1日目-3-
俺はホームの向こう側にいた少女から目線を離すと、電車の到着時刻が近づいているのを確認し、ベンチから立ち上がった。
『ガタンガタンガタン』
逆側のホームも通過の電車が通り過ぎ、朝から騒音を周囲へと振りまいている。
ーー刹那。
「はぁ、はぁ。あ、あのっ」
唐突に声をかけられ、俺は左側から発せられた声の主に目線をやる。
『確か、さっきの』
「あの、あの……」
俺が不審な目でみつめていると、少女は少し困ったようだが、意を決したかの如く強い眼差しで俺に話しかけてくる。
「視え、てますよね、私、ここにいますよね!?」
「あ、ああ、とりあえず落ち着け」
ぺしって音と共に軽くチョップをかましてみるが、その瞬間この子はパアッと明るい顔をして嬉しそうに話しかけてくる。
「あの、その、ありがとう!」
困った、変な子がいたと思って眺めていたのがバレたのか、いやそもそも、初対面の相手にチョップされてありがとうとは、これいかに。
「なんだよいきなりありがとうって」
「で、何か用か?」
念のため、俺は続けざまにこの少女に問いかけてみる。
見るからに不思議な子ではある、普通に部活動をしてそうな若い女子高生、っぽくはあるが何故か制服であろうセーラー服は乱れているし、トラブルにでも巻き込まれたのか。俺は生憎これから旅へ出るから構ってられんな……。
「その……」
少女は俺の威圧的な対応に少しビクッとしながら、俺が見舞ったチョップの手のひらをギュッと握ってくる。
「手、握ってていいですか」
先ほどの嬉しそうだった顔から一転して、必死な顔で懇願してくる少女。それも初対面である俺なんかに対して手を握ってていいですかとはいかに。
「だから落ち着けと、話くらいは聞いてやるからさ」
俺はあまりにも真剣な眼に、ほんの少し、ほんの少しだけこの子の話を聞いてやろうと考えを変えた。俺は別に悪魔の様に鋼の心は持ち合わせていないのだ。
「とりあえず次の駅まで一緒に来い、冷やかしなら手を放してくれ、俺も暇ではない」
「う、うん、行きます、だから」
俺は手をチョップにしたままだった開かれた手を、握りしめられた手を握り返し、次の駅までこの謎の女の子と共に移動をすることにしたのだった。