入部
放課後、貞治は北校舎の三階にある
遊人倶楽部の部室へと向かった。
部室のドアには
「遊人倶楽部」とだけ描かれた紙が
貼られていた。
「失礼しまーす」
声をかけながら貞治は部室のドアを開けた。
「待っていたよ、貞治」
壮吉が応接間のソファに座っていた。
「随分と広い部室だな」
貞治は部室を見て驚いた。
部室には様々なものが置かれていた。
応接セットに大型ステレオ、勉強机に
冷蔵庫、さらに当時は超高級品だった
カラーテレビまで置かれていた。
「すげぇ! これどうしたんだ?」
「オレが全部買い揃えたんだ、
ここの部屋のもの全部な」
壮吉が自慢げに話す。
部屋の奥にある本棚に目を通すと、
様々な本が並んでいた。
ファッション雑誌や外国語の文学、
小学生の女の子が好きそうな絵本など
いろいろな本があった。
本棚の隣にはみかん箱が置かれており、
その中には大量のおもちゃがあった。
野球盤やトランプ、人生ゲームや花札に
チェスや将棋など様々なおもちゃがあった。
「おーい、これ何だ?」
貞治が色のついたマットを広げて壮吉に見せる。
「あぁ、それはツイスターゲームさ
ルーレットで指示された足とかを決められた色に
乗せるんだ」
当時はまだツイスターゲームは珍しいものだった。
「やってみようぜ」
貞治が提案すると、壮吉は
「でもそれって男同士でやるとつまんないぞ、
だからダメ」と却下された。
貞治が冷蔵庫から瓶のコーラを取り出して
飲んでいると、「こんにちはー」という
声と共にドアが開いた。
「久しぶりだな、千恵子ちゃん」
壮吉が応接間から手を振った。
部室にかわいらしい女の子が入ってきた。
貞治はその姿を見て少しときめいた。
「かわいいなぁ……」
そう呟いた。
「紹介しよう、彼女は我が遊人倶楽部の
部員である奥村千恵子ちゃん、20歳だ」
壮吉が彼女を紹介すると、
千恵子は貞治に向かって頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「よ、よろしく……」
控えめに挨拶をする貞治。
「千恵子ちゃん、そいつはオレの友達にして
今日ここの見学に来ている江夏貞治君だ」
壮吉が紹介する。
「工業部二年生、江夏貞治です」
再び自己紹介をする。
「貞治君、こっちにおいでよ」
ソファに座った千恵子が手招きをした。
「失礼します」
そう言って貞治は千恵子の隣に座る。
「かしこまらなくていいよ、
私達同い年じゃない」
千恵子が笑顔を見せた。
「貞治君はこれまで何か部活やってた?」
「野球をちょっとやってたんだ」
貞治が笑顔を見せる。
「それで? もう入部することに決めたの?」
千恵子が笑顔を見せた。
「にゅ、入部するよ……」
貞治は千恵子にメロメロだった。
「おいおい、部活内恋愛は禁止だぜ」
壮吉が二人を茶化す。
「そんなんじゃねーよ」
貞治が顔を真っ赤にする。
「ういーっす」
新二郎が部屋に入ってきた。
「いよぉ貞治、入部したのか?」
「うん」
貞治は即答した。
「おいおい、ここがどんな部活か説明したのか?
部長の壮吉君よぉ」
新二郎が壮吉に顔を向ける。
「説明しなくたっていいんじゃないか?
特に何をするでもないんだし」
壮吉が答えると、新二郎は
「それもそうだな」と言った。
同じ頃、この学校の学長室で
一人の女学生が学長と話をしていた。
「それで、あの倶楽部とはどうなっているんだね?」
この学校の学長を勤める
田宮清志、52歳が女生徒に話しかけた。
「おそらくこの学校の風紀を乱しているのは
あいつらに違いありませんよ、必ずつぶして見せます」
彼女はそう答えた。
「そうか、じゃあこれからもよろしく」
田宮学長が彼女に1000円札を手渡した。
「おおせのままに」
そう言って彼女は金を受け取った。