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Eon Crusade  作者: 水廉
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ヘラネの町で

本格的にストーリー開始です!

朝の戦いの後、二人はそのまま町を目指して歩いていた。


「…朝から無駄に疲れた気がする」


「脆弱な賊だのわけのわからん騎士だのに出会(でくわ)したからな…あの場所も兵団が立ち入ってしばらくは使えないだろう。久々に宿に泊まるか」


「それ賛成。ヘラネの町に着いたら予約ね」


二人の目的地は交易都市ヘラネである。


ヘラネは港町であり、定期的に開かれる市では、他大陸や他国の多くの商人が集まり、様々な商品が並ぶ。


その時期は活気に満ち溢れて賑やかで、まるでお祭り騒ぎだ。そしてその市は今日から開かれているようであった。


町に続く砂利の道を歩いていると、背に大きな荷物を背負った商人たちが足早に追い抜いていく。


「商人たちはいつも大変そうね」


「どの荷物からも薬草の薫りがするな…今回の市は負傷者を元気づけるためのイベントと言っても過言ではなさそうだ。用が済んだら寄ってみるか?」


そんなことを話しながら歩いていると、高い石の塀に囲まれた町が見えてきた。


入り口には旅人や商人の長い列ができ、黒い鎧をまとった兵士二人が対応している。


市が開かれる数日間は、町の中に入るためにちょっとした手続きが必要だ。


内容は簡単なものらしいが、いつもルディスが二人分まとめて手続きをしている。


リティエラはその度に、その様子を見つめているのだった。


やがて町に通され、しばらく歩くと、一軒の酒場の前でルディスが立ち止まった。


そこは他に比べて建物は傷だらけで古めかしく、木の看板は傾いている。


「ここが情報屋?」


「ああ。ここは見ての通り、表向きはただの酒場だ。情報屋に用がある時は裏から入る決まりなんだ」


「面倒ね…ここで待ってる」


「すぐ戻る」


ルディスはそう言い残して、酒場の隣の細い路地に入って行った。


「あらあなた、そこで突っ立って何をしているの?」


そう声をかけられたのは、ルディスが離れて少し経ってからだった。


振り返ると、そこには赤髪の少女と、どこか見覚えのある鎧をまとった青年が立っていた。


***


ルディスは狭い路地を抜けて裏口に回り、扉を叩いた。


「いるか、ガハニード」


しばらく経っても返事がなく、もう一度叩こうとしたとき、扉は開いた。


中から顔を覗かせたのはまだ眠そうな壮年の男だ。


「…ああ、なんだおまえか。随分久々に見る顔だな。さすが、相変わらずだ。入りな」


彼は酒場のマスターであり、情報屋でもある。名をガハニードという。


ルディスは中に入ると、部外者がいないことを確認し、後ろ手に扉を閉めた。


「おまえも変わらないな。いや、少し老けたか?」


「やかましい、俺ぁまだまだ現役だ」


ガハニードは笑ってそう言うと、ベルトに下げた短剣を抜きながら、地図の広げられたテーブルに腰かけた。


「さぁて…頼まれていた情報だが、おまえからの依頼は…神とREOLA(レオラ)?について、だったな」


ルディスは静かに頷いた。


神ーーそれは数千年前にこの地上から姿を消したという伝説の存在だ。


その瞬間大地が崩れ、神に見捨てられたと絶望した人間族(ユマン)が底知れない恐怖と不安を覚え、それがきっかけで他種族を襲ったという。


詳しいことはわかっていないが、その時、争いという概念が生まれたのだと伝えられている。


「先に言っておくが、そのREORA?とかいうものついては一切情報はなく、実在していたのかさえわからない。王都の図書塔まで行ってきたが、神に関わる情報も手に入らなかった。ただ神に近づくためのカギになりそうな組織は見つけたぞ」


ガハニードが地図を見下ろしながら手招きする。


「組織?あちこち回ってきたが、その話は初めて聞いたな」


ルディスもテーブルに近づき地図を覗き込むと、ガハニードはヘラネから距離のある山岳地帯の位置に、短剣を突き刺した。


「ディユ・リイン・カルナティオ」


ガハニードは声を潜めて言った。


「別名【神々の転生】と言うらしいが、この組織がどうもきな臭い。おそらく本拠地はこのテラ山脈。慈善活動を行なっていることでごく一部の人間の間では有名らしいんだが…」


ガハニードは険しい表情を浮かべながら言葉を紡ぐ。


「…実際にやつらと関わりを持った村や里は滅んでいる。この前この近くで比較的小規模な戦いがあっただろう?あの発端となったのもやつらと関わったテラ山脈麓の村だ」


それを聞き、ルディスは僅かに目を瞠った。


「テラ山脈は数年前に通ったことがある…だが今まで、まるで名を聞かなかったのはなぜだ?」


ルディスは腕を組み、幾つかの仮説を立てた。


まだ新しい組織である可能性、情報に間違いがある可能性、ただ気がつかなかっただけという間抜けな落ち。


ガハニードも何か考え込んでいるらしく、テーブルに突き刺さった短剣を手に取り、弄んでいる。


暗い部屋に重い沈黙が流れた。


「邪魔するぞー」


見事にその空気をぶち壊したのは勢いよく扉が開いた音と、呑気な声だった。


ルディスがはっとして振り返り、ガハニードが地図を素早く畳む。


そこには銀に輝く鎧を纏った、今朝の騎士の男が立っていた。


「な、なぜおまえがここにいる…!」


「うお!?そりゃこっちのセリフだぞ青年。あ、騎士団に入る話、考え直してくれたのか?ちょうど良かったもうすぐ会議なんだが特別に…」


「ガハニード、情報感謝する。店の中を通らせてもらうぞ、表の入口で連れが待ってるんでな」


ルディスは騎士の言葉を遮った。ガハニードは何度か目を瞬き、口を開く。


「…お、おう。そうだ、俺はおまえの知りたがっているものの存在を信じちゃいない。だが、おまえらにとっては何か意味があるんだろう?力になれるかはわからんが、ヒデム王国に向かえ。そこに古の語り部と呼ばれる巨人族(リーゼ)がいるらしい。今度の情報代、期待しとくぜ」


「感謝する。…また近いうちに」


奥にある黒く重い扉を開けると、そこは朝から酒を楽しむ者たちの明るい声で満ちていた。


一歩踏み出すと、客から変な目で見られたが、気にしている暇はない。


ルディスは転がったビンや武器を避けながら入り口に向かい、その扉をゆっくりと開けた。


「リティ、この街に朝の男が…」


そこで言葉を切った。視線の先にはいつも通り無表情のリティエラ。そして。


「ルディス、この二人も騎士団員みたいよ」


彼女の周りに、先ほど会った誰かさんのものとよく似た鎧を纏った青年と、落ち着いた色合いのワンピースを纏った少女が立っていた。


「初めまして、僕はロイド。君も強いんだってね。団長から話は聞いてるよ」


「わたしはデュア。あなたたち、父さんのお気に入りって聞いたけど本当なの?」


ルディスとリティエラは顔を見合わせた。


一つ気になることがあったからだ。


((…あの騎士には一体いつの間に抜かされたんだろうか))

次回「騎士団サリュト」です!

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