06 幸~それ以上の不幸へと
本来考えてたストーリーから大幅修正~
今更ながら話が進むの遅いと考える日々
「ふふ、本当にエンってば面白いのね」
「うん?普通だと思うけど」
どうして兄さんはフィーンにここまで笑いかけるの? フィーンが来てからというもの兄さんの笑顔は増えたが、それを見るたびに心が疼く。 兄さん、お願いだからその笑顔を私に向けて、どんなに思ってもその笑顔はフィーンへと向けられる。 兄さんは今魔術についての本を間違っている構成の所を直しながら読み進めていっていて、フィーンはそれを見ながら話しかけている。
「じゃあエンは天然ね」
「ひでぇ!」
そんな他愛も無い会話で二人は笑っている、今わたしは父さんに稽古を付けてもらっているが、どうも気になって集中できない。 ほぼギリギリで父さんの出してくる属性付きの魔弾を適当に切っている。
「そういえばエン?いつになったらけーきの作り方を教えてくれるの」
「ん~この本が読み終わったらね」
「もう!そんな事ばかり言って、いつも二冊位読んでるじゃない」
兄さんナイス!と心の中でガッツポーズをし集中が乱れ水の魔弾が切り損ね耳元を掠める。 事情を知っている父さんが微笑しているが、ムカつく。
いつもの兄さんなら頑張れ等言ってくれるが今日は気付いてない様でそれは無く、よりいっそう頬が引き攣る。
「へいへい。もう今日のノルマはこなしたし教えるよ」
「やった、じゃあふるーつたるとって言うの教えてね」
ブチッ……心なしかわたしの頭からそんな音が聞こえてきた気がする。 そうなると動きは早い物で父さんが放った無の魔弾を切らずに兄さんの方へと飛ばす。 父さんは慌ててわたしに魔弾を放つのを止めたが遅い。 火、水、炎、氷、光、闇、風、無、時、土、雷、と二分の一秒感覚で切らなければならない魔弾全てを兄さんの方に跳ね返して飛ばす。
だが父さんはギルドマスターを勤めていただけあり、魔力の質は無詠唱でも高く、わたしのように兄さんはチートではないので、全ての魔弾を喰らったら恐らく死んでしまうので、忠告はしておく。
「ああ、兄さんの方に属性魔弾の群れが?!」
我ながら迫真の演技だ。 父さんは焦っているが気にしない。
「うん?……ちょっ?!」
兄さんは全く警戒をしてなかったらしく、珍しく焦って傍においてある木刀を手元に手繰り寄せた。
「いくらなんでも順番がバラバラ過ぎるだろ!」
兄さんは叫びながら魔弾を刻んで蒸散させていく。 フィーンに真っ二つに切ったら危害が加わると思ったのだろう、適切な処理だと感心しながらわたしからもう一発飛ばしておこうかと考える。
「やめいっ」
父さんから何故かストップが掛かる。手を見ると何故か兄さんに向けて魔弾を放とうとしていた、無意識って素晴らしい。
「リィン~~?」
「まぁまぁエンってば、わざとじゃないんだし怒らなくても良いじゃない。 リィンが泣きそうよ?」
「ごめんなさい……」
「まぁフィーンがそう言うならいいけどさ」
今なら隕石を降らせる。 今なら地割れを起こせる。 今なら血の雨を降らせる。
……何かいけない妄想をしていた気がする、疲れてるのかな、アハハハハハ。
「ははっ、リィンもう今日はお開きにしてフィーンと一緒にケーキの作り方でも教えてもらいなさい」
父さんの笑い声が乾いていたのは気のせいではないだろう、ケーキの作り方ぐらい知っているが、兄さんと一緒に作れるんだったら嬉々としてやろう。
「じゃあ三人で一緒に頑張りましょ」
「熱い、引っ付くな~」
「兄さん何作りましょうか?」
「リィンまで引っ付くな~」
兄さんの顔が心なしか紅潮しているのは気にせず腕を組んだまま調理場へ行く事にした。
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「ごめんなさい」
そんな事を目の前の女性にいきなり言われてわたしは戸惑う事しか出来なかった。 わたしはお父さんに捕まりバイクの後ろに乗っていた、そんな時突然息が出来なくなって唯々苦しくて、お父さんを掴んでいた手を離し後ろへと倒れていった。 その後の記憶は無く、気が付いた時にはわたしは周りが真っ白で何も無い所に立っていた。 目の前がぼやけている様に感じ何となく目を閉じると、私より少し背が高めな少年が短刀を持って黒い人影を切りながら走っている光景が見えた。 その光景をずっと見ていると不思議と涙が溢れて来て、同時にどうして? そんな事を思った途端に恐らく少年の感情がわたしの頭の中に入ってきた。
それは悔しさ。 唯、それだけだった。 更に深く感情ではない物が頭の中に入ってきて、その悔しさの理由が分かった。 それがわたしの涙の原因だとどうしてか思えた。 少年は自分が殺された事などどうでも良かった、唯々わたしと一人の少女の事だけを考え、わたし達の人生を狂わせた事に怒り、悔やんでいた。 自分ではどうにも出来なかった事だというのに――いや、だからこそわたしの気持ちを考え――突き飛ばした少女に最期の別れの一言も言え無い事をまるで、自分の所為のように考えてしまうのだろう。 その思いが、その考えが少年を愛おしいと年上だというのに思ってしまった。 そんな時目の前に女性が現れた。
「私にはこれしか出来ないわ、でもあの子――エンを少しでも良いから手助けをしてあげて欲しい。 苑は馬鹿みたいに自己犠牲で偽善者だけど、最高の……」
途中で口を噤んだことに疑問を抱いたがどうも目の前がぼやけて意識を強く保てない。
「……あなたは誰なの?」
この問いに女性は答えず唯首を左右に振った。 女性が顔を上げた時にはもう目の前が真っ白になって薄らとしか女性が見えなかった。
「もう、兄さんを縛る物なんて無い。 だから――……」
最後のところがよく聞き取れず聞き返そうとしたが、口が動かせず聞けずにそのまま後ろへと倒れていった。
「お願いね――鈴……」
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兄さんは八歳、私は六歳となった時だった、フィーンという私と同い年の女の子が来た。 兄さんがフィーンを俗に言うお姫様抱っこで家にまで運んできた。 フィーンは魔物に襲われていたらしく服の所々が破けてはだけていた。 お母さんは狩に出かけていたため私が治癒術をする事になった。フィーンは一週間ほどで元気になり、お父さんが町まで送り届ける事になったのだが、お母さんがそれを引きとめた。 幸いフィーンも帰るのを拒んでいたため一年程度フィーンは家に居候する事になった。 お母さんが引きとめた理由は魔物がかなり強くなっているためだった。 本来いる筈の無い魔物や既存の魔物は活発になり、中には二倍三倍と体長が大きくなっているらしいので、わたしの行う予定だった兄さんと同じ内容の実戦は次の年へと持ち越しになってしまった。 フィーンが帰るのを拒んだ理由はいまだに判らないが、月日が経つにつれ兄さんと仲良くなっていくのは非常によろしくない。 それに苦しい事実も分かった。 兄さんがフィーンの事が好きだという。 それを兄さんから伝えられた時どんなに苦しくて哀しくて悔しかった事か、でもフィーンはヴォルグという好きな人がいるらしく、兄さんのことは死んだ自分の兄にそっくりという事で甘えてしまうんだそうだ。
それを聞いた途端自分はどうすれば良いのか分からなくなった。 でも、二人の話を聞いて、安心して同時に兄さんを取られてしまうという寂しさを感じた。
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一年が過ぎ、お父さんがフィーンを町へ改めて連れて行くことになり、それにはお母さんも同行していく事になった。 この一年で大分魔物も落ち着いたためだ。 いよいよ明後日行く事になり、お父さんたちは保険も兼ねて今から準備している。 その夜だった、兄さんはフィーンに告白したそうだ。 同じ部屋で寝ているフィーンに寝る前になっていきなり言われた。 わたしは泣きそうになるのを堪えながら、絞りきるような声で返事はどうしたの、と聞いた。 そしたらフィーンは突然わたしの横に来て、抱きしめてきた。 わたしが戸惑っているとフィーンは――
――エンのこと好きなんでしょう?
ふふっと笑いながら言ってきた。 そして続けざまに
「わたしはリィンの事好きよ、リィンは私の事好き?」
返答に困るしかなかった。 いままでフィーンの前で猫を被って接してきた、でも兄さんを取られてしまうという恐怖の所為で、一介の友達として出会っていたらどうだったのかと考え。
「フィーンのこと好き、かな」
「そっか、ありがとう」
そんなやり取りについ頬が緩む。 ああ、わたしって何て頑固だったの。
もっとフィーンと普通に接したかった。 たくさん話したかった。 今更ながらフィーンが行ってしまう事に寂しさを憶える。
「告白、断ってきた。 後リィンの気持ちを考えなさいって怒鳴ってきちゃった」
「フィーンが怒鳴った?」
思わず笑ってしまうほど怒鳴ったということに驚いた。 フィーンの今までからそんな事が全く想像出来なかったから。
「あら、わたしだって怒鳴るわよ? だってリィンのためだもの」
その言葉に思わず鼻がツーンとした。 何となく嬉しくって抱きしめ返す。
そんな他愛も無いことが楽しくって二人一緒に笑う。 フィーンが行ってしまう時は笑顔でいたいのに、泣きそうかも、そんな事を眠くなってきたとき思った。
その夜は二人でそのまま寝てしまった。
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その次の日は兄さんが落ち込んでいると思っていたが、吹っ切れた様子で、特に何も無い平和な日常だった。 変わったことと言えば、わたしとフィーンがずっといちゃいちゃしてる事だった。
兄さんは苦笑いしながらも、特に気にした様子は無く、フィーンがいる最後の晩御飯ということで豪勢に料理を振舞うため頑張っていた。
そしてフィーンが帰る日となってしまった。
そして……わたしと兄さんは一生後悔する日になってしまった。
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私のようにチートではない。でまるで父親がチートでは無いような表現な気がしたので兄さんを追加編集
三月……?日