8話 リトリー
タヌキ耳を生やした少女、リトリー。
ナチュラルに外ハネしているセミロングの髪。
ふわふわとしたやわらかい頬、健康的で艶のある唇。目にはぱっちりとした二重。一見するとパーカーみたいに見えるフードの魔女服。この学園の制服の一種だろうか?
ユイとキャロットの知り合いといっても十歳。
驚くほど小さい。病院にいた頃にすれ違う子たちとそう違わないはずなのだが、周囲にある本の山と図書館のスケール、それに何よりぶかぶかな制服が、彼女の小ささをより引き立てていた。
リトリーは本をベッドと枕にして、すやすやと眠りこけている。
「…………ぷぁー。ぷぁー」
鼻提灯まで出して、熟睡といった様子。
「リトリー。リトリー!」
先ほどからキャロットが声をかけているが、いっこうに起きる様子がない。
「リトリーさん、起きませんね……」
顔を><みたいにしながらユイは言った。
「リト、リー! リートーリィイ!」
キャロットが懸命に声をかけているが、さっぱり返事がない。
この眠り方は……マイペースという次元を超えているだろう。
「まったく、もう…外はとんでもないことになってるっていうのに。
こんなに安らかに眠っちゃって…」
キャロットは呆れまじりに両手を天秤みたいに上に広げる。
「ぷぁー………………」
大きくなっては小さくなるリトリーの鼻提灯。
この動き……見ていると眠たくなってくるな…。
「ぷぁ……………………ぷぁあっ!?」
と突然、リトリーが驚きの声を上げる。
起きただけにしては頓狂なその声に、思わず俺達の視線が集まる。
「ぷぇ、ねちょ、ねっと、する……」
見ればリトリーの顔にはねとーっとした鼻水がついている。
鼻提灯がパチンと割れたようだ。
その手を鼻先に向かおうとしているリトリー。
「これで拭いて」
「……?」
ポケットティッシュを渡す。
一瞬きょとんとした様子でそれを眺めてから、リトリーは受けとった。
「これ……なに……おもしろい……さわり……ごこち……」
リトリーはポケットティッシュの包装を撫でるようにしている。
使い方がわからない、のか。
と思うよりも早く、リトリーは包装を鼻の先へ!
包装で鼻水をぬぐってしまった。
「あり……がと……返す……これ……」
リトリーのねばねばした液がこびりついたポケットティッシュの包装を、オレは真顔で受けとった……。
「……お、おう……」
「?」
リトリーは小さくお礼をする。
リトリーの目線はユイとキャロットのことを確認し、最後にこちらへ注がれた。
「だれ……このひと……」
ああ、そこからだよね。少し調子が狂った。
「ユート様。ユイの命の恩人です!」
ユイが目をキラキラさせながら紹介してくれる。
「……知らない……はじめて、みる……ひと……」
「それもムリないわ。だってこいつは――」
キャロットがいきさつを説明する。本のベッドに横たわって話を聞いているリトリーは終始眠たげで、話の節々で頷いているのがうたた寝をしているようにも見えた。
「ふーん……そう、なんだ……。バイター、たおして……くれるんだ……?」
この世界で魔法使いが倒せないバイター。
それを倒せるということをなかば疑いつつも、興味を示しているようだ。
「ああ。倒す。そして、このマク・ウルにまだ隠れてる人たちを助けるんだ」
「それが……きみの……もくてき……?」
「それだけじゃない。ここ以外のバイターもみんな倒す。やつらの虐殺を止めるんだ」
「……おもしろ……そう、だね……」
リトリーは本のベッドから身を起こす。
のそのそと四つんばいで近づいてくる。思わず後ずさりするオレの腰に手をあてて、抱きつくようにして上目遣いに見てくる。
位置的に顔が、その……当たってるんだが……。
「この服……知らない……生地……つくり……。おもしろい……。あなたのこと……知らない……だから……知りたい……。もっと、もっと……。
わたしも……ついて……いっていい……?」
「もちろんですっ」「決まってるじゃない!」
ユイとキャロットが反射的に答える。
「ああ」俺もそれに続く。
「ん……きまり……? じゃあ、あいさつするね……。
わたし……リトリー。リトリー・スコット……」
「オレは勇人だ」
「ゆうと……わかった……。わたし、ゆうとの仲間……」
リトリーはうとうとしているような目を一層とろんとさせて、口元を上げる。
「!」
その微笑みは、百%優しさで出来ていた……!




