↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/15

第十話 街にて

僕は、今日は少し遠出をしている。

と言っても、いつも降りる駅より二つ向こうの駅で降りたというだけだが。

今日は、この駅の近くにある服屋に用事がある。一番の理由は、そこで働き始めたという友達に会いに来たのだ。服はついでだ。

「いらっしゃい」

その友達は、小学生の頃からの大親友だ。とても明るくて、良い奴だ。良い奴という言葉で片付けてしまうのは、惜しいかもしれない。

「おう、穏風!久しぶりだな」

彼、瑛悟(えいご)が、僕だと分かると近づいてきた。

「へえ、おしゃれな店だね」

僕が感想を述べると、彼は嬉しそうに笑った。ごちゃごちゃしていなくて、本当にいい店だ。

「だろ?俺、ついこの間から働き始めたんだ。良い感じだから、好きなんだ。お前が気に入ってくれて、嬉しいよ」


彼と少し話をしてから、僕は服を選んで、買った。そして、彼と別れた。

外に出て、しばらく歩くとコンビニがあったので、僕はそこでレモンティーを買った。

またしばらく歩くと、きれいな公園があった。そこのベンチに座って、一休みした。小さな子供たちが何人か仲良く遊んでいて、その側で若いお母さん達がおしゃべりをしている。平和だった。

今日はもう大晦日。

早く帰って、またいろいろと準備を手伝わなければ。

お正月には、幸時家にたくさんお客様が来るらしい。幸時賢貴さんの仕事関係の人々だと、亜志貴さんは言っていた。

しばらく穏やかな陽射しの中ぼんやりしていると、突然横から声をかけられた。

「おう、こんなとこで何してんだ?」

僕は顔を上げた。そこには、知らない男の人がいた。彼の後ろから西日が当たっていて、顔が見えない。

僕はキョロキョロと辺りを見回したが、誰もいなかった。確かに僕に話し掛けているようだ。

その人は、僕の横に座った。影がなくなり、彼の顔が見えた。

その顔を見たとき、僕は自分の目をかなり疑った。

その人は、亜志貴さんにそっくりだった。

顔だけじゃない。声も、感じも、何もかも。テレビに出てくる、きゃーきゃーと騒がれるようなカッコイイ顔だ。赤くてサラサラしている髪は少し長いが、全然変ではない。瞳の色は、藍色だ。

「どうした。大丈夫か?」

その人はニカっと笑った。僕はもう訳が分からなくなった。

「あの、どこかでお会いしましたか?」

言い終わったとたん、彼の顔は喜びに満ちた表情になった。

それから一つ咳払いをした。

「はい。いつもお会いしていますよ、堂月さん」

その人が声を変えて、妖しげに笑いながらそう言った。

「まさか・・・」

「お分かりですね」

彼は微笑んだ。

嘘だー!

僕は心の中で叫んだ。だって・・・だって・・・・・

「ぼ、僕をからかってるんですか?あなたは男じゃないですか!それに、どうして彼女のことを・・・?!」

僕の反応を、彼は紳のように面白がった。

「俺が彼女だからだよ。加東白。幸時家では亜志貴様のお世話係。どうだ?これで信じるか?」

加東白を名乗る男は、悪戯っぽく言った。もう、否定できない。

僕は彼を見た。よく見ると、幸時賢貴さんと凛さんにも似ている。

「どうして、彼女に?」

僕は訊いた。

「自分の力を試してみたかったからさ。子供の頃から興味があって、今は専門学校と大学に行ってる」

「じょ、女装の専門学校って有るんですか?」

「違う!メイクだよ、メ・イ・ク!まあ、幸時家のパーティーとかにあんまり興味が無いってのもあるけどな。でも、こうして実体を見ても気がつかないってことは、俺の腕が確実に上がったって事だよな」

(そうなのか?)

僕はまだ半信半疑だけれど、一応納得した。

(化粧って、こんなにも人を変えるものなんだな・・・)

しかし、いざ冷静になると、彼の言葉にひっかかりを感じた。

「なんか、まるで幸時家の人みたいな言い方ですね」

僕はもうその時すでに、彼の返事を心の中で聞いたような気がした。

「俺、幸時家の人間だぜ。本名、幸時由乃(こうじよしの)。加東白は偽名だよ」

僕はもう頭がごちゃごちゃになった。

「ってことは、あなたは亜志貴さんのお兄さん?」

「イェス!」

彼はVサインをした。何だか、夢みたいだ。僕は起きながら夢を見ているのか?

「由乃さんが加東さんだった。由乃さんは男性・・・。はっ、由乃さん、そんなシュミ・・・」

「だから違うって!自分の実力を試してるんだってばっ!」

彼は顔を真っ赤にして、僕の意見を否定した。僕は思わず笑ってしまった。

「で、穏風は何を考えてたんだ?もしかして亜志貴の事か?」

彼はそう言ってニヤっと笑った。今度は、僕の顔が真っ赤になった。

「ちょっと、勝手に人の名前呼び捨てしないでください!それに、僕はそんな・・・!」

「まあまあ、俺のことも由乃でいいからさ」

彼は僕にドードーと言って肩を軽く叩いた。

「それに、図星だろ?」

僕は、彼の言葉にうっ・・・となった。

そう、図星だ。

僕は、最近よく彼女のことを考えてしまう。どうしてかと最初は頭を悩ませていた。

俺の働いてる店に来いよと電話をしてきた瑛悟に相談すると、それは恋の病だべ、と彼は電話口で笑った。昨日のことだ。

〈おうおう、突然何かと思えば。いっちょまえにそんな贅沢な悩み持ちやがって〉

「だってさ、こんなこと相談できるの瑛悟ぐらいなんだ。僕、いくら考えても分かんないし・・・」

〈まあお前はそういう奴だわ、昔から。よし、特別教えてやる。ズバリ、お前は亜志貴さんが好きなんだ!〉

「え?!これが好きってことなの?!」

〈・・・っとに、何にも知らないんだな。そうだよ。で、好きになるとその人のことばかり考えてしまう。側にいるとドキドキするんだ。おまえ、現在進行形でそうなんだろ?〉

「う・・・うん」

〈じゃあそうなんだよ〉

「ん〜・・・そっか。分かった。ありがとう、瑛悟」

〈おう!好きになった奴は大切にしろよ〉

そうだ、僕は亜志貴さんのことを好きになってしまったのだ。

亜志貴さんは、どう想っているんだろう?

「俺は応援するぜ。愛する妹だからな、そこらの奴じゃ駄目だと思ってたけど、穏風なら大丈夫だ」

彼はハッハッハッハッと大声で笑った。砂場の子供たちが、こちらをじっと見ていた。

僕はますます赤くなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。