、かしら?」


 膝の上という位置から、なんとなく上を見上げる。

 父は興味深そうにシャルルを見つめると、ある結論を出した。


「この姿、この瞳…もしかすると、龍族の…赤子かも知れないね」


 えっ……。

 この親父、鋭すぎない?

 心臓がバクバクなるのを抑えながら、なんと誤魔化そうか考える。


「お父さま、シャルルは無害ですし、龍がこの国の中にいるのも信じられませんし。なによりこの子、とても人懐っこいんです。ダメですか……?」


 まあ、子供じゃないけどな…!

 この国がやこの世界がオレやこいつに害をなさない限り、シャルルの出番も来ないだろうし。

 父は長い思考の末、ため息をついた。


「仕方がない。リィアリス、責任を持って面倒をみるんだよ」


「ありがとう、お父さま!」


 さて、と父が本題に入ろうとした。その前にオレがストップをかける。


「お父さま。わたし、婚約はしません」


「まだ何も言っていないじゃないか」


 呆れ気味に父は言うが、間違いなくその話をしようとしたのだろう。仕事が早いこの国は、既に例の話を書状として出しているに違いない。

 先手必勝、意思は先に伝えるべきだ。


「直接言われたんです。ボクの婚約者になってほしい、って」


「それはまさか、本人にかい?」


 さすがにそこまでは知らなかったのか、驚いたように問われる。オレは正直に頷くつつ、父が既に承諾していた場合のことを考える。


 保留なら手はあるが、承諾してしまっていたなら破棄するのは難しい。

 が、それは杞憂に終わった。


「リィアリス、そんなに嫌そうな顔をしなくとも、私は君の意見を尊重せずに決めたりなどしないよ」


 そんなに嫌そうな顔をしていただろうか。

 自覚は無かったけど、嬉しくはないから大差ないか。


「お父さま、手紙にはなんと?」


「ディヒバリウス夫妻は、リィアリス王女殿下を心底気に入ったと。リィアリスであれば、我が息子を安心して預けることができる。

 頭も良く、体力もあり、魔法にも長けている。なのにもかかわらず、王女という立場に驕らず、聡明で優しい。君ほどのレディーはいないと、豪語してくれているよ」


「それは……とんだ買い被りですね」


 オレは自分の首を絞めてしまったのだと、自覚した。国としては、本当に良かったのだろうか……?


「そうでもないと思うけどね」


 父はこれまでリィアリスの何を見て来たのか、ご夫妻に同意しているらしい。


「まず、頭が良い、体力があるというのは、昼前に知ったよ」


 昼前、そう言われて思い出したのは、シャルルに出会う少し前の、アルとのやりとり、そして草原を爆走したこと……その後、穴からシャルルに乗り、飛んで上がったこと。

 まさか。


「ああ、そうだ。君の部屋から見える草原が、同じ方角に面しているこの部屋から見えないわけがない」


 あのやりとりから、シャルルと出会い回復する以外の一連の流れを我が父は見ていたらしい。

 つーことはつまり?


「も、もしかして……」


「もちろん、それが龍族の子なんて生易しいものじゃないと、分かっているよ」


 オレはこの親父が狐に見えた気がした。

 なおも父は続ける。


「魔法に長けている、だったかな。それはさっき見せてくれたよね。とても素晴らしい地魔法に火魔法、水魔法だったよ。細かくて見えにくかったけど、微細なホコリや穴をチェックするために、風魔法も織り交ぜていたんじゃないかな?」


 うわぁ、もう嫌だこの親父。

 全部わかった上でネタを暴いてみせてる……。

 この父親、本当に親バカなんだよね?リィアリスのこと、本当は嫌いだったりしない?


「あとは……王女という立場に驕らず、というのは私にはよく分からないな。私自身王族だし、何が驕っているのかいないのか、判断がしにくい。だけど、聡明で優しい。それは間違いないね。気遣いができるし、それ以前に私のちょっとした不調にも気づいた」


「そ、それは……」


「そして、私も、君ほどのレディーはこの世に存在しないと思うな」


 お母さまにはないしょだよ、とか巫山戯たことを言いやがったので、速攻バラしてやろうかと思ったが、あとが怖いからやめとこう。


 父が抜け作じゃないとわかったところで、できればモニタリング終了して欲しかったのだが。

 残念ながら、現在は移動魔法と同じで投影魔法も使える人間がほぼいないらしい。

 盗聴ならば、風魔法の応用でできないこともないと思うが、聞くところによるとかなり技術がいるらしいし無理だろうな。


 うん、現実逃避はやめよう。


「お父さま、私になにをさせたいのですか?」


 少しずつ、父がオレに脅しをかけてきているのではと思い始めたので、直球で聞いてみる。すると父は、とんでもないことを口にした。



「パパ大好きって、言ってほしい」



 オレは今度こそ、阿保(親バカ)の相手はしたくないと思った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ