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第一章 遥かなる宇宙《そら》の向こう(1)

 時代は25世紀も終盤。人類が光を越える

速度を手にして、宇宙開発事業に力を入れた

結果、太陽系内では、水星と火星を除く惑星

が居住可能惑星となり、更に地球に対して、

金星が独立を宣言し、月が中立・自治を宣言

した事によって、時代は惑星間抗争の歴史の

只中にあった。


 地球と金星とが、月を除いた惑星を、それ

ぞれの支配下に置いたところで、戦争はあて

のない停滞へと迷走をはじめ、苛烈とも緩慢

ともつかない争いが、昨今は繰り返されてい

た。


 現在は、2494年。

 地球軍、金星軍の一大転換期とされる年よ

りも、約1年前の出来事である―――。 


※これまで紙ベースで出していた「虚空のシンフォニア」シリーズのVer.0です。

 金星軍の問題児、光輝・グレン・カミジョウが一個艦隊を持つ直前のお話です。


 このシリーズは、地球軍と金星軍を交互に書いています。

 今回は、金星軍メインです。

  第一章  遥かなる宇宙(そら)の向こう        

       

         1

 

 星域保安庁、通称金星(ヴィナス)宇宙軍(フォース)に籍を置く、

ルーサ・オルドリアン大尉が司令室へと足を

踏み入れた時、彼を取り囲んだ無数の星々に

圧倒されて、思わず息をのんだ。

 ここは太陽系の中に点在している衛星補給

基地の一つであり、戦艦の中でも戦場のただ

中でもなかったのだが、それでも、有事には

天井を覆っている筈のドームが、今は開いて

いて、無数の星々と宇宙の深淵とが同時に視

界の前に開けているとあっては、まだ18歳

でしかない彼にとっては、それは威圧感を与

えるに十分なものであった。


「どうだ、いい眺めだろう?十ヶ月近くここ

にいて、気付かなかったのも間の抜けた話だ

が、ようやくネットワークの改良にもメドが

たってきて、いろいろと試みる事が出来るよ

うになった。まあ、手始めにこんなところか

らやらせてみたが、意外に悪くはない」

 と、呆気に取られていたオルドリアンの背

を軽く叩いた青年がいたのだが、この青年、

階級は准将と、オルドリアンより遥かに高い。


 およそ一年前に起きた地球軍との戦闘にお

いて、この宙域は磁場崩壊寸前の打撃を被っ

ていた。結果として勝敗の優劣はつかなかっ

たのだが、第一艦隊司令官が深手を負い、前

線から退かざるを得なくなったのは、人々の

記憶にまだ新しい。


 この宙域は、金星からその監督下にある天

王星へ向かうための重要な跳躍(ワープ)地点であり、

無下に放置しておく訳にはいかないと判断し

た、新・第一艦隊司令官アルフレッド・シー

ディア大将が、戦闘に参加していた士官・兵

士の内、約四分の一、半個艦隊に相当する人

数をこの宙域に残す事で、宙域の安定を図ろ

うとしているのも、また周知の事実であった。


 前・第一艦隊司令官フレッド・トルナーレ

大将の副官として高い評価を受けていたアー

レス・シェルダン大佐が、昇進してこの地に

残されたのも、その「対策」の一環だと、少

なくともオルドリアンの方では、信じて疑っ

ていなかった。


 誰も見た事がないような、最新のシステム

を搭載させた艦を開発するのが夢だったと言

(シェルダン)は、艦載機部隊、整備、兵器官制、航法

と、数多のネットワークシステムに精通して

おり、何より26歳という年齢に似合わぬ落

ち着きがその風貌からは滲み出ていて、誰が

命じた訳でもないにせよ、事実上の基地のナ

ンバー2だと、自他共に認められていた。


 だがオルドリアンは、そんなシェルダンを

見やって、溜め息混じりに片手で額を覆った

のである。

「………准将」

「何だ?」

「今日、この時間は幹部会議の予定だったよ

うに思うんですけど……」

「そうだったかな」

 シェルダンの表情は微塵も揺らがない。

「この開閉式ドームのメンテナンスに集中し

ていたから、それどころじゃなかったな」

 ――オルドリアンは、聞こえる程度の溜め

息を再び吐き出した。


 十ヶ月前、アルフレッド・シーディア大将

によって、サン・クレメンテ宙域に留まるよ

う命じられた兵士・士官は、第一艦隊と第七

艦隊の残存部隊から混成された集団であり、

その意思疎通は、未だそう充分ではない。


 必然、日に一度は各種行政面をまとめるた

めの会議を開く必要があり、責任者と今後の

方針のメドが立つまでの数回は、確かに真面

目にその会議も行われていた筈なのである。


「まあ、そう細かい事を気に病むな。大勢(たいせい)

決まった今となっては、私や少将がいない方

が、実務面での協議ははかどるだろう?」

 シェルダンは不敵に微笑んでいる。今月、

いったい、何度会議に顔を出したのか――口

にしかけて、オルドリアンはやめる。彼より

も回数の少ない士官が、もう一人いた事を思

い起こさせたからである。


「………()()は、どちらに?」

「射撃訓練か、書類書きかのどちらかだろう。

案外、責任者と名の付く地位に就くと、そう

自由にもしていられないからな。射撃訓練は、

この基地での少将の数少ない気晴らしだ。そ

う目くじらを立てるものじゃないぞ」

 それが、全く相手を哀れんでいる風には見

えないのは、オルドリアンの気のせいではな

いだろう。


 この基地に残される事が決まった時、准将

に昇進したシェルダンではあるが、責任者と

しての地位は固辞し、敢えて一人の青年をた

てたと言われている。

 かつての上官であり、命の恩人でもあると

言うのがその理由だったが、それを額面通り

に受け取る人間は、基地内にも実はそう多く

はない。


 軍務局の外宇宙担当局長を兼ね、現在この

衛星基地の最高責任者である光輝・グレン・

カミジョウ少将は、金星軍史上最年少の将官

であり、年齢は弱冠21歳にしかすぎないの

である。


 どれほど心が広くとも、年下の上官をたて

るという事は並大抵の事ではないという見方

が一般的で、機械いじりを事務仕事よりもこ

よなく愛するシェルダンが、面倒事を(カミジョウ)に押

しつけたとの話が周囲では有力視されていた。


「ですが、浅霧大尉が」

 敢えて、副官の名前も持ち出してみたが、

シェルダンの態度は変わらない。

「勝手にやる、文句は聞かんとか言っている

のだろう、どうせ?オルドリアン、ヤツは確

かに医務士官で、臨時の副官だ。命令権はな

いかも知れんが、お前が下手に出てどうする。

自分の階級を把握しているか、お前?」

「僕、いえ小官ごときに大した決定権がある

訳ないでしょう?お願いですから会議に出て

下さいよ、准将も閣下も!」


 とうとうオルドリアンが、懇願するように

声を上げた。

 無駄な努力だ、と会話の当事者(オルドリアン)を除く周囲

の士官全ての顔に書いてあったのは、知る由

もない事ではあるが。


「おーい、准将。基地の既存艦の索敵システ

ムの事だけどさ……」

「ああ、スタフォードが来た。悪いな、オル

ドリアン。この基地のハードウェアを、戦前

と同じ程度にまで回復させるのには、まだま

だ容易ではないという事だ。システムの改修

に関する限りの可能な許可は出すから、浅霧

大尉に預けておいてくれ。兵士同士のくだら

ない揉め事に関する限りは、カミジョウ少将

の名前で全て営倉入り。以上で、まだ何か言

う事はあるか?」

「……っ」


 会話を冗談のオブラートに包みながらも、

会議の目的と、オルドリアンが何の裁可を必

要としていた事をきちんと汲み取っていて、

シェルダンは話を切り返したのである。返す

言葉もなく、オルドリアンは絶句してしまっ

た。


「悪ぃ、オルドリアン。准将借りるぜー?」

 そう言って、シェルダンを手招きしている

ワレリー・ルーク・スタフォード少佐の姿が、

オルドリアンの目には虚しく映る。


「…って言うか、艦載機部隊の再編と訓練は

どうしたんですか、スタフォード少佐!」

「いやぁ、おまえ結構佐官級以上の士官のス

ケジュールをきっちり把握してるのな。さす

が、あのカミジョウ少将の副官をまだ続けて

いけてるだけの事はあるよ。うん」

「話を混ぜ返さないで下さい、少佐まで!」

「いやいや、マジメに感心してんだよ。到底

俺には出来ない事だしなー」

「少佐!准将!」


 ひらひらと手を振って、司令室を後にする

スタフォードとシェルダンを、追いかける術

はオルドリアンにはない。

 ――それは十ヶ月間、ほぼ毎日繰り返され

るサン・クレメンテ基地の恒例行事であった。


    *    *    *     


 西暦2495年現在、人類が光を超える速

度を手に入れてからおよそ四百年が経過した

この時点で、太陽系内の有人惑星は、月や各

惑星の衛星を加えると、その数は10を越し

ている。

 だが、この恒星系でその勢力は事実上二分

されている。

 かつては唯一の有人惑星であった地球と、

その施政者たちの驕りに対して叛旗を翻し、

第一世代移民として建国の礎を築いた、金星

であった。


「発展途上の惑星と、頽廃途上の惑星がぶつ

かりあった結果、彼我の勢力は均されて、不

毛な争いを重ねる結果となった。今、この瞬

間も」


 恒星系内で、唯一の中立国家を謳う月の初

代最高指導者が、そう両惑星の情勢を嘆きな

がら月の建国を志したのは、歴史に興味を持

者にとっては、有名な逸話である。


 月の指導者は既にそこから九代を数え、現

在に至っているのだが、初代が嘆いた地球と

金星の情勢には、今も何の変化も見受けられ

ない。

 太陽系内部での遭遇戦や、基地を狙った局

地戦が繰り返されるばかりで、誰もが認める

劇的な情勢の変化というのは、願うべくもな

いことであった。


 正確には、それを志す者は皆無ではなかっ

たのだが、今はまだそれぞれの胸に秘められ

たままの、絵空事だったのである。

 地球も金星も、十ヶ月前の遭遇戦で失った

艦隊を立て直す必要に迫られており、足音も

なく忍び寄っていた「歴史の転換点」になど

誰一人気付いてはいなかった。


 ――今、この時も。


「今更だけどさ、オルドリアンの言ってた、

決済の必要な書類とか何とか、放っておいて

いいのかよ?後でとんでもない規則とか決め

られてたりしても、俺は知らないぜ」

 少佐が准将に話しかける口調ではない上に、

その声にも全く真剣味はない。


 六年前、違法麻薬に絡んで起きた金星での

内乱騒ぎで知り合ってから、シェルダンとス

タフォードの間には、三歳という年齢差も階

級も超えた親交が存在している。


 技術畑出身のシェルダンと、軍でも指折り

の撃墜王と名高いスタフォードには、共に最

新のシステムに対する尋常でない執着心とい

う共通点が他にもあり、この基地内では正に

先陣を切る形で、あちらこちらの部署に出入

りしていた。

 混成軍であるが故に、それぞれにまだ明確

な役割がない事をついて、二人はほとんど全

ての部署において、自分たちが本来は門外漢

であるという事実を伏せたまま、確実にその

内部に入り込んでいたのである。


「心配するな、あの男(カオル)はそう言った面倒事が

大嫌いだし、服務規程書を()()()()出来る特

技もある。日常業務に関する限り、任せてお

いて問題はない」

「……問題はない?」

 何かが違う気がする、とスタフォードが小

首を傾げた。


 (カオル)・ルドヴィート・浅霧大尉の正式な肩書

は、第七艦隊副司令官旗艦所属の医務士官で

ある。本来なら、医務以外の事に口出しは出

来ない筈であった。  

 それが、十ヶ月前の戦いで艦の数や組織が

激変したドサクサに紛れるように、シェルダ

ンが強引に准将となった自分の副官を兼務さ

せ、しかもその不自然さを自分たち同様、周

囲に違和感を覚えさせる事なく隠し覆ったの

である。


「何、それは同期の絆?士官学校時代の同期

なんだって、大尉とは?」

 古い話だな、とシェルダンは笑った。

「ただまぁ、お前にまでそう思われているの

なら、当面はデスクワークを兼務させておい

ても問題はないな。浅霧(カオル)自身は不本意かも知

れないが」

「何、その何か裏があるみたいな言い方」

「いいや、別に?ただ敢えて言うなら、非常

時に人はどれだけ専門外の事が出来るかと言

う、()()だな。各人がそれぞれの職域を主張

しないのは、混成軍で基地に取り残された今 

が、決して平時ではないと言う認識があるか

らだろうし、同時にこの中には、そこまで狭

量な士官がいないと言う事にもなる。カミジ

ョウ少将とて、この現状をまず不満には思っ

ていないだろう。ああ、いや、本星の()()()

になかなか会えない事は不満かも知れないが」


 あくまでも、笑顔を崩さず語るシェルダン

に、スタフォードが顔をしかめる。

「俺は単なる戦闘機乗り(パイロット)だから、難しい事は

分からねぇけど、それは何、俺も実験されて

る側だって話?」

「何のために、あちこちの部署に出入りして

いると思ってるんだ。言っておくがこれは、

私自身への実験でもある。実験のしようがな

いのはカミジョウ少将くらいのものだな」

「……俺、単に准将が趣味でやってるんだと

思ってたよ」

「……まあそれも、頭からの否定はしないが」


 沈着剛毅、だが意外に気さくで話の分かる

士官――と言うのが、アーレス・シェルダン

と言う青年に対しての「一般論」である。

 スタフォードにしても、階級と年齢を忘れ

た、個人的に大変波長の合う相手ではあるの

が、時々その発想に圧倒される事がある。


 自分たちが出入りした部署を思い起こせば、

既にシェルダンは、ほとんどの士官の顔と名

前、果てはある程度の人為を把握している事

になり、そしてそれは、彼の現在唯一の上官

である、光輝・グレン・カミジョウ少将にも

報告されている筈なのだ。


「会議、会議と唸るオルドリアンの努力が報

われない訳だよなぁ」

 光輝やシェルダンにとっては、もはや「会

議」は単なる形式だ。やっておかなければ、

周囲や本星より独善者の誹りを受けてしまう

ために、残してある「習慣」にすぎない。

 仮にそうと知っても、生真面目なオルドリ

アンなどはその「習慣」を履行しようとする

のだろうが、極端なまでの実務主義である光

輝やシェルダンに、同じ事を求めるのは無理

な話であった。


「で、基地の既存艦の索敵システムがどうし

たんだ、スタフォード?元々、各艦のシステ

ムについてはメンテナンスを最優先にするよ

う通達してあった筈だろう」

「ああ、そうそう、その話。いや、それは分

かってるんだけどさ。まだ基地のメインシス

テムとのリンクが上手くいってないんだよ。

あれ、結構複雑だろ?俺が口でとやかく説明

するより、准将に見て貰う方が早いんじゃな

いかと思ってさ」

「……ふむ。基地陥落に備えてのコマンド凍

結システムを、頭ごなしに非難はしないが、

こうなると案外やっかいなものだな」


 2492年12月、宙域の哨戒活動中だっ

た第七艦隊が、地球軍の第一艦隊と遭遇戦を

展開、金星軍、地球軍双方が増援部隊を派遣

した結果、戦火は両軍の予想外に拡大した。


 この基地も、補給の拠点として陥落の憂き

目をみかけた事が一再ではなかったのだが、 

いよいよとなった時に、当時の基地監督官た

るノティーツ大佐が、全コンピュータのデー

タ消去と、航法システムのコマンド凍結を、

自らが捕虜に名乗り出る事を囮として、実行

してのけたのである。


 結局ノティーツは、駆けつけた増援艦隊に

よって、捕虜となる事なく危機を凌いだのだ

が、戦闘中に深手を負って意識不明の重体と

なったため、いったん凍結してしまったコマ

ンドを、完全に回復させる事は叶わなかった。

 いきおい、それは残された駐留軍の大きな

「仕事」の一つとなっていたのである。


「あれ、珍しいな、愚痴?この間まで、ノテ

ィーツ大佐のとっさの判断力と行動を褒めて

た気がするけど」

 スタフォードの、からかうような響きの声

に、シェルダンは皮肉っぽく唇を歪めた。

「私とて、辟易ぐらいはするさ。技術局の士

官でもないのに、まるで便利屋のごとく、こ

う頻繁に呼ばれていてはな」

「うわ、あれだけ手出し口出ししといて、今

さらそれを言う?准将の知識って、確実に残

されてる技術士官を凌いでんだぜ」

「おまえもか」

「でなきゃ、呼ばないって」 

「………」 

 即答されたシェルダンは、皮肉を言う気も

失せたようである。


「真面目な話さ、准将、俺だってこれでも各

艦のプログラムは解凍して、動作環境の確認

まではしたんだぜ?ただその後、どうやって

も基地側の管制と繋がらないんだよ。リンク

するプログラムが違ってんだろうなって事く

らいはもちろん分かるんだけどさ、俺の職域

と趣味の範疇では、そこまでが限界。二度目

はないように横から拝ませて貰うからさ、頼

むよ」

 シェルダンの渋面を見たスタフォードが、

片手で軽く拝む仕種を見せた。


 戦闘機戦(ドッグファイト)においては、比類ない能力を持つ

と言われるスタフォードだが、三歳の年齢差は、

時折絶対的な経験値の不足を彼に自覚させる。

 職域と趣味の範疇、と彼が言う通り、戦闘

機の操縦とメンテナンスに必要な技術力を除

いては、まだまだ及ばない部分がある事を、

彼も分かっていたのである。


「……まあ、解凍まで済んでいるのなら、話

はそう難しくないだろう」

 その率直さこそが、シェルダンがこの年下

の僚友を認めている理由の一つではあるのだ

が。


「ああ、そうそう。准将の言い方借りるなら

さ、第七艦隊から来てる、戦略情報部の通信

士官、ロベルト・フランチェーゼ大尉だった

かな?奴さんが結構使えるんだよ。カルノー

少佐はもともと士官学校の首席だろ?所属も

法規局だし、まあ見てくれの通りっていうか

何て言うか、操作にゃ強いんだけどさ。意外

にあの二人ウマが合うらしくて、日常レベル

の機能回復と整備は、ほとんど二人で片付け

ちまったんだよな、これが」

「ほう……」


 第一艦隊所属艦の艦長(シェルダンの)副官を務めていた事

もあるイアード・カルノー少佐は、シェルダ

ンの士官学校の一年後輩、当時から風貌の変

わらぬ、官僚タイプの秀才である。

 一部には「歩く法律書」と揶揄されるほど

の規律に厳しい士官で、艦隊内では異彩を放

つのだが、その規律を、決して戦況の変化著

しい戦闘中には持ち出さないため、他人が思

うより、その視野は広い。


「オルドリアン大尉ではありませんが、この

時間は確か幹部会議ではありませんでしたか、

シェルダン准将?」

 管制室へ入るなりの軽いジャブにも、シェ

ルダンはもちろん動じない。

「何か軍規に触れたとでも、カルノー?」

「混合軍の日常を円滑に運営する手段として

は、例え軍規でなくとも、多数意志で決定さ

れた項目は、極めて有効なのではないかと思

いますが」

 さすが、オルドリアンよりも言う事が一枚

上手だ。しかも陰湿さは全くないため、シェ

ルダンとしても苦笑を浮かべるしかない。

 現在は直属上官ではなかったが、そうでな

くとも、耳に痛い事を直言出来るその性格は、

彼が単なる秀才官僚に留まらない事を表して

いると言って良かった。


「一理あるな。平時はその言葉、覚えておこ

う。だが今は、索敵システムのリンクが先だ

な。経路制御の解析は進んでいるのか?まず

は仮想モードで良い。それが組み立てられれ

ば、後はそう難しい話じゃない筈だ」

「………はっ」

 カルノーは目を見開き、部屋は一瞬どよめ

いた。

 さっすが、と口笛を吹くスタフォードに、

シェルダンは片手を振る。

()()趣味と職域の範疇でも、それが限界だ。

いずれ体裁が整ったら、しかるべき本職の士

官がメンテナンスをするだろう。まあ、ここ

は前線だ。それが敵か味方かまでは判断しか

ねるがな」

 物騒な事を、ごく軽い調子でシェルダンは

言った。


 それが笑えない事態に陥るまで、そう長い

時間はかからなかったのだが、この時点では

まだ、基地内の空気はシェルダンの口調と同

じくらい、軽いものであった。

少しブランクがあったものの、なかなかPCに向かう時間がなかったところに、この「小説家になろう」サイトを知って、シリーズを再開しようと思い立ちました。


Ver.0のため、オルドリアン君はまだ元気です。


本編「虚空のシンフォニア」Ver1~8までと、地球軍側のVer.0(暁の序曲編)が紙ベースとして既にあり、シリーズとしては実は10冊目になるのですが、このサイトでどこから載せようかと考えた時、金星軍のプロローグをまず書いておこうと思いました。


地球軍側のVer.0(暁の序曲編)よりも、更に少し前、ホントにホントのシリーズプロローグです。

初めましての方も、お久しぶりの方も、楽しんでいただけましたら幸いです。


ちなみにこのシリーズはこれまで、登場人物の「売り込み」OKとしてきました(笑)

こんな士官、政治家etc…ここに登場させたい!と言うリクエストがあれば、お知らせ下さい。

今後のプロットの中に合致していた場合は、採用させていただきます!


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