16年前
西暦、2001年9月2日午前5時32分和歌山沖…………、
「……CICこちら艦橋、反応はどうだ?」
『艦橋こちらCIC、今のところありません』
「了解した、監視を続行してくれ」
艦長である彼は無線を切り双眼鏡を手に外を眺める。深い濃霧が艦隊の周りを完全に覆っており、視界はかなり悪い。
「艦長」
彼は背後から掛けられた声に振り向く。幹部夏装第三種夏服を身に付けた彼の同僚でありこの艦隊司令官である男性がそこに立っていた。
「調子は?」
「悪くはない、が霧が深い。ソナーに頼りきりなのは少々不安だな」
「この船のソナーは最近不調だからね。分からなくもないよ」
そう言って彼は窓の格子を撫でる。
日本海上自衛隊所属強襲揚陸艦【きりしま】、それがこの船の名だ。急遽建造され就役してから僅か2年、汎用型人型戦闘兵器『カタフラクト』試作型【KT-KBU-P】7機が搭載されたこの船は敵性未知知的生命体【S.i.A】に対抗する人類に残された希望の1つでもある。
「幸い本土の予報では〇七〇〇頃には晴れるとの事だがまだ1時間半時間がある」
「この哨戒任務中で今の所S.i.Aとは遭遇してはいないけど白浜前線基地までは気が抜けないな」
「ああ、久しぶりに帰郷できそうなんだがな」
艦長の男の言葉に司令官の男も頷く。
「しばらく帰れてなかったから早く娘や妻に会いたいものだ」
「俺もだ、息子もでかくなっただろうし娘、妹も無事産まれたらしいからな」
「おめでたいじゃないか、念願の女の子だろう?」
「ああ、うちは昔から男だらけでな……。ようやく待望の女の子成分が我が家に‼︎」
「はいはい、落ち着きましょう。今は絶賛任務中だよ、謹んで」
「む……、すまん。取り乱した」
「構わないよ、君がそれだけ喜んでるのは知ってるからね」
司令である彼はそう苦笑いを零す。
「そう言えば妻から聞いたんだが娘と君の息子は仲良くやってるそうだよ。君の子にならあの子を任せても大丈夫だとは思うんだがね」
「お前はアイツは気に入ってるんだな、他の男の子は娘に近づくのも嬉しそうじゃない癖に」
「あの子は良い子だよ、あの子なら娘を、シアを幸せにしてくれるさ。それに彼には私達に無い不思議な力がある気がする、次世代を担うのは間違いなく彼だよ」
同僚であり戦友である艦長の息子である彼の目は不思議な光を宿していた。人を、人ならざるモノをも惹きつける光、言うならば『英雄』の光だ。彼ならばこんな荒れた世界に成ってしまったこの地球を救ってくれるかもしれないと思えて『しまった』のだ。
「…………そうかもしれんな」
父親である彼も頷く。
「あ〜〜〜、いい話の腰を折ってしまって悪いんだが……、そう言や悪いがアイツに許嫁っぽいのができちまった。悪い」
「……は?」
「知り合いなんだがそいつの娘もってど、どうした⁉︎」
「断れ、あと私に謝れ。娘はあの子にしかやれん」
「いやいやいや、なんでそんなに必死なんだ⁉︎てかなんで断るんだ⁉︎」
「黙れ、海の藻屑にしてくれる」
「What⁉︎待て待て待て仕事中‼︎」
司令官である彼の手が艦長の彼肩に触れた瞬間警報が鳴り響く。
『前方水上レーダーに反応有り‼︎反応数5‼︎水中レーダーにも反応有り、反応数3‼︎距離4千‼︎』
「チッ、対水上、対潜水戦闘用意‼︎カタフラクト上げろ‼︎」
戦時灯である赤に照明が切り替わる。と同時に2人の顔も真剣な表情へと切り替わった。
「こちら艦橋、CIC。こちらは気付かれてるか?」
『おそらく、敵真っ直ぐこちらに直進して来ます。距離3千5百』
「なら回避はできないか……、白浜前線基地に打電‼︎『援軍求む』。全艦全速前進、最大戦速‼︎一撃離脱を行い離脱する。主砲撃ち方用意」
「主砲撃ち方用意、狙え」
『距離2千、敵以前そのまま本艦に向け直進‼︎』
「撃ち方始め‼︎退路を開け‼︎」
「撃ち方始め‼︎」
ドォンッドォンドォン
護衛艦3隻と強襲揚陸艦の計4門の主砲が火を噴く。艦艇による敵陣中突破、現代海戦における『島津の退き口』が行われたのだ。
「巡航ミサイル発射‼︎」
両舷に付く護衛艦から計3本の巡航ミサイルが放たれ標的に向かう。
『⁉︎巡航ミサイル消滅‼︎迎撃されました‼︎』
「なに⁉︎」
『目標より高エネルギー反応、来ます‼︎』
「回避‼︎散開しろ‼︎」
きりしまが左に舵を切った直後今まで居た進路上に何かが突き刺さり海水を巻き上げる。
ズドオォンッ
「くっ、被害を報告しろ‼︎」
『ダメージコントロールより報告、至近弾により右舷レーダー機器に不具合有り。なお右舷喫水区画に僅かながら浸水を確認しました、応急処置を行います』
『護衛艦はるなより入電、後方甲板に直撃弾!重要区画被害は有りませんでしたが船速が低下します』
『護衛艦はるかぜより入電、マストに至近弾。レーダー機器に異常有り!通信環境が悪化します』
『護衛艦ゆきかぜより入電、船首左舷に直撃弾!復旧できません、総員退艦します‼︎』
たった一斉射だけでこの被害、確かに護衛艦の防御力は紙装甲と言っても過言ではない。だがそれでも通常弾より遥かに高い威力持ったソレが艦隊を襲ったのだ。
「CIC!今の攻撃は何だ‼︎」
『不明です‼︎ただ分っていることはアレが圧縮水弾では無く高いエネルギーの塊である事だけです』
そう、S.i.Aの遠距離攻撃は海水を圧縮、高温で打ち出す水塊の圧縮弾の筈なのだ、断じてエネルギー(・・・・・)の塊ではない。
「データを最寄りの基地全てにばら撒け!マストのアンテナがやられてるんだ、確実に届けろ‼︎」
『やってます!収集データ全て送信、暗号化していない平文も同時に飛ばしてます‼︎』
「ならば結構!ゆきかぜの乗組員ははるかぜか陸に向け輸送しろ、輸送ヘリは全機発艦し1人でも多く救え‼︎」
『再び目標より高エネルギー反応、来ます‼︎』
「撃て‼︎CIC迎撃しろ‼︎」
『シースパロー発射‼︎』
今度は左に舵を切り主砲連射と同時に両舷よりシースパローが発射され誘導、尾を引き飛んで行く。
ドゴォッンォンッ
全長200メートル以上ある強襲揚陸艦きりしまが揺れる。おそらく直撃弾は……無い。
『CICより艦橋、本艦に向け発射された物体の内2発を迎撃に成功、しかし3発が失敗し至近弾です』
『ダメージコントロールより艦橋、先程の至近弾により通信機器に不具合が発生。白浜前線基地と連絡が取れません』
『大変です、退艦中のゆきかぜに2発の命中弾‼︎ああっ、沈みます‼︎』
「くっ、はるかぜを反転させろ。退艦した乗組員を乗せ海域を離脱、……ここは我々きりしまとはるなで迎撃する……」
「艦長!」
艦長の決断に司令官の彼は驚く。艦長の男は拳を握りながら命令を下した。
「命を俺に預けここで死ねる奴は残り無理な者は退艦しろ……、責任は俺が取る」
艦長はそう言い操舵員をスッと退かし舵を握る。一瞬の静寂が艦橋だけでなく艦内全てを支配した。
『…………艦橋、こちらCIC。水臭いですよ艦長……、CIC一同最後までお供させていただきますよ。最後の最後まで』
『ダメージコントロールより艦橋、私達もです。大丈夫、この艦は沈みません。私達が完璧にダメージをコントロールしてやりますよ』
『厨房より艦橋、見損なっちゃ困りますぜ艦長。俺達ゃこの艦が家なんですぜ?俺はまたあんたと酒が飲みてえんだよ』
『こちらカタフラクト隊、短い付き合いですが艦長、貴方を見捨てられませんよ。自分達も付き合わせてもらいます』
「そうですよ艦長、貴方がこの艦に残り盾となるならば我々が貴方を置いて逃げられる訳が無いでしょう。我々だって自衛官として国民を守る誇りはあります。……それに怪物と戦うのは自衛隊の伝統ですよ」
操舵員の海兵が艦長に向け敬礼し舵を代わる、驚いた彼の肩に司令官の彼の手が置かれた。
「まったく……司令官の私より部下に好かれる貴方が少し羨ましいですよ?それに艦長が残るのに司令官である私が逃げてどうするのですが?指揮が貴方程上手くは無いですが職務くらいは全うさせていただきます。……それに許嫁とやらも解消してもらわなければなりませんしね」
彼は驚いた顔から一転笑い出した。
「あっはっはっはっ‼︎負けたよ、お前達の勝ちだ。野郎共、その命確かに俺が預かった。行くぞ!進めぇ‼︎」
『おおっ‼︎』
◆◇◆◇◆
報告
H13.9/2、日本列島本州紀伊半島沖0532にて海上自衛隊所属第4艦隊は未知知的生命体、通称『S.i.A』集団と会敵、戦闘を行う。しかし0554に白浜前線基地との通信が途切れ0613、救援に向かった艦隊は中破した護衛艦はるかぜ乗組員と沈没したゆきかぜ生存者を発見、収容。0627にて戦闘海域に到達するも強襲揚陸艦きりしま・護衛艦はるな及び『S.i.A』集団は発見できず。よって同日1100に艦隊壊滅を確定する。但し、旗艦強襲揚陸艦きりしま及び乗組員473名の生死は確認できず。よって今後捜索を続行する。
沈没艦
・護衛艦ゆきかぜ
・護衛艦はるな
中破艦
・護衛艦はるかぜ
行方不明艦
・強襲揚陸艦きりしま
死者
376名
負傷者
127名
行方不明者(きりしま乗組員含む)
593名
極秘
通信切断直前に送信された戦闘データについては至急解析を行うものとする。




