05 不幸~始めようか
ネタバレエンは女の子に恋をして……
「<ウィンドカーテン>!」
『GYAOOOOOO!』
魔術を展開している暇が無いため詠唱を飛ばして魔法を放つ。 ヴィンが最近の魔物は凶暴化しているなんて馬鹿なことを言っていたが、どうやら事実な様でワイルドボアは目の前の自身を切り刻む壁などお構いなしに突っ込んでくるため、元々詠唱を無視した所為で不安定なため魔法が弾ける。 仕方ないので魔力が二日分溜まった魔石を砕き吸収する。
「ふぅ……」
途端に力が込み上げて来てフラフラだった体も安定する。 もう少しこの状態でいたいがこのままではジリ貧なため魔石分の魔力を一気に武器へと変換する。 体から魔力が一気に抜ける感覚はまるで血を抜き取られるがごとく、そのまま倒れそうになるが意識を保ち、突進してくるワイルドボアへ魔剣を向ける。
「技に頼ってばかりでは駄目なんてエンに言えた義理ではないわね……」
思わず溜息が出そうになるが、もう時間延遅が終わるので集中する。
そして魔法行使の時間が終了し、ワイルドボアはわたしに向かって先ほどの二倍の速さで突進をしてくる。それをギリギリまで目で捉え――
「<剣舞、風華一閃>!」
魔剣に黄緑の色をした物が纏わりそれにより目の前に来た人ほどの大きさがあるワイルドボア(頭に角が生えてる猪の魔物)を一刀両断する。
「角は切り刻まれて残ってないか……まぁ食べられる物じゃないし良っか」
つい角があったはずの部分を見たのは、そこに魔法で刻まれてなかったら体を一突きされていただろう恐怖と冒険者としての実力が鈍っている実感の焦りかしら……角が討伐確認部位だったからって思いたい。 今日はこの一体だけで十分だと思い家に戻ることにする。
「ただいまー、今日は良いのが――あら?」
いつもなら稽古で裏庭にいるかと思ったけど三人の姿は見当たらず、仕方ないので冷蔵庫の中にコーティングした肉を入れようと家に入ると、机にうつ伏せになって寝ている二人+ベットで包帯を巻かれた少女と手を繋いで寝ているエンの姿が目に入った。 どういう状況か分からなかったので、取りあえず三人にウール百パーセントで作ったブランケットをかけて料理に取り掛かる。
そういえばと、不思議に思ったことを調理中に考える。 わたし達と同じようにエンとリィンは日本から転生して来た筈なのに日本の言語を理解し辛くなっているのは何故と考える。
冷蔵庫やコンロだって言ってるのにこっちの言語でしか答えられない……エンは分かるけどリィンは――この世界では日本語が魔法や魔術でのトリガーになっているのでいささか心配だが、何とかなるだろうと思い、その問題を脳の片隅においやる。
そういえば魔石がそろそろ切れそうだから低出力の吸収モードにしておかなきゃなーと考え、心配を杞憂だと思い意識を逸らすようにした。
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嫌だ嫌だ嫌だ! そんな思ったってどうしようもない事を考える。
「ひぐっ、ぐすっ……」
わたしと一緒にいたヴォルグはどこかへ消えてしまうし見たこともない魔物に追いかけられるし……どうしてわたしがこんな目に合うのと必死に逃げながら思う。
死にたくない、死にたくない! 後ろを何度見てもダークウルフ(爪に毒を持つ狼の魔物)はわたしをいたぶるように一定の距離を保ち追いかけてくる。 きっと疲れきったところを殺すんだ、そんな事を考え余計に絶望する。 そして逃げ惑っている間に靴は脱げ足に木の破片などが刺さり走るだけで疲労を増す。 ついに足の痛みに耐えられなくなりその場に転んでしまう。 そしてダークウルフはわたしにゆっくりと近づいてくるため、声も出せなくなり涙だけがボロボロと零れ落ちる。 そんな時大好きなヴォルグでは無く死んでしまった私よりも二つ年上の兄が思い浮かび、耐え切れなくなり昔のわたしに戻ったように必死に叫んだ。
お兄ちゃん、と。
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ダークウルフが飛び掛ってくると思い、もう駄目と諦めかけて目を閉じた時、いきなりキャイン!とダークウルフの悲痛な声が聞こえ何かと思い目を開けるとそこには、わたしよりも十㎝ほど背が高そうな少年がいて、両手に木の棒を持っている。 その少年にダークウルフが飛び掛り、危ないと言おうとした時、少年は右手に持っていた気の棒を地面に突き刺し、何かを呟いた途端、ダークウルフが吹き飛びそのまま慌てて逃げていく。
わたしが呆気に取られていると、少年はこちらを向き突然怒鳴りだした。
どうして追っかけてきたなどと言われても意味が分からない。 そしたら今度は少年は慌てて謝りだしたので、首を傾げると少年は急に顔を真っ赤にしそっぽを向いた。 わたしはと言うと少年のお陰で安心したのかそのまま気絶してしまった。
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今日は稽古ではなく実戦の様なものをやるらしく、父さんが森の中に三色の魔石を置いてきたのでそれを全て取ってくると同時に、魔物を一体でもいいから狩って来いと言うものだった。
一応木に三つの魔石が置いてある所まで白い布が括り付けられているので迷う心配は無いと言う事だけど、 魔物相手に一人で相手をするので緊張する。 更に言うなら防具のような物は一切与えられず、武器は木刀二本だけしか持たせてもらえず魔法も禁止された、そんな状況だからこそもう一度言うが緊張する。 もう魔物を殺める事には慣れたが、それでも恐い物は恐い。
少しばかり乗り気ではなかったが、妹のリィンに頑張ってと言われてしまったからにはしっかりとしようと意気込んで森の中へと入っていた。
そして魔石を赤、白、青と三つ集め終わり魔物はツリーゴースト(木の魔物、精神的に疲れている人が出くわすと襲われる)を角材の状態にして父さんから貰った何でも入る袋に入れておいた。
そしていざ帰ろうとした時、お兄ちゃんと叫ぶ声が聞こえ、家のほうから聞こえない事から妹が追いかけてきたかと思い焦って聞こえてくる場所へ行くため父さんとの魔法を使うなという約束を破り転移魔法を使い移動した。
転移したすぐ目の前には森の奥にしか居ないダークウルフ、それも普通より二倍の大きさのが一頭いて、すぐに跳び付けるような姿勢でいた。 恐らく後ろに妹がいるのだろうと考え、急いで詠唱を無視して魔法を発動する。 詠唱無視での魔法発動は不安定だが、ダークウルフ程度ならば大丈夫だと考え、二倍の大きさというのも考慮して右手に魔力を込めて発動させる
「<ウィンドスライス、ロックアタック>」
先に小さめの風の刃を飛ばし牽制してから、威力の高い石の粒を腹目掛けて飛ばすとダークウルフは吹き飛びそのまま森の中へ逃げていった。
一息つき後ろにいるであろう妹へと切れる。
だが反論が聞こえてこないのでどうしたのかと思ったら妹ではない女の子だった。 その女の子は泣いていたので急いで謝り、女の子のしゃがんでいるところまで目線を合わそうとしたら気付いてしまった。 恐らくだが、女の子はダークウルフから逃げ回りその途中で転んだり木に服を引っ掛けてしまった、その所為で衣服はかなり破れてボロボロではだけていた。 急いで女の子から目を逸らすと途端に気絶してしまったので、慌てて女の子を担ぎ家へと転移した。
転移した目の前には父さんがいて最初は怒られるかと思ったが、父さんは冗談の一つも言わず急いで女の子の手当てなど的確にわたしと妹に指示を出し、わたしは掛かりっきりで女の子を見ることになった。
妹と父さんは机にうつ伏せになり寝ている。 仕方無しに女の子の顔を見ているとうつらうつらしてきてしまいそのまま女の子が手を握って離してくれないのでそのまま寝る事にした。
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ちょっと場面の移り変わりが多いと思ったので修正
後苑が顔を紅くした理由が無かったので追加
三月……?日