9話 リトリーの魔法
「なんで……あんなところで……寝てたのか……?」
さして疑問にも思っていなさそうにリトリーは首を傾げる。
校舎の教室(アメリカ映画で見るスクールのような造り)を一室一室まわってはバイターを倒していく。
ある部屋のバイターを倒しきったところで、一息ついて尋ねる。
「少し、気になった」
「べつに……たいした……ことじゃ、ない……」
リトリーは答えない。
話したくないことなのだろうか。
「?」
「バイターが学園に現れたあの夜、私たちは必死で逃げた。
周りの子と一緒だった人もいれば、一人でいた人もいたはずだわ。
リトリー、あなたは……」
「……」
どうやらキャロットはユイに助けられて逃げたのだろう。
リトリーは何も答えない。
胸元に手を当てて、うつむいている。
背後にあるロッカーに背中があたり、コツンと音がする。
「わたし……図書館……いた。本、読んでた……。
バイター……きた……。周り、わたし以外、みんなバイター……。だから、魔法、使った……」
つまりそれがリトリーの魔法、ということか。
バイターだらけの中、リトリーはあれだけの机のバリケードを作れた。一体、どんな魔法だったというのか。
キィ……ロッカーが開く。その陰から何かが覗いている。モップ、箒。
「なるほどね、たしかにあなたの魔法なら、それも可能ね」
キャロットはうんうんと合点がいってるのだが、オレにはさっぱりだ。
「つまり……?」
「! リトリー伏せて!」
箒が倒れてこない。その代わりに前のめりになって迫るのは――バイター。
「くッ」
伏せるリトリー。振るう拳。
バイターの顔面を潰す。腐った果物が踏み潰されるような破裂音がする。
「リトリーちゃんだいじょうぶですか!?」
ユイが駆け寄る。しかしリトリーは意に介さず周りに散らばったバイターの肉片をまじまじと眺めている。
「人の肉……くさった肉……この異臭……鼻腔を刺激する……感覚……」
「リ、リトリーちゃぁんっ」
やれやれ、変わった子だ。
「実に……おもしろい。……見た目は真似できても……におい……まねできない……」
リトリーは両頬を手でぱちんとはたく。
すると、バイターそっくりに見た目が変わった。
「ぴゃあああああああああああああああむぐっ!?!?」
ユイが手を頬にあててムンクよろしく叫びを上げる。
「しっ、音はっやつらをををを引き寄せっせせる」
ユイの口を手で塞いで抑えるが、オレも驚きは隠せない。
「……ごめんなさい。……おどろかせた……」
姿を戻すリトリー。申し訳無さそうに下を向いている。
ああよかった。いきなりの衝撃すぎてびっくりした……。
リトリーは変身魔法を持っているようだ。
これ+彼らの血肉をもって、バイター達に仲間だと見せかけて、身を守っていたということだろう。
「ところで……キャロットさん」
「? なに、いきなりかしこまって」
リトリーはキャロットに話しかける。
どこか神妙そうな面持ちで。
「図書館で……潜んでいる時……図書館に……来ました」
「……? だれが?」
「あなたの、お兄さんが……」
「!?」




