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1日で死ぬ短命な妖精と、1000年生きる孤独な竜人

作者: 夜風ほたる
掲載日:2026/09/06




◾️西暦1265年ーーーー



この地に生きる最後の竜人が息絶えた。


最期は眠るように穏やかに息を引き取ったその竜人の表情は、まるで愛する人を思い浮かべているように優しく幸せそうな表情をしていたという。


その竜人の手には、水で潤った一輪の花が手向けられていた。


後にその花は『リンドウ』と名付けられた。






◇◇◇






◾️西暦565年ーーーー


私はこの地で最後の生き残りの竜人だ。


既に300年は生きている。


知り合いと呼べるものはいない。


なぜなら、虫は数時間、妖精は1日、人間は50年で命が尽きる世界で、己だけが1000年生きる生き物だからだった。


毎日をただ静かに生きて、他の生き物を観察していた。


ああ、3日間この近くを彷徨いていた兎は昨日死んだのか、空を飛んでいた鳥も今日は来ないから死んだのか…と、ぼーっと世界を外側から眺めている気分でいた。


今日も何の変わり映えもしない1日を過ごすのだと思っ

ていた。



しかし、その日はあまり見かけない1人の少女が私の前に現れた。


じぃーーっと音が聞こえてきそうなくらいに私を大きな瞳で見つめて、少しずつ近付いて来たのだった。


手を伸ばせば届きそうな距離まで少女が近付くと、ぴたりと足を止めた。


それから芝生に座る私の全身を頭から足元まで見てから、話しかけてきた。



「あなたは、りゅうじんさん?」



そう、無邪気な声で尋ねてきた。


嘘をつく理由もない私は静かに頷いた。


すると、少女はまた無邪気な声で尋ねてきた。



「りゅうじんさんは、いつもひとりでさびしくはないの?」



寂しくはないのかと、そう尋ねられていた。


また大きな瞳が私の顔をじぃーーっと見ていた。


私には寂しいという感情が良くわからなかった。


肯定も否定も出来ない質問に戸惑っていると、少女はまた口を開いた。



「わたしはね、もうすぐ死ぬの。だからね、みんなにもうすぐ会えなくなるのがさびしいの。でも、さびしいと思う時間もあとすこしなの。だけど……、りゅうじんさんはずっと、ずっと、さびしいとおもう時間があるんでしょう?」



少女の言葉を静かに聞いていた私を見つめる少女の大きな瞳は水で滲んでいた。


一生懸命言葉にされたその一つ一つが、なぜだか私の心をギリギリと締め付けた。


300年生きて来ても感じなかった痛みに襲われ、私は無意識にぽつりと口から言葉を吐いていた。




「…………………………………寂しいっ…」




たった一言だった。たった一言だったのに。


口にしたその言葉が、堰き止めていた感情を抑えられなくさせた。



辛い、悲しい、苦しい、痛い、寂しい。


全部の感情を私は知っている。


知っているから、知りすぎているから、知らないふりをしてきた感情だった。




その時の私の顔は、余りにも酷かったのだろう。


目の前の少女は私の顔を見て、大きな瞳に滲ませていた水を、ぽたり、ぽたりと柔らかそうな頬に溢していた。


それから、いつから持っていたか分からない手元の一輪の花を少女は私に差し出した。



「りゅうじんさんに、これあげる。これはね、わたしなの。だからね、りゅうじんさん、もうさびしがらないで」



少女は手元の一輪の花が自分だと、一緒にいるから寂しがらないでと言ってくれているのだろうか。


1日で死んでしまう少女と、数日で枯れてしまう花。


どちらも私よりも先に消えてしまうのだろう。


それでも、今日1日だけは寂しくないと思えた。


少女の手から一輪の花をそっと受け取った。



「ありがとう。寂しくないよ」



『寂しくない今日』と『()()()()()()()()()』の本心と()を私は少女に言葉で贈った。



少女は一輪の花を受け取った私に、とびきりの笑顔を見せて、ふわりふわりと舞う妖精のように去っていた。


私は手にある一輪の花を見て、300年間乾いていた瞳が水で潤っていた。





翌日ーーーー



今日も私は広い芝生の上に座り、生き物を観察していた。


なんとなく、昨日と同じ場所に座っていた。


今までと違うのは、なんとなく手放せなかった一輪の花を手に持っていることだった。


そう、なんとなくだけど今までと違う今日を迎えていた。


ぼーっと空を見上げていると、一羽の烏が羽ばたいていた。ああ、昨日も飛んでいたなと、ぼんやり遠くを眺めていた。




すると、1人の女性が私に向かって歩いて来るのが視界の端に見えた。


視線を移すと、目が合った女性は嬉しそうに私の前までやって来た。


そして、手に持っていた一輪の花を私に差し出してこう言った。



「竜人さん会いに来ました!寂しがらないで」と。



私はぽかんした間抜けな顔を女性に向けていた。


昨日もこんなことがあったなと思いながらも、目の前に現れた女性は昨日の少女とは似ても似つかない姿をしていた。


それに昨日の少女は『もうすぐ死ぬ』と言っていたから恐らく短命の妖精で、今日はもう生きていないはずだと。そう、死んでいる……はずなのである。


その事実にまた胸がギリギリと締め付けられた。



「竜人さん?寂しそうな顔をしてますよ。私といまからお話ししませんか?」



昨日の少女を思い出していた私は、酷い顔をしていたみたいだ。目の前の女性は不安そうにこちらを覗き込んでいた。


やはり目の前の女性は昨日の少女と外見は違っていた。


だが、この300年生きてきて一輪の花を差し出されたことも、『寂しがらないで』と言われたのも昨日が初めてだった。


少女と昨日会った時間はもう少し早かった気はするが、偶然には思えなかった。


私は差し出された一輪の花を受け取り、興味本位で女性と話をすることにした。


どんな話をしたかは覚えていない、それくらい他愛も無い話だった。

それなのに、いつも以上に穏やかな時間を過ごせていた。


一刻を過ぎた頃、女性は手を振り去っていた。


私はまた手にある一輪の花を見て、静かに微笑んでいた。





翌々日ーーーー



2度あることは3度あるとはよく言ったものだ。


芝生に座っていた私の元に、今日も一人の女性がやって来ていた。


やはり、外見は最初に現れた少女とも、昨日の女性とも違っていた。


それなのに、一輪の花を差し出し『寂しがらないで』と私に言ってくるのは同じで、不思議でしょうがなかった。



不思議で、不思議で、それなのに、嬉しかった。





それから翌る日も、翌る日も、そのまた翌る日も……、同じ現象が起こっていた。





◾️西暦1065年ーーーー



私は今日も芝生に座ってぼんやりと辺りを眺めていた。


彼女は今日はどんな姿で来るだろうかと、今か今かと待ち侘びていた。




しかし、彼女は日が高く昇っても現れなかった。



そしてついには日が赤色に染まる頃、私の心は『寂しい』という感情に支配されていた。




彼女はもう会いに来てはくれないのだろうか…。




今日からまた私は誰にも会いに来てもらえない、誰にも会いに行けない、そんな生きてても死んでるみたいな毎日になるのだろうか…と気持ちが沈んでいた。


足元の芝生を黙って見つめていると、目の前から声がした。



「遅くなってしまってごめんなさい。そんなに寂しそうな顔をしないで下さい」と。



私は勢い良く顔を上げた。


そこには、今まで見たことのない年配の女性が一輪の花を差し出していた。


今までは少女か女性の比較的若い女性が日が高く昇る頃までに会いに来てくれていた。


しかし、目の前にいる女性は40代から50代くらいに見える姿をしていた。


それでも、目の前にいるのは私が会いたかった彼女だと分かった。


彼女からそっと一輪の花を受け取り、優しく抱きしめた。



「会いに来てくれてありがとう。待っていたんだ」



そう心からの気持ちを言葉にした。


すると彼女は弱々しく、それでも美しく微笑み返してくれた。


その日は少しだけ話をして彼女は帰っていた。





◾️西暦1265年ーーーー



私は生を受けてから1000年目を迎えていた。


恐ろしいくらいに外見は成人を迎えた時から変化していないが、最近は疲れが取れず眠る時間も増えていた。


そろそろ私の寿命も近いのだろうと思い始めていた。


この世に未練はなく、長かった人生がやっと終わりを迎えるのだと、ここ数日は穏やかな心境で過ごしていた。


それも全て寝ても覚めても考えてしまう彼女がいてくれたからだろうな…と、私は顔を綻ばせていた。


いつもより眠り過ぎてしまったせいで、目を覚ました時には日が高く昇っていた。


私はだるさの残る体を引きずりながら、芝生が広がる場所へと向かった。


芝生が視界に入った時、1人の女性がいるのが見えた。


そして私を見つけるなり、こちらに走って来た。


それから私を両手で優しく包み込んでくれた。


暫く抱き合った後、彼女の膝枕で私は芝生に寝転んでいた。


言葉はほとんど交わさなかったが、今日も差し出してくれた一輪の花をそっと見つめていた。


この花はわたしだとそう言ってくれた少女のことを思い出しながら、穏やかな時間を過ごしていた。


彼女はまた一刻を過ぎた頃に、名残惜しそうに帰っていった。




私はその後ろ姿をずっと、ずっと見つめていた。





それから住処で寝ようと歩き出そうとした時、体がもう自由には動けなくなっていることに気が付いた。



とうとうその時が来たんだなと…そう感じ取った。



そして、まだ少しだけ動かせる手で、服の中にずっと閉まってあった物を手に握りしめた。



ゆっくりと、ゆっくりと瞼が閉じていく。



もう開くことのない瞼の裏に浮かぶのは、沢山の、それでいてたった1人の彼女のことだった。






◇◇◇






◾️西暦565年ーーーー



わたしは生まれた。


今はまだ日の出の時間だ。


世界がやっと明るくなり出した時間に目を覚ました。


わたしは生まれてから24時間以内に死ぬ妖精だ。


1日かけて成長し、眠ると命が尽きる。そして命が尽きた場所で、また明日生まれる、それを繰り返す不思議な生き物だ。


24時間後には自分はもういない。


だからいまから何をしようかなと考えていた。


結局何も浮かばずに芝生の広がる場所に足を運んでいた。


とことこと歩いていると既に先客が芝生に座っていた。



あれは……、りゅうじんさん?



住処にある絵本に載っている生き物だ。


今日の朝もその本を目にしていた。


わたしよりも、ながく、ながーくいきているもの。


近くで見てみたくなってそっと近付いた。


りゅうじんさんは何やら芝生や空を眺めているようだった。


りゅうじんさんをよくよく見てみると、近くの生き物を見ていた。


それも酷く悲しそうな顔をして生き物たちを見ていた。



りゅうじんさんはもしかして………。



考えながら歩いていると、無意識の間にりゅうじんさんの目の前にいた。


慌てて足を止めてりゅうじんさんを見た。


それから勇気を出して声をかけた。



「あなたは、りゅうじんさん?」



わたしの質問にりゅうじんさんは頷いてくれた。


やっぱりりゅうじんさんで当たっていた。


それならばと、さっきまで考えていたことを尋ねた。



「りゅうじんさんは、いつもひとりでさびしくはないの?」



わたしは何か悪いことを聞いてしまっただろうか。


りゅうじんさんが急に困った顔をし出した。


だからわたしは考えていたことをそのまま口にした。



「わたしはね、もうすぐ死ぬの。だからね、みんなにもうすぐ会えなくなるのがさびしいの。でも、さびしいと思う時間もあとすこしなの。だけど……、りゅうじんさんはずっと、ずっと、さびしいとおもう時間があるんでしょう?」



生き物たちを酷く悲しそうな顔で見ていたのは『さびしい』からじゃないのかなと思っていた。


『さびしい』という感情はチクリと胸が痛くなる。


その痛みを途方もない時間の中で背負っていくことは、想像しただけでも苦しくなって、涙がこぼれ落ちそうになっていた。


わたしの話を静かに聞いてくれていたりゅうじんさんは、やがて顔を歪めて苦しそうに言葉を吐いた。



「…………………………………寂しいっ…」



やっぱり、やっぱりそうなんだ。


りゅうじんさんはさびしいからあんな辛そうな顔をしていたんだ。


だけど、わたしは今日死ぬ。


りゅうじんはまた明日からも寂しそうな顔をして、誰とも話さずに生き続けていくのだろうかと。


その姿を想像したら、涙がこぼれ落ちていた。



今日はもう少しで帰らなければいけない、だからせめて…この花を…。



「りゅうじんさんに、これあげる。これはね、わたしなの。だからね、りゅうじんさん、もうさびしがらないで」



わたしが帰った後も、りゅうじんさんが寂しくならないように、そう願いながら一輪の花を差し出した。


りゅうじんさんは一輪の花をそっと受け取ってくれた。それから優しく微笑んでくれた。



「ありがとう。寂しくないよ」



よかった。


りゅうじんさんが寂しくなくなって。


わたしは嬉しくなって笑っていた。


それからりゅうじんさんと別れて住処に帰った後、真っ先にあることをした。





翌日ーーーー



わたしは生まれた。


既に日が高く昇っている時間になってた。


そして、枕元に不自然に置かれていた丈夫な紙を見た。




『一輪の花を手に持って寂しがり屋な竜人さんに会いにいってあげて。芝生の場所に。きっと笑ってくれるから。きっと今日のわたしも竜人さんを好きになるから。』




昨日眠りにつく前の私が書いたのだろうか…?




私は起き上がり、竜人の元へと早速向かうことにした。


昨日のわたしに『きっと今日のわたしも竜人さんを好きになるから』と書かれるなんて、どんな人なのだろうかと興味が湧いてしまった。


芝生の場所に行くと、竜人さんは座って空を眺めていた。


数メートル先まで近付くと、手に一輪の花を持っているのが見えた。昨日のわたしが贈った花だろうか。




ふと竜人さんの視線が動き、目が合った。



わたしを待っていてくれたみたいで嬉しくなって、無意識に顔が綻んでいた。


そして、竜人さんの目の前まで歩き、手に持っていた一輪の花を私に差し出してこう言った。



「竜人さん会いに来ました!寂しがらないで」と。



竜人さんはぽかんした間抜けな顔をした。


それから私を頭から足元まで見てから、考え込んでしまった。


数十秒無言の竜人さんを見守っていると、次第に彼の顔が苦しげに歪んでいき、咄嗟に声をかけた。



「竜人さん?寂しそうな顔をしてますよ。私といまからお話ししませんか?」



わたしの声に竜人さんははっとした顔をして、すぐに一輪の花を受け取ってくれた。


それから竜人さんと他愛も無い話をした。


一刻を過ぎた頃、わたしは手を振り竜人さんと別れた。


帰る頃には竜人さんの表情からは寂しさが消えて、穏やかな顔をしていた。


そして、今日のわたしも竜人さんが好きになっていた。





翌々日ーーーー



わたしは生まれた。


既に日が高く昇っている時間になってた。


そして、枕元に不自然に置かれていた丈夫な紙を見た。


眠たい目を指先で擦り起き上がる。


それから芝生の場所まで竜人さんに会いに行く。




芝生に座っている竜人さんの隣に座る。


竜人さんは何回わたしに一輪の花を贈られたのだろう。


何回、『寂しがらないで』と言われたのだろう。


きっと初めてじゃないこの光景に、どうしてそんなに嬉しそうなんだろう。


わたしは今日も竜人さんを好きになって帰って行く。





それから次の人生も、次の次の人生も、そのまた次の人生も……、わたしは竜人さんを好きになった。





◾️西暦1065年ーーーー



わたしは生まれた。


生まれてすぐなのに、とても体がだるくて苦しい。


今世のわたしは体が弱いみたいだ。


起き上がれずにうずくまっていた。




世界が赤く染まる頃、漸くわたしは起き上がれた。


そして、枕元に不自然に置かれていた丈夫な紙を見た。




今日は会いに行くのは辞めようか…、いや、だめだ。




息切れする体を懸命に動かして、芝生の場所までやって来た。


そこには、俯く竜人さんが芝生の上に座っていた。


とても、とても、寂しそうだった。


わたしは自分の体の苦しさなど忘れて、彼の前に走った。



「遅くなってしまってごめんなさい。そんなに寂しそうな顔をしないで下さい」



そう言いながら一輪の花を差し出す。


竜人さんは顔を勢い良く上げると、泣きそうな顔でわたしを見た。


それから手元の花を受け取って、優しく抱きしめてくれた。



「会いに来てくれてありがとう。待っていたんだ」



そう言う竜人さんは、心から嬉しそうだった。


ああ、会いに来られてよかった。


わたしは竜人さんが好きだ。


だけど、もう体が限界だ、帰らなきゃ。


わたしはすぐに住処へと帰って行った。





◾️西暦1265年ーーーー



わたしは生まれた。


世界がやっと明るくなり出した時間に目を覚ました。


そして、枕元に不自然に置かれていた丈夫な紙を見た。





わたしは芝生の場所にやって来ていた。


だけど、竜人さんはいなかった。


芝生の上に寝転び日向ぼっこをした。


それでも竜人さんは来なかった。


この場所に来た時は少女だったわたしのからだが、大人の女性になっていた。


まだ、竜人さんはやって来ない。




今日はここに来ないのだろうか…?




そう思った時、ふらふらとした姿の竜人さんが遠くに見えた。


わたしは彼の元へ駆け出した。


弱々しい竜人さんの姿に、思わず抱きしめていた。


壊れ物に触れるように抱きしめていた。


竜人さんも、そっと私の背中に手を回してくれた。


座るのも辛い様子の竜人さんに、わたしは膝枕をして寝かせた。


竜人さんはぼんやりとした瞳で、わたしが贈った一輪の花を見ていた。




竜人さんはいつもこんなに弱々しいのだろうか…?


来世のわたしも、竜人さんに会えるかな…?




そんなことは竜人さんに尋ねることは出来なくて、胸がズキリと痛んだ。


一刻が過ぎた、もう帰らなきゃ、私は帰りたくない気持ちを押し殺して竜人さんと別れた。





翌日ーーーー



わたしは生まれた。


世界がやっと明るくなり出した時間に目を覚ました。


そして、枕元に不自然に置かれていた丈夫な紙を見た。





芝生の場所までやって来ると、竜人さんが芝生の上に寝ていた。


ずいぶん優しそうな顔をして寝るもんだなと、じろじろと竜人さんの顔見て………時が止まった。




竜人さんの顔は青白かった。


そっと頬に手を添えてみると、冷たかった。


軽くゆすってみても動かない。







ああ、竜人さんは眠りについたんだ。


そう理解した。






竜人さんは手に、一輪の花と白い紙を握りしめて眠りについていた。


一輪の花はまだ綺麗に咲いていて、前世のわたしが贈った物だと理解した。


そっと竜人さんの手を開いて白い紙を手に取る。


握り込んでいた手でくしゃくしゃになっていたその紙には、文字が書かれていた。




わたしは書かれた文字を読んだ。


宛名は書かれていなかったけれど、わたしへの手紙だと思わずにはいられなかった。



「よかった…、よかったっ……。最期まで、寂しくなかったんですね?………竜人さん。こんなに…、優しくて、幸せそうな表情のあなたが………」




ーーーーー今日も好きになりました。




話したこともない。


知らない生き物の死体が倒れているだけなのに。


どうしてこんなにも胸が張り裂けそうに苦しくて、痛くて、辛いのだろう。


気付けば私の瞳から溢れた雫が、ぽたり、ぽたりと落ちて、竜人さんが手に持っていた花を濡らしていた。



「もう…、花は枯れてもいいんだよね。ねぇ、竜人さん。花も竜人さんと一緒に枯れたいみたいだよ」



わたしはそう言って、竜人さんが手に持っていた花を、もう一度竜人さんの手に握り込ませる。


そして、わたしの手に持っていた摘んだばかりの花は、静かに持ち帰った。





翌々日ーーーー



わたしは生まれた。


既に日が高く昇っている時間になってた。




そして、枕元に不自然に置かれていた丈夫な紙と、その横にあるくしゃくしゃな紙を見た。


二枚の紙に書かれた筆跡は異なり、それぞれ違う人が書いたことが想像に難くなかった。


二枚の紙を読み終えて、芝生の場所へと向かった。




誰もいない芝生の上に寝転がる。


摘んできた花を見つめながら、やっぱり竜人さんはもういないのだろうかと二枚の紙の内容を思い出していた。





すると、寝転がるわたしに被さるようにして、男性の影がわたしの視界を遮った。


視線を上に向けると男性と目があった。


だけど顔は陰になって見えない。


慌てて上半身を起こして座ると、男性は目の前に一輪の花を差し出してこう言った。



「あなたは妖精さん?私も妖精なんだ。よかったら、今日は同じ住処で眠りにつかないか?来世でも、一番にあなたに会いたい」



わたしは目をぱちくりと瞬かせた。


告白でもされているのだろうかと思うほどに、今すごいことを言われた気がする。


今日一日で、目の前の男性と会った記憶はない…、ましてや好意を向けられるようなこともない。


自分では答えが導き出せず、なぜ?と男性に疑問を投げかけた。



「わたしも妖精だけど…、どうして来世でも一番に会いたいの?」



「あなたと24時間過ごすだけでは足りないんだ。今日生まれてから無性に花を一輪摘みたくなって、摘んでみたんだ。それからここに来てみたら、私と同じように一輪の花を持っているあなたを見つけて…。わからないけれど、幸せな気持ちになったんだ。だから、この幸せが24時間以上続いてほしくて」



そう言った男性は優しく微笑んでいた。


竜人さんはもうきっと死んでしまったのだろう。


だけど、目の前にいる男性は……




『きっと今日のわたしも好きになる』




その人なのだろうと思った。




そして、朝見た二枚目のくしゃくしゃな紙の文字は竜人さんが書いたのだと理解した。










妖精の住処には、翌る日も、翌る日も、


手を繋いで眠る二人の姿があった。


その二人の枕元には、二枚の紙が置かれていた。






そこにはこう書かれていた。




『一輪の花を手に持って寂しがり屋な竜人さんに会いにいってあげて。芝生の場所に。きっと笑ってくれるから。きっと今日のわたしも竜人さんを好きになるから。竜人さんは私の手を繋いで隣にいる人だから、朝起きたら抱きしめてあげてね。』



『私を()()()にしないでくれてありがとう。私は寂しがり屋になり過ぎたから、もし生まれ変わることがあるのなら、今度はあなたと毎日眠りにつきたい』




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