07 終わり~後悔・エン
自分は一話で大体4000文字以下で~という事にしてるので、今回はエン視点で次がリィン視点での終わり、という事にしたいと思います。 ご了承ください。
「あははっ、ねぇ見てヴォルグ……どうして人間の血はここまで素敵なのかしらね」
目の前には燃え盛り森が朽ちていく様子が捉えられる。 足元にはフィーンが一年間お世話になっていた元ギルドマスターヴィンと元皇龍ランカーのレンの血が多量にあり、血で水溜りが出来ている所から恐らく生きていないだろうと考えるが、この二人も転生者という事を考慮すると念を入れてつぶす事にする。
「人が血を噴出すと言う事には死んでしまうと言う恐怖を感じます。 だからこそ必死に生きようとする事が思い浮かび素敵なのだと思いますよ」
「そうかもしれないわね……でも形が無いと言うのはつまらないわ、でもリィンの助けを乞う泣き叫ぶ声や、エンやわたしの名前を必死に呼ぶ姿も良いかもしれないわね……ああ、想像しただけで堪らないわ」
そう言うとフィーンは燃え盛る森の中へと歩む。 このままでは火傷してしまうと思いフィーンを薄い水の膜で包み込む。
「さぁ……神の気の赴くまま、行きましょうヴォルグ」
「仰せのままに」
フィーンがいない一年間、わたしの生活は荒んでいた。 それどころか依頼も無いというのに真夜中の都市で評判の悪い人間や法を犯して経営している奴隷市場のエルフの主人、子を連れ去る賊共、悪政の主犯その他もろもろ、悪事のあらゆる全てをに関係した奴等を種族関係なく殺していった。 正しすぎる正義は反感を買うもので、わたしの指名手配は今や大陸中に伝わっている。 だが凡人には正義の使者などというものを被せられて守られていた。
そんな中ようやくフィーンが帰ってきた。 フィーンはわたしの幼馴染でもあり、またわたしの主でも会った。 わたしはここに日本から転生してきた。 死の原因は親からの虐待に耐え切れず自殺だった。 転生した後、わたしは肉親の優しさを疑い対人恐怖症だと自覚するのも早かった。 親達はわたしに積極的に関わろうとしなくなったが、フィーンは違い毎日わたしに会いに来てくれた。 そんな献身的なフィーンに心を開くのに時間は掛からなかった。 今思えばわたしは愛に餓えていたのかもしれない、フィーンに心を開く理由が幼すぎた。 まぁ私自身も転生前の年を合わせると成人しているが、ほぼ感情という物でしか伝える事の出来なかったわたしは赤子と変わらないだろう。
フィーンに心を開いたわたしは、転生前のことをフィーンの胸を借りながら話した。 そんな中フィーンも転生者だと言う事を教えられた。 フィーンも転生前に心に傷を負っていて、だからこそ自分と同じような物を背負っていると感じ私に関わってきたらしい。 フィーンの過去は教えてもらえなかったが……いや、聞いたら教えてくれたが遠まわしな言い方で幼いわたしには理解できなかった。
そんな打ち解けたフィーンにある日町に連れ出された。 事実家出をした訳だが、親はわたしたちを疎ましく思っていたようで、何年経とうが追いかけてこられる事はなかった。 フィーンはわたしに知らない世界を見せてくれた、他にもいろいろな事があったが割いておこう、そして――わたしは何かフィーンに恩返しをしたいと思った。 そんな中出会ったのが<裏公認ギルド>のマスターと名乗る女性だった。
「影となることを望んで、君の大切な人を助けたくないかい?」
わたしは半信半疑だったが、フィーンを助ける事が出来るのなら、と思い影という存在になることを決断した。
それがわたしとフィーンの全てが変わる分かれ道だった事も知らずに。
今のわたしならあそこで断れた筈だ、だがもう引き返せなかった。 それ故にわたし達は消え行く存在となってしまった。
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母さんと父さんはフィーンを森の外の町へと送るためいないので、稽古は無しにしてリィンと共に森の奥にある迷宮へ行く事にした。 森の少し強くなった魔物を相手にしながら時折妹の視線を感じ、胸を締め付けられる様な感覚に落ちる。 一昨日わたしはフィーンに告白した。 だがそれは好きなどという感情の告白ではなく、わたしが神々を殺したことをだ。 なにを栃狂ったかリィンはわたしがフィーンに好きだという感情を告白したという事思っているらしい。 フィーンの情報だから確かなのだろうが、今更ながらどうしてそうなったと悩む。
リィンは恐らくわたしがフィーンが帰ることにショックを受けているなどと考えているのだろうが、魔物との連戦が続くので言うタイミングがどうしても掴めない。
「これじゃあ迷宮に着くまでに魔力切れになりそうだな」
「どうします兄さん?魔石は持って来てませんし、武器も青銅性なのでこのままだと持ちません」
「その言い方だと帰るしか道がないと思うんだけどなぁ」
でもリィンの考えに賛成するしかない。 正直魔物と戦いながらしか話せない位連戦で体力も精神も限界に近い。もう迷宮が見えてきているのに帰るのは惜しい気がするが、迷宮では罠もあるので易々と安心できない。 心苦しいが転移魔法で帰ることにする。
「ようやく迷宮まで来れたのになぁ……まぁ迷宮だし準備はしっかりとした方がいいか」
「ええ、兄さんが死んでしまったら思わず後を追いかけてしまいます」
「冗談きついって」
「冗談を言うとでも?」
一年かけて迷宮の近くまで辿り着いたのでどうやらリィンはテンションが上がっているらしい。苦笑しながらも座標を登録して魔術を展開し魔法陣を形成する。
そして二人で声を合わせて<転移>と口にする。
だがリィンのところに魔物が来たので、リィンは慌てて魔方陣から飛び出し魔物と対峙するので、わたしは魔術を取り消そうとするが、既に発動のトリガーを口にしてしまい、魔方陣から抜け出そうにも動けなかったので、すぐに転移をしてリィンの所まで戻ろうと考えるが――
――転移した先。 家は……訂正、家の玄関からを境にして何か膜のようなものが魔術で張ってあり、膜の先には燃え盛る森、そして家の近くにいる四人の姿が目に入った。
二人、私よりも年上だろうか、女性と男性が立っており、その傍には父さんと母さんが血だらけになりながらも見慣れぬ武器を持っていた。
疑問に思いながらも気配を消し近づこうとすると、感覚で分かった。 気付かれていると。
遠目からでも分かり女性がわたしのいる場所を見ながらウットリとした顔をし、逃げようと、そんな非常な選択をした途端、轟音。
見る見るうちに膜は消えていき、女性は母さん達を一瞥した後、こちらへと近づいてくる。 わたしは動けなかった。 逃げようとしても、男性を相手に苦戦している父さんと一刺しされて倒れた母さん、その二人を助けに行こうにも恐怖からか、あしがすくんで動けなかった。
ああ、自分はなんて駄目なんだ。 わたしがいままで鍛錬してきた理由はなんなんだ? そんな思いを抱き、ようやく武器を構える。 手が足が体全てががくがくと震える。 必死に落ち着こうにも息が荒い。 そしてついに女性が目の前まで来る。 可能ならば今すぐ意識を手放して楽になりたい、そんな思いが出てきてしまう。 だけどそれを必死に思い留める。 今逃げ出したら全てを失う事になる、そんな事はもう嫌だから。 剣を振り上げようとするが女性にそれを捕まれ――
ゴスッグギッ、そんな鈍い音が自分の体から響く。 剣の柄を硬く握り締めていたため、それを利用し女性は剣を素手で掴みわたしを空中へと投げ飛ばした。
そしてそのまま何度も殴り蹴りを空中で繰り返す。 意識が飛びそうになるのを必死に堪え防御の体制を崩さないようにするが、そんな物関係無しの様に攻撃が繰り返される。
そして火の手が既にまわっている家に吹き飛ばされ止まる。 苦しい、痛い、熱い。 そんな感覚しかないような感情の中でいつの間にか目の前にいる女性に話しかけられる。
「ねぇ、リィンはどこ?リィンがいないとつまらないじゃない」
この声、口調を聞いて愕然とした、その主はフィーンだったから。
「あはっ、その顔はどうしてって思ってる? 教えてあげても良いけどその前にリィンがどこにいるのか教えてよ。 リィンの悲痛で絶望に満ちた声が聞きたくて仕方ないの。 リィンはどうやったらそんな声出してくれると思う? 犯す、それとも目の前でエン兄さんをいたぶり殺してみる?」
まるで目の前がフィーンでは無いように感じる、ぼやける視界の中で夢だったらどんなに良かったんだろうと、そんな現実逃避をしてしまう。
「黙ってちゃ分かんないよ、あっそうだ、試しに指を一本ずつ切ってみようか、ううん、折った後に切るのも良いかもしれないわ。 エンが叫び声を上げればきっとリィンも来てくれるでしょうし……ね?」
もうどうなっても良いかもしれないと思い、フィーンを睨みつけながら魔術を唱える。
それに気づいた様でフィーンはニコリと笑い。
「その前に、その口を真っ赤なきれいな色にしてあげるわ!」
いきなり手元にロングソードを取り出しわたしに振り上げてくる。 ああ、死ぬなわたし、と楽観的に考え目を瞑ると、突然スパンッという何かが切れる音が響く。 この音はまるで――
「わたしの兄さんにその穢れた剣を向けないでくれる? フィーン」
剣を切った音だな。 そう思って意識を保って目を開くと、愛しの妹、リィンが母さんと父さんの刀を両手に持ちながらわたしの前に勇敢に立っていた。 それにはリィンが私を助けるため必死になって来てくれた事の嬉しさと同時に、またわたしは肉親を失ったんだという悲しみだった。
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