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魔神の子  作者: 天野 竜
4/5

第4話

 ギイイィィィィ。


 甲高い音をたてて重厚な扉が開いた。

 中は果てが見えないほどの巨大な部屋だ。

 そういえば、迷宮には空間に作用する魔法が掛かっているので、内部の広さは、見た目ではわからないという話を爺に聞いた覚えがあるなと、レンは思い出していた。

「ん?」

 前を見ると何か居る。

「あれがこの迷宮の主か?」

 火の塊。

 最初はそう思ったが、目を凝らすとそれが人型であることがわかる。

 だが、明らかに人間より大きい。少なくともレンの5倍はある。

「人ノ子ヨ、我ガ炎ニ焼カレヨ」

 突然、迷宮の主が喋りだした。

「お前、人の言葉がわかるのか?」

 レンは尋ねてみるが。

「モヤス、モヤスモヤスモヤス」

 炎が膨れ上がり、敵意を向けてくる。

「話は通じないか・・・」

 こちらも戦闘態勢に移行する。

「くそ!」

 対峙してわかる。

 この主は自分より強い。

 はっきり言って舐めていた。主がここまで強力な存在だとは思わなかった。

 無傷とはいかないが、勝てると思っていた。

 だが、今のままでは、おそらく殺されるだろう。

 逃げるか?

 そんな考えが一瞬、頭を過ぎったが、すぐさま否定する。

 <火の迷宮>は初心者用の迷宮だ。ここで退くようなら、ほとんどの迷宮は踏破出来ないということだ。


 ギリギリまで戦おう。

 それでも退いたのならば、改めて鍛えなおそう。


 そう思いながら覚悟を決める。

 そうと決まれば先手必勝である。

「水よ」

 レンが、そう言うと2メートル程の水球が3つ空中に顕現する。

「雷よ」

 水球に雷撃を纏わせる。

「いけ!」

 主に水球が放たれる。


 バシュアアァァァァァ。


 直撃し、水煙が立ちこめる。

「少しは効いたか?」

 さすがに倒せたとは思えないが。

「ガアアァァァァ」

 主は雄叫びを上げて、水煙を吹き飛ばす。

「無傷かよ」

 ここまで差があるとうんざりする。

「<魔法>は効かないのか?」

 水で炎が鎮火しない。

 生物なら雷で怯むはずだ。

 だが、堪えた様子は無い。

「もう一度試してみるか、水よ」

 今度は拳ぐらいの水球が30ほど出来る。

「放て!」

 再び主に向かっていく。

 ジュ。ジュ。ジュ。ジュ。ジュ。ジュ。ジュ。ジュ。

 しかし、当たる前に蒸発してしまう。

「どういう熱量だよ!」

「ガ?」

 主は不思議そうに首を傾げる。

 ムカつく光景だ。

「次!雷よ!」

 レンの指先に雷が纏わりつく。

「穿て!」

 指から雷が迸る。

 だが、主の体を通り抜けてしまった。

「生物ですらないか・・・」

 おそらく主は炎の塊か、それに類するものだろう。

「と、すると武器の類は効かないな。

 <魔法>しかないけど、今の俺じゃな」

 そうすると残る選択肢は一つしかない。

 レンは次の行動を開始しようとすると。

「ガ!」

 主が炎を放つ。

 今まで静止していたので、レンは一瞬困惑する。

「ちっ」

 <加速>で回避する。

「いくぞ」

 ポーチからナイフを取り出し、<強化>と<気功術>で身体能力を高めて、投擲する。

 牽制にしかならないが、主の意識がそちらに向く。

 その間に、レンは次の行動に移る。

 <魔力操作>で物理法則を捻じ曲げ、空中に足場を作り飛び上がる。

 そして、腰の双剣を抜き、魔力を込める。

 すると剣が輝きを放ち始める。

 <魔法剣>を使用したのだ。

 <魔法>を剣に圧縮して威力を高め、物理攻撃に上乗せするスキルだ。

 <魔法>の威力を高め、至近距離から攻撃する。それがレンに唯一、残された可能性だ。

 双剣に<魔法>を込め終わり、蒼く輝き始める。属性は当然、水。

 後は、落下と自身が出せる最高剣速で叩きつけるのみ。

 主は、まだ投げたナイフに注意が向いている。

 レンは主と比べ、自らの実力が大したことはないと評価しているが、投げナイフが到達する時間にこれだけのスキルを連発し、攻撃に移るのは一流の探索者でもあまりいない。

 レンはこの戦いで、探索者とは別の意味でレベルアップを果たしているのだ。


 先にナイフが到達する。

 ジュ。

 ナイフが蒸発する。

「げえええぇぇぇぇぇ」

 ナイフが蒸発する高熱。そんなものに、突っ込んで無事でいられるほど人間は丈夫ではない。

 だが、既に勢いは止まらない。

「ちぃ。風よ」

 <魔法(風)>で熱を受け流す。更に流しきれない熱を<魔力操作>での遮断を試みる。

「うらああああああ」

 あとは成長した自分の能力値に賭けて、双剣を打ち付ける。


「ガアアアアァァァァァ」


 主は苦痛の雄叫びを上げる。


 だが、それだけだ。


 ぶん!


「がぁ」


 レンは主に殴り飛ばされる。

 服は燃え、双剣は溶け、自身が焼ける嫌な臭いが立ち込める。

「ごっ、ごっふ。・・・ここまでか」

 負けた。

 そう感じながら、ポーチを漁る。

 出てきたのは、5センチくらいの小さな石だ。

 転移石・・・探索者必需品の迷宮から外へ脱出する魔法の石だ。

「転移」

 しかし、何も起こらない。

 辺りを見回すと違和感がある。そして、直感する。

 主が魔法を封じているのだと。

「こりゃ、ダメかな」

 魔法が封じられてなければ、まだ逃げることは出来ただろう。

 <魔法(回復)>を使い傷を癒し、身体能力を向上させるスキルを使い9階層まで駆け上がる。

 そうすれば、転移石が使える。

 だが、回復の手段が封じられてしまった。

 ポーチに回復薬はあるが、あれは自己の治癒力を高めることで、怪我の治りを促進させるもので、この場面では使えない。

 もう起き上がる力も出ない。

 しかし、主はレンの命を刈るべく攻撃を開始する。

 中空に巨大な火の玉が出現する。10メートルはあろうかという代物だ。

 それが、放たれる。

 主は何の感情もなく、淡々と。戦いではなく、まるで作業をしている気安さで。

 もう、<魔法剣>のダメージも抜けきってしまったようだ。

 つまり、敵として見なされていないのだ。最初から。

 思い返してみれば、攻撃をしてきたのは<魔法剣>に対するカウンターのみ、今だって邪魔だから燃やす。

 敵意は向けられても、殺意は感じない。

 こいつが意識を裂いているのは、人という種全体であって、レン個人ではない。

 だから、相手にもされない。

 そこまで思い至って、レンは呟く。


「ああ、悔しいな」



 そして、炎はレンを飲み込んだ。


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