1日目-4-
2015年2月20日:文章手直し
『プシュゥー』
電車の扉が閉まり、私達は次の駅へと発車する電車へ乗り込んでいた。
見ず知らずの男の人。でも、私には今この人しかいないのである。
握りしめた手は、今もギュッと握り返してくれている。見た目はちょっと怖いけど、悪い人ではなさそうで一安心である。
『私、ここに居るんだよね』
改めて自覚する、私は確かにここに居ると。誰にも相手をされなくなった時から、もしかしたら私は存在してなかったのではないか、と思える程に混乱していた。
一昨日までは夏休みの部活に汗水流しながら走っていたのに、昨日は誰も私の声をきいてくれず、触っても何かに触られたかな?みたいな感じでサッと手を払いのけられ、悲しくなって家に戻ったら家がなくて。
親友に電話をしようとしたら、ツーツーっと電波が受信されていない為使えなかった。すぐに、それならと思い公衆電話を探して10円玉を投入、家にかけるも繋がらず。アドレス帳から親友に電話をかけるも部活中である、私からの電話にでることはなかった。
私は皆が意地悪をしているんだと思い、最寄りの駅へと来てみた。切符も買わずに改札口を通る。流石にこれなら目立つだろう、誰か私へ歩み寄るだろうと。
『すたすたすた』
通れてしまった。改札口までも私を確認していなかった事を確認してしまい、改めて本当に私は誰にも認識されていないという事を理解してしまった。
『いやだっ!』
私はホームを駆けた、人とぶつかっても誰も気にしてくれない。電車に乗る機会なんて今まで無かったけど、私は無我夢中で『特急』電車へと乗り込んでいた。
人が多かった、が誰も私に干渉しない。お構いなしに押しつぶしてくる、息苦しい。もみくちゃにされながら、私は15分程走り続けた電車から降り、フラフラした足取りで息を整えた。
『うう、気分悪い、電車って怖い』
私は少しだけ、気分が紛れた気がするも再び不安にかられる事となる。
『ここ、どこだろう』
電車なんて私生活で使う事もなく、一人で乗るなんてこともなかったのだ。それに誰からも私が認識されないのである、帰り方も全くわからないのである。
『うう、怖いけどもう一度乗るしかないよね』
私はそう思い、乗ってきたのと同じホームから電車に乗り続ける。電車が止まる度に外を眺め、知らなければ次、と。いつかは戻れると信じていた。
『お腹すいたなぁ』
そう何度か乗継を繰り返し、ついに違う路線へと入った事にも気が付かないまま私は移動を続ける。認識されていない事実をこれ以上私は受け入れる事が出来ず、帰る家も無くなっている事もなかったことにして帰ろうと電車に乗り続けた。
『暗くなってきた……』
随分と都会に来てしまった。お腹も空いたし、電車を降りホームから出てコンビニへと入る。パンとジュースを手に取り、ガマ口の財布を取り出す。
店員さんはパンとジュースを置いた私をみる事もなく、事務作業かレジを数えだしていた。
「あの、これで……」
私は320円をレジに置き、そのままコンビニをあとにした。
「あっれー、なんであわないんだーっ!」
と、コンビニの中から声が聞こえてきたが私はきにせずパンとジュースを持ったまま更に駆けた。
駅を出ると、全く見知らない町である。右も左もわからない土地で、ネオンの光が私の瞳に映り、知らない景色に心がキュッと縮まった気がした。
『戻ろう……』
と、ホームへ戻るも電車に乗る勇気はもう無かった。ベンチにズンッと座り込み、私はベンチで晩御飯をとることにしたのだ。
『美味しくない……』
涙を流しながら、私は夏の夜を一人ここで過ごしたのである。
ベンチには不思議と、誰も近づいてくることはなかった。
「おいっ」
「っっ!!!」
私はそんな昨日の事を思い出しながら、電車に揺られていると手を握ってくれていた人が声をかけてきた。
「は、はひっ」
思わず声が裏返ってしまった、恥かしい。
「もうすぐつくぞ、あとコレ」
そういうと、この人は私にハンカチを渡してくれた。ふと、視界がぐにゃっと歪んでいることに気が付き、私は泣いていたんだとこの時わかったのだった。