2話 サイボーグ・ボディになったらしい
「ここは……」
地獄、なのか?
目を覚ますと、横たわっていた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
目の前にはゾンビ。
左右にもゾンビ。四方八方に、いる。
「まさに地獄絵図だな……」
しかし、妙だ。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
こいつら、今も俺の全身を噛み付いている。
だがしかし、俺の肉は噛みちぎられない。
「一体どういうことなんだ?」
ガキン、ガチン
ゾンビが食いつくたびに、金属音がする。
「俺の身体は……まさか……」
やつらに喰えるものと喰えないものの区別はつかないらしい。
延々と噛み付いては、弾き返されている。
どうやら、信じがたいことではあるが……。
「機械になってる!?」
いわゆるサイボーグというものになってしまったらしい。
「なんてことだ、こんなの、こんなのって……!」
拳を握る。
強く、強く。
「こんなのって……」
だが、拳の震えは止まらない。
喜びが止まらず、震えは収まることがない。
これならば、戦える。
これからは、戦える。
どうやらこの身体は、理屈はわからないが見た目は生身の人間の姿を残したままで、機械化されているらしい。
あたりを見回す。明らかに地下ではない。つまりあの”現実世界”とは違う場所のようだ。
ならば、ここは一体どこなのだろう?
周囲には鬱蒼と生い茂った木々。おそらく森にいるらしい。
どこか別の場所、あるいは世界――もしくは地獄に来てしまった?
しかもこの世界には、現実世界と同じようにゾンビが蔓延っている。
これはやり直せ、というメッセージなのだ。
そのために生まれ変わったのだ。身体をサイボーグとして。
「だとしたら、やることはひとつ。…だよな、優衣」
目前に迫っているゾンビの歯。醜く腐敗した顔。血走った目には殺気という殺気がすべて込められている。服はところどころ破けており、ひどくやせ細っている。腐ったもの独特の鼻を刺激する強烈な匂い……!
「ウラァ!」
力強く握った拳で、眉間をストレートに殴る。
パァン! と風船が弾けたような音がして、ゾンビの顔面が破裂するみたいに肉片をあちこちに散らした。
「これが、俺の新しい身体……!」
頭をふっとばされて首だけとなったゾンビと、己の拳を見比べる。
しばしその圧倒的腕力に感動している間にも、脚に食いついているゾンビが数匹。
「今なら、きっと…」
おそるおそる、脚を動かすように意識する。
すると、脚が確かに動いた。
「動く。足が動く……!」
この世界に来るまえは、どれだけリハビリを重ねようとまともに動かすことのできなかった脚が。
「いける。これならいけるぞ……!」
この世界でなら、戦える。
俺は、ずっと憧れていた、強い自分になれる!
「ウラァ!」
脚を動かして、あたりのゾンビを振り払う。
覚悟はできた。
自分の足で立って、自分の拳で戦う覚悟が。
「かかってこい!!」
威勢よく啖呵をきると、ゾンビたちは応えるように押し寄せてくる。
人間が走るよりも遅いその緩慢な動きを、かつては怖れていた。
無力に逃げ惑い、優衣に助けられるばかりだった。
だけど――
「一匹残らず脳味噌潰す!」
これからは俺が助ける! 戦ってやる!
それからのことはあまり覚えていない。
拳を振るい、脚を蹴り上げ、無我夢中でゾンビを殺しているうちに、気がつけばあたりには死骸しかなくなっていた。
「ハアッハアッハアッ……ん?」
意識的には多く呼吸をしているつもりなのに、実際落ちついてみると実は大して息が乱れていないことに気づく。
「疲れも……あんまり感じないな」
サイボーグだからか? まあ、細かいことは理解が追いつかない。
ここにいるのもどうしてかわからないし……死んだわけではないみたいだけど。
ひとまず戦いが終わったので、不意に気が抜ける。
背中にちょうどいい大木があったので背を任せ、座りこむ。
「……」
さて、これからどうすればいいのだろう?
転がっているゾンビの服装を見る限り、どうもここは日本てわけではなさそうだ。海外、というか近代ヨーロッパあたりの雰囲気を感じる。
まずは、この世界のことを知る必要があるだろう。
どんなゲームでも世界観の説明はある。村人を見つけて、話を聞こう。
のんびりと考えを巡らせていると、遠くから叫び声がした。
「だれか襲われているのか!?」
とっさに身を起こし、走りだす。自由に動く脚が心強かった。




