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『魔王様』な僕は。 ~モブな僕のとある青春~

掲載日:2026/03/03


日本一番多い苗字は『佐藤』ってことはよく知られているよね。うん、僕はその『佐藤』です。

それから、下の名前だけど。生まれた年齢別名前ベストテンって、ランキングを発表している生命保険会社があるの知ってる?

それで、僕の名前の『大翔』がね、僕らが生まれた年代で、五年連続で堂々第一位! 

しかも、一度、二位とか三位に落ちたんだけど、また次の年に一位に返り咲いたんだ。

だから、同世代の男子の中ではめっちゃ多いんだよ、僕の名前って! この学校にも『大翔』がいるんじゃないのかな? 

つまり、何が言いたいのかって言えば、僕の名前は『佐藤大翔』で、よくある苗字とよくある名前の組み合わせなんだ。

逆にレア! って感じがするよね。

まあ、そんな感じで、同じクラスになった皆様、一年間どうぞよろしく!




……なんて、陽気に自己紹介ができたのなら、友達だってすぐさま百人くらいできるだろう。


だけど、実際に僕が声に出したのは。


「……宮沢中学校出身の、佐藤大翔です。よろしく」


コレだけ。

わずか三秒の自己紹介。

誰かの印象に残るわけはない。

黒ぶちメガネ程度は残るだろうか? どうかな? 

趣味はラノベを読むことです……程度のことを付け加えれば、同好の士の一人や二人、居ただろうか?


ま、いろいろ考えてはみたけど。

どうせ、一秒後には、クラスのみんなの記憶から、僕のことは薄れただろう。


何故ならば。


僕の隣の席に座っていて、僕の次に自己紹介をしたヤツがいる。

なんと、金髪のイケメンだ。


ちらと横目で見てみれば。

鼻筋がスーッとしていて、顎もシャープ。目と鼻と口の配置が絶妙に良い。雑誌に出てくるモデルみたい。


自己紹介なんてモンが始まる前から、ソイツ、めちゃめちゃ注目を集めていたから、僕の自己紹介なんて、飛ばして、ソイツの話を聞きたい……って感じのクラスメイトが多かったのじゃないかな?


僕が三秒自己紹介をして、席に座ったと同時に、ソイツはガタンって椅子を鳴らして立ち上がった。


「サトナカタツヤです! 金髪と青目は父親がアメリカ人だから! 染めたりカラコンだったりしません! 素です! あ、父親がアメリカ人でもオレは英語、得意じゃないです! アメリカ、行ったことありません! 日本語で話しかけてやってください! コワクナイヨ!」


すごく流行な日本語で自己紹介して、最後の「コワクナイヨ」だけ、わざとらしい外国人口調で喋ったものだから。

クラスのみんなは笑って。

僕も笑ったけど。


そっかー、ヤンキーとか芸能人とかじゃないんだ、普通なんだーって、クラスの雰囲気がどこか和やかになって。


で、あっという間にサトナカタツヤはクラス中の人気者になった。


ちなみに漢字で書くと、里中達也らしい。

が、なんとなく、発音がカタカナのニュアンスっぽく聞こえるのは、僕の、単なる、金髪イケメンへの偏見なのかな。


まあ、でもいいや。


それはともかく。


サトナカタツヤのおかげで、隣の席の僕は……完全なモブ。


サトナカタツヤがキンキラキンの光属性、陽キャ中の陽キャなら、僕はソイツの背景だ。


詳しく解説しよう。


たとえば、この世界がマンガだとしたら。今いるこの場所が教室ですよ、主人公サトナカタツヤの他にも教室にはクラスメートが存在していますよって、状況説明として描かれているだけの、名もなきモブキャラ。

それが、僕。


……別に、その立ち位置には別に文句はないけどね。


黒ぶちメガネをかけている以外は別に特徴のない僕。

正直に言って、クラスの注目を集めるなんて、僕には向いていない。

自己紹介だって三秒だ。

休み時間は友達と喋るよりは、自分の席に座って大人しくラノベでも読んでいたい。

俺tueeeは最高。影の実力者とか、実は魔王の生まれ変わりだったとか。チート系が好物だ。

……だたし、読むだけなら。

自分がやろうとは、絶対に、思わない。


だから、別に。

サトナカタツヤなんて目立つヤツがクラスメイトだろうと何だろうと無関係。


……そう、思っていたのに。




休み時間になると、女子も男子も何人も、みんなサトナカタツヤの席の周りを取り巻いて、明るく交流し始めて。


あっという間にクラスカースト最上位。

みんな楽しそうですね。

ヨカッタネ。

僕とは無関係で、明るい青春を送ってくれたまえ。



……そう、思って、いた、のに。


サトナカタツヤの隣のに座っているというだけで、僕は邪魔者扱いされてしまった。


ちなみにこれは、僻みじゃないぞ。

実際、クラスの女子から小声で「邪魔」とか「どいてよね」とか言われたから。


サトナカタツヤの隣の席は、女子から大人気です。

男子からも羨ましがられる。


そう、イケメンサトナカタツヤは、女子だけではなく、男子からも超人気。


顔の良さを鼻にかけない、爽やかさ。

体育の授業で、三遊間までヒットをかっ飛ばしたかと思えば、一塁に向かって走るんじゃなくて、三塁に向かって走って、アウト。


「何でそっちに走るんだよ!」


男子の誰かが文句を言えば、サトナカタツヤは「悪い! うっかりボールが飛んで行く先に向かって走っちまった!」と笑う。


「サトナカ、おまえ、犬かよ! ほ~れ、取ってこーい」って、別の男子がボールを投げれば、「わふわふ」叫ぶながら、サトナカタツヤはボールを追いかける。


「マジ、わんこ!」


ぎゃははははと男子が笑って。

女子も「サトナカ君、かわいーねー」って、きゃあきゃあ言うし。


大人気だなあ、サトナカタツヤ。


そんなもんだから、休み時間になると、サトナカタツヤの周りはクラスメイトで溢れているのだ。

誰も彼もが、サトナカタツヤを取り囲み、ヤツと談笑したがっている。


だから、僕がうっかり休み時間中にトイレになんて行けば、自分の席に座れなくなる。


人だかり。

バーゲン会場のよう。

整理整頓が必要です。


でも「そこ、僕の席だから、どいて」なんて、もちろん言えない。


昼休みも同じ。

サトナカタツヤを取り巻いて、みんなが弁当を食い始める。

自分の席に座っているだけの僕に対して「何でお前、そこにいるの? お前もタツヤと一緒に弁当食うつもり?」みたいな目を向けられるから。弁当と水筒とラノベを持って廊下に出る。


うちの高校は、昼ご飯はどこで食べていもいい。廊下にはテーブルと椅子が置いてあるし、中庭もあるし、学生食堂は何か一品買えば、弁当を持ち込んでもいい。


だけど、テーブルはたいてい女子の仲良しグループが占拠しているし、学生食堂は混んでいる。

一人でゆっくり弁当を食べなから、ラノベを読むなんて、無理。


「一人でテーブル占拠しないでよ」って感じに女子に睨まれたり。

「食べ終わったらテーブルから移動してください」なんて注意されたり。


うろうろして、非常階段なんかで一人弁当を食っていれば。


「……お前、虐められているのか?」って、親切な教師が声をかけてくる。

あー……。


昼休み終了のぎりぎりまで、無意味にうろついて、それから自分の教室に戻るしかない。

昼休み終了のチャイムが鳴ったら、僕の席に座っているクラスメートも自分の席に戻るから。

僕は無言で、文句も言わずに、チャイムが鳴り終える頃に、座る。


あー……、めんどくさい。早く席替えしないかな。

サトナカタツヤと席が離れれば、昼休みにわざわざどっかに行かなくても、自分の席で弁当を食べて、そのままラノベ読んだり昼寝したりできるだろうに。


そうして待ちに待った席替え。

喜びもつかの間。


……今度は、サトナカタツヤの席は、僕の席の真ん前だった。


おい、神様、いくら何でも酷いだろ?


自分の席にまっとうに座れない休み時間再びかよ。しかも授業中も、ヤツの金髪が目の前で。キラキラキラキラ目に痛い。


あー……。


次の席替えはいつだ? 夏休み明けか? めっちゃ先だな……。


目が悪くなったから、前のほうの席に変えてほしいとか、担任に申し出るか?

いや……、視力検査があるから、嘘を言ってもバレるだろう。


なんとかならないもんかな……と思っていたところで、うろうろしていた僕が見つけたのは、廊下に貼ってあった部活動のポスターだ。


放送部。

放課後の活動は週二回。昼休みに、お昼の放送を行っています。

部員随時募集中!

お昼休みに流す曲のリクエストも募集中‼


「これだ……」


昼休みは、教室じゃなく、放送室に籠っていればいいんじゃないか?

部員はいるかもだけど、地味な部活だし。人は少ないだろう。


ナイスアイデア。


そう思って、早速、活動日に放送部に行ってみた。


うちの高校には部室棟っていうのがあって、運動部なんかは部室がある。

だけど、放送部の部室は放送室の隣の空き教室とポスターに書いてあった。


放送室は、職員室の近く。

だから、生徒はあんまりいないエリア。

静かでいいかもと思いながら、廊下を歩く。


放送部の部室のドアをコンコンコンと三回ノック。


「はーい、どーぞー」


声にドアを開けてみれば、そこにいたのは女子が三名。じっと僕を見つめてきた。


「あ、お昼の校内放送のリクエスト? だったら、そこの紙に曲名と歌手名書いて、そっちの段ボール箱に入れてくださーい」


部の案内ポスターにもリクエスト募集中って書いてあったっけ。

まず流行りの曲が、生徒のリクエストによって三曲流される。三曲の後は、クラッシックとかジャズとか、歌詞の入っていない曲が、昼休みが終わる五分前まで流される。


で、最後に。


「あと五分で、お昼休みは終了です。みなさん、教室へ戻りましょう」っていうアナウンスが流れるんだ。


それを流すのが、放送部。

地味だけど、大事な仕事。

で、僕も、昼はそれをやれば、のんびり過ごせる場所ができるんじゃないかなーって、そう思っていたんだよね。


「あ、違う。お昼の曲のリクエストじゃなくて。えっと、その、入部希望……」


入部、との言葉を僕が発した途端に、三人いる女子の一人が目を見開いた。


「マジでっ⁉ 入部してくれるの⁉」


妖怪猫娘的な、目のデカさ。しかもぎらぎらと、その目が輝いて……。


うわ……。


「は、はい……⁉」


すすすすすす……と、僕に近づいて、僕の周りを一周回って。


で、元の位置に戻って、他の二人の女子の手を取った。


「きゃー! 男が来た! 念願の男だわ! 男だ! 男子だ! 男子生徒だ!」

「よかったですね部長っ!」

「昨日みんなで神社にお祈りをしに行った結果ですよこれ! キタコレ男子!」


女三人寄れば姦しいとか国語の辞書に書いてあったけど、まさにそれ。

きゃあきゃあきゃあきゃあと、実にすごい勢いで。

飛んで跳ねて、手を取り合って、ぶんぶんと、その手を振って。


えーと、部員が少なくて、廃部の危機で、そこに新入部員が入ってきたから大喜び……だったら、男にこだわる必要もないと思うけど……。


ええと……、選択を誤ったか、入部は止めて、帰るとするか……。


そろりそろりと後ずさったところ、あっという間に三人の女子に囲まれて、部室内に押し込まれてしまった。


逃げ場、なし。


「よく来てくれた! 我々は男を待ってきた!」


妖怪猫娘……ではなく、目のでっかい女子生徒が、僕の肩をバンバンと叩く。


「いや、部長、そこは『君を待っていた』とかにしないと、さすがに失礼……」


別の女子が、咎めてくれた。

常識が通じそうな女子がいて、ちょっとだけ、ほっとする。


「これでコンクールもばっちりですね、部長!」


残りの一人の女子が言った。


「は?」


何なんだコイツら。


えーと、「男が来た!」と叫んだ妖怪猫娘が部長らしい。

肩までの真っすぐな髪。サトナカタツヤの周りを取り囲んでいる女子とは違い、真っ直ぐなだけでツヤツヤでもサラサラでもない。きっとシャンプーとかリンスとかだけして、あとはブラシで梳いたら終わり的な髪。


その部長が、ボクの手を取って、ぶんぶんと振り回した。

握手にしては豪快だな……。


「君! ラノベとか興味があるかな?」

「は?」


あるけど、名前を聞くとか学年を聞く前にいきなりラノベ?


「ファンタジーとか異世界転生とか、好き⁉」

「はあ、まあ……。読む方だと思いますが……」

「アニメは⁉」

「見ます……」

「最近何見た⁉」

「えっと、転生したら下級魔物だった系とか、無能のフリしているけど陰では実力者だった系とか……」

「すばらしい! では、ワタクシの後について、セリフの復唱願います! 『憐れな子羊どもにレクイエムを聞かせてやろう! 我が真なる深淵魔法っ! 滅びのバーストストリームアタック! 世界に奏でよ暗黒の調べを!』はい、どーぞ‼」


はい、どーぞと言われても。

しかしながら、キラキラの、すんごい期待された目で見られている……。

妖怪猫娘だけではなく、他の女子二人もだ。

……常識が通じそうな女子と思ったのは間違いだったか。


仕方がない。

とりあえず、言われたとおりに復唱。


「憐れな子羊どもにレクイエムを聞かせてやろう? 我が真なる深淵魔法? 滅びのバーストストリームアタック……? 世界に奏でよ暗黒の調べを……???」


あってる?

これでいいのかな?

ボソボソ言ったら、ダメ出しを喰らった。


「感情がこもってなーい! もう一回復唱! 魔王的な感じで! ふははははははははーって!」


えーと、ふはははははーね……。

アニメの敵役のセリフと思えば。

えーと。


「ふははははははは!憐れな子羊どもにレクイエムを聞かせてやろう! 我が真なる深淵魔法っ! 滅びのバーストストリームアタック! 世界に奏でよ暗黒の調べを! ふおおおおおおおおおおおおおがあっ!」


こんな感じかな。思わず余計な叫びまでつけてしまったけど。

だけど、妖怪猫娘、もとい、部長も、残り二人の女子も、手を叩いて大絶賛してくれた。


「すごい上手い! これで放送コンクールの勝機が見えた‼」


……はい?


一番最初に「よかったですね部長っ!」と発言した、ポニテ頭の女の子が、僕にすっと一冊の冊子を差し出してきた。


「ごめんなさい。部長の発言はおかしいんですけど、求めているものは真っ当なんです……」


渡された冊子の表紙には「高校生放送コンクール概要」と書いてあった。


「あの、あたしたち、放送部で。毎年コンクールに参加しているんです!」

「はあ……」


ま、高校生の部活動にはつきものだよね、コンクールとか、試合とか。


「朗読部門とかもあるんですけど。ラジオドラマ……、声とか効果音とか音楽だけの演劇部門に参加するんですけど」


あー、ラジオドラマ。はいはい。よくあるよね。


「あたしたち、今年のラジオドラマには、勇者が魔王を倒すために旅するって話を選んで」


よくある系だね。


「だけど、部員女子三人なので。声色を使っても、男役とか魔王とかの配役、男の声に聞こえなくて。魔王を魔女に変えても、どうにもこうにも……。真っ当ファンタジーじゃなくて、百合展開っていうか、ガールズラブ物語みたいになっちゃって……」


別にガールズラブもいいと思うけど。

あー、でも、高校生のコンクール向きではないか……。

困難に立ち向かう若者たち。すれ違いに友情! 主人公たちの成長物語……が、求められるものだよね、きっと。


「なるほど。それで、魔王役ができる男を希望していたところに、僕がやってきたのか……」

「そうなんです!」

「理解した」


男好きのオカシナ人たちの集まりじゃなかったのか。

ちょっと安心。

ほっと胸を撫でおろす。


「えっと、放送劇なんだよね? アニメの声優さんみたいな感じ……、ええと、シナリオに沿って音読すればいいだけで、ステージに立ったり、みんなの前で発表とかじゃないんだよね。僕、人前に立つのって、ちょっと……」


陰キャのモブだからな。

光り輝く位置には立ちたくない。

主役とか、そういうのはサトナカタツヤとか、陽キャグループに一任だ。


「あ、うん。放送コンクールっていっても、音声データ、パソコンから送るだけ。入賞とかしたら、表彰はされるけど。人前で演技をするとかはないよ」


表彰……。

仮に入賞して表彰しても、賞状とか受け取りにステージに上がるのは、フツーに考えて部長。

僕は部員として観客席で座って、拍手でもしていればいいんだよね。


それならいいかと思って、即入部。


そして、立派な魔王役となるために、発声練習とかしたり、音読練習とかしたり。

お昼の放送のための選曲をしたり。

したけど。

女子に囲まれて、楽しい青春……ではなく、まあ、面倒ではないけど、部活動っていうよりは、やらなきゃいけない委員会みたいな感じだったけど。


……まあ、サトナカタツヤたち、陽キャグループから離れて、平穏な昼休憩をとれるんだから、この程度の代償は、まあ、いいかなって。


うん。放送部の仕事は、嫌いではない。


昼休み、お昼の放送とかで、好きな曲を流したり。部長とラノベの最新刊読みましたかアレ神展開キタですよねとか話したりするのは、それなりに楽しかった。

モブでもさ、画面の外で楽しい時間を過ごしているものさ、なんて思ったり。


……もちろんラブコメじゃないので、陰キャでモブの僕と、妖怪猫娘的な部長とのラブが発展することもなく。

一見常識人ぽかった他の女子との、どき☆廊下でぶつかって微エロ展開! とかももちろんなく。


フツーの部活仲間としてで、日々は進行していったのだが。


進行したのは個人的なオツキアイとかラブとかじゃなくて。


夏休みに録音して、応募した、放送コンクールのラジオドラマ部門。


何と、我が放送部が入賞してしまった……。


わーお。


名前だけ顧問の小林先生が喜んで。

全校生徒の集まる朝会で「高校生放送コンクールで我が校の放送部が入賞。今日のお昼休みに、そのラジオドラマを放送します」とか何とか云って。


「ふははははははは!そう、我こそは、闇の中の闇、真なる魔の中の魔、我は魔王カイ・ル・デストロイ! 勇者よ! よくぞ我が分かったな!」


なんていう、中二病満載のセリフが昼休み中の放送として流れてしまって。

ドラマの最後に。


「魔王役、佐藤大翔」って、配役まで全校放送された……。


ま、僕の名前なんて、誰も覚えてないよねって思ったのに。


思ったのに!


「佐藤、すげえ! マジで魔王声じゃん!」


声で、僕が分かったヤツがいた……。


しかもソイツは陽キャ中の陽キャ。

クラスの中心で光り輝く太陽のようなサトナカタツヤ。


放送劇を聞いて、すぐ後にボクの方を向いて。


「実は俺、ゲームとかのファンタジー系の悪役、めっちゃ好きなんだよっ!」


なんて、キラッキラした目で僕を見てきて。


「や、やめろ! そんな目で僕を見るな!」

「そーそー。そういう感じ! 佐藤、すげえうまいな! 将来声優とかになれるんじゃないか⁉」

「うわああああああああああ、こ、声に出していた……だと?」


多分、この時の僕は、かなり動揺していたのだ。

陽キャ中の陽キャ、クラスの中心であるサトナカタツヤの青い瞳に見つめられて。

うっかり、心の声を、音声に出すくらいには。


「うんうん、すげえ、プロみたいだなー。あのさ、昨日の『勇者ルシフェの凋落』見た? あの、最後のセリフ」

「『ルシフェ・ルド・クランよ! 我と契約し堕天使となれ! そしてこの世を煉獄の炎で燃やすがいい!』


……思わず悪役のセリフを言ってしまった!


「すっげー、カッコイー! 天才かオマエ!」


サトナカタツヤは手を叩いて喜んで、ケタケタ笑って。


で……、僕を「魔王様」と呼ぶようになった。

つられて、クラスメイト全員もだ。


マジか……。


「おーい、魔王様、明日日直だよ」とか。

「魔王様、数学のノート集めて、職員室の鈴木先生の机の上に置いておいて」

「宿題やったか魔王様」


なんて。


夏休み前までは、クラスメイトと挨拶も交わしたことなど数えるほどしかなかったモブなのに。


魔王様と呼ばれるようになって……。

あああああああ、休み時間、陽キャな皆様やサトナカタツヤの取り巻きたちから逃げて、のんびり弁当を食べられる場所のためだけに、放送部に入部したのに。


なんでこんなことに……。

解せぬ。



とはいえ、魔王様呼ばわりされたのも、一年生の時だけだった。


二年生に進級したら、サトナカタツヤとはクラスは別になったし、僕も元のモブ状態に戻ったのだ。


三年生に進級したときは、また、サトナカタツヤとクラスメイトにはなったけど、一年生の時とは全く違った。

サトナカタツヤを囲んでワイワイやっていることはほとんどなくて、みんな参考書を開いて試験勉強。


そう、うちの学校は、それなりに進学校。

三年生ともなれば、大学受験のために皆必死。

談話くらいはするけど、それも参考書を片手にだ。

更に秋も過ぎれば学校に登校するやつも少なくなる。来ても図書室とか個別の自習室とかで勉強しているとか。

個人個人で動いている間に、なんらかの青春ドラマが起こるはずもなく、あっという間に卒業式。あっという間にさよーなら。




時は流れて、さえないモブキャラの僕は、地元の地味な大学に入学し、地味な会社に入社した。

ラブストーリーも友情物語も始まらず。

放送部のメンバーとも、卒業後は連絡を取り合うこともない。


朝起きて、電車に乗って、会社に行って、パソコン叩いて、たまに電話を受けて。

定時に帰宅したり、残業したりで、帰って、飯食って、風呂に入って、寝る……の繰り返し。


日曜や祝日には出かけるとしても、マンガを読みにネットカフェに行くくらい。


一生このままいくんだろうなあ。

結婚とかも別にーって感じだし。

毎日同じことの繰り返しでも、特に飽きはしないし。


でも……、ちょっと、ふとした時に思い出す。


サトナカタツヤのキラキラした金の髪とか。

魔王様と呼ばれた自分とか。


「懐かしー、なーんて」


こっちは、あっちのことを覚えていても。

あっちは、こっちのことを覚えてはいないだろう。


キラキラの明るい陽キャと単なるモブ的立場の僕。


ふっと、哀愁を感じた時に、同窓会のお知らせが来た。


覚えているかな……、なんて、ちょっと思ってしまって。

同窓会のお知らせハガキの「参加します」に〇をつけて、出してしまって。


……出した後に、後悔した。


特に親しいクラスメイトもいないのに。

どうせ僕のことなんて誰も覚えていやしないのに。


うっかり参加なんて。


ため息を吐きつつ、参加にしてしまったのだから、同窓会の会場に行ってみた。


会場は、結婚式の二次会で使うようなちょっとしたパーティルームで。

クラスメイトは、ほぼほぼそろっている状態で。

担任の田中先生もいたりして。


あー……。担任に挨拶しても、僕のことを覚えていてもらえなかったら、さすがにへこむかなーなんて思いつつ、受付をして会場に入る。


始まりの音頭があるまでは、ドリンク呑んで、旧友同士、歓談でもしていてと言われたけど。


えーと。


サトナカタツヤままだ来ていなかった。来ていても話しかけたりしないけどさ。

女子は化粧できれいになって、高校生の時の面影はないし。

男子は「ああそう言えば、あんな顔のヤツいたなあ。でも名前が出てこないなー。話しかけても話題がないなー」とかって感じだし。


で、うろうろしているうちに、誰かにちょっとぶつかった。


「あ……、すまん」

「いや、こっちこそ。えーと……」


ぶつかったヤツが、僕をじっと見るけど。

こんなヤツいたっけ? 誰だっけ? でも、同窓会に来ているってことは元クラスメートだよな……みたいな表情になったから。


「佐藤大翔。覚えてないよな?」


自分から名乗ってみたけど。

やっぱり、えーと? みたいな顔をされた。


うんうん、所詮、僕はモブだからね。忘れたというよりは、元々覚えられていなかったんだろう。


少しは傷つくけど、しかたがないかーって思った時に。


「おおおおおおおおおーい! 魔王様ーっ!」


同窓会会場の入り口から大きな声がして。


振り向けば、金髪に青い目の、相変わらず整った顔の、サトナカタツヤが入ってくるところだった。


「ひっさしぶりだな! おぼえているか、俺だよ俺!」


サトナカタツヤのその大声で、同窓会の会場にいたほぼ全員が僕を見た。うっわ、大注目された……。


「あー! 魔王様か! おぼえてるよ!」

「うっわ、おまえ、魔王様だったのか! なっつかしー!」

「魔王様って何?」

「ほら、一年生の時に放送部がコンクールで入賞して」

「あああああー! アレか!」


あちらこちらから、そんな声が上がって。

今、僕とぶつかったヤツも。


「何だ、魔王様かよ。最初から魔王様って名乗れよ。そうしたらすぐわかったのに」とか言って。


……本名、名乗ったのだが? それに魔王様は僕の名前じゃないんだが?


文句をつける間もなく、サトナカタツヤがまっすぐに僕目がけて向かってきて。

速足で。

しかも、僕の肩なんて、バンバン叩いて。

懐かしそうに。

キラキラと目を輝かせて。


「なあ、なあ、魔王様。放送劇のセリフ、久しぶりに聞きたいわー」

「……おい」

「みんなだって聞きたいだろー」


……会場内の、同級生全員が賛同の意を示す。


卒業以来、会ったことがないのに。

再会してすぐの言葉がそれか。

これだから陽キャは……。


しかし、期待に満ちた何十もの瞳に、モブの僕が逆らえるはずもなく……。


ふっとニヒルに笑って。

そうして「魔王」のセリフを口に出す。


「ふははははははは! そう、我こそは、闇の中の闇、真なる魔の中の魔、我は魔王カイ・ル・デストロイ! 勇者どもよ! よくぞ我が分かったな!」


放送劇のセリフ。ただし、勇者を勇者どもに変えて言ってみた。

同窓会だからね。

魔王な僕以外はみんな勇者って感じの意味を込めて。

途端に、サトナカタツヤもクラスメイト達も、大爆笑。


「すげえ! マジ魔王! 久しぶりに聞いたわそのセリフー!」


爆笑しながらサエキタツヤが僕の肩をバンバン叩いて、そうして、言った。


「さー、みんな、乾杯しようぜ!」


陽キャもモブキャラも、区別なく。みんなでビールのグラスを手に持って、そうして全員で「カンパーイ!」と大合唱を、した。




どうやらさえないモブキャラの『佐藤大翔』は誰からも覚えてもらっていなかったみたいだけれど。


『魔王様』な僕は。


モブじゃなく、サトナカタツヤと同じくらいに、ちゃんとみんなの記憶に残っている確立したキャラだったらしい。


それをちょっとだけ、嬉しく思うのは。


僕が、大人に、なったから、なのかもしれない。

なーんて思いつつ、僕はみんなの輪の中に入っていった……。







終わり

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