1日目-8-
俺はおにぎりを頬張ると、続いて手に握らされたお茶のパックをどうしたものかと凝視してしまう。目の前、どころか膝の腕で無邪気に新幹線に乗りはしゃいでいる子供とは言え、中学1年の女性が半分ほど飲み干したソレを口にして良い物かと気にしてしまったのだ。
「えへへ、すいません。私ばかり飲んじゃって。まだ半分くらいは残ってる、はずなんで」
と、燈に言われ手渡されたのだ。その際、モジモジとしていたのでやはり気になるのかと思ったが、よく思い出せ。半分も飲んじゃった事に対して恥じたのではないか、と。そして、俺だけが無粋な事を考えていたのではないかと思った瞬間、気にするのは止める事にして一気にお茶を飲み干した。すると、燈がここにきて初めて声に出してクスリと笑ったような気がした。
それからおおよそ1時間程経っただろうか、新幹線の旅も終わり俺は燈の手を引いて改札を出る。
「人が沢山いますね」
「そうだな、田舎とは大違いだな」
人混みの中、俺は頭の中にある地図を頼りに初めての土地を迷うことなく進む。そう、迷うことなく進もうとする。
「通れませんね」
「そう、だな……」
駅を出て、北へ向かって移動する予定だったのだが、グルッと柵があり北へと進むための道が道路で分断されていた。そして柵沿いに向こう側にある道へ渡ろうとするが、どんどん南下していってしまう。
「もっと正確な地図見てくればよかった」
俺は失敗したと思った、こんなところで写真記憶に頼っていた弊害が出てくるとは思いもよらなかった。と、そんな俺の言葉が聞こえたのか燈が問いかけて来る。
「あの、あそこから行けないかな?」
「ん、ああなるほど」
指差す方向をみあげると、どうやら歩道橋らしきコースがあるようである。他に道もわからなかったので、燈の案に乗って歩道橋を渡る。そして着いた先は何処へ繋がっているのかわからない駅のホームであった。ローカル線なのだろうか、しかし人混みはここも酷い物だった。が、そこから少し移動すると北側の道へ降り立つ事が出来た。
「おっ、やっとこっち側に来れたな、ナイスだ燈」
俺は反射的に燈の頭をクシャリと触り、すぐさま手を退ける。
「すまない、大丈夫か?」
「えっ、あっ、はい……」
一瞬何をされたのかわからず、呆け顔だった燈だがすぐさま顔を赤くして顔を伏せてしまう。よくない癖が出た、これも親友によくされる癖が完全にうつってしまっているのだ。頑張った相手は褒めてやる、褒めてやるには頭をグシャグシャッとして褒めれば良いと。勿論、仲の良い奴じゃないとそんな事はしないのだが、今日出会い、それも年下の女の子にして良い行動ではなかったはずだ。
「そ、そうか。次からは気を付けるよ」
「へっ、あの、べ、べべべ別に嫌じゃないです! その、ちょっと恥ずかしかっただけで……」
言葉を交わした際、お互いの目と目が合い、ジィーと見詰め合ってしまいしばらくして、慌てて二人して視線を外す。何やってんだ俺は、取り敢えず宿に移動だ移動。
「い、行くぞ」
「はい」
再び燈の手を引き、俺は予約していたホテルへと直行を決める。