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遊人倶楽部  作者: ヨコワケデュガリー
活動記録01 新人部員
2/28

部活

貞治はキャンパスを出てから三分ほどの

駐車場へと向かった。


駐車場には様々な車が並んでいた。

そしてその駐車場の一番奥には

1967年式のマセラティ・クアトロポルテが

誇らしげに駐車されていた。

当時この車は日本に数台しか輸入されていない

超高級セダンだった。

貞治はその車の助手席に乗り込んだ。

「遅かったな」

運転席の男が貞治に話しかける。

「ごめん、かっぱえびせん買ってた」

「何だそれ?」

「お菓子だよ、ブルジョワなお前には

関係ない話だ」

「まぁいい、出すぞ」

運転席の男がエンジンをかける。


この運転席の男の正体は生沢壮吉、

医学部の二年生、20歳だ。

壮吉の両親は大病院を三つも経営している

地元でも有名な医者で、もちろん壮吉は

将来そこを継ぐつもりだ。

もちろん彼の家庭は裕福で、この街で

もっとも大きな豪邸、通称「クレムリン」に

たくさんの使用人や高級な家具、芸術品、

高級車などに囲まれて暮らしている。


貞治は車の中でかっぱえびせんを食べている。

「おい、車が汚れるだろ」

壮吉が貞治に注意する。

「ちぇっ」

貞治はかばんにえびせんをしまう。

「で、お前は今日も一人で勉強し、

一人で学食を食らい、一人でトイレに行ったのか?」

壮吉が意地悪な質問をする。

「うるせー」

貞治がだるそうに答える。


壮吉は貞治の唯一の友達だった。

なので違う学部の二人は通学時以外は

一緒になることは無かった。


「そういうお前は今日も女の子と一緒に

死体を解剖したんだろ?」

貞治が壮吉に質問し返す。

「まぁな」

「よく医者なんてやってられるよな、

人体解剖なんてオレには無理だぜ」


壮吉は女の子からの人気がとても高かった。

バレンタインでーには自分のロッカーに

チョコレートやラブレター、さらには女の子の

下着なんかが大量に入れられていた。

だがその反面、男子からはいつも嫉妬されており

授業中に消しゴムをぶつけられたり、白衣を隠されるなど

いつも嫌がらせを受けていたが、そのことを知った

女の子達は毎日その男子達を恫喝し、壮吉に

謝罪をさせている。

壮吉の毎日は男子に嫌がらせをさせられ、

その男子達に謝られるというものだった。


それでも壮吉にとって貞治は

唯一の男の友人だった。

壮吉は毎朝必ず車で貞治のアパートまで

迎えにいき、帰りも送っている。

この友情は高校時代からのものだった。


「お前は部活とかやる気はないか?」

壮吉は貞治に話しかけた。

「やったってつまんねーよ」

貞治はふてくされながら答えた。

「何で?」

壮吉は不思議そうに尋ねた。

「オレは人と仲良くするのが苦手なんだ、

お前以外はな」

貞治が答える。


そうこうしているうちに、マセラティは

貞治のアパートの前に停まった。

「じゃあまた明日」

貞治が壮吉に手を振る。

「じゃあな」

車を降りた貞治に向かい

壮吉が手を振った。


その日の晩、貞治は銭湯で

風呂に入りながら呟いた。

「部活か……」

どうやら貞治には部活という言葉に

未練があるようだ。

※用語解説


マセラティ・クアトロポルテ……イタリアの自動車メーカー

マセラティの製造する高級セダン。


ブルジョワ……裕福な人という意味。

語源はフランス語で中流家庭を意味する

ブルジョワジーから。


クレムリン……ロシア(当時ソ連)のモスクワにある

旧ロシア帝国の宮殿。

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