第5話
夢を見た。
<火の迷宮>の主、それと対峙する銀の長髪の男。
男には見覚えがない。人ではないかもしてない。
銀の髪は発光し、肌は闇のように黒く、瞳は血の様に紅い。そのうえ、両手の指は鉤爪のように尖っている。着ているものはボロボロの布キレで、とても衣服と呼べるものではないが、本人から放たれる威厳に、そんなことは些細なことだと感じる。
そして、両者が動き出す。
主は、その巨体からは考えられないような高速で動き回りながら、炎を放つ。数秒後、辺りは文字通りの火の海になった。
男は、その中を悠然と散歩してくる。火の海に入ろうが、炎の攻撃が雨ように来ようがおかまいなしだ。だが、火傷一つ負う様子はない。
男は、主を追い詰めていく。ただ歩いているだけだが、主は徐々に正常な判断能力を失っているようで、その場で立ち尽くし攻撃している。
男の攻撃が当たる。主の左足に拳が軽く当たる。
それだけで、主の下半身が吹き飛ぶ。
主はバランスを崩し、倒れこむ。
倒れてきた主の頭部目掛けて、男は拳を振りかぶる。
そこでレンの目が覚めた。
「知らない天井だ」
「何バカ言ってるのよ!」
横から口を出してきた金髪碧眼の少女がいた。
ギルドの受付嬢であるリンだ。実にからかいがいがある女だ。
「バカにバカにされてる気がする」
「気のせいだ。それに、さっきの台詞は育ての親の教育の賜物だ」
「どういう教育よ」
「はいはい。痴話喧嘩はそこまで」
別の女性の声が割り込んできた。
肩まである綺麗な銀髪、碧の瞳、少々吊り目だが十分美人の範疇だ。
歳は20代くらいで、白衣を着ている。
「あんたは?」
「わたし?わたしはアリア。ギルド専属の医師で、君の主治医」
そう言われ自分の状態を確認する。
すると、迷宮で負った傷はおろか、昔からある古傷も見当たらない。
「おお!すげーな。サンキュー」
レンは素直に感心した。
「ありがとう。でも、わたしは自分の仕事をしただけ、お礼を言うなら3日3晩看病していたリンちゃんに言っておいたら?」
「ありがとうございます。不肖私レン、このご恩は2秒くらい忘れません。・・・って3日!」
リンをからかうために土下座を敢行するが、途中で寝ていた日数を聞いて驚く。
しかし、リンはそのことには触れず、顔を真っ赤にして。
「ちが、違うのよ。
あんたがギルド出るとき魔物にやられちゃえなんていってしまったから・・・。
あのままだと寝覚めが悪いから。
仕方なく。そう、仕方なくよ!」
と言って、恥ずかしさのあまり部屋から出て行った。
「あら、仕方ない子ね。
後であの子の休暇申請書偽造しないとね。
それにしても、本当にからかいがいがある子ね」
「それについては、全面的に同意するが、こちらの疑問にも答えてくれ。
それと犯罪行為を人前でバラすな」
「ふふ。あなたとは気が合いそうね。
まあ、3日寝ていたのは本当ね。体力がほとんど尽きかけていたから点滴で栄養取らせて、そのまま寝かせていたわね。
あ、あと連絡事項が2つね。
1つはモグラの巣穴亭の娘さん。お見舞いに来ていたわよ。早く帰って元気な姿見せてあげなさい。
それともう1つは、ギルドマスターがお呼びよ。退院したら、すぐ来るようにだってさ。
じゃ、もう退院でいいからマスターの所いってきな」
「了解。どこにいるの」
「一番奥の執務室。プレートあるし、話は通してあるから、迷ったら誰かに聞きなさい」
「はいはい。またね」
「またねって、また医者の世話になるつもり?」
そんなつもりはないが、また会う予感がひしひしするのだ。
「はじめまして、ギルドマスターのレオンです」
「Gランク探索者、レンです」
遠目には見た事があるが、思ったより若い男性だ。
30代前半、もしかしたら20代かもしれない。
短めの金髪に碧い瞳、精悍な顔立ち、細身だが鍛えられている雰囲気が伝わる。
元探索者かもしれないと考える。
「本題に入る前に確認しておきたいことがある」
「なんですか?」
「レン君のカードを確認させてくれないかな?」
「?別にかまいませんが」
あまり見せるなとリンに言われたが、ギルドマスターなら調べればある程度はわかりそうなので、隠す意味はないなと思い、カードを見せることにする。
名前:レン
年齢:16
レベル:16
腕力:163(D)
耐久:169(D)
魔力:125(E)
精神:265(B)
俊敏:240(C)
幸運:128(E)
最大踏破階層:10
ランク:G
称号:基礎の塊、双剣の使い手、魔神殺し、炎を統べる者、????
スキル:悪運、気功術、魔力操作、思考加速、剣技補正、命中補正、連撃、加速×2、強化、硬化、隠密行動、壁走り、気配察知、気配隠蔽、見切り、見抜く、罠察知、罠解除、鍵開け、魔法剣、火吸収、毒耐性、魔法(火、水、風、氷、雷、補助、治療)、二重魔法、精霊召喚(火)
職業:なし
魔力素:1562 次のレベルまであと38
備考:発動できない称号が存在します
「なんじゃこりゃー!」
驚いたのはレン本人である。
ギルドマスター・・・レオンは比較的落ち着いている。
「驚かないんですね」
「いや、驚いている。
事前に調査はしていたが、能力値、称号、スキルどれを取ってもGランクを逸脱している。
しかも精神がBランク相当・・・平均でDランク相当。一人前の者に相当するな」
レオンは感心したように呟く。
「それで用事は?」
出来れば早く帰りたい。服も着替えたい。(現在、入院着である。元の服はボロボロなので着られない。)
それに、嫌な予感がする。
ギルドマスターの呼び出し、知らない間のレベルアップ。何ひとつ愉快な要素がない。
「ああ、そうだね。
私は回りくどいのが嫌いでね。
レン君、君は魔神を知っているかい?」
「魔神?それって、御伽噺に出てくるアレですか?」
曰く、魔神とは人を滅ぼす存在だ。
曰く、魔神は太古に人と神々が、この世から退けた。
曰く、魔神は現在もどこかで生きている。
他にも様々な伝承が各地に存在している。
その殆どが眉唾物らしいが。
「一般ではそのようになっているな」
「一般?」
奇妙な言い回しにレンが首を傾げる。
レオンが神妙な顔で口を開こうとする。
レンはその瞬間<火の迷宮>で主を見た時と同等の悪寒が体中を駆け巡った。
聞きたくない。そう思ったが、既に遅かった。
レオンは厳かに告げる。
「魔神は実在する」
最近、新に書きたいものが出てきました。
それに卒研で忙しくなりだしました。
次は、かなり間が空くと思います。
読んでくださる方、ごめんなさい。