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廃墟探索4

廃墟探索4


「よっ」

聞きなれた声が頭上からして、


しゅっ。


と風を切る音。


ベチィッ


肉がひしゃげるかのような音。

黒い女が苦痛に顔を歪めてよろめいた。

「たかしは諦めるのが早すぎるな」

蛇女だった。

手刀を黒い女の首筋に打ち込んだのだ。

あ、そっか。お守りが壊れたから出てこれるようになったのか。

「とはいえよく頑張ったのぅ。後は任せておけ」

蛇女がニコリとする。

それを見た途端、オレは安心した。

何故だか分からないが、落ち着いた。まるで、その笑顔を知っているかのように。


「なによ、あんた!?」


黒い女が蛇女に迫り、つかみかかった。

形相がキ〇ガイじみてて恐すぎ。


「むんっ」


蛇女は真っ向から受け止めつつ、頭突きを見舞った。

ぎゃっと怯んだところ、両腕を逆捻じに捻りあげる。

パワー差が段違いだな。


「きょえわぇええっ」


何やら叫び、黒い女が蛇女の腹を蹴る。


うっと呻いた隙を突いて、黒い女は締めから逃れた。

だが、連続して攻撃する気力はないらしい。

肩を押さえて呻いている。


しゃぁ、こらぁっ!


プロレスラーみたいな気合いを出して、蛇女は相手の髪を掴んだ。

「イタタタタ」

喚くのにも構わず、どっせい!と勢いをつけて頭突きを見舞った。


ゴパッ


変な音がして、黒い女は仰け反って倒れた。


んで、そのまま起き上がらなくなる。


うっ、うっ。


と泣く声が聞こえてきた。


一応カタがついたようだ。

「ほら」

蛇女が懐中電灯をオレに手渡す。

良かった、壊れてない。

オレは夕凪の傍らにしゃがみ込み、気持ちよくのびているその顔をぺしぺし叩いた。

「おい、安定の気絶してんじゃねえぞ」

オレが声を掛けると、うーんという呻き。

よし、死んでないな。


夕凪を起こし、ふらふらの彼女を支えて階段を降り始めた。

視界の隅に、黒い女が床に体育座りになっているのが見えた。

悪いが構ってる余裕もないし、大人しくなってる間に脱出させて…


考えるオレの耳に


「また、ひとりぼっちか…」


黒い女の呟きが聞こえた。



オレは、



なぜか



衝撃を受けた。



……。



「こいつを頼む」

オレは蛇女に夕凪を任せると、降りていた階段を引き返して昇って行った。


「ちょ、ちょっ、崇君!?」

夕凪は驚いて叫ぶが、オレは無視して黒い女の座っている所までくる。


「……?」

黒い女は不思議そうにオレを見上げた。


「……」

オレは黙って黒い女を見下ろした。

心の奥底から湧きおこる衝動に突き動かされて引き返したものの、何も思いつかない。


「…ふふ」

黒い女の顔に再び凶悪な笑みが蘇る。


「やれよ」

オレはぶっきらぼうに言った。

「やりたきゃ、やれ」

オレはもう恐れてはいなかった。

恐怖にさらされ続けたせいで感覚が麻痺したのか、何なのかはよく分からない。

単なる開き直りなのかもしれない。


「でも、オレをやっても、お前はひとりぼっちのままだ」


「え?」

黒い女は聞き返した。

その表情はころりと変わって不思議そうである。


オレは気付いていた。

こいつらは良くも悪くもストレートなのだ。感情表現が真っすぐで強烈である。

ネガティブな感情に捉われていれば、それが、どばーっと洪水のように押し寄せてくる。

迷惑な話だ。


だが…。


「オレらを恐がらせても何も変わらない」

オレはしっかりと黒い女を見据えて言った。

「むしろもっと孤独になってゆくだけだ」

「う、うるさい!」

黒い女は癇癪を起した。

「お前に何が分る!?」

「分んねーよ」

オレは吐き捨てるように言った。

「あんたの抱えてる問題なんて分らねー。けど、何かを求めている事は分る」

「…あたしが、求めてる?」

黒い女はきょとんとした。

そしてすぐに「あはは」と笑った。

「何よ、それ? あたしが何かを求めてるっての?」

「そうだ、助けを求めてる」

オレはうなずいた。

「だから、オレらに関わってきた」

「……」

黒い女は黙り込んだ。


「ひとりぼっちがイヤなんだろ?」

「……」

「ひとりぼっちは誰でもイヤなもんだ」

「……」

「いいぜ、オレがあんたの友達になってやる」

「……ッ!?」

黒い女は驚いた表情。

「はあ? あんた頭おかしいんじゃないの?」

「嫌ならいい。あんたはまたひとりぼっちに戻るだけだ」

オレは肩をすくめて見せる。

あんまり上手くはいかなかったが。

こいつら幽霊や妖怪変化の類はオーラで相手の心を測れる。

オレの心に偽りがなければ、それは伝わるはずだ。


「……」

黒い女はしばらくオレを見ていたが、やがてすっくと立ち上がった。

「分った、信じる」

その顔は案外、可愛らしいものだった。


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