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第三章  封《と》じる者 穿つ者 (1)

元上官を捨てて(自力で帰らせた)きたシーディアが、サン・クレメンテに辿り着いた時、そこには…。

   第三章  ()じる者 穿(うが)つ者


          1


『もしもし、4代目ー?』

「やめろ、マフィアか俺は」

 通信回線から聞こえてきた元部下の声に、

光輝が盛大に顔を(しか)めている。

『隊長は隊長でちゃんといるワケですから、

元隊長って呼ぶのもどうか…と言う、隊内満

場一致の苦肉の策なんですが』

「普通に階級で呼べ」

『そんな他人行儀な…っと!』

 真面目なのか、軽いのか、よく分からない

声に、殴るか蹴るかしたような物音が重なる。

「…何をしている、ベルンフィールド」

『いえ、無事に〝開かずの基地〟が開いて、

乗り込んでみたは良いんですけど…ね?何か

イッちゃてると言います…かっ、言葉通じな

くて、血走った目で暴れてるのがいまして…

っと。ええ、それも複数!閉じこめられてて、

精神的にキレましたかね⁉︎』

 ところどころ文節がおかしいのは、立ち回

りを演じながら、報告しようとしているから

だろう。

『コレ、我々で制圧してしまって問題ないの

かと、テゼルト隊長が、ですねっ、気にして

いらっしゃいまして…っ!』

「問題ない。むしろ、さっきまで待機でスト

レス溜まってただろうから、そこで吐き出し

ておけ。ただし無闇に殺すな。後で吐かせら

れそうなヤツは残せ」

『さ…っすが4代目、即答なんて、男前です

ね…っ!ただ最後の一言に関しては――大分(だいぶ)

ヤバそうなのもいるんで、努力目標でお願い

します…っと!』

 第一艦隊艦載機部隊、通称〝トルナーレ隊〟。

 現在の隊長は、トルナーレから数える事6

代目、スウェン・テゼルト大佐。

 通常の隊であれば、少佐や中佐が長に就く

事が多いだけに、トルナーレ隊の立場(ステータス)が窺い

知れる。

 そしてそのテゼルトが通信をして来ないの

は、基地上陸の先陣を、現在進行形で突っ走

っているからである。

 トルナーレ隊の〝死神の鎌(デスサイズ)〟――佐官にな

ろうが、決して後方から指揮を()らないのが、

6代目隊長・テゼルトだ。

 代わって通信をするマコーレー・ベルンフ

ィールドは、階級こそまだ中尉だが、光輝が

隊にいたころから、戦況を読んで別働隊や殿(しんがり)

に回れる冷静さがあった。

 このままいけば、7代目や8代目は時期尚

早でも、9代目の隊長くらいにはなれるだろ

うと、テゼルトも光輝も内心で思っていた。

「ベルンフィールド。艦橋(ブリッジ)に着いたら、まず

誰か、旗艦のシェルダンにシステムの制御(コントロール)

渡してやれ。あと、基地内の状況次第で俺が

行くから、通信と着艦の準備も並行してやる

ように言っておけ」

『承知しました…っ!』


「血走った目で暴れている、ですか…」

 通信が切れるまでは、黙って見守っていた

バルルークが、ポツリと呟いた。


 ――結局、後衛から差し向けた別働隊に、

食いついてきたのは「司令官」旗艦だった。

 バルルークからそれを聞かされた光輝は、

すぐさま決断を下し、司令官旗艦と、そこに

付いていた護衛艦隊を前衛の射線の外に追い

出し、参謀長艦とその護衛艦に、全力の攻撃

をかけた。

 地球軍の増援部隊が戦況を把握する前に、

参謀長艦を(ほふ)らない事には、増援を得た司令

官が、引き返して来ないとも限らなかったか

らだ。

 その間に、常識外の早さで引き返して来た

アルフレッド・シーディアの部隊を索敵シス

テムに捉えた地球軍が、ほぼ同時に現れた自

軍の増援部隊に吸収されるように引き上げて

行き、光輝らは何とか、燃料が尽きる危機か

らは免れた。

 戦っていた間に、補給物資を多めに抱えた

艦を更に狙って墜とされていたのだから、そ

の度に再計算を余儀なくされていたバルルー

クは、途中、らしくもなく敵軍参謀長、リヒ

ト・イングラム中将に殺意を抱いた程であっ

た。

 だが最終的に、ぶつけた光輝の(ふね)の火力に

戦陣を破られたイングラムは、司令官や主だ

った部下の艦が射線の外に出た事を確認した

タイミングで、どうしてもその側を離れる事

を拒んだ部下数名と共に、自らの艦を爆散さ

せた。

 いざとなれば、それをやる男だと思ってい

た光輝の予想は、ある意味正しかった訳であ

る。しかもその際、補給物資艦と、何人かの

高位士官をピンポイントで道連れにしている。

 第一艦隊旗艦(トルナーレ)や、光輝の(ふね)に見向きもしな

かったあたり、更なる置き土産の存在を、疑

わずにはいられない。


 司令官は地球軍の増援部隊に吸収されたも

のの、イングラムの主だった部下の中には、

独り残った上官を諦めきれずに、引き返そう

と試みて捕虜となり、光輝の艦に収監された

者もいた。

「…何か気になるのか」

「いえ…その、確か捕虜を収監した兵士の報

告書に、『捕虜の1人が「もう少し時間があ

れば、もっと広められたのに」と言ったよう

な事を呟いていた』と、あったかと…」

「貸せ」

 記憶を辿るような表情のバルルークの手元

から、端末を奪い取った光輝は、問題の報告

書を、あっと言う間に見つけたようである。

「確か第一艦隊旗艦の副司令官も、そもそも

様子がおかしかったと言っていたな」

「え、ええ。それと、シェルダン大佐の話で

は、艦長の急病(・・)も、タイミングが良すぎる…

と」

「……なるほどな」

「閣下?」

「そう都合良く自白はしないだろうが、確認

はしておく。あとバルルーク、第七艦隊に限

らず、医薬品に強い士官を探せ。引き返して

きたあの艦隊が、合流してくるまでにだ。ど

うせ、そうしろと言われるだろうからな」

 やや忌々しげな光輝が、アルフレッド・シ

ーディアの名前を口にしないのは、恐らくは、

わざとだ。

「承りました。医療技術(・・)ではなく、医薬品(・・)

と言う事で宜しいのですね?」

 バルルークも、そこは礼儀正しく黙殺した。

 

 捕虜の中には佐官級の高官が何人かいたが、

いずれもイングラムの素晴らしさ、人格者ぶ

りを讃えるばかりで、結局何も聞けなかった。

 ただ、そこに関しては元より期待をしてい

なかったので、トルナーレあるいはシーディ

アに後で引き渡すよう言い置いて(丸投げ、

とも言う)、光輝はひと足先に、基地に入る

事を決めた。

 あっという間に基地の中を支配下に置いた、

テゼルトからの通信が、とてもそのままには

しておけないものだったからである。

「おまえは、ここに残れ、バルルーク。ここ

で第一艦隊との情報共有の基点になっておけ」

 そうしておかないと、後が煩いー光輝が言

葉に出さなかった部分を、バルルークは正確

に理解した。

「承知しました。ですがさすがに、お一人で

基地に向かわれるのは、関心しませんな。私

は確かに、とても武勇は誇れませんが、せめ

て歩兵か空戦隊士か、武に強い者をお連れ頂

きませんと」

 せめて誰か、と言いながらも、こんな時に

名前が上がる士官の数には限りがある。


「…バルルーク大佐…っつーか、()()()()

俺の事、便利屋か何かだと思ってね?」

 基地へのウイルス拡散装置を、一発必中で

ぶつけてきた事だけでも褒めて欲しいところ

に、戻った早々、またもバルルークからの呼

び出しである。

 さすがにスタフォードも、一言言わずには

いられなかったらしい。

 既に敬語も半分吹き飛んでいた。

「そりゃ護衛は必要だろうし!カミジョウ准

将と行くコト自体は良いんだけれども!俺が

あちこち出張ると、第一艦隊艦載機部(トルナーレ)隊の連

中にケンカ売ってるみたいになるから!そこ

は、ほどほどにしてくれねぇかな⁉︎」

 バルルークは、好々爺の如く笑っただけで

あったが、実際、光輝と共にサン・クレメン

テ衛星基地に着艦したスタフォードは、早々

にテゼルトらに拉致され、鍛錬と称した手合

わせに巻き込まれる羽目になった。

 基地のプログラムの修復に手を貸せと、シ

ェルダンが乗り込んで来るまで、それは続い

たのである。


※        ※         ※

 第一艦隊艦橋での出来事に対する聞き取り

を終えたアルフレッド・シーディアが、次に

基地の外で起きた戦闘、主に地球軍が退(しりぞ)くま

での経緯を確認しようとした時、光輝・グレ

ン・カミジョウは、既に第七艦隊の(ふね)の中に

はいなかった。

 捕虜に話を聞いた後、先行して基地に入っ

ていた艦載機部隊の長からの呼び出しを受け、

基地の方へ向かったと言う。

『テゼルト大佐のご様子から、早い段階で確

認しておいた方が良いと、判断されたようで

すな』

 通信画面の向こう、そんな言い方をバルル

ークはした。

「…どんな様子だったと?」

『そもそも、テゼルト大佐達が入られた直後

から、正気とは思えない兵士達が複数名暴れ

ていて、基地の中が荒れているとの連絡は入

っていました。それが、基地の艦橋(ブリッジ)に辿り着

いたところ、状況が更に悪化していたと――』

 ――過剰殺戮(オーバーキル)

 そう、続けられた言葉に、シーディアもす

ぐには反応が出来なかった。

『基地責任者ヤンネ・ノティーツ大佐や、そ

の副官のリュシュカ・ルーサ少尉を始め…今、

誰が無事で、誰が亡くなったのか、全てが暴

れていた士官達の仕業なのか、便乗犯がいる

のか――その辺りを確認したいご様子で、出

て行かれました。さすがに、お一人で行かせ

るような事はしておりませんが、自分が基地

に着く頃には、シェルダン大佐が基地の制御

を全て奪い返している筈だとおっしゃって…。

実際、その通りになって、少々驚きましたが

ね。――今、大佐が中将の背後にお見えなの

は、恐らくその報告だったのではないですか

な』

 背後の扉が開く音がしたとは思っていたが、

果たして、そこにはタブレット状の端末を手

にした、シェルダンが入って来たところだっ

た。

「…超能力でもお持ちなんですか、バルルー

ク大佐」

『いやいや。私は、カミジョウ准将のお言葉

から推測したまでで』

「正確には、凍結されて、手も足も出なかっ

た状態を解凍しただけです。恐らくは、敵に

解凍された場合の事も考えて、データが破壊

されたり、何重にもロックがかかっている情

報もありますから、その辺りのフォローは、

まだまだ必要です。ただ、ここから先はメー

カーなり専門職の士官なりに入って貰いたい

と思ったので、ご報告かたがた伺った次第で

す」

「『………』」

 シェルダン自身は、いたって真剣に進言し

たつもりだったのだが、シーディアも、画面

の向こうのバルルークも、何とも言えない表

情を垣間見せた。

「…何か」

「…要るか、専門職?」

『ですな。門外漢の私などから見れば、大佐

も充分に専門職の方ではないかと』

 ほぼ同じ感想を持ったらしい2人に、シェ

ルダンは不本意そうに顔を(しか)めた。


「私がやった事は、ブラックハッカーとホワ

イトハッカーの合わせ技みたいなもので、つ

まるところ、破壊する側の手法です。本来、

私は創造す(つく)る側の人間になりたくて、この世

界に入りましたが、そちらに関しては、残念

ながらまだまだ趣味の域を出ていないと思っ

ていますよ。まぁ…解凍のために、ばら撒い

たウイルスを回収する責任は、さすがに持た

せて頂きますので、上陸許可をお願いしたく」

「…シェルダン」

「はい」

「トルナーレ大将閣下が負傷された」

「はい」

「今後の治療や監督権の問題もある。閣下に

は、宙域から地球軍が完全撤退している事と、

基地からの補給が可能になった時点で、本星

にお戻り頂かなくてはならない」

「はい」

「……分かっていて、基地に向かうつもりか」

「基地をあのままにして発つ事の方が、余程

問題があると考えます。もちろん、やったの

が私でなければ、中将のおっしゃりようは正

しいのでしょうが……」

 副官なのに、上官を置いて残るのかと言う

暗黙の問いかけに、シェルダンも困ったよう

に小首を傾げる。

「と言うか…キルヴェット閣下を千尋(せんじん)の谷に

落として来られた方のお言葉としては、説得

力がないと言いましょうか……」

 ――20代後半の男に小首を傾げられたとこ

ろで、そんな仕草は可愛くもなんともない。

年齢が近いからかも知れないが、嫌味に嫌味

を返すあたり、むしろ腹立たしいとさえシー

ディアは思った。

「私が獅子の親とでも言うか?あの方の何を、

今更育てるんだ。往路のように、ぞろぞろと

護衛連れてた時点で、過保護極まりなかった。

百歩譲って、哨戒活動のついでに、ただ送る

だけならともかく、地球軍とぶつかった段階

で、艦隊の数では劣勢だったんだ。なら自力

で帰って貰って何の問題がある」

「それでも、今頃、中央議会のお歴々が右往

左往していらっしゃると思いますよ。むしろ

私より、中将の方がお帰りになる必要がおあ

りでは…?」

 トルナーレが、第一艦隊司令官の席を降り

ようとしている事を知るのは、まだシーディ

アとその場に居合わせた貴水だけである。

 その事を知れば、ますますシーディアは帰

らなくてはならない側の人間と見做されるの

だろうが、キルヴェットとヘルダーの件だけ

でも、実は充分に呼び出しを喰らう理由にな

っている事は、本人も自覚済みであった。


「…まぁ、良い。ここで話していても、仕方

ない。シェルダン、今の時点では、上陸許可

は出さない」

「ですが…」

「どのみち、ほとんどの(ふね)に補給が必要だろ

う。先に上陸した連中に、周囲全艦の着艦準

備をさせろ。誰が帰星して、誰を残すか――

それも話し合わねばならないしな」

 誰を残すーーその言葉で、表情をやや厳し

くしたシーディアに、シェルダンもバルルー

クも僅かに眉を(ひそ)めた。

 2人の変化に気付いたシーディアも、憮然

と両の腕を組んで、右手の指を苛立たしげに、

左の二の腕にタップさせた。

過剰殺戮(オーバーキル)と騒がれている基地を放置して帰

る程、私は能天気ではない。そもそも、ノテ

ィーツが言っていた『内通者』の話が手付か

ずだろう。その話を隠すために、この騒ぎが

仕組まれた可能性だってある」

『まだ、いますかな?我々が地球軍と争って

いた間に、警戒を擦り抜けた可能性も――』

「ノティーツが基地を閉じたタイミング、シ

ェルダンがウイルスをばら撒いたタイミング、

カミジョウが第一艦隊艦載機部(トルナーレ)隊を先行させ

たタイミングーそれらを考えると、内通者本

人が逃げ出す隙はなかった筈だ」

 バルルークの疑問に、間髪入れずにシーデ

ィアが返す。シェルダンは、その言葉を噛み

締めるように目を閉じ――やがて、頷いた。

「…そうですね。私がプログラムを解凍する

前後において、基地から艦は一隻も出させて

いませんし、出ようとする艦もありませんで

したね」

 出させて(・・・・)いない――また、真顔でしれっと

物騒な事を言っている。

 バルルークは乾いた笑い声を漏らし、シー

ディアは内心で、専門家は呼ぶまいと、密か

に決めていた。

 どうしてもと言うなら、落ち着いてからメ

ーカーの担当者でも派遣させれば良いとしか

思えなかった。


『すみません、少々このまま、お待ちいただ

けますか。…どうやら基地からの通信です』

 3人の会話が途切れた、僅かなタイミング

で、滑り込んできた音があった。

 軽く頷くシーディアに、バルルークが席を

外して、画面の奥へと下がる。

『…辺境衛星からの、徴用兵?』

「⁉︎」

 通話の相手自体は不明だが、バルルークの

声は、シーディア達にも届いている。

『いや、捕虜や罪人ならともかく、今の金星

に、そもそも徴用制度はない筈――』

 振り返らないまま、片手を上げたシーディ

アは、軽く人差し指を立てて傾け、シェルダ

ンに近くまで来るよう合図をした。

「シェルダン。お前、短距離移動艦(シャトル)第七艦(むこ)

()に移れ」

 思わぬ事を言われたシェルダンが、軽く目

を瞠りながらも、シーディアの肩近くに身を

屈めた。

「…と、おっしゃいますと?」

「どうせカミジョウは、報告書にならない前

段階での話など、私には寄越すまい。バルル

ークの口調からするに、あれも大方テゼルト

あたりの通信だろう。シェルダン、今をもっ

て、お前の司令官代行職は、私が預かり直す。

第七艦隊(むこう)へ行って、見聞きした事を着艦後(あとで)

にも流せ」

「……承知致しました」

 確かに、光輝は余程の事が起きない限り、

途中経過の報告はしないだろうなと、内心で

納得しつつ、シェルダンは頷いた。


 ――後になってトルナーレから「自分で(カミ)

薬庫(ジョウ)手榴弾(シェルダン)投げて、トドメ刺したか」と大

笑いされ、シーディアが凄まじく不機嫌にな

るのは、余談である。


「基地の前任者や業務報告も洗い出す必要が

あるな…キルヴェット閣下からの情報も、そ

ろそろ届く頃だろうし…。あの基地で、誰が、

何を目論む……?」

 声音こそ厳しいが、シーディアが答えを欲

していないとシェルダンには分かったので、

彼は何も答える事なく、シーディアに一礼し

て、背を向けた。

(司令官代行の返上は、有難い。これで格段

に動きやすくなる)

 どのみち、自分が基地に対して仕掛けた事

は、中途半端なのだ。どうせならば、今、破

壊されたりロックされているプログラムの制

御も、全て奪い返しておきたい。

「専門家はすぐには無理か…」

 どうも自分が知らない情報を幾つか握って

いるようだったが、更に徴用、などと言う聞

き慣れない単語のせいもあってか、シーディ

アの意識は完全にそちらに向いてしまった。


 片手の数で足りる、20代将官の頂点に立つ

アルフレッド・シーディアは、更に現在、議

会でも軍内部でも「トルナーレの後継者筆頭」

と目されている。

 同じように、破竹の勢いで勝ち進む士官は

他にもいるが――特に光輝・グレン・カミジ

ョウとの大きな違いになるだろうが――シー

ディアは、議会や上層部相手に駆け引きが出

来る、その政治力が、軍事的才能に比肩する

ほど凄まじいと言われていた。

 同じ情報を手にしたとしても、その活かし

方が180度違う可能性があるのだ。

 基地を制御する事も勿論重要だが、出来れ

ば、シーディアの動きも細かに掴んでおきた

い。

 …困ったシェルダンが、少ない手札(カード)から考

え抜いた結果――基地内でスタフォードがシ

ェルダンのフォローに借り出される、と言う

状況を後々生む事になった。


「基地も艦隊も、そんっなに人材(ひと)いないのか

よ⁉︎俺は便利屋を副業にしてる訳じゃねぇし、

何より俺はまだ〝大尉〟だっ‼︎」

 第七艦隊に合流し、バルルークから事情説

明を受けた後、通信を繋いだスタフォードは、

完全にキレていた。

 宥めるのに、シェルダンはしばらく苦心を

し、見かねた(責任の一端はあると思ったら

しい)バルルークが、どこからともなく、(ルナ)

でのみ限定販売されていると言う、超高級ワ

インを入手進呈したと言うのは、当人達のみ

が知る事実である。

 もっとも、スタフォードの精神安定のため

に、そのワインが、国の支配者階級にしか出

回らない筈の、完全予約限定生産ワインで、

1ヶ月や2ヶ月の給与では足りないだろう事、

恐らく、バルルークの懐は全く痛んでいない

であろう事には、敢えて触れなかった。

 バルルークは、シェルダンのコンピュータ

の腕を絶賛するが、シェルダンからすれば、

バルルークは別方向に突き抜けている。

「基地内の資料をアテにせず、実地で食料弾

薬のチェックはした方が良いでしょうなぁ」


 ――補給の達人が言う事に、否やはないシ

ェルダンであった。

だんだん、バル爺さん(笑)の本領が発揮されてきています…主に被害者は、スタフォードのようです。

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