~序章~
あの人ならきっとまた、「生きているだけで幸せって思えばいいよ」なんて言うのでしょうが、それは本当にそうなんでしょうか?
「幸せなんて、相対的なモンだから」とか、「俺たちが死んだのも蘇ったのも、不幸になるためではないだろう?」だとか。事あるごとに聞こえの良さそうなことばかり、口にしたがる方でしたから、今一つ信用なりません。
そうでなくとも、「生きているだけ」というのは、あまり幸せそうな響きがありません。だけ、などという一言が着いている時点で、どう贔屓目に見てもみじめな感じがするではありませんか。
生きていればそれは、少なくとも黄泉路にいるよりもはるかに多くのことへと踏み出して行けるでしょう。そういう位置であることは、確かに疑いようもありません。しかし、「何かができる」、「どこかへ行ける」ということが「幸せである」ということに直結しないと、私は思うのです。
人は往々にして、自ら諍いを起こし、破滅への道を歩みもします。できることは不幸になることかもしれません。向かう先が不幸なのかもしれません。それはつまり言ってしまえば、生きているということそれ自体が、まだまだ不幸になる余地を残しているだけなのかもしれません。何もできない方が、死んでいる方が幸せであるとも言えるのではないでしょうか?
それこそ、あの人の言う「相対的な幸せ」がそこに成立するような気がします。
――――などとそんな風に否定的に考えてしまうのはやはり、私の歩んできた道によるものなのでしょうか?だとすれば、執行猶予などと言って死後の生を謳歌するような、死霊族の身で「俺たちは生きている!」なんて真顔で言うような図太い神経を持ったあの人が特別なのではなく、私が――――稀有な経歴を持つ私こそが、特別なのかもしれませんね。
「触れられざる女王」
「蝕むもの」
そんな痛々しい汚名を歴史に刻んでしまった私が、殊更間違っていると言われても、残念ながら否定することは出来ません。どうせなら、両親から頂いたこの可愛らしい名前を世に残したかったものですが、人生とはどうにもままならないものです。
とうの昔に人の域を踏み外してしまった身ですから、こんな私が人生について考えたり、語ったり、或いは振り返ったりするのは、酷く無意味なことのようにも思います。
しかし、夜は長く、眠りのない死霊族にとってはことさら長く、そんなことくらいしか私にはすることがありませんから。
暗い過去です。
黒い歴史です。
それこそ、目も当てられないような、目を覆いたくなるような話です。
ですが少なくとも私にとっては、目を背けることの出来ない物語です。
それを切って捨てることができないのは恐らく、それが私という人間の、いえ、私という存在の根幹を成すものだからでしょう。
ですから、今夜も回想しましょう。
眠り無き夜の、寝物語に。
私が滅ぼした国のことを。
私が亡くした人たちのことを。
触れられざる女王の、触れられざる物語を――――
Illus. 大橋なずな
お初の方も、おまたの方も、閲覧有り難うございます。
チラホラと話題だけはあった、拙作「死霊王は眠らない」のスピン・オフ、幼女が主役の「二度と還らぬレヴァナント」、遂に始動です。
更新は月1回、毎日5日0時に予定しています。初回だけは、序章のみではお話にならないと思い、2日連続投稿で予約してあります。




