追放の朝⑥
王妃の座を追われたエミリアは、王家から忘れられた〝呪われた王子〟のもとへ嫁ぐため、霧と雪に閉ざされた北の果て、ミカエル領へ旅立つことになった。
実家であるトレンテス家には、急ぎの文を出すだけで精いっぱい。
(お父様、お母様、親不孝な娘でごめんなさい)
娘が離縁されたうえ遠い地の果てに追放された知ったときの、父と母の嘆き悲しむ姿を想像するだけで胸が痛かった。
羽織った白い外套の裾が揺れるたびに、かすかな香草の香りが漂う。王宮の庭で大事に育ててきた花々の香りだ。
窓の外を風が冷たく吹き抜けていく。春は遠い。それでも、どこかで季節は変わろうとしている。
(王都を出たら、私は何者になるのかしら)
遠く、馬車の音が聞こえる。王宮の正門に迎えが着いたのだろう。
王命には逆らえない。エミリアが向かうのは、〝封印の谷〟と呼ばれる辺境の地。かつて勇敢な王子だった男が、呪われし存在として人々に恐れられているとされる地である。
リリィがすすり泣く声を背に、エミリアは静かに振り返った。
「ありがとう、リリィ。あなたのおかげで、私はここまで来られた」
「……どうか、ご無事で」
「ありがとう」
そう言って、エミリアは真っすぐに足を進めた。
馬車の扉がゆっくりと閉まる。王妃ではない、ひとりの女としての人生が今、はじまろうとしていた。




