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明るい夜にニ人

作者: 茶飲吾

ロリババア増えろ。

 少女は本を閉じた。そしてほとんど物の置かれていない殺風景な机の上の丁度中心に置いた。

 少女は深呼吸した。深い吐息と共に体の力が抜け、彼女の沈んだ気持ちも幾分か吐き出されたように感じた。しかし、それでもまだ胸の内に渦巻くうやむやした黒い霧は晴れずにいた。一応付箋をしておいたが、また読み始めるという保障は無かった。

 どうもこの話は好きじゃない。少女は思った。

 彼女は基本的に暗い話が嫌いだった。暗い物語にもいろいろなテーマがある。人の心をえぐるような別れ、叶えられない思いの切なさ、足の力を奪わんとする絶望、巨大な悪による謀略、略奪、えげつない罠、無慈悲、自信を打砕く無力感・・・そういった悲劇には彼女の心は激しく動揺した。

 だから彼女はそういった話や作品を見ることを好んでしようとはしなかった。


 少女は目を閉じ、その本を読んだことを後悔していた。そして途中でやめてしまったことにも葛藤を抱いていた。

 少女はこのまま読むことを止めてしまったらそこで自分の成長が止まってしまうような気がして、でもこれ以上苦しむ姿をありありと見せ付けられるのは嫌で、どうにも心の定まらない不安定な状態だった。

 少女は自分を情けなく思った。このままではいつまでたっても変われない気がした。しかしなんで自分が今の自分から変わりたがっているのかはっきりしなかった。

 それがさらに彼女の葛藤を大きく迷いあるものにしていた。


 少女は自室を出た。廊下のフローリングは重厚な雰囲気を持つ濃い茶色だったがすでに夜も更けているため薄暗く不気味にも思えた。長い廊下の端は階段になっている。標準的な大人が両手を限界まで広げても両端の手すりをつかめないぐらいの幅がある大きな階段だった。階段を半階分降りると西洋風のこれまた重厚なドアが構えていた。上半分に埋め込まれた摩りガラスが月の光を通し淡く床を照らしていた。

 少女は片手で大きな扉の金ノブを握るとゆっくり押した。隙間から吹き込んできた冷たい風が頭を足をなでた。

 扉を開くと空中廊下というには広すぎる、空中広場とでもいうような空間に出た。彼女達はそこをテラスと呼んでいる。

 テラスは殺風景で観葉植物の類も置かれていない。そのせいで実際の面積より広く見えた。

 空は曇っていた。しかし雲はあまりに薄く、月の反射光はそれを易々とつらぬきテラスを照らしだしていた。


 外気は冷たい。風もそこそこあり肌寒い。そのために少女は頬を強張らせた。

 少女は建物が影を落としていない場所を選んで、転落防止用の柵の間から足を投げ出すように座った。ぶらぶらと足を揺らすのが新鮮で少し楽しかった。


 足元には明かりもなく真っ暗な中庭が広がっていた。中庭に植えられた木々はその中心に近いほど緩やかに盛り上がっている。そしてその中央から天に向かってそびえる一本松は甚だ異様だった。松は中庭の端から端までよりも長くそびえている。倒れれば中庭を分断し屋敷の屋根を叩くと思われる程であった。彼女はこれが「寝返り松」という名で呼ばれているのを知っていたが、その由来は彼女の知るところではなかった。

 昼間、中庭は庭というよりも林に近い様相を呈している。さらにこうして夜になってから見下ろすとまるで真っ黒な沼のようにも見えた。

 中庭より視線をあげると遠くにチラチラと光の粒が見える。街の光だった。

 なだらかな山の中腹にこの屋敷はある。そのため屋敷と街の間には森が広がっているというとてつもなく厭世的な立地で、車の騒音とネオンライトに無縁である代わりにあまりにも静寂と闇が近かった。


 しばらくして彼女は寝転んで空を見上げた。思っていた以上に眩しかったので目を瞑ったまま体の表面をなでる風の冷たさを感じていた。彼女は自然と体がこわばってくるのをあえて解いた。冷気が床から空気からさらに染み込んできた。

 ふと、体を冷やすことは特に女性にとっては良くないといういつか耳に挟んだ話を思い出した。しかし今の彼女の気分ではこうして外気にさらされているほうが自然なことのように思えた。


 彼女は冷静さを取り戻した頭脳を再び先ほど読んでいた小説に対して発揮することにした。

 そもそもなぜ苦手なジャンルの小説を読もうとしたのか。

 それは自分の認識をさらに拡げるため・・・といえば聞こえは良いが、もっと正確に表現するなら自分と真逆のものも知らないと無知のままになってしまうと思ったからである。ふと少女の脳裏をかすめたその感情は恐怖に近かった。

 そして以前呼んでいた短編小説集の中で飛ばしていた一つを読むことにしたのだった。

 その物語は、一言で表現すると・・・これが適切かはわからないが・・・一人の少女が自分の死体の末路を追う物語である。

 死体は愛する母によって幾ばくかの金と引き換えに病院に売られる。運ばれていく途中に体を凝視してくる医者、解体されるときそのまだ若い死体を撫でようとする医者もいた。実験道具にされれば若い女性の医者見習いが哀れにも死体を見下して優越感にひたっていた。

 少女はその生々しく描かれた欲望に嫌気が差したのだった。

 彼女が書見を中止するのにはそれで十分だった。


 彼女は遠くに点々と輝く街の光を特に考えるところもなしボーっと眺めていた。時たま屋敷と街の間に広がる真っ黒な森に目を落とすとそのまま森の中へ吸い込まれてしまいそうな気がした。

 「こんな時間にこんなところで」

 物腰の柔らかい女性の声。

 少女は唐突に真横から話しかけられたのだが別段驚きもしなかった。視線を声の聞こえた方へ向けると深緑の浴衣を着た少女が少女を見下ろすように立っていた。

「どうしたの?」

 少女は答えた。

「すこし・・・気が晴れなかったものですから」

 そっか、と相槌を打った彼女は手すりの上に組んだ腕を載せて少女と同じように景色を眺めた。

 少女は同じくらいの年恰好の少女を相手するにしてはしては丁寧な言葉遣いで話した。実は浴衣の彼女は少女の雇い主に当たるものだから当然ともいえた。

 それに彼女の歳を少女は知らない。というよりも知ることにあまり意味はなかった。彼女は彼女であるから、その背中にどんなに過去を背負っていても彼女に変わりはないからである。今を生きているのだ。とにかく人間にとってはあまりに長い時間を生きていることは確かだった。

 

 静寂の時間が流れた。

 沈黙を破ったのは少女だった。

「なぜ人は苦しむのでしょうか」

 彼女は問い返した。

「釣り合わない対価で求めようとするからよ。随分と突然な質問ね。なにかあったの?」

「小説を・・読んだんです」

「小説?」

「私は暗い話が嫌いです。人の苦しむ姿を見せ付けられるのが嫌いです。でもそれじゃあいけないんじゃないか、このままじゃ無知のままじゃないか、って思ったんです。だからそういう雰囲気のものを読んだのですが」

「それで気分が晴れなかったの」

 少女は頷いた。

「普段はどんなものを読んでいるの」

「・・・まんが」

 彼女はふふふ、と小気味よく笑った。

「そういえばあなたの読む漫画って些細な日常を描いたようなのが多かったわね」

 彼女は思案するように眼を閉じて言った。

「ふふふ・・・それだけじゃいけないような気がして、自分から世界を広げようと努力したのね」

 彼女は少女の眼を見た。少女は彼女の眼を見ていた。

「えらいわ、流石私のきょうだい」

 彼女は微笑んだ。

「苦しみは人と供にあるもの。苦しみは人を引き立てる従者なの。丁度お肉にかけるスパイスみたいなものよ」

「でも・・・苦しみなんてないほうが良いとは思いませんか」

「そうね、それももっともよ。でも、苦しみの誕生は因果と心に関わっているの」

「因果と心」

 少女は鸚鵡返しに言った。

「まず因果というのは自分のしたことに対する相応の報酬。善いことにも悪いことにもそれはあるわ。たとえば、悪巧みをして恨みを買って利用されたり殺されたりするのは悪の因果と言えるわね。元気なあいさつが好印象を与えたならそれは善い行動に対する善い結果だから善の因果となるわ。これがかの仏陀が説いた”因果の理法”ね。でも因果にはある条件がある。それは必ず原因と結果は同じ価値を持つということ」

「それって…等価交換の法則?」

「正解!等価交換はこの世の真理の一つよ。もしあなたが他人に”10”の価値のある施しをしたとしたら、それはあなたの人生の何処かで”10”の価値のある何かで返済される。逆に何かを得たいと思ったら、それと同価値のものを差し出す他ない」

 そこで少女は彼女の言いたいことに気がついた。

「じゃあもし、欲しいものに対して少なすぎる対価を用意したら…」

「ピンと来たようね。察しの通り、欲しいものは手に入らない。それが当然とでも言うように…ね」

「多すぎる場合はどうなるんです?」

「多かった分おまけが返ってくるから問題ないわ。でも大抵の人は少ない対価でたくさん手に入れようとして”なんでくれないんだ!”って怒ってる。喚いたり、頭を抱えたりしている」

 不満を叫ぶ人。欲しい欲しいと喚く人。悩んで悩んでのたうち回る人。そんな人々を想像して少女は、まるでこどもみたい、と思った。乳を欲しがってぐずる赤子や商品棚の前で駄々をこねる子供が想像の中の彼らに重なる。

「もしかしてこれが…苦しみ?」

「まさしく。欲しいものに対して十分な代償を用意しなかった自分に対する言い訳に、人は苦しむのよ」

 少女は主人の言葉に納得できていないようだった。

「でも…必ず因果が巡ってくるとは限らないのではないでしょうか」

「どうして?」

「それは…キリストが人々を救うために教えを説いたのにはりつけにされたように、よい人が悪人に利用されることもあるからです。生きている間に報われないことが多すぎるのではないでしょうか」

「そうね…。でも、死んでから報われるからいいんじゃない?」

「それはそうですが…」

 少女も彼女もともにあの世の存在を信じている。その信仰は彼女達の持つ特別な力に拠るものでもあったが、根本的に死んでから後に全てが無になるなどという思想が理解できないことも大きく関係していた。無なんてものがあったとして、それが自分の行き着く先だと思うことはあまりにもつまらなく、自分の存在理由をそれこそ無に帰す思想は浅はかな考えのように感じていた。

「それにね、因果は前世ともつながっているわ。たとえば生まれも育ちも貧しい人とお金持ちの家に生まれた人との間には不可抗力的な差があるわ。でもね、それもまた自分の選んだ道なのよ。前にも話したでしょう?」

 少女は頷いた。少女は以前「人は人に生まれ変わる」という話を彼女から聞いたことがあった。それは彼女の昔に成仏させた魂が人間として生まれ変わっているのを目撃したという経験が元になっていた。その時彼女は「人間の魂は人間として生まれ変わるのが基本なのよ、おさむさんには悪いけどね」などと言っていた。例外もあるらしいが。

「前世でそんな差を生んでしまう何かをしてしまったから、それが一見不可抗力と見える苦しみの原因のひとつ。それはいくら前世や先祖のせいにしても始まらないわ。仏教で言うカルマの摘み取りね」

 彼女はさて、と一息ついてまた話し始めた。

「あとは心。一つ言っておくとね、人は自分と自分以外とのギャップに苦しみを感じるの。私はそう思っているわ。で、そのギャップを生み出すのは自我という心。たとえばあなたが”自分はもっと知らなくてはならない”って想いと”無知な自分”とのギャップに苦しんでいたようにね」

 少女は胸の中で黒いもやのような感情がうずいたのを感じた。彼女に対し、そうだろうな、と納得しつつ、なにか後ろめたいものを感じながら、それでも無性に反論したいような複雑な気持ちが湧き上がってきた。少女はそれら形のつかめぬ何ものかをむりやり押さえ込んでじっと黙りこんだ。

 彼女はそんな様子の少女を愛おしそうに見つめた。

「でも」

 彼女は少女を慈愛に満ちた、魅惑的な瞳を向けて少女に微笑んだ。

「あなたは自分が知らないということを知っている。知らないことを認めることが出来ている。あなたは決して無知なんかじゃないのよ」

 彼女は自分の組んだ腕の隙間に顔をうずめた。


 また静寂が2人を包み込んだ。

 今度静寂を破ったのは主人だった。

「苦しみは神より与えられた課題。その課題はその人その人で全く違う。課題を解くには必ず自分と向き合わなくてはならない。それがたとえ今までの自分を否定することになろうとも…。それでも諦めず、答えを見つけようとするならば、幸福がその扉を開いた先に必ず待っているもの。…さち、あなたはその扉を開いたのよ」

 さちと呼ばれた少女はうつむいた。

「私は…間違っていたのでしょうか」

 主人はかぶりを振った。彼女は手すりから離れ背中からそっとさちの体を抱きしめた。

「あなたは間違ってなんていなかったわ。むしろ勇気を持って自分を見ていた。自信を持っていいのよ」

 主人の腕の力が強くなった。

「あなたが私と居てくれることを・・・その短い人生の大切な時間を私と一緒にいてくれることを・・・私は誇りに思っているわ。だからもっと自信を持って。無理をして自分以外になろうとしないで。あなたは、あなたでいいのよ」

 さちは目頭が焼けるような熱をもってくるのを感じていた。主人と自分の間に生まれたぬくもりが、心まで染み込んでくるようだった。それをただただ素直に受け止めた。

 そして今までの主人の言葉が、行動が、自分を押し上げようとしていることを悟った。

 主人は、こんな惨めな私を導こうとしている。私に居てほしいと言ってくれる。

 そう思うと涙がいよいよ溢れだした。さらに胸が熱くなった。彼女はまだ理解できていないが、これこそが感謝。愛を与えられた喜び。歓喜。

 少女は主人の愛情を全身で感じていた。


 やがて主人は抱擁を解き立ち上がった。風が彼女の浴衣の裾と髪をなびかせた。彼女はゆるくウェーブのかかった髪を片手で押さえた。月の光に照らされ、髪の間から覗く彼女の瞳は優しげに、かつ怪しげな魅力を讃えていた。

「もう…大丈夫かしら?」

 さちはコクリと頷いた。

 彼女は「私はもう寝るわね。あなたも体を温めてから早めに寝なさい」と言い残して、自分の寝室のあるさちの部屋のある棟とは向かいの棟へ歩いて行った。

 さちは足を柵の隙間から投げ出して座っていた。彼女は、自分の体に風が吹き付けることによって体に残った喩えようもない熱の、その境界をはっきりと感じることを楽しんでいた。

 テラスから人影が消えたのは、もうしばらく経ってからだった。


 さちは台所に立って一杯のココアを淹れた。その甘い香りを階段や廊下に振りまきながら自室に戻った彼女はゆっくりと椅子に腰を下ろすと読みかけの小説をじっと見つめた。ココアをすする間も視線は外さなかった。彼女はココアを机に置いて、小説を手に取った。

 さちはじっと我が主の言葉を反芻した。そして彼女は想った。


 こうすると選んだのも・・・私。


 彼女は付箋を差したページを開くと、じっくりと活字を追った。









後日談

 午前10時。他の召使いたちは自分の持ち場や仕事に出払っているため普段と比べて嘘みたいに静かな座敷を、メイド服に身を包んださちは音も立てずに歩いていた。

 ちなみにこの家では召使いは全員メイド服着用である。百夜の趣味だ。

 さちは襖をこれもまた音もなく開いて入ると、シーツも敷いていない敷布団に横たわる主人の傍に朝食のお膳を置いた。

 部屋の隅に吹き飛ばされた掛け布団が、その反対側の隅に枕が吹き飛ばされていた。シーツはよれよれになって主人に乗っかっている。いったいどんな寝相をすればこんな惨状が作り上げられるのだろうかと、さちは不思議に思った。

 そうしていると目を覚ましたのか主人はガバッと上半身を起こした。

「んあ」

 光のこもっていないひどい寝ぼけ眼であった。

「おはようございます、百夜様」

「…さちか、おはよう」

 百夜と呼ばれた主人はまだ目が覚めていないのかぼーっとしていた。

「お食事を持ってまいりましたが、先にお顔をお洗いなさいますか」

「そうね…。そうしたほうがよい気がするわ」

 ふらふらと寝室から出て行く主人の斜め後ろをさちはついていく。主人が洗面台で顔を洗い終わるとすかさずタオルを渡す。顔を拭きながら主人は言った。

「さち、小説はどうだった?」

 さちはまるで自分が小説の続きを読んだのがわかっているかのように言う主人に驚いたが、この主人においてはよくあることだったので素直に答えた。

「楽しくはなかったです」

「あらら」

「でも…とてもきれいでした。白くて、透き通った感じで…きれいでした」

「ん?どうやら最後までやりきって、新しい発見があったようね?」

「はい」

「うん、それなら善かったわ。じゃあ朝ごはんにしましょう」

二人は廊下を歩いていく。

「今日の朝ごはんは何かしら?」

「焼き鮭とキノコの味噌汁とほうれん草の和え物、たくあんとご飯です」

「シャケ!」

「はい。ですが、悠美料理長の指示でご飯と鮭がありません」

「…ずいぶんとやってくれたわね」

「悠美料理長は「生活リズムが乱れるから朝は軽くしてしっかり食べるのは昼にしなさい。これは朝の遅い子の調教です」と」

「え~…。いじわる…」

 がっくりと肩を落とす主人を見ながら、さちはこっそり持ってきた鮭とご飯のお盆をいつ取り出そうか考えていた。

 主人は喜んでくれるのだろうか、それとも”それじゃ意味が無い”とか”分かってない”とか言って怒るのだろうか。

 それは考えても分からなかったが、どんなことに主人が喜ぶのかは分かるはずだ。

「百夜様。こちらを」

 つと差し出したお盆に乗った紅白セットを見て、百夜は意外そうな顔をさちに向けた。

「え、さちが持ってきたの?」

「はい」

「こういうことするなんて意外だわ」

「私、悪いことをしてしまったんでしょうか」

 表情は変わらないが少し不安そうな声音になったさち。百夜は突然さちに抱きついた。

「え、え!?」

「いいえ。ありがとう!」

 しばらく抱きしめた後、真っ赤になったさちを離す。

「まぁ、後で悠美に怒られる覚悟はしておいた方がいいかもね」

「あ」

「まぁ、その時は私も一緒だから」

 ニコッとはにかんだ百夜はまだ赤くなっているさちをそのままに笑顔で朝食を食べ始めた。

 硬直していたさちも、実に美味しそうにご飯を食べる百夜を見て、知らず知らずのうちに微笑んでいた。

 間違うこともあるかも知れない。怒られることもあるかも知れない。でも彼女のために一歩踏み出すことに躊躇うなんて、彼女にはもう考えられなかった。


 屋敷の外では高く昇った太陽の真直ぐな光が降り注いでいる。植物はその光に歓喜して体を伸ばし、鳥は地上に影を滑らせる。

 光は地上が明るく照らされることに対価を求めない。けれども、その光によって輝くもの達を見て、光もまた歓喜するのだ。

さちと百夜。お前たちのロードは今始まったばかりだ!

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