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長閑な世界で戦争をしよう。  作者: 一色 遊貴
一章 幼少期編
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4話「裏庭の草原の向こう側」

 オレが父と交わした約束事は、三つ。


1.護衛を必ず一人は連れて行くこと

2.公式のもの以外で、夜の6時から朝の6時までは外に出ないこと

3.外へ出た日の夜は、父の部屋でその日のことを自分の口から話すこと


 この三つに反しない限りは、今後も許可してくれるそうだ。

 ちなみに、外出する際はその護衛をする騎士や召使いが父に伝えてくれるそうだ。


 と、いうことで。リィアリス・フレイア・シュレイゼル。

 遅ればせながら、外の世界を体験します!!


「あー、姫様?馬車に乗ってください」


 ですよねー。まあ、お姫様が草原を走り回るとかありえませんよね。

 えー、やってみたかったなぁ。

 あ、そうだ。


「アル、まだ春先だし、肌寒いわね」


「……わかりました、ストールでも取ってきます」


 オレの意図を汲み取ったように、取りに行ってくれる。しかし、それはてきとうな嘘だ。

 ちら、と馬車の方を見やると、運転手が出発前だというのに居眠りしている。本来なら叩き起こすところだが、いまはサービスだ。


「自由行動するなら、今しかないな」


 そう呟いて、オレ=王女様は草原を駆け抜けた。


「……すごい」


 走りながら、思わず漏れてしまった感嘆の言葉。

 それは、草原の広大さに対してじゃない。

 自分のスペックの高さにだ。


 もともとこのお姫様。問題があるのは、頭の悪さと性格の悪さだけだった。

 しかしどうだろう。前世の記憶=オレが蘇り、性格も軟化し、頭の悪さというか寧ろ天才とまで言われるようになった。


 そして何度も言うようだが、このお姫様、無駄に体力がある。

 オレからしてみれば無駄じゃない、羨ましいほどだが、姫としてはおおよそ無駄なのだろうな。

 前世のオレにこれがあれば……悔やんでも仕方がないから、今を変えようとしているんだけど。


「ふふ、ふふふふ」


 思わず笑みが溢れるほど、清々しい。

 前のオレならば、たった数十メートル走っただけでも息切れをするくらいだったのに。

 もう、何キロでも走れるような気がする。


 気付けば、草原を抜けていた。

 草原を抜けて、抜けて…………崖から、転落した。


「……はっ?」


 ここで気づく。この草原の先は、深い崖になっていたのだと。

 気付けば底の暗闇に向かって急落している。

 これ、このまま落ちたら世界の反対側に行けるんじゃないの、ってぐらい深い気がする。

 そんなわけがないのだけど。


 そんな疑念もすぐに打ち砕ける。

 何か、柔らかい何かに当たり、落下が止まったのだ。


「いっつぅ……」


 起き上がって見上げると、ギリギリ空が見えた。なるほど、そこまで深いというわけではないらしい。しかし、見た所出口は上しかないし、最低でも50メートルの深さはあるので這い上がるのは辛い。


 そんな風に思考を巡らせていると。

 地面が、ぐにゃ、と揺れた。

 揺れたと言うか、動いた?疑問符を浮かべながら足元を見ると、鱗のようなものが、見えた。


 まさか、こんなところに魔物がいる?

 王宮の裏側に?そんな馬鹿な。

 魔物は国と国の間で見かけたとしても、国内に侵入してくることなどほぼ不可能だ。

 基本的に地属性魔法の結界で、ある程度の強さの魔物は近寄ることすらできない。


 だとして、こんなに大きな動物で、鱗のあるものなどいただろうか。

 前世のオレにも分からない、まさか新種か?

 そう考えていると、一つの答えに辿り着いた。

 新種ではない。動物でも、魔物でもない。


「ドラゴン、か」


《正解だ》


 思わず漏れた言葉に、エメラルドグリーンのドラゴンは唸るように答えた。黄金の瞳を輝かせて。

 かの種はとても高貴で、お目にかかることすらも珍しい。

 魔物というよりも神族に近いだろう。


「初めまして、私の言葉が伝わっているようなので、挨拶をさせていただきます。リィアリス・フレイア・シュレイゼルと申します、先程は助けていただきありがとうございます」


《ふむ、しばらく眺めいたからお前のことは知っているが、随分と丸くなったものだな》


「そうですね、と言っても、神族に近しい存在である貴方様には、私の心の中など読めているでしょう?」


《お前、やはり我の言葉がわかるのだな》


 そう。彼らは人の心を読むことができる。つまり、オレの事情も筒抜けってわけだ。

 対してオレも、ドラゴンのことや龍語は前世で散々学んできたからな。

 ある程度、心に鍵をかけることもできるし、やろうと思えばオレも龍語を話したりもできる。


「ええ。ご存知の通り、私は……オレは、前世の記憶を持っています」


《前世の記憶、か。なんの因果だろうな》


「……なにか、心当たりでもあるのですか?」


《いや、昔の主人がな。死ぬ前に、言っていたのだ。次に生まれた時、自分にもし前世の記憶があったら、我に会いに来たい、と》


 しみじみと語るドラゴンは、一体何百年前の話をしているのか、懐かしげに空を見上げた。


《我は、もう飛ぶことが叶わない。姿を変えることもできない》


「どうしてですか?」


 オレは、薄々気付いてしまっていた。彼が、体の至る所に大きな傷を負っていることに。原因までは分からないけど。


《これか。これは、魔族にやられたのだ》


「魔族に?」


 意外なところから出てきたな。もともと、人間は龍を崇めている筈だからこのようなことをしないし、確かに魔族ならしかねないし、力の強いものならこれくらい傷を負わせられるか。

 だが、こんなに重傷を負わせるくらいなら、なぜ命を奪わなかったのだろう?


《奴らは、二百年ほど前まで活発だったが、いまは魔界に封印されている筈だ。昔は、余裕があったのだろうな。いま仮に解き放たれたとしたら、我を見逃すことなどないだろう》


 ドラゴンは物悲しげに言うが、命などどうでもいいと言ってるようにも見えた。

 昔の主人、というのが、とても大きい存在だったのだろう。

 しかし、ドラゴンはそう簡単に殺していい存在じゃない。


「龍よ、私に一つ提案があります」


《なんだ、大賢者よ》


 大賢者……そんな呼び方をされると、思わず笑いそうになるが、いまは我慢だ。

 呼び方なんていまは些末なことだ。


「私に貴方を救わせて下さい」


《……断る》


「なぜでしょうか」


 断られることなど分かっていた。その先が大事なのだ。


《お前は分かっていないだろうが、我は龍族の中でも上のものなのだ。その我が、無償で人間から施しを受けるわけにはいかない》


「では、何か褒美を下さるということでしょうか」


 オレは、リィアリスの天使級スマイルを浮かべて言った。

 そこで、オレの隠した意図に気付いたらしい。


《ふっ、いまどき面白い人間もいたものだ。やはり長生きはするものだな》


「ええ、損は決して無いかと思います」


 ドラゴンは一笑すると、床に腰を落ち着けた。


《ならば、我に救いをくれ。お前に我の全てをやろう》


「了解しました」


 龍の背中に手を当て、オレは夢にまで見た魔法を発動した。

 地属性魔法と水属性魔法の融合、回復魔法だ。

 昨日一通り試して見たのだが、リィアリスは全属性の魔法を使えるらしい。

 まったく、恐ろしいハイスペックさだ。


 基本的に融合系魔法は両方の属性が使えて初めて、もしくは他人と組み合わせて使えたりもする。オレは前世ではどの属性も使えず、今世になってようやく前者が可能になった。

 魔力量も人智を超えたものだろう。


「水の癒し地の癒し、精霊よ、我の想いに応えたまえ」


 龍の回復に必要な魔力量は、魔法の方が耐えられない。だから、精霊の力を直接借りることにした。

 オレが詠唱を終えると同時に、傷の修復が始まる。

 回復魔法とともに、傷から自分の魔力を少し込めておく。

 そうすると、魔力も少し回復すると聞いたことがあったからだ。


 それから30秒もすると、龍の大きな傷は跡形もなく無くなった。

 龍は驚いたように羽を広げる。


《これほど早く回復するとはな》


 オレもびっくりです。だって、まだ半分くらい魔力残ってるし。

 羨ましいわー、つくづく恵まれた子だよなぁ、リィアリスって。あ、オレか。


《礼を言おう、大賢者》


「その大賢者っていうの、出来ればやめてもらえませんか?オレはお門違いですよ。

それに、いまは……リィアリスという名前がありますから」


 ちょっとだけカッコつけていうと、龍は愉快そうに笑った。


《それもそうだな。では、リィアリス、我が主人よ。我はいかなる時も、お前の側に付き従いお前の龍として生きようぞ。お前の命が尽きる、その時まで》


 それは、オレが先に死ぬことを分かっている、そういうセリフだった。

 前の主人さんが亡くなったこと、本当にショックだったんだろうな。


「では私の龍よ、君の名前を教えてくれ」


《我の名はーー》


 ………

 ……

 …


「シャルル、可愛い名前ね」


《ほっとけ。全く、不躾なご主人様だな》


「いいじゃない。私は結構好きよ」


 そう言いながら、オレはかの龍、シャルルと共に空を飛ぶ。

 おそらく百年以上飛ぶことができなかっただろう、シャルルは嬉しそうだ。

 彼とは長い付き合いになるだろう、仲良くやっていこう。


「よろしくね、シャルル」


《ああ、よろしくリィアリス》


シャルルさん、二人称がブレそうで怖い。

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