1日目-5-
2015年2月20日:文章手直し
『次は~~~』
電車内のアナウンスで次の駅が近づくのを確認する、手をギュッと握ってきた少女の手を握り返すが顔色が少し悪い、顔を覗き込むと彼女の目から零れた一筋の涙がみてとれた。
「おいっ」
「っっ!」
ちょっと強く話しかけすぎた、かな? 俺は少し話かけ方を誤ったかと後悔しつつ、ハンカチを渡してやる。
「もうすぐつくぞ、あとコレ」
と話かけると電車の動きが減速をはじめ、再びプシュゥという音と共に扉が開く。
「行くぞ」
「は、はいっ」
俺は未だに握った手を離さず、そのまま改札口まで向かう。
『ピッ』
と音と共に改札を通るが、その際も一緒に離れずに後ろからついてくる。
「なぁ」
「は、はいっ」
「……今、切符通してなかった、よな?」
「……はい……」
今まで緊張したような返答を続けていたが、今度はシュンとした感じの返答である。一体何のトラブルに巻き込まれているのやら。
「まぁ詳しい話は後で聞くよ、この先にファミレスがあるしそこで落ち着こうか」
俺はそういうと、よくバイト先の店長が連れてきてくれるファミレスへと向かった。
『ピロン、ピロン』
店内に入ると、店員さんが近づいてくる。
「あちらの席にどうぞー」
テーブル席に案内されるがまま、俺は席へとつく。が、どうしても手を離したくないらしい、俺の隣へとこの子も一緒に並んで座るかたちとなった。
「こちらメニューでございます」
「どうも」
と、俺の目の前に一つだけメニューが用意される。二人一緒に座っているから一つでいいとでも思われたのだろうか?
「ほら、好きなの注文していいぞ」
「あ、あのそれじゃコレを」
「ん、わかった。すいませーん」
再び店員を呼び、俺は注文をする。
「コーヒー1つと、オレンジジュース1つ」
「コーヒー1つと、オレンジジュース1つですね。二つともご一緒でいいでしょうか?」
「ん、いいよ」
「かしこまりました」
と、店員は確認して去っていった。まるで俺が2杯とも飲むかのような問いかけをして。
「なぁ、お前って……」
俺はいくつか、思い当たる出来事があった。結論からいうと、この少女は他の人から全くといっていいほど相手にされていないのである。
「はい、昨日から皆私の事に気が付いてくれません。話しかけても、触れても誰にもです。でも、貴方だけ私に気が付いてくれました」
声のトーンが低く、よっぽど辛かったのか最後の方は涙声である。
「ふむ、しかし俺にはお前はしっかりと見えている、声も聞こえている。お前は間違いなくそこにいるな」
「本当に、私ここにいます、か……?」
不安そうな眼差しをこちらに向けるが、俺はおう、と応えておく。
「おまたせしました、コーヒーとオレンジジュースです」
俺の目の前にコーヒーとオレンジシューズが置かれる、この子の言っている事はあながち噓ではなさそうである。
俺はそっとコーヒーを少女に渡し、俺はオレンジジュースを飲む。そして昨日から少女の身に起こっている出来事をかみ砕いて教えてくれた。
「コーヒー、美味しいです。落ち着きます」
一通り話終わり、コーヒーを飲み終えた少女は俺に事情を聴いてもらったからか、少し安心した感じに一息ついていた。
「そういや、名前はなんていうんだ?」
ここまで話を聞いておきながら、俺は未だに自己紹介をしていない事実に気が付く。
「あ、あの、相川 燈っていいます。先ほども伝えましたが中学1年です」
「燈ちゃん、ね。俺もまだ名乗ってなかった、すまない。俺は中結 東っていう。高校2年でこれから旅行にいくところ、だった」
俺も自己紹介を簡潔にして、旅行にいくところ、という予定もさり気なく伝えておく。
「せ、先輩ですね!」
「よせよせ、とりあえずそろそろ手を離してもいいんじゃないか?俺は燈ちゃんの事認識してるから、安心して」
内心、手汗がすごい事になってきているのでどうしよう、という気持ちなのだが
「いいえ、東さん、決して離しませんよ!」
なぜか力強く否定されてしまったが、ここまできてはあきらめるしかないのだろうか。
「わかった、わかったから顔近いから。それでこれからどうする、かは決まってないんだよね」
「はい、もうどうしたらいいのかわかんなくって。どうしよう」
どうしよう、って聞かれても俺も困った。困ったときはあいつだな。
俺は空いた手をポケットの中に突っ込み携帯を取り出した。そのままおもむろに電話をかけたのだった。