幼馴染5人組
「なあ、あいつらのクラスって何処だっけ」
「は、このクラスは何組かお前分かるか」
「そんなん分かるに決まっているだろ。自分のクラスだぞ。このクラスは…このクラス……何組だっけ」
やっぱりか。こいつは昔から物忘れが酷かったが高校に入ってからはもっと酷くなったな。クラス忘れるって大丈夫かこいつ。
「このクラスは3組。で、あいつらのクラスは6組。分かったか。もう、忘れるなよ」
「ああ、分かった。このクラスは1組で、あいつらのクラスは5組だな」
おいおい。物忘れだけじゃなく、聞き間違いというか耳も悪くなってしまったのか。まあ、とりあえずもう一回一から説明し直すか。
「だから、このク・・・、そうそう。あってるあってる。それとさ、クラスはもう分かったことだし、そろそろあいつらのところに行こうぜ」
止めた。
聞き間違えたまま覚えて、どうなるか実験してみよう。想像するだけでも笑えてくる。
想像し、にやけて顔が緩んだ。
緩んだ僕の顔を不気味だったのか、智也は少し僕から離れ、変わったものを見る様な目で言った。
「何、にやけてんだよ。きもいんだけど。引くんだけど」
「は、だから。さっきも言ったけど、僕はまわ・・・」
「分かった分かった。もう、何も言わねえよ」
智也は、僕の話をさえぎっといて、面倒臭そうに適当に言葉を返した。
僕が話している途中に言ったくせに、適当な返しをしやがって。まあでも、こいつだからもういいや。こんなやつにかまっているのが時間の無駄だしな。
「なあ、あいつのこと覚えてるか」
小さな声で僕は言った。
「何か言ったか」
「っ・・・何も言ってねえよ。空耳じゃね」
僕は何を言っているのかと、自分でも驚いた。
「そうか?ならいいけど。それより早くあいつらのところ行こうぜ」
「そうだな。早く帰りてえし」
本当に早く帰りてえわ。こんな奴と長時間話していたら死ぬわ。
僕と智也は6組に向けて、歩を始めた。
6組に行く途中、僕と智也はどちらも口を開こうとはせず、一切会話をしなかった。
6組に着くと、二人の女子が6組の教室から出てきた。
一人は、大人しそうな女子。
もう一人は、元気そうな女子。
この二人こそ、僕達の話していた『あいつら』だ。
大人しそうな女子は、音崎沙羅。
元気そうな女子は、渡辺燐。
この二人は、智也と同じく僕の幼馴染だ。
「遅い!」
「まあ、まあ。そう怒鳴らずに」
何時も一緒に帰るわけじゃないんだから、『遅い!』とか言うなよ。つーか、こいつら何時も僕達のこと待ってんのか。あー、そういえば燐から苦情のメールが来たこともあったな。本当に沙羅と違って、燐はうるさいよな。
「はいはい。どうもすみませんね」
「な・・・」
燐は顔を俯き、言葉を返すことはしなかった。
普通の高校生は、ここで怒って、何か言葉を返すだろう。だが、僕達幼馴染4人組は違う。いや、5人組というべきか。
小学3年生、夏休み。
僕達幼馴染5人組は川原で遊んでいた。
そして、事件が起こった。
僕と5人目の幼馴染・尾口翔太は喧嘩を始めた。
喧嘩の理由は何故か思い出すことが出来なかった。
僕と翔太は川の方に近づき、翔太が川に落ちてしまったのだった。
僕は川に落ちた翔太の事を見て、喧嘩をしていたことも忘れ、必死に助けようとした。だが、智也に止められた。
「お前も川に入ったら、お前まで・・・」
智也は、泣きそうな顔をして、最後まで言わなかった。
そのうちに、女子二人が大人に助けを呼んだらしく、大人が来た。その後も救急車などがやってきた。
そうして、翔太は救助されたものの、意識はなく、救急車で病院に送られた。病院では、応急処置をしたが、3日意識はなく、4日目には亡くなってしまった。
些細な喧嘩で1人、幼馴染を亡くした僕達は、それ以降、笑い合ったり、喧嘩をすることもなくなった。例え、いつもどうり過ごしていても、昔の僕達の様には過ごせていない。
まあ、だからと言って僕達が話さなくなると、翔太が悲しむからな。僕達が喧嘩や笑い合うことをしなくなった時点で、翔太は悲しんでいるんだろうけどな。