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土豪 44

「それは影のようでありました。また風のようでありました。

大勢の武装した人影が強い足でひょいひょいと大地を踏みしめながら、風の吹きすさぶ中を飛ぶように南へと向かっていくのは、とても恐ろしい光景でした」

原野に目撃した光景を取りとめもなくこう語る農夫は、身も蓋もなく震えていた。

血の気が引いた農夫の言葉に耳を傾けながら、豪族のルタンは一帯の地理を脳裏に思い描いていた。


「オーク共。この真冬にも関わらず忙しないことよ」

言葉面だけは感心したような皮肉っぽい響きで呟きを洩らしたルタンは、銀髪を後ろに撫で付けた痩せた三十男だった。

後ろに連れている二人の逞しい奴隷に槍と胸鎧を背負わせている。

背には狐のマントを羽織り、首には北方の森林で取れた黒貂の毛皮のマフラーを巻いている。額の秀でた痩せた長身の男で、田舎豪族にも関わらず、都の貴族がつけていそうな高級な品が不思議と良く似合っていた。


 冬の戦は避けるのが常道である。

寒さに指先は悴み、熱を失った身体は思うようには動かない。

冷え切った身体は余計に食べ物を欲し、冷え切った食事を温めるにも薪が必要となる。

 攻める方は物資ばかり嵩み、建物に篭って守る側のほうが冬の戦ではずっと有利なのだ。

にも拘らず、オーク勢は盛んに動き回っている。

それだけ切羽詰っているのか、よっぽどの理由が在るのか。

こう打ち続くからには、或いはオークたちの内部に何らかの異変が起きているのかも知れぬと沈思するルタンは、辺境中西部・オーメルの一帯では少しは知られている豪族であった。


 なだらかな丘の連なりは、オークたちの縄張りである丘陵地帯と河辺の村を結ぶ線上の中間に位置していた。

一年の大半を通して穏やかな風が吹き抜けていく丘陵の裾野には、春から夏に掛けて新緑と色鮮やかな花々が咲き誇って道行く者の目を楽しませてくれる。

季節が違えば、散策するのも悪くないが、しかし、冷たい風がますます強く吹き荒れている真冬の最中、薄着で馬鹿みたいに突っ立っているのはいかにも苦痛であった。

ルタンの後ろを付いてくる男たちは、いずれも不満げに唸ったり、ぶつぶつと文句を呟いていたが、銀髪の豪族は気にしなかった。


 治める土地と影響力の及ぼせる付近一帯に、ルタンはあらかじめ触れを出しておいた。

見慣れぬ者、見ず知らずの者、怪しい者がいれば直ちに知らせるように。

今回、その網に十中八九はオークであろう兵団が掛かった。

恐れ戦く農民を宥め賺し、褒賞として大麦の袋を与えてから、ルタンは奴隷たちと視線を交わした。

脳裏で描いた地図に正体不明の兵団の動きを当て嵌め、その狙いを割り出そうとする。

「何が狙いだ……河辺へと向かっている。村のどれかを襲う気か」

悩むように低い呟きを洩らしながら、ルタンは踵を返した。武装した二人の奴隷がその二歩後に続いて歩き始める。

豪族の向かう先の野原には、大勢の武装した農民たちが無秩序な固まりとなってざわめきを発している。


 遠目に見える丘の狭間では、ルタンの盟友であるクーディウス家の派遣してきた男が何やら地面を調べていた。

先ほどまで丘陵地帯を熱心に歩き回っていたかと思うと、何かを見つけたのか。急にしゃがみ込んで辺りを這い回ったりもする。

武装した奴隷の片割れが、寒さに歯を鳴らしながら主人にぼやいた。

「何時まで待つんですか?そもそも奴はなにをやっているんです?」

振り返った主人の鋭い眼光にも怯んだ様子もなく、肩を竦めながら寒さに耐えるように身体を前後に揺らしている。

主人と奴隷の関係ではあるが、ルタンと護衛の二人は互いに物心ついた時分よりの付き合いである。

二十年以上を主人に仕えており、食事や寝床なども家内で主一家の次に良い物を与えられている二人は、ルタンにとって奴隷でありながら、身内も同然の信頼できる兄弟分でもあった。

「……奇妙な真似をする男だな」

もう一人の奴隷も、合点がいかない様子で鼻を鳴らしていた。



 ルタンは二人の奴隷のぼやきを聞き流すと、己の元へと集ってきた兵士たちへと視線を走らせた。

血相を変えた農夫が駆け込んできて直ぐ、ルタンは戦える者を総動員する使いを近隣に走らせている。

ルタンの影響力にクーディウスの権威が合わさった成果もあって、伝令が届いてより僅か一刻。今も続々と、近隣の農園や小村落から武装した農民が集ってきていた。

村々が独自に雇い入れていた雇い兵たちや、働き次第では褒美や自由を約束した奴隷、近隣から馳せ参じてきた郷士豪族とその郎党たちもいる。

人数は既に百では効かぬ。武装農民の姿だけではない。槍や中剣に革鎧を持った流れの傭兵らしい戦装束の男女や、薄汚れた布を纏い、棍棒や石を手にした乞食と見まがわんばかりの丘の民らしき一団の姿も見て取れる。


 ルタンの村の方に馳せ参じてきた者たちと合流すれば、さらに人数は膨れ上がるだろう。

増え続ける兵を頼もしげに目にしながら、細い顎を撫でた銀髪の豪族は自信有り気に深い笑みを浮かべた。

オークの狙いがどうあろうが、やることは一つだ。

今から追跡し、追い詰めて徹底的に叩き潰してやる。


「……ルタン殿」

地面を調べまわっていたクーディウスの家臣ヘイスがようやくに立ち上がり、ルタンの方へと歩み寄ってきた。

「何事かな。ヘイス殿」

盟友である大豪族クーディウスから派遣されてきた使者を相手に、ルタンもやや慇懃に言葉を返した。

 ルタンの一族は、本拠となる村の他に橋や幾つかの街道を所有している。

関を設け、通行料を取って富を得ている、言ってみれば『街道の領主』である。

富裕な一族ではあるが、その武力は一介の豪族の域を出ておらず、単独では百の兵を集めることは出来ない。

以前より武具や資金、糧食を融通し、傭兵との伝手を用意し、策を用意してくれたのはクーディウスである。

 ヘイスというクーディウスの家臣は、家中でも相応に重んじられているに違いない。

高価な青銅の胸当てを身につけ、体躯は鋭く引き締まっている。

如何にも効け者といった雰囲気を漂わせているヘイスという男は、主人からも信頼されているのが他のクーディウスの郎党の態度からも窺えた。

あまり無碍に扱う訳にもいかない。

体に泥をつけたまま、身を乗り出してきたヘイスの顔が、やや緊張に強張っているのにルタンは目敏く気づいた。

「……どうされた?」

「足跡を調べていた」

ヘイスは低く呻くように言葉を吐き捨てた。

しゃがみ込んで何を熱心に調べているのかと思えば、どうやら足跡を調べていたらしい。

「連中は、ここら辺の地理をかなり知ってるぞ」

「ふむ……どうしてそう思う?」

「数百歩に渡って、まるで立ち止まってない。それに足跡に乱れがない。

少なくとも斥候なり、案内人なりは、目指す目標までの道を熟知している」

「ふむ」

「人数は四、五十人。或いはもっといるかも知れない。全員が、真っ直ぐに一定の歩幅で歩いている。よく鍛えられている証だ」


 報告を耳にして、流石にルタンも難しい顔となった。

武装した五十は、人口の薄く広がる辺境メレヴではかなりの脅威だ。

守りの手薄な村くらいなら、容易く落せる。

「ふむ。そうなると連中の狙い。村なり、大きな農園の襲撃かな」

如何にも苦々しげな所作で推測を吐き捨てたルタンが、言葉を続けた。

「此方は倍の数だ。領地に逃げ帰る所を襲えば、オーク共も一溜まりもあるまいよ」

ヘイスは眉根を寄せて、ルタンを眺める。

「オークを追跡しないのか?何処かの村が襲われているかも知れん」

「今からでは、救うには遅すぎる。それよりは待ち伏せの方が良かろう」

事も無げに言うルタンを一瞬、訝しげな眼差しで見てから、ヘイスは口を閉じて難しい顔となった。

あっさりと村を見捨てたルタンの判断に、或いは不快感を覚えたのかも知れないがそれを表には出そうとしなかった。

「……帰り道もここを通ってくれればいいが、そう上手くいくかな」

呟くように言ってから、鋭い視線でルタンを見やる。

「むしろ、此処を通ってくれればいい、か?」


「確かに奇妙な動きだ。何処を襲ったにせよ、連中は普段よりもずっと南へ入り込んできている」

ルタン自身も、オークの動きの奇妙さに幾分か気になるところはあったが、取り敢えずは横に置いた。

「兎に角、連中が普段どおりに動くとしたら、まず境界近くのオークの砦へ帰還するはずだ。

村を襲った連中が領内に引き返そうとのこのこ戻ってきた所に奇襲をし掛けるとしてよう」


「追跡すれば、確実に連中を捕捉できると思うが……」

「真正面からぶつかるのは上手くない。此方の犠牲も多くなるでな」

クーディウスの家臣ヘイスの提案を、地元の豪族ルタンは一言で切って捨てる。

クーディウスからすれば遠来の土地でも、ルタンにとっては郷土である。

男手の五人、十人も怪我をすればかなりの負担となる。辺りの農民の困窮は他人事ではない。

ルタンや一帯の豪族たちからすれば、男手を余りに損なうと勝利しても引き合わないのだ。



「ふむ。であれば、連中がこの道を引き返してくれば御の字か。

しかし、全く別の道を通ってやり過ごされる恐れもないだろうか?」

ヘイスが疑問をぶつけてくるが、オークの動きや習性については普段から領地がオーク族と接しているルタンの方が詳しい。

「いいや。十中八九、引き返してくる時に捕まえられるさ」

その点については自信有りげに断言した。

「此方も斥候を出している。此処に陣取っていれば、近隣のどの道を通ろうが見逃すことはまず有り得ん。それに……」


 ルタンの意味ありげな視線の先を追って、黒尽くめの集団に行き着いたヘイスも深々と肯いた。

「その為の傭兵と丘の民か」

「うむ」

不作で困窮している丘の民を雇い兵として組み入れるようにとの策をルタンに提案したのは、クーディウスであった。

一見、線が細くて神経質そうに見えるルタンであるが、一帯の地主であり殿様として敬われるほどであるから、それなりの人物である。肝も据わっており、今も陣頭で指揮を取っている。

丘の民を斥候として重用すれば、オークの動きを把握し易いはずとの視点に舌を巻きつつ、ルタンはさらに一歩踏み込んだ。

さらに使い捨ての先鋒としてぶつけることを考えている。村々の畑を荒らし、家畜を盗む丘の民と、敵であるオークを減らせる一石二鳥の良策となるだろう。



「それにしてもクーディウス殿は見事な知恵者よ」

上機嫌で褒め称えるルタンを前にして、ヘイスは曖昧な笑みを浮かべたまま相槌を打っていた。

真実が必ずしも人を幸せにするとは限らない。実はフィオナさまのお考えだ。とは、口にしなかった。

クーディウスに盟友と見込まれるだけあってルタンは中々に頭も切れ、直ぐに策の利点にも気づいた。それだけに年若い女の考えた作戦通りに動くのは、切れ者の中年の男にとっては不快であろう。故に沈黙を守れと腹心に言い含めたのもこれまたフィオナである。

クーディウスの長女フィオナは、並行して幾つもの手を矢継ぎ早に打っている。

その一つ一つがヘイスには驚くような発想と思考の産物であり、クーディウスを有利にし、オークを追い詰める有効な仕掛けとなって状況を創り上げつつあった。

まさしく深謀遠慮の御方だ。傭兵であった時代にも、あれほど先を見通せる目を持っていた雇い主は一人としていなかった。全く敵であるオーク族には同情するぜ。

娘といってもいいほど年若い豪族の娘を信頼し、強い忠誠心を抱いているヘイスは、主に命じられたもう一つの任務を誰にも気づかれずに今果たしていた。


「ついでに、それとなくルタン殿の動かせる兵と武具の質を調べ上げておくように」

フィオナ・クーディウスは、その為に、尤も信頼する腹心を送り込んで、督戦の任に付けていた。

確かに、短時間にこれほどの兵を招集出来たのは、ルタンの手腕が並々ならぬものだからだな。

既に村に半ばを集結させていたからでもあるが、準備の周到さと手際のよさは大したものだ。

ヘイスは密かに肯いてから、主人の同盟者である豪族ルタンの機嫌良さそうな横顔を眺めた。

同盟を組むに足る相手か否か調べるつもりか。或いは、オークを倒した後の事を考えているのか。

まあ、いい。フィオナさまが何をお考えにしろ、一介の戦士である俺は忠実に従うだけよ。



 オーク族の侵攻に併せて、クーディウスも反攻のための兵を集めていた。

本格的な反攻はいま少し先になるとしても、村の一つ、二つを焼き払い、砦を落してでもおけば、有利になるだろう。

そう考えて、ルタンの領地より別働隊を編成し、偵察を兼ねて侵攻する筈であったが、予定が僅かばかり前倒しに繰り上がった。

本格的な衝突の前に、まずは敵の小部隊を血祭りに上げてやろう。


 もはや勝利を確信しているのか。椅子に坐ったルタンは、自信満々の態度で敵を待ち受けている。

「ルタン殿、油断召されるなよ。あまりにも敵を侮るのは危険だぞ」

忠告してくるクーディウス家臣ヘイスを横目で見てから、

「油断はしておらん。だが、敵は精々五十。此方の半数にも満たぬ」

ルタンの手勢は既に百人を越え、百五十に近づいている。

予想以上の戦士の集りに上機嫌のルタンだが、ヘイスは渋い顔をする。

彼は主人であるフィオナから、ルタンが油断しないよう、そして深追いしないよう、諌めるように念を押して釘を刺されていた。

なるほど、調子に乗りやすい男だと言ってたが、どうやらフィオナ様の観察眼は正しいらしい。

ヘイスは、任務に忠実な男でもある。もう一度だけ忠告することにする。

「だが、連中。そのなりからすると多分、南の境界を守るオークの精兵だ。

狙いは読めぬが、少数で此処まで人族の領域深くに入り込むとは豪胆な連中。

それに最近、オグルまで加わっているとの噂だぞ」


「大オークだろうが、オグルだろうがな」

くっくっと銀髪の豪族ルタンは冷たい笑みを浮かべる。

彼の自信の根拠は、けして故なきことではない。敵の三倍の兵力に加えて切り札もあるのだ。

後方に屯している薄汚い男たちの一群。

ぎらぎらと鋭い目つきの丘の民の一団。

その中央にうずくまっている一際、巨大な人影をルタンは眺めた。

焼いた野豚の肉を貪っている男の、地の底から響いてくるような野太い唸り声。

座り込んでいるにも関わらず、その背丈は男たちの頭より高かった。

「なに『巨人族』と戦っては一溜まりも在るまいよ」



 窓の外では、びょうびょうと吹き荒ぶ風の音が響いている。

目の前では悪鬼のような巨大なオークが立ちはだかり、家捜しするでもなく目をせばめてリネルを睨み付けていた。

首項垂れたまま床に蹲っている年増女からしてみれば、悪夢としか思えない光景だった。

「畜生……」

忌々しげに顔を歪めてオークたちを睨みつけていた年増女のリネルだが、やがて諦めたのか。

顔を伏せながら悔しげに呻き声を洩らした。

「分かったよ。家にある物は何でも持っていきな。でも、あまり乱暴はしないでおくれよ」

情けなさそうな顔で言う村長を胡散臭そうな眼差しで眺めてから、向こう傷のオークはリネルの腕を掴んで立ち上がらせた。

「それはお前の態度次第だな」

訳も分からず、虚脱した様子で顔を上げるリネルを捕まえたまま、巨躯のオークは冷たい声音でついてこいと言い放った。


 引っ張られたリネルが背中を押されながら村の広場へと辿り着くと、そこでは村長にとって見たくない光景が広がっていた。

村人たちが空き地の中央へ集められ、その周囲をオーク達が取り巻いている。

先日の洞窟オークの襲撃の時とでは、立場の裏腹な光景を目の当たりにし、流石に苦い表情を隠しきれずにリネルは思わず顔を伏せた。

しかし、よく見てみれば、村人に痛めつけられた痕跡が見えるとは言え、意外にもオーク達が荒々しく振舞っている様子はない。

オークは一般的に弱い者虐めが好きな種族と認識されている。

にも拘らず、現状では特に意味もなく暴力を振るうものもおらず、また虐殺の不気味な前兆も感じられないので、リネルは少しだけ胸を撫で下ろした。

まだ、いかに転ぶか分からないにせよ、異種族に占拠された村として起こりうる最悪の予想は、ましな方向へと外れてくれていた。

あたしゃ、淡い期待をしているのかね。

忸怩たる想いを抱き、不安に苛まれつつ、左右をオークに挟まれて連れて来られた村長のリネルを目にして、村人の幾人かが嗚咽や嘆きの声を洩らした。


 リネルが村人の中に入れられてから暫らくして、広場に面する田舎道から、人のざわめくような声が聞こえてきた。

年増女がそちらに首を向けてみると、よろめき、ふらつきながら小柄な隊列が近づいてくるのが遠目に見える。

解放された洞窟オークたちの姿だと直ぐに理解する。

(まさか……あいつらを助けに村に攻めてきたって言うのかい。

オークが仲間を助けに危険を侵すって?そんな話は聞いたことないよ)

呆然としているリネルの視線の先、オークに助けられて進んでいる洞窟オークの雑多な隊列には、体力が落ちているのか、気力が萎えているのか、道端にしゃがみ込んで喘いでいる小柄なオークの姿も少なくない。


「ルッゴ・ゾム。洞窟オーク共は、十日も村の倉庫に閉じ込められていました。

どいつもこいつも大分、弱っている様子で……これは歩かせるのは難渋しますよ」

洞窟オークの疎らな隊列の傍らを歩きながら、隻眼のオーク戦士が隊長らしき巨躯の戦士に矢継ぎ早に報告する。

「それに……族長のグ・ルムが見当たりません。別の場所に閉じ込められているかもしれませんが」

隻眼の戦士の言葉を引き継いで、頬に傷のあるオークが言葉を続ける。

「見張りのゴブリン共を締め上げましたが、連中も何も知らん様子です」

数珠繋ぎにされて連行されている捕虜のゴブリンたちは、オークに睨まれただけで緑の相貌から血の気を引かせて震え上がりながら必死に喚いた。

「おらたちゃ、なにも……なにもしんないっす!」

ルッゴ・ゾムは小さく唸りを上げてから、部下たちに告げた。

「此処にいない以上、諦めるしかあるまいよ」

「ですが……団長」

隻眼のオークと頬傷のオークは顔を見合わせてから、何やら言いよどんでいる。

どうやら、少なからぬ部下たちが洞窟オークの境遇に同情を寄せているらしい。

「洞窟オークたちを救い、戦利品を適当に漁ったら引き返す。

当初からその予定だ。あまり長居するのも危ないからな」

溜息を洩らしたルッゴ・ゾムの言葉に渋々肯く頬傷。

しかし、隻眼はどうしても割り切れないのか。なおも言い募ってくる。

「ルッゴ・ゾム。いいんですかい?」

じろっと睨まれて身体を竦ませたがそれでも粘るように訴えてくる。

「まだ時間は在るでしょう。もう少し探してみませんか?村の他の場所に……」

「ならん。引き返すのにも時間は掛かる。こっちは足の遅い洞窟オークを連れて逃げにゃいかんのだ。まだ余裕があるうちに退きべきだろうよ」

「分かりました」

偶にはオークであっても英雄的行動を取るのも悪くはない。

だが、手下たちとて敵地に留まる危うさは理解している。

刻一刻と危険が増しているのも事実である。と、それまで村人を見張りながら、頭領たちの会話を立ち聞きしていたオークの兵卒が口を挟んだ。

「村長を捕まえましたが、何か知ってるかも知れませんぜ」



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