新王の誕生②
「殿下……本当におめでとうございます! この日をどれほど待ち望んでいたことか……!」
その声は震え、石畳に落ちる涙が朝日にきらめく。
「セルジュ、立ってくれ。お前に泣かれると私のほうが困る」
レオナールが苦笑すると、セルジュは慌てて袖で顔を拭く。
いっぽうのカーリンは感情に追いつけないといった様子で、レオナールとエミリアとを何度も見比べてから
「す、すごい! 太陽の光を浴びても、殿下がこんなにお元気な姿で!」
言いながら半ば泣き、半ば笑ってしまっている。
「もう呪いは終わったのよ、カーリン」
手を握ると、彼女は堪えきれず再び涙をこぼした。
「本当によかった」
その言葉に、思わず胸が熱くなる。
「ふたりには心配をかけたな。すまぬ」
「そんな! 殿下が謝る必要なんてひとつもありませんから!」
「そうですとも。むしろ……こうして再び、殿下が本来のお姿で帰ってきてくださったことが、私たちにとってどれほどの喜びか……」
セルジュは胸に手を当て、言葉を震わせながら続けた。
「この十年、殿下のおそばに仕えておりながら力になれぬ自分を、どれほど悔いたことか。しかし今は、その悔いすら報われた思いです。エミリア様、殿下をお救いくださり本当にありがとうございました」
深く頭を下げるセルジュに、エミリアは慌てて首を振った。
「私ひとりの力じゃありませんから」
理不尽な恨みを弟であるレオナールに募らせていたにせよ、ルーベンが身を挺したからでもある。
弟に呪いをかけたという、決して許されない罪。しかし同時に、最後の瞬間レオナールを守ろうとしたのも、あの人だった。
たとえすべてを償えるわけではなくても、ルーベンはたしかに弟を救おうとした。彼もまた、あの瞬間ようやく赦される道を選んだのだ。
ルーベンの影はまだ胸に痛い。それでも彼は最後に兄としての姿を取り戻していたと思わずにはいられなかった。
静寂が流れたあと、セルジュがぱっと顔を上げた。
「それでは! 今夜はお祝いをいたしましょう!」
声には久しぶりに明るい張りがあった。
カーリンが目を丸くし、次の瞬間、弾けるように笑顔になる。
「お祝い! それ、すごく素敵! じゃあ、すぐに準備をはじめなくちゃ!」
スカートをふわりと翻し、もう走り出しそうな勢いだ。
「カーリン、落ち着いて。まだ朝よ」
「朝だからこそはじめないと間に合いません! 殿下が呪いから解放された初めての夜なんですもの! 最高の食卓をご用意しますから!!」
セルジュもすでに段取りを考えているらしく、真剣な顔でうなずいた。
「料理長にもすぐ伝えましょう。大広間の燭台も磨かねば。ああ、久々に城に活気が戻りますな」
カーリンとセルジュが慌ただしく準備に向かって走り出し、城門前に明るい空気が満ち
エミリアはその光景を見つめながら、小さく息をついた。
(今日から、この場所でまた新しい日々がはじまるのね)
朝の光に照らされる城はレオナール同様どこまでも優しく、どこまでも温かかった。




