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第二章 サン・クレメンテ攻防戦〈前編〉(3)

光輝との通信を終えたシェルダンは、第一艦隊内をとりまとめるべく、動き始めます。

          3


 今にして思えば、前兆はあった。

 中央議会の有力議員である、ヨハン・ゴッ

ドフリート・ヘルダーを金星本星に送り届け

る時点で、戦力の二割しか議員の護衛艦とし

て「残さない」判断をした司令官(トルナーレ)に、その二

割に司令官こそが「残れ」と言った参謀長(シーディア)

その二割のみを第七艦隊の増援に向かわせれ

ば十分だと言った副司令官(コルム)との間で、幕僚会

議はしばし紛糾した。

 その三人それぞれの副官と、各艦長の長と

しての責を担う貴水(タカミ)(ケイ)大佐が会議には出席し

ていたが、意見を求められない限り、三人以

外が口を開く事はない。

 貴水とて、月での待機中に司令官旗艦艦長

の急病がなければ、副長であり、中佐である

筈で、本星議会から正式な配属書を受け取る

までは、艦長代行であり、臨時の大佐職であ

るため、その時点で口を開く事はないのであ

る。

 最終的には、トルナーレが意見を押し通す

形となり、参謀長であるアルフレッド・シー

ディア中将が2割の護衛艦をまとめる側に回

ったが、副司令官であるペルージャ・コルム

中将の顔に不満の色が色濃く出ていたのは、

貴水も記憶している。


「――――!」

 艦隊の長に相応しいのは貴方ではない、と

言う叫び声と銃声、目の前にある艦の制御卓(コンソール)

に飛び散った血飛沫。

わずか数秒の間に起きた出来事を把握しそび

れた貴水は、逆にひどくゆっくりと顔を上げ

て、背後の艦橋(ブリッジ)を振り返った。

 …眉間を撃ち抜かれた死体、と言うのは正

直あまり見目の良いものではない。

 若い士官たちが顔面蒼白になったり、中に

は吐き気を堪えている者もいる。茫然と、銃

を構えたトルナーレの副官、アーレス・シェ

ルダンを見ている者もいた。

 コルムがトルナーレに銃を向け、発砲。シ

ェルダンがそれを返り討ちにした――ように、

見える。

「艦長代行より医局へ。ストレッチャーを2

台、急ぎ艦橋(ブリッジ)へ。司令官と副司令官が負傷さ

れている。並行して、応急処置の用意も頼む」

 正確には、副司令官のそれは負傷ではない

が、このままにはしておけない事も確かなの

で、あえてそういう言い方を、貴水はした。

 ――そうして指揮権が一時的にシェルダン

に渡り、負傷したトルナーレと、コルムの遺

体が艦橋から運び出されていった 。


 代行とは言え、自分が突如、第一艦隊の艦

長を束ねる立場に立たされた時は、ただの戸

惑いだったが、そこから今に至るまでの間、

貴水の中で、自分でも具体化出来ない「違和

感」が大きくなりつつあった。

「貴水大佐、ちょっとよろしいですか。……

大佐?」

 シーツを頭まで被せられて、艦橋から運び

出されるコルムを見ていた貴水の表情が、余

程奇異に見えたのだろう。

 光輝・グレン・カミジョウ准将の麾下に一

時的に入り、敵艦隊を、殲滅ではなく、退か

せる事に主軸を置いた戦い方をすると、互い

に納得して通信を切ったシェルダンが、貴水

に話しかけながらも、僅かに顔を顰めていた。

「……申し訳ない」

「え?」

 光輝ではないが、コルムを死なせてしまっ

た事を、やはり責めていると思ったのだろう。

バツの悪そうな表情で、シェルダンも貴水が

見ていた視線の先を見やった。

「どうも私は、急所を外すのが苦手で……」

「あ、あぁ…いえ、むしろ私にはそこまでの

銃の腕はありませんし、トルナーレ大将閣下

を庇うには、他になかったとは思っています

が……」

 急所を()()()()苦手、と言う文脈がおかし

いと、一瞬貴水は思ったが、普段そこまでシ

ェルダンと親しくしていないので、この時は

深く追求しなかった。

「……何か、気になる事でも?」

「……そうですね」

 居丈高でないシェルダンの尋ね方は、思わ

ず貴水を頷かせてしまう。

 そんな貴水をシェルダンは艦橋(ブリッジ)の中央へ誘

導すると、指揮シートの肘置き部分に手を当

てて、防音シールドを2人の周囲に出現させ

た。

「私もちょうど、貴水大佐に話があったので

……せっかくですから、おかけになられます

か?」

 何気なく言ってはいるが、目の前のそれは

司令官の指揮シートである。

 いやいや、と貴水は首を大きく横に振り、

そうですか?と、シェルダンも笑うだけに留

めて、それ以上の無理強いはしなかった。

「では、防音シールドだけでも実体験頂くと

して…貴水大佐、大佐の『気になっている事』

を、今、まず聞かせて頂けますか。それによ

って、私の話も変わるかも知れないので」

「は…いやしかし、私の主観と言うか…出来

れば確認させて頂いてから、ご報告申し上げ

たいと言うか……」

「確認…例えば、どのようにでしょう」

 現状、シェルダンの口調は、大佐同士、た

だしシェルダンの年齢を下回る大佐、将官は

片手で足りるが故の丁寧さだが、艦長「代行」

としての意識が強い貴水の口調には、若干の

遜りがあった。

「出来れば…コルム中将のご遺体の検分を、

医局に頼めないかと。具体的には血液検査で

すが…」

 シェルダンの片眉が僅かに動いたのを見た

貴水が、慌てて具体的な内容を言い添えた。

 見た目にも死因が明らかな中、少なくとも

今、検分が必要な理由をまず述べなくては、

主観以前に理由にはなるまい。

「私は(ルナ)で、オーモット艦長が倒れられた場

に居合わせました。トルナーレ閣下の副官で

ある貴方に、それ以上の情報が届いていない

のは、恐らく金星の中央議会か星域保安庁内

部か、どこかで情報が留め置かれているのだ

と思いますが…。まず、オーモット艦長が脳

梗塞で倒れられたと言う情報は、故意に原因

を歪められています」


「……なるほど」

 トルナーレに届く情報は、まず、副官であ

るシェルダンの元に届く。シェルダンが知ら

ないと言う事は、そもそもトルナーレ宛に届

いていない、と言う事なのだ。

 もっとも頼まれずとも勝手に調べるのがシ

ェルダンなので、周辺がキナ臭い事は察して

いた。ただ、その信憑性を貴水が裏付けただ

けである。

 ただ、驚く以前に、それで?と言いたい気

持ちが表に出ていたのかも知れない。

 今、それを述べる理由には、まだなってい

ないと気付いた貴水も、そのまま言葉を続け

た。

「自由行動中の街中で、突然苦しみだされた

かと思うと、血走った目で言葉にならない呻

き声を発して、道路に飛び出そうとなさいま

した」

「―――――」

 変化は一瞬、そして劇的だった。

 その瞬間、シェルダンの中で()()が繋がっ

たのを、確かに貴水は見た。

 頭の回転が早いとは、こういう事を言うの

だろうーーとの、見本を見たとさえ思った。

 ――血走った目に、らしからぬ声。

 少なくともシェルダンは、コルムにその徴

候があった事を自分の目と耳で見聞きしてい

る。

 荒唐無稽な疑問だと、彼が思う筈がなかっ

た。

「血液検査の必要性は理解しました、貴水大

佐。同時に貴方の懸念もです。検査を依頼す

る医務士官は私に一任して下さい。そして、

それを誰に依頼したのかは聞かないで下さい。

逆に結果に関しては、私よりも先に、貴水大

佐の方に何らかの方法で報告させます。本当

に最低限の危険(リスク)回避ですが、今の状況下では、

それが限度とご容赦下さい」

 貴水が自らの懸念と疑問を伝える前に、あ

っという間に、シェルダンはそれを読み取っ

ていた。――もしかすると、貴水自身が思う

よりも、正確に。

 第一艦隊司令官の力を削ぎたい派閥力学が

そうさせたのか、地球軍が斥候を紛れ込ませ

たのか、あるいは組織的な破壊活動か。

 いずれにせよ、艦長と副司令官は、同じ人

間、あるいは勢力の手にかかったーその可能

性だけでも念頭に置いて、動くべきではない

か、と。

 そしてシェルダンは、貴水にその事までは

口にさせない。シェルダンが、勝手に()()

って動くだけ――それも立派な危険(リスク)回避だ。

「承知しました、司令官代理」

 敢えてシェルダンの名を呼ばなかったのは、

貴水なりの敬意である。

 例え10歳以上年齢が離れていたとしても、

彼には、その能力がある…と。

「話の腰を折ってしまって、申し訳ありませ

んでした。そもそもは、私に話があるとの事

でしたね」

 正しく話が通じている、と思ったのは、ど

うやらシェルダンも同じだったようである。


 泰然自若、瀟洒、優男、歩く()()()()――

貴水慧は、人によって評価が変わる、ヘイゼ

ルの瞳と黒髪を持つ、38歳。現在は、第一艦

隊旗艦艦長代行だ。

 黒髪の一部を瞳と同じ色に染めたり、私服

に応じてカラーコンタクトをはめたりと、と

にかく印象が一定しないうえに、20代と言わ

れても頷いてしまいそうな程の容貌の持ち主

である。

 軍歴に関しても、長くレイ・ファン・キル

ヴェットの部下として、戦闘機乗り(パイロット)と艦長以

外を全て経験していると言われる程の多彩ぶ

りで、彼が異動すると、必ず前後に粛清の大

鉈がふるわれていた事から、〝キルヴェット

の最終兵器〟と揶揄され、後ろ暗い所のある

者は避けて通るとまで言われていた。

 キルヴェットが政界へと退いても、騒動は

起こり、今度は代行とは言え艦長を拝命した

のだから、貴水の周囲が若干引き気味になる

のも道理と言える。

 今度から彼は、「経験していないのは戦闘(パイ)

機乗り(ロット)だけだ」と自己紹介する事になるのだ

ろう。


 そして、特に後ろ暗い所のないシェルダン

は、それらを全く気にしてはいない。

 ただ、彼の観察眼と、相手が年下の大佐で

も、含みを見せないところに、これなら話が

出来そうだと、内心で思っただけである。

「今のも充分『必要な』会話でしたよ、貴水

大佐。代理同士、一方的な会話は艦隊の統率

に悪影響ですから。大佐のお話は、実に参考

になりました」

 そう言いながら、シェルダンは指揮シート

の肘置きに再び触れると、遠隔操作ボタンで、

自分の端末から、光輝・グレン・カミジョウ

宛に送った資料と同じ物を、防音シールド内

の空中に浮かび上がらせた。

「カミジョウ准将にも、同じ物を送りました。

先程少し耳にされたかも知れませんが、第一

艦隊はこの後、少なくともシーディア中将が

戻って来られる迄の間は、第七艦隊の指揮下

に入ります。恐らくは、トルナーレ閣下の応

急処置よりも、そちらの方が早いでしょう。

この(ふね)の医務士官達は職務に忠実ですからね。

閣下がどう仰ろうと、当面医務室からは出さ

ない筈ですよ」

 それと…と、ここからが本題と言わんばか

りに、シェルダンがやや表情を厳しくして、

貴水を見やった。

「ここから先は内密に願いたいのですが、サ

ン・クレメンテ衛星基地は現在、基地の乗っ

取りを防ぐ為の自衛手段として、ライフライ

ン以外の全てのシステムを凍結。我々は、物

資の補給を基地に要請出来ない――そう言う

状況です」


「……っ」

 貴水は、精一杯の自制で、は?と、らしく

もない声を上げる事だけは、堪えた。

「乗っ取り、ですか?今?誰がそんな……」

「何故、今…そうですね。基地責任者のノテ

ィーツ大佐からは一方的な事後報告のみで、

誰も話が聞けませんでしたから、それに答え

得る人間は、今はいません。ただ…貴水大佐、

貴方から先ほど伺った話が、その答えに一番

近いのではないかと、今なら私は思いますよ」

「……それ…は……」

「すなわち、ノティーツ大佐か、それに近い

人物に、今回の艦長や副司令官と同じ状態が

起きたのではないかーと、言う事です」

 貴水は、一見、目の前の戦いよりも重要度

が低いと認識していた情報に、自分が思って

いた以上の付加価値があった事を知り、愕然

とさせられる。

「それと何故、カミジョウ准将が第七艦隊の

指揮を今、摂っているのかは、お聞き及びで

すか」

「……基地との連携を図るため、先行して着

艦されようとしていた、ホーエンガム司令官

の艦が、狙い撃ちをされた、と……」

 物は言いようである。

 事実を()()()()()()()して、第一艦隊へと

伝えたのは、副司令官付参謀の、バルルーク

大佐だ。

 光輝の表情を見る限りは、()()でない事は

一目瞭然だが、それはシェルダンだけが、そ

う思っていれば良い事だろう。

「ええ。狙い撃ちされたと言っても、当然、

それに巻き込まれる艦は出てきますから、結

果として、第七艦隊自体が、実働総数を落と

しています。そして第一艦隊も、議員団を金

星本星に送り届けるために、艦隊の一部を割

いて、当てた」

「シェルダン大佐……」

「議員団の護衛に、全体の二割しか割かなか

った、トルナーレ大将とシーディア中将の決

断は、正しかったんですよ、貴水大佐。地球

(サイド)の艦隊も、所属艦の全てがここに集結し

ている訳ではないようですが、それでも混成

艦隊である我々と違い、向こうは第一艦隊の

みで、あの数です。数の面でも連携の面でも、

我々は今、間違いなく劣勢に立たされていま

す。まして今は、基地が閉ざされて、物資の

補給もままならない。敵の殲滅、などと――

もはや寝言だ」

 コルム亡き後も、何故、敵を一気に攻めな

いのかと言う声が、そこかしこに残っている

事を、シェルダンは一刀両断した。

「恐らく引き返してくるシーディア中将は、

多少の余分な物資も運んで来られるでしょう。

ただ同じ事は地球軍側にも言えて、この場に

いない地球軍第一艦隊の残存兵力が、駆けつ

けて来るかも知れない。そうなれば千日手、

出る犠牲も今までの比ではなくなる可能性が

ある。だから今ある戦力で敵の〝心臓〟を止

めて、末梢(のこり)は自ら退かせるよう仕向ける。こ

こにない戦力は、今は考えない――そう言う

決断を、カミジョウ准将と私はしたんです。

貴水大佐にもぜひ、その事をご理解頂きたく

て、お声をお掛けしました」

 声は静かで落ち着いているのに、内容は反

比例するかのように、重い。

 それは平時ならば決して、准将と大佐で下

して良い決断ではない筈だ。


「……給与以上の事を、されていらっしゃい

ますね」

 決して悪い意味ではなく、そう漏らした貴

水に、シェルダンの口元も僅かに緩んだ。

「貴水大佐にも、巻き込まれて頂きますよ。

話はまだ、終わっていません。むしろ、ここ

からが重要な〝お願い〟です。私はこれから、

サン・クレメンテ衛星基地のシステムを()()

()()、プログラムを解凍します。ですが、さ

すがに秒で成せる事ではないので、その間、

第一艦隊の指揮を貴方にお願いします」

「……は、い?」

「詳しい事は、第七艦隊のバルルーク大佐が、

上手く組み上げてくれるとの事なので、貴水

大佐は、艦長代行として、カミジョウ准将の

(ふね)と、上手く連携が取れるように第一艦隊を

誘導して下さい。そこは、本来の職務通りの

事をして頂ければ良いので、そう難しくはな

いと思いますよ」

「あの……ちょっと、話を整理しても?」

「どうぞ。バルルーク大佐から連絡が来るま

での間にはなりますが」


 考え込むように、恐らくは無意識にかき上

げられた貴水の黒髪の間から、ヘイゼル色の

髪が覗く。

 本当に、かき上げられた時に瞳の色と同じ

になるようにしているんだな、とシェルダン

は思わず場違いな感想を抱いていた。

 しかもその髪は、サラサラの艶々(ツヤツヤ)だ。生え

際の心配をする士官がいたら、刺したくなる

ような外見だ。

 貴水が、監察官宜しくあちこちの部署に配

される理由の一つには、年齢不詳のこの外見

もあるのだろう。

「私に…艦隊を預かれと、仰いますか。そし

てその間、貴方は基地へのハッキングをなさ

る…補給の不安を早いうちに解消する為に。

そう言う事で、宜しいですか?」

「そこまで明け透けには言っていませんが、

まあ概ねそうです。付け加えるなら、我々が

基地を使えない事を、悟られない為と言うの

もありますよ。ホーエンガム中将の旗艦の末

路を見て、我々が基地への着艦に二の足を踏

んでいると、いつまでも相手が思ってくれて

いるとは限りませんから」

 光輝に説明した事と同じ事を、更に直接的

に、シェルダンは貴水に言った。

 もちろん、貴水は光輝と違ってホーエンガ

ムが直属の上官ではないので、あぁ…と、納

得したような声を返すだけである。

「明け透けついでに伺いますが、ハッキング

はお得意なんですか、シェルダン大佐?」

「そうだと申し上げれば、私も監察対象にな

りますか?〝キルヴェットの最終兵器〟、貴

水大佐?」


 ハッキングと聞けば、多少の躊躇や後ろめ

たさは出るだろう――そう思った貴水の予想

に反して、シェルダンが微笑(わら)った。微笑(わら)った

上に、自分が投げた変化球を綺麗に打ち返し

てきた。

「……何の事でしょう」

 知らず、貴水も微笑を返していた。

 スタフォードあたりがその場にいれば「空

気が寒いっ!寒すぎる!」と叫ばずにはいら

れなかっただろう。

「基地のシステムにハッキングする事自体、

私には思いもよりませんでしたので、それほ

どの腕をお持ちなのかと…。他意はありませ

ん。不愉快に思われたなら、謝罪します」

「いえ。至極真っ当な反応だと思いますよ。

高位アクセス権限があれば出来るだろうとか、

そんな無茶振りはカミジョウ准将1人で充分

です」

「……っ」

 一体さっきまで、光輝とシェルダンは、ど

ういうやりとりをしていたのか。

 段々と、貴水は巻き込まれたくなくなって

きたが、微笑を崩さないシェルダンは、それ

を許してくれそうになかった。

「…可能なんですか?」

「まぁ、可能にするしかないでしょうね。そ

れしか事態を打開出来る手段がない以上は。

ですが流石に、艦隊指揮と両立させる事は難

しい。なのでそちらは、出来る方(あなた)にお願いし

ようかと」

「……ここへ来るまでは、只の中佐で、副長

だったんですが」

「数多い職歴に、代行とは言え第一艦隊旗艦

艦長、更には司令官の肩書きも加わりますね。

凄いな、最強の〝最終兵器〟だ」

「最強と呼ばれて喜ぶのは、小学生くらいま

ででしょう……」


 貴水が、諦めにも似た深いため息を吐き出

したのに前後するように、シェルダンの手元

の通信音が鳴った。

「時間ですね。バルルーク大佐からの、行動

指針書です。戦局が大きく変化しない限りは、

基本的にこの指針書に従って艦隊を動かして

下さい。でなければ、我々はいずれ飢えて死

ぬか、燃料切れになったところを蜂の巣にさ

れて、終わりです」

 相変わらず、穏やかに物騒な事を告げるシ

ェルダンである。

 手元を流麗に動かすと、先程までとは違っ

た宙域図がそこに浮かび上がる。

「ちなみに、ここにあるのは、あくまで誘導

したい『結果』への『指針』だけ。戦場は生

き物ですから、細かい運用は現場に任せない

と、自滅一直線。一艦一艦に攻める航路まで

指示していたら、それはただの馬鹿ですから

ね。そんな訳で貴水艦長代行、艦隊運用は貴

方に全てお任せします。この指針書の意図に

沿うのが難しいと判断された際にのみ、私に

声をかけて下さい。私も…なるべく早く、衛

星基地を堕とします」

 そう言ったシェルダンは、貴水の返事を待

つ事なく、目の前の指揮官シートに腰を下ろ

すと、周囲の色々なキイを叩いて、宙に現れ

るスライドに、物凄い勢いで目を通し始めた。

「シェルダン大佐……」


 ――どうやら貴水も、腹をくくるしかない

ようであった。

「笑顔で人を凍らせられる」と、後に艦隊じゅうを震撼させる、貴水慧の登場です。

みんな、曲者すぎて、結果的に光輝の下に行くしかなくなるんですよね……。

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