最終話
夜。避難所へ戻ったオレたちは、呆然としてただ時間を過ごしていた。
テーブルに座りお互いに言葉もかわさないまま夜がきて、やがて眠った。
……俺以外は。
外へ出て、焚き火を眺めていると、背後から足音がした。
ユイだった。
何も言わずに隣へ座ると、ぽつぽつと今日の出来事をどちらともなく先に話しだす。やがて話題は変わっていく。
「初代学園長が生きていたなんて…考えもしませんでした」
ずっと尊敬するように育てられてきた存在。
まさかこの学園の創始者が、ゾンビを従えて今も生きているだなんて、思いつきもしない空想だろう。ユイの気持はよく分かる。
「この先、もっと色々な出来事があるはずだ。信じられないことも…」
「びっくりしすぎでこれ以上、何も想像できません…」
「たとえばだな」
「?」
「俺が、この世界じゃないところから来た――なんて言うとか」
目を見張り大声を上げるユイ――を予想していたのだが、そうはならなかった。ユイは合点がいったように、口元に笑みを浮かべている。
「……驚かない?」
「驚きません。なんとなく、そんな気がしてました」
そういって、微笑む。
「伝承にもあります。”滅びの時を迎えし時、男現る。その身体大剣を跳ね返し業火をものともせず。我らの魔の法を無とする腐敗した世界の仇敵をその身体で打ち倒さんとす――”」
伝承。
「いいえ、きっと伝承なんてなくても――ユイは、ユイを助けてくれた人のことを疑うことはきっとしなかったと思います」
「……」
純粋に嬉しかった。
やがてユイは俺の肩に頭を傾けて、眠ってしまった。
二つの月は今も輝いていて、見とれながら考える。
ユイを助け、バイターや人間と戦った。マク・ウルでの出来事……魔法使いたちとの乱戦。別れ……。
様々なことがあり、凄惨な死を遂げる者もいた。
その時、俺は何を思った。
……
…………
…………………。
使命感に燃えて戦っているなか、バイターや人の死を”迎えさせた”その時。
異常なほどの興奮と高揚感があった。
この世界は、俺にとって”苦しい”世界だが、”楽しい”世界でもあった。
+
そのことに気づいてからというもの、俺はある一つのことを考えていた。
この世界で生き抜くことが、すべてだと思っていた。
だが……。
俺がこの世界に転生した意味。もしかしたらそれは優衣の願いだったのかもしれない、と。
力と勇気をもって前に進み、生きていくことを――ずっと彼女が思ってきたことが、ふしぎな奇跡を起こしたのかもしれない。
伝承、などという俺が”転生しやすい”設定を用意し、無敵の肉体を用意し、自分と瓜二つの少女に出会わせる。
もう一つの世界で、もう一度やり直す。これ以上ない舞台。
すべてを設えたのは、優衣なのではないか、そんな妄想が、事実のように思えてならない。
この世界はあまりにも、”俺”のためにあった。都合のいいように作られすぎているのだ。
だが、だからこそしっくり来る。
俺はここで生きるべきなのだ。帰る術を探す必要もない。
決意した。
この戦場のような世界で、生きていこう。
どれだけの血を浴びることになろうとも。
どれほどの苦難が待ち受けていようとも。
サイボーグ・ボディは挫けない。
そう胸に誓った。
(第一部 完)




